ニホンピロウイナーのことです。
それと、今日は夜に更新できないので、15分後にもう一話更新します。
閑話とトレーナーのあれこれの話です。
お見逃しのないようお願いします。
「やってないじゃん!」
「え、なにが?」
合宿も終わりかけた日、シービーはおやすみーとベッドに入ってからいきなり飛び起きた。
シービーは当たり前のように僕の部屋で寝ている。
なんだったら自主練が終わって僕が布団に入ったタイミングでも部屋に来て「今から寝る準備するから」とのたまう。
正直、疲れているので明日にしてほしいのだが、とりあえず話を聞くことにした。なぜなら明日も疲れてるので結果は変わらないから。
「急になに? 明日もトレーニングだよ? 夜遅いし、明日じゃできないこと?」
「明日でもできるけど、今がいい!」
「……うん、何を?」
「肝試し!」
「あー……」
そう言われて初日のことを思い出した。
そうだ、確かに肝試しをしたいと言っていた。
「でも、僕たち二人でやるの?」
「いや、みんな誘おう」
「みんなって?」
「知り合い全員」
「知り合い全員?」
「何人?」
「うーん、9?」
「具体的には?」
「トレーナー3人と、ルドルフ、マルゼンスキー、カノープス、カール、モンスニー」
「カノープスも?」
「うん、せっかくだし」
「……今日?」
「今日!」
「今何時?」
「10時!」
「今日?」
「今日!」
「……じゃあ、準備しないとね」
「うん!」
とりあえず、僕たちはみんなを呼ぶことにした。
意外にもみんなはすんなり集まってくれた。
カノープスの二人もちゃんと来てくれた。唯一、ニホンピロウイナーちゃんが渋ったけど、二人ペアで肝試しすると言ったら来てくれた。
「いいわねー! 青春って感じでチョベリグ!」
「マルゼンスキー……私たちはバレたら大目玉だぞ?」
「今更よ! ルドルフは勝手に来ちゃってるんだから!」
「……それを言われると、弱いな」
一番乗り気だったのはマルゼンスキーだった。
逆に一番乗り気じゃなかったのはカールちゃんだ。
「全く……合宿は遊び場じゃないんだぞ?」
「あら、いいじゃないですの。わたくしはカールと一緒に遊びたいわ。少しくらい羽を伸ばしても罰は当たらないわ」
「……別に、ダメだとは言ってないさ。明日のことを考慮すればな」
「じゃあ、大丈夫ですわ! 明日は半休ですから!」
しかし、モンスニーちゃんに陥落されていた。
カノープスの二人はイチャイチャしている。……一方的にだが。
「先輩! ぼく、怖いです」
「そう? まあ、確かに暗いからね……」
「はい、くっついててもいいですか?」
「あれ、でも、ちょっと前にラックくんについて行ってなかったっけ?」
「……」
トレーナーたちも僕たちに軽く説教をしたが、沖野トレーナーが「これも青春じゃないか。むしろ、俺たちが見てなかったら何するかわからないぞ。主導があの二人だぞ」と言って付き合ってくれることになった。
「よぉし、集まったな。これから肝試しをする。注意事項だが、一つ目に怪我をしないように。二つ目におハナさんにバレないように。三つ目に終わったら速やかに寝るように。ルートは入り口から廊下を行って、反対側の階段を上る。そして、2階の廊下をまた渡って、こっち側の階段を上る。んで、最後にまた3階の廊下を渡って一番端っこまで行ったら同じルートを帰ってくる。入り口に一人、2階の廊下に一人、最終地点に一人ずつトレーナーを配置するから、声かけてけ。以上だ」
沖野トレーナーはそう言って締めくくる。
シービーの無茶ぶりに慣れているのか、迅速にルールを決めてくれた。
入り口には沖野トレーナー、2階には僕のトレーナー、3階には南坂トレーナーが配置されることになった。
ペアで行くことになったが、仲良しペアで行くことになった。
