ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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Strong woman's theory

「これは酷い……」

「ラックたちはほんとにここに泊まったの?」

「うん。住めば都だよ?」

 

着いた合宿所は相変わらずぼろかった。

シービーと沖野トレーナーは苦笑いをしているが、ルドルフは懐かしそうにしていた。

 

「というか、俺たちダービーウマ娘とそのトレーナーだよな? なんでここにしたかったんだ?」

「ラックと同じところに行きたかったから」

「僕はお金の節約。貯めておきたいんだ」

「そんなに必要なのか?」

「老後の貯金」

 

そう言うが、トレーナーが余計なことを言う。

 

「いや、こいつは孤児院に賞金を入れているんだ。そんなに必要ないって突き返されても必要になるからって使わずに取ってある。それ以外はウマ娘保護団体への寄付だ」

「ちょ! なんで言うの!」

「逆になんで隠すんだ。恥じることでもないだろう?」

「誇ることでもないでしょ!」

「いや、十二分に誇ることだぞ、ラック」

「ルドルフは黙ってて……」

 

こういう話になると、ルドルフは賛美マシーンになってしまうので、避けていたのに……。

シービーはさっさと切り替えて荷解きをしていた。

 

「別にシービーはこっちに来なくても良かったんだよ?」

「えー? いいじゃん、こっちの方が楽しそうだし」

「知ってる? こっちの建物は……出るんだって」

「なにが?」

「オバケ」

「え! なにそれ! じゃあ肝試ししよ!」

「……そんな元気があったらね」

「とりあえず、準備をしよう。せっかく先に来たんだ。シービーは練習所の下見もあるだろう?」

「そうだね! ちゃっちゃとやっちゃおう」

 

僕たちは荷解きをしてそのままトレーニング場や合宿所を見て回る。

去年と同じだが、ところどころ改修されたのか、新しくなっている部分がある。

ルドルフ曰く、URAがここを新しくし始めているらしい。そのくらいには予算があるということなのだろうと言っていた。

こんなところにも盛り上がりの効果があるとは。

 

買い物も済ませる。

食べ物を買い込んで、1週間くらいは持たせるようにする。

食トレという言葉があるように、体が資本ならご飯はその元となる。ここも気を抜けない部分ではある。

とはいえ、女子3人。姦しいと言えば姦しい。ルドルフは大丈夫だが、シービーは自分の好きなものをじゃんじゃん籠に突っ込むものだから献立を考えるのが大変だ。

それが終わると、シービーはわくわくしながら「ちょっと走らない?」と言ってくる。

相変わらずと言うかなんというか……。

とはいえ、僕たちも断りはしない。

ジャージに着替えて砂浜を走った。

トレーナーたちからは元気だな、とあきれられたが。

だが、砂浜は足に負担が少ないので、好きに走ってこいと許可が下りる。

……だから、ちょっとやりすぎたのは否めない。

久しぶりに誰かとの練習ということで走りすぎた。

夕飯時には砂まみれになって、先にお風呂に入る羽目になった。

 

そして料理だが、やはりシービーはできない方だった。

いや、できないわけではないが、全て自分好みの味付けだったりレシピだったりしたのだ。

献立考えたんだからそれ通りに作って!

しかし、そこはこの1年で成長したルドルフに助けてもらって無事完成した。

……あれ? ルドルフ、リギル来たら行っちゃうの?

やだ、行かないで!

一緒にシービーを抑えて!

がちで勧誘しようかな……。

 

夜になると、僕はさっさと寝ようと思った。

娯楽道具なんて持ってきていないからだ。

やることと言えば、まじで肝試しくらいしかない。

 

「うーん、蹄鉄まだいけるかな? あ、ルドルフ、ちょっとハンマー取って」

「ああ、どうぞ」

「ありがとう。……ってなんでいるの!? 別に今年は相部屋じゃなくていいんだよ!?」

「いや、私は本来来る予定のない立場だからな。部屋を圧迫するのも良くないと思って」

「別にこんなところ、僕たち以外に使う人いないと思うけど……」

「それでも心情的にな」

「ま、いっか。一緒の布団で寝る?」

「い、いや。ま、まあ、ラックが寂しいというのならいいが」

「ふふ、寂しいなぁー、一緒に寝てくれない?」

「そこまで言うのなら……」

 

ルドルフは顔を少し赤くしている。

なに? 満更でもないの?