順番も決まって、僕たちは一組ずつライトを持った。
最初はカールちゃんとモンスニーちゃん。
次にプロミス先輩とニホンピロウイナーちゃん。
3番目にルドルフとマルゼンスキー。
最後に発起人の僕とシービーだ。
「よし、こっちは準備できたみたいだから行ってこい」
「行ってきますわ」
「行ってくる」
ボロボロの宿舎と言うこともあって雰囲気もあり、二人は手をつないで歩いて行った。
「そういえば、ルドルフからオバケの話を聞いたけど、誰から聞いたんだっけ?」
「リギルの先輩だ。大昔、ここも綺麗だった時にリギルが利用したことがあってな。そこで出た話らしい」
「へえ……え、その時のリギルも東条トレーナーだったの?」
「いや、その時はサブトレーナーだったらしい。だから何十年も前じゃないな。大昔と言ったが、そう言う意味では最近だ」
「そうなんだ。それで、その話って?」
「ああ、なんでも、怪我をしたウマ娘がここで自殺をしたという話があるらしいんだ。大事なクラシック期の時に怪我をして、合宿に来るが他のウマ娘とどんどんと差を付けられていくのを目の当たりにしてな」
「うへぇ」
「それで、そのウマ娘は妬みから合宿に来た有望なウマ娘をあの世に連れて行ってしまうんだと」
「うおお、ちょっと怖いな」
「そうだな、思えばここに泊っている私に話したのはちょっとした意地悪だったのかもしれないな。おかげで夜は一人でトイレにも行けなくなった」
「え、そうなの? 言ってくれればついて行ったのに……とも行かないか。悪役ロール中だったし」
「……いや、ラックは素直に頼んでいればあの時でもきっとついてきてくれただろうな」
「なんだよ、いやに上げるじゃん」
「いや、ラックは優しいからな」
「あーあー、聞こえない聞こえない」
なんだか優しい目で見てくるルドルフを避けていると、先発の二人が帰ってくる。
その表情は少し青ざめている。
「おかえりー」
「ええ……」
「ああ、今戻った……」
「怖かった?」
「そうですわね……」
「さすがに雰囲気がある。あとお前のトレーナーをあの暗い中で出くわすと違う恐怖を感じるぞ……」
「それはごめん……」
確かにこの中であの強面に出会うと怖いだろう。
「それじゃ次、行ってこい」
「行って来まーす」
「……行って来ます」
カノープスペアが歩いていく。
あの二人はあまり怖がってはいなさそうだった。きっとすぐに戻ってくるだろう。
それを見送ると、マルゼンスキーが声をかけてくる。
「でも、良かったのかしら?」
「うん? なにが?」
「キョウエイプロミスちゃんにずいぶん懐いてたじゃない。ほんとはペアの方がよかったんじゃない?」
「ああー……いや、そうだけど今年はニホンピロウイナーちゃんがいるしね。それにシービーと行きたかったってのがあるし」
「あらあら」
「ラック! アタシを選んでくれたのね!」
「もちろんさ、僕はいつでも君しか見てないからね」
「ふうん、ならその視線を私が奪ってやろう」
「いーえ。おねえさんもあの時に激しく求めてくれたの、忘れてないわよ?」
「いやーん、みんな僕のために争わないで~」
「あら、モテモテですわね」
「……あのシンボリルドルフもマルゼンスキーもラックに毒されるとはな」
失敬な。
毒された原因はシービーです。
いつものような寸劇を繰り広げていると、2組目も帰ってくる。
やはり二人は何ら変わらない表情で歩いてきた。ニホンピロウイナーちゃんはプロミス先輩にくっついていたが。
「ただいまー」
「ただいま」
「おかえり、どうだった?」
「暗くて足元が良く見えないから気を付けてね」
「あの強面はちょっと怖かった」
「ごめん」
「あいつをあそこに配置したのは失敗だったか……まあいいか、じゃあ次! 行ってこい!」
「いってきまんぼう!」
「行ってくる」
意気揚々とマルゼンスキーが歩き出し、それにルドルフがついていく。
このペアは甘い雰囲気はなく、普通にしているようだった。すぐ帰って来そうではあるが、もしかしたらマルゼンスキーが寄り道でもするかもしれないな。
リギル組を見送ると、プロミス先輩が小声で話しかけてくる。
「ラックくん、大丈夫?」
「? なにがですか?」
「最近、辛そうだったから」
「あぁー……、大丈夫ですよ、夏バテみたいなものです」
「……そっか。ピロウイナーが君について行った時からだったから心配だったんだ。何か君を責めるようなことを言ったんじゃないかって」
「あはは、ニホンピロウイナーちゃんはそういうことを言う子だと思ってるんですか?」
「ううん。でも、言うべきと思ったら言う子だ」
「……そうですか。まあ、確かに堪えましたね。だけど、ニホンピロウイナーちゃんからは優しさを感じましたよ」
ニホンピロウイナーちゃんは誰よりも厳しい視点を持っている。
誰が開拓されていない短距離を進もうと思うだろう。そこに才能があったとしても、もしかしたらお山の大将で終わるかもしれない。それが自分の夢の終点だと思うのは恐怖だ。
だけど、ニホンピロウイナーちゃんは自分の道を選んだ。
覚悟を持ってその道を進んだんだ。
僕にはよくニホンピロウイナーちゃんの気持ちがわかる。
ウマ娘は勝つべきだ。
勝てないとわかっている戦いに臨むのはどれだけの意味があるのか。
皐月賞で戦ったニホンピロウイナーちゃんにはよくわかっていることだ。
口は悪いかもしれないけど、ニホンピロウイナーちゃんはまだ僕の才能を信じてくれている。彼女と同じ才能を。じゃなかったら、わざわざついてきてあんなことを言うはずがない。
嫉妬した僕に、選択肢を提示してくれている。
それが選ぶのに覚悟がある選択肢だったとしてもそこに道はあるんだと教えてくれている。
考え直せと。
天才たちの成長に追い付けなかったとしても道はあるんだと。
それは厳しさであり、優しさだった。
「わたしじゃ、力になれないかな?」
「ああもう、そんな顔しないでくださいよ。大丈夫ですって。確かに悩みはありましたけど……秋には答えが出るので」
「……そっか」
話が終わるとニホンピロウイナーちゃんがこちらに来て、プロミス先輩に話しかけてそのまま離れて行ってしまった。
先輩に甘えたい気持ちもあった。
だが、先輩もジャパンカップを控えている。
僕の悩みなんかに巻き込みたくはなかった。
そのタイミングでシービーが僕のところへ寄ってきた。
沖野トレーナーに絡んでいたが、飽きたのだろう。
「ラック! そろそろだって」
「お、じゃあ最終地点についたんだ」
「らしいよー」
そんな話をすると、まもなく二人が帰ってくる。
「チョー怖かったわ!」
「私はマルゼンスキーがいたから怖くはなかったな」
「あら、私ってばルドルフのナイトかしら」
「……まあ、広義的には」
ルドルフの苦笑いを見ると、マルゼンスキーがいたから心強いというよりも、マルゼンスキーのテンションが怖さを薄めていたのだろうとわかる。
そして、ラストの僕たちの番になる。
「いってきまーす」
「いってきますー」
「おー、ついたら片づけるように言っておいてくれ」
「はーい」
僕はシービーと手をつないで出発する。
1階の廊下はとても暗くて歩けなくはないが、恐怖を助長させるには十分だった。
とはいえ、同じようなボロ家に住んでいた僕はそこまで怖くない。
シービーは怖がっているようで、そのスリルを楽しんでいるようだった。
「ひゃー! こわい!」
「結構暗いね……」
「去年は大丈夫だったの? ラックたちしかいなかったんでしょ?」
「大丈夫だったよ。寝ぼけてルドルフの布団に入ったりしたけど」
「ずるーい! アタシもラックの布団に入ろ!」
「いつも入って来るでしょ……」