全く、可愛いところあるんだから、この皇帝様は。

と思っていたらスパァンとドアが開いた。

 

「じゃあ、アタシが一緒に寝る!」

「いや、シービーは部屋あるでしょ……」

「えー! アタシだけ仲間外れ!? ずるいずるいずるい!!」

「わかったから! わかったから!」

 

シービーだった。

しかも、ちゃんと浴衣を着ている。1日目から満喫している。

 

「ほんとに一緒に寝るの?」

「うん! 素直じゃない皇帝様は一人でねんねしな!」

「い、いや、私は別に……」

「もう、いじわる言わないの」

 

にょほほとシービーは笑って僕の布団に潜り込んでくる。

ルドルフの入る余地を空けてあげると、おずおずとルドルフも入ってくる。

 

「さすがに狭いな……」

「そうだね」

「いーじゃーん! じゃあ、こうすればよくない?」

 

そう言ってシービーはくっついてくる。

やわらかーい。

相変わらず距離感がバグってらっしゃる……。

というか、僕が真ん中なの?

僕を拘束するシービーに意味もなく抵抗していると、シービーは僕の頬を掴んで覗き込んでくる。

 

「なに? アタシに抵抗するんだ?」

「やだ、顔がいい……」

「なんか、ラックっていじめたくなっちゃうんだよね」

「え、そんな被虐体質なの、僕? いやでも、マルゼンスキーにも攫われそうになったしなー。心当たりがあるのが悲しい」

「えー!?」

 

そういうと、シービーは上半身を起こして驚く。

なんでどうしてと僕を揺さぶってくる。知らんがな。

そして、それから抜け出すと今度は反対側から手が伸びてきて強制的にそちらへ向かされる。

 

「どういうことだ? 私は聞いてないぞ?」

「やだ、顔がいい……」

「誤魔化すなラック。私は聞いてないぞ」

「うん、冗談だからね? 本気にしないでね?」

 

というか、今気づいたけど、ここの顔面偏差値えぐいな。

同期と先輩を夢女子にする気か、この二人は。

 

「モテモテじゃん、ラック」

「全体を見ると、そんなことないけどね?」

「もう、優柔不断なんだから! 一体誰を選ぶの!?」

「誰って……」

「誰にいじめられたいの!?」

「あ、そういう選考なんだ!? ……うーん、プロミス先輩かな」

「えー!? アタシじゃないの!?」

「シービーはなんか、いじめるとかいう概念じゃ収まらなさそうだから……」

「えーん、ルドルフはアタシにいじめられたいよね?」

「いや、何を狂った話をしているんだ。そもそもいじめられたくないぞ……」

 

バカなことを話していたら消灯の時間が来てしまい、僕たちは大人しく寝たのだった。

 

 

 

次の日、僕は寝ぼけ眼をこすりながら、朝ごはんの準備のために二人より先に起きる。

二人は僕を抱き枕か何かかと思っていたのか、起こさないように振りほどくのに苦労した。

あくびをしながら食堂に向かって歩いていくと、合宿所の入り口付近で声を掛けられる。

 

「おはよう、ブラックトレイター。よく眠れたようだな」

「おはようございますー。おかげさまで……」

「それで? 折檻される準備はいかほどか? 誘拐犯」

「……はは」

 

乾いた笑いが出た。

なんでいるの、東条トレーナー。早くない?

後ろにはマルゼンスキーも苦笑いをしている。

うん、これマルゼンスキーの車で来た感じか。

 

「えー、本日はお日柄も良く……」

「次、ルドルフの居場所以外を吐いたらどうなるのか、わからないお前じゃあるまい?」

「……いや、僕は屈しない! トレーニングメニューはありますか!?」

 

そう言うと、東条トレーナーの後ろに鬼が見えた。

というか、東条トレーナーが鬼の形相をしている。

しかし、僕が引かないことがわかると、ため息を吐いた。

 

「……全く。お前はどうしてそうも頑ななんだ」

「可愛い後輩のためなら」

 

そういうと、東条トレーナーは小さく「別に、強くなりたいという気持ちを無下にしたいわけじゃないんだが……」とつぶやいた。

そして、バッグから紙を取り出す。

 

「要求は聞いたが、合宿をするかは別だからな」

 