にししと笑うシービーはぶんぶんとライトを振り回す。
この宿舎はそこまで大きなものではない。
だから、歩いていてもすぐに反対側へ着く。
「お、階段だ」
「そういえばこっちの階段は使ったことなかったなぁ」
「わざわざこっちには来ないもんね」
階段は入り口側にもあるため、こっちを使う機会はほぼない。奥の部屋に泊っていればあるのだろうが、人数が少ないためわざわざ遠いところに泊ることはしない。
僕たちは階段を上がっていく。
あまり使われない階段は埃こそ積もっていないものの、古めかしい見た目が僕たちの恐怖心をあおる。一歩一歩悲鳴のような音を上げる階段を抜ける。
「ラックのトレーナーが先に廊下にいるんだっけ?」
「うん。でも、僕は慣れたけど、あの顔を暗い中でみたいって子はいないからなぁ」
「あはは、それも肝試しの内だよ!」
「まあ、確かに肝は試されるだろうけども」
二階の廊下にはほとんど光が入らない。
下にある自販機の微かな光ですら届かないからだ。
しかし、僕たちはその中をライトを頼りに進んでいく。
すると、すぐにトレーナーが立っているのが見えた。
ラフな格好をしている。これが終わったら即寝るのだろう。
「トレーナー」
「……来たか。これで俺もお役御免だな」
「トレーナー顔怖がられてたよ。もうちょっと愛想良くしなよ」
「……必要ない」
「でも、ラックのトレーナーが急に愛想がよくなったらそれはそれで怖いよ?」
「ぶふっ」
「笑うな。さっさと行け」
「「はーい」」
トレーナーに手を振って、僕たちは再出発する。
トレーナーは丁度真ん中にいたのですぐに階段につく。3階はさらに暗い場所だ。
「……これ、一番肝試しされてるの、南坂トレーナーかもね」
「確かに。流石に怖いなぁ」
そんなことを言いながら今更引き返せないので、進んでいく。
そこで不意にシービーが言う。
「ラックはさ」
「うん?」
「走るのが嫌になったの?」
「え?」
質問の意図……というか、その質問自体がわからなくて僕は聞き返していた。
はしるのがいやになった。
走るのが嫌になった?
どうしてシービーがそんなことを聞いてくるのか、僕にはわからなかった。
「……どうして?」
「足がさ、前に出てないんだ」
「僕の?」
「ラックの」
シービーは僕の悩みを感じ取っているようだった。
タイムに変化はない。むしろ、上がっている。
だが、シービーは僕の内心を感じ取っているようだった。
その感じ方はシービーらしかったが、それ故に誤魔化すのは難しかった。
僕はなんて言うか悩む。
これは僕の悩みだ。
シービーを巻き込みたくはない。
だけど、シービーの気持ちもわかる。そもそも、僕が悩んでいることが心配なのだ。
「……確かに、ちょっとだけね」
僕は正直に言った。
すると、シービーは足を止めて僕を見た。
「化けの皮がはがれ始めたっていうのかな、思ったよりも僕は脆かったってだけなんだ」
「……ラック」
「でもね、シービー。僕は走るよ。きっと君のライバルであり続ける」
「それをラック自身が嫌がっても?」
「うん、そうだよ。僕は止まらない。そういう風に出来てるんだ」
「……どうして、そこまでするの?」
それは奇しくもニホンピロウイナーちゃんと同じ問いだった。
その答を僕は出せていない。
でも、少しだけわかったことがある。
僕は歩きながら言う。
シービーは止めた足を再び動かし始める。
「僕の目的はトゥインクルシリーズを盛り上げることだ」
「うん」
「その目的は半分達成されているんだ。ここから僕が勝とうが負けようがトゥインクルシリーズは盛り上がる。その軌道には乗っているんだ」
「……」
「いろんな人に言われたよ。お前には才能がないって。シービーのライバルでいるには力不足なんだろうね」
「そんなこと……」
「そんなこと、わかってたんだ。最初から」
「え?」
「シービー、きっと最初から君を知っていたらこの目標を抱くことさえしなかっただろう。シービーは僕が何もしなくてもトゥインクルシリーズを盛り上げていただろうから。でも、僕は目標を抱いて、君がいたから走り続けられた」
「ラック……」
薄暗いここではシービーがどんな顔をしているのか、わからない。
そうでなくても、僕は自分がどんな表情をしているのかわからない。
「告白するよ、シービー。僕は君が好きだ。走りたくないと思う理由も、これからも走りたいって思う理由も君だ」
それは答えの一部だったように思う。
「今はそれしかわからないけど、今はそれだけでいいと思う」
「そっか」
「うん。ごめんね、シービーを理由にして」
「ううん、アタシは嬉しいよ。だって、アタシが走る理由の一つは君だから、ラック」
その言葉は僕を嬉しくさせた。
これから僕がどうなるかはわからない。菊花賞を終えて、どこに向かうのかわからない。
海外に行くと言っていたが、それが叶えられるのかもわからない。
……でも、今はそのことから目を背けたい。
目の前のことに全力で取り組みたいのだ。
「……ねえ、シービー?」
「なに?」
「一つ聞きたいんだけどさ」
「うん」
「僕たち、どのくらい歩いた?」
「……きっと、ほんの少しだけだよ?」
「僕の感覚が間違いじゃなければ、そのほんの少しは2階の廊下の5倍くらいなんだけど、シービーはどう思う?」
「……ラック」
「なに?」
「足音……しない?」
僕とシービーはぴたりと足を止める。
ウマ娘の優れた聴覚は確かに、物音を拾った。
ひた、ひた、と近づいているようだった。
「……シービー」
「……なに?」
「ここのオバケ、クラシック期で怪我したウマ娘なんだって」
「……それはご愁傷様だね」
「一つ、朗報がある」
「聞こっか」
「つまり、足は僕たちの方が速いってことだ」
「……まさか、オバケと競走するとはね」
「いくよ」
「うん」
僕たちは一斉に走り出した。
その瞬間、後ろからの音がすさまじい音に変わった。叩くような足音だ。
「「うおおおおおおおおお!!」」
僕たちは吠えた。
ここまで鬼気迫る走りは初めてかもしれない。
30秒走ってもゴールは見えない。
後ろの音は足音だけではなく、窓や壁、天井を叩くような音をしている。
だが、僕たちの全力疾走のおかげか、段々とその音は遠ざかって行った。
「はぁ、はぁ……」
「きっつい……」
僕たちは走るのをやめ、再び歩くことにした。
「まじで、どんだけ廊下長いんだ……」
「……ここを練習場にできたら革命が起きるね……」
シービーは呆れたように言う。
もう2kmくらいは行ったんじゃないかと思う。
相変わらず、先は見えない。
僕とシービーは手をつないで歩いた。
すると、少しして先の方に人影が見えた。
僕たちは無意識に立ち止まり、その人影を注視する。
薄暗くてその顔は見えないが、男性だということはわかった。
その人影は言う。
「ああ、良かった。心配しましたよ。そして、すみません。ライト、電池が切れてしまったようで。こちらに来てくれませんか?」
南坂トレーナーの声だった。
そう見れば、身長も南坂トレーナーのもののように思える。
僕とシービーは小声で話す。
「……あれ、本当に南坂トレーナーだと思う?」
「声と身長は……確かに南坂トレーナーだよね」
「どうする?」
「どうしよう」
動かない僕たちにその人影は再度呼びかけてくる。
「どうしました? あとちょっとでゴールですよ。早くこちらへ」
僕たちは無意識に唾を飲み込んでいた。
あきらかに普通じゃない状況。
疑いたくなるというものだ。
南坂トレーナーに声をかけようとした瞬間、後ろから声がした。
「おい、なにやってるんだ」
僕とシービーは肩を揺らして後ろを振り向く。