それはトレーニングメニューだった。

 

「やったー! ありがとうございます!」

「で?」

「ルドルフはこっちです! 寝起きですが!」

 

要求は通ったので、僕はそのまま案内する。

 

「シービー、ルドルフ! おはよう! 東条トレーナーが来たよ!」

 

そう言って部屋に入ったら、丁度二人が起き始めていたところだった。

シービーは半分寝ていたが、ルドルフは東条トレーナーを見ると、直立した。

 

「おはようございます」

「ああ。……で、ルドルフ。どうしてこんなことをしたんだ」

「やったの僕とシービーだけど?」

「お前たちはバカと阿呆だが、何もなければこんなことをしないことも知っている。だろう? ルドルフ」

「……はい。そうです。私が合宿に行きたいと言いました」

 

ルドルフは真面目なんだから!

シービーは相変わらず寝ぼけ眼だ。

ああもう、ほらちゃんと着なさい。見えちゃうわよ!

 

「だが、それは許可できない。ルドルフ、何を焦っているんだ。お前なら大丈夫だ。クラシックでも最高の活躍をできる。だから、怪我をしないことを優先するんだ」

 

そう東条トレーナーは言うが、ルドルフはそれに頷かない。

 

「……確かに、すでに本格化も来て、実力も十分以上に感じます」

「だろう? お前にはライバルすらいないくらいには強いんだ。だから……」

「だからです。私は……夢がある。全てのウマ娘を幸福にするという夢が。最近、思うのです。きっと、それは自分が幸せにならなければできないことだと。そして、私はこの競走人生で、競い合う相手が欲しい。それはシービーでラックでマルゼンスキーです」

 

そう言うルドルフの表情は真剣だ。

世代の差というのは大きい。僕やシービーにはすぐに追いつく……というか、すでに近しい実力にはなっているだろう。だが、マルゼンスキーとは離れている。追い付くのにも時間がかかる。

そして、たとえマルゼンスキーと走れたとしても、ルドルフはそれだけじゃ満足できないのだろう。

もっとたくさんのウマ娘と走りたい。

もっと強いウマ娘と走りたい。

その本能がルドルフにもあるのだ。

 

東条トレーナーは言いよどむ。

その気持ちが僕にはわかった。

ルドルフはマルゼンスキーの再来になるかもしれないからだ。

その苦痛と苦悩は東条トレーナーが一番知っている。

だが、東条トレーナーはトレーナーとして許可したくないのだ。それはルドルフのことを想ってのことだった。

 

「……ねー、なにをなやんでんの?」

 

誰も彼もが無言でいるとシービーがふにゃふにゃしながら声を上げた。

 

「ルドルフをつよくしたいんでしょ? けがのことはわかるけどさ……べつにそれはトレーナーがしっかりみてれば……ふあ、いいでしょ」

「いや、そもそも、クラシック前でだな」

「ラックがここにつれてきたってことは……あるんでしょ、メニュー。がっしゅくでしか……できないやつ」

「そうだが……」

「じゃーいーじゃん。そもそも、ライバルがいないくらいなんだから、クラシックはながしてかてばいいじゃんぜんぜんやすめるよー」

 

シービーはおよそダービーウマ娘とは思えないほどの傲慢さで言う。……いや、むしろ逆か。

圧倒的な強者にしかできない理論。

だが、ルドルフにはできるかもしれないと僕も思う。

シービーはそれだけ言うと、再び布団に潜り込んですやすやと寝てしまった。

それに毒気を抜かれたのか、東条トレーナーは今日何度目になるかわからないため息を吐いた。

 

「全く。それでだめだと言ったらトレーナー失格と言われているみたいじゃないか。……別に丸め込まれるわけじゃないが、放っておいても無茶しそうだしな」

「じゃあ」

「特別だからな。もうこういうことがあっても許可しない」

「ええ、もちろんです!」

「やったー! 良かったね、ルドルフ!」

「だが、誘拐犯にはお仕置きが必要だな?」

「……僕たちもトレーニングがあるのでぇ……」

「大丈夫だ。向こうには折檻ついでに許可を取ってあるからな」

「えーん」

 

ともあれ、ルドルフも合宿に参加することになった。

ちなみに、折檻はリギルが来るまで東条トレーナーに扱かれることになった。

 

 

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