そして、違う意味でまたびっくりした。
強面の顔がサングラスをして立っていたからだ。
「トレーナー!」
「なんだ……ラックのトレーナーか……」
「来てくれたの?」
「ああ、物音がするし、遅いから迎えに来たんだ。まったく、なんで道草食っているんだお前たちは……」
「良かった……」
「もういいだろう、ゴールだ。さっさと帰るぞ、ミスターシービー、ブラックトレイター」
「うん、行こうラック」
「待って、シービー」
トレーナーについて行こうとしたシービーを止める。
「なに? ラック、早く行こうよ」
「一つ聞いていい、トレーナー?」
「なんだ? 眠いんだ、早くしろ」
「なんで、こんな暗い中でサングラスかけてるの?」
さっき見たトレーナーはラフな格好をしていた。
もちろん、こんな暗い中でサングラスをかけることはしていなかった。
……そして、トレーナーは後ろから来た。
「どうでもいいだろ、いつもかけてるんだ」
「トレーナーは僕のこと、ラックって呼ぶんだ。シービーこっちだ」
僕はシービーの手を引っ張り、南坂トレーナーの方へ行く。
後ろからは舌打ちが聞こえた。
人影はちゃんと南坂トレーナーだった。
僕たちが着くと、「もう、怖かったんですから、意地悪しないでくださいよ」と言った。
その様子に僕とシービーはドっと安心し、その場にへたり込んだ。
戻った僕たちは遅いとみんなに説教を食らったのだった。そして、南坂トレーナーにどれだけ怖がっていたのかを言われて、いじられるのだった。
前回、多くの方を不快にさせてしまい申し訳ありませんでした。
決してウマ娘のキャラクターや実在する競走馬を貶める意図があって書いたわけではありません。
全員が全員、立場や才能に悩み、醜い感情を持ちながらも前に進んでいくストーリーを描きたかったのです。
それ故にこの作品は未熟な部分を描くことをしています。
ですが、名前を借りている以上、他の方がどう思うのかをもう少し考えるべきだったと反省しました。
もし、今後も変わらず多くの方が不快に思うのであればこの作品は削除するか、キャラクターの名前を変更していきたいと思います。
繰り返しになりますが、申し訳ありませんでした。
少しだけ、作中のニホンピロウイナーの話をします。
僕がどう描こうとしたのかです。
主人公の話も入ります。
それが知りたくない人は読まないでください。
主人公のモデルは他にいますが、イフのニホンピロウイナーとしても描いています。同じ才能を持って、違う道を選んだもう一人の主人公です。(初登場時のサブタイはニホンピロウイナーと主人公のことです) そういう意味で主人公の一番の理解者はニホンピロウイナーなのです。
そして、だからこそ主人公には合わない存在として作中で立ちふさがります。
ニホンピロウイナーは主人公にとって厳しい現実そのものなのです。
ですが、そのニホンピロウイナーが主人公の前に現れることは悪いことではありません。
ニホンピロウイナーは盲目的に進む主人公に「止まれ」を突きつけられる数少ない存在です。そして、今一度考えなおせと言えるキャラです。
それはもちろん、嫉妬心というのもあります。
しかし、もしここで現実を受け入れずに進み続けたら、主人公は壊れてしまうことも知っていたから厳しい態度を取ったのです。
競えるかではなく、競えなくなってしまったら壊れてしまうかもしれない。
それがニホンピロウイナーにはわかっていました。
僕はこれを優しさとして描きました。
辛い思いをするだけが報われる方法だと考えていないからです。
ですが、僕の実力不足でそれが上手く描けませんでした。
ニホンピロウイナーが性格が悪く見えるのは『そういうキャラ』ということではなく、僕の実力不足から来るものです。
ニホンピロウイナーが好きな方々には本当に申し訳ありませんでした。