「うぐ、えぐ、らっくぅ~」
シービーは泣いていた。
だばぁと涙を流していた。
実はシービーは少し前から夏風邪にかかっており、どうにか京都新聞杯に出走をすることはできたが、なんと4着に沈んだ。
1着は僕だ。
初めて連対を外したということと、僕とのレースを十分に楽しめなかったとシービーは泣いた。
だが、泣きたいのは僕だ。
そんなことで大丈夫かシービー。
菊花賞、バテて本気出せませんでしたなんて言われたらビンタだ。往復。
泣くシービーを抱き上げてスピカの部屋へ隠れながら連行する。
入ると、沖野トレーナーが新聞を見ながら頭を抱えていた。
みんながみんな、泣きそうだった。
いや、シービーはもうすでに泣いてるので違うか……。
「ブラックトレイター……運んでくれたのか、ありがとう」
「沖野トレーナー、大丈夫なんですか、シービー……」
「大丈夫だ。……と言いたいが、休ませるしかないな……」
「うぅ……」
沖野トレーナーは「やっぱり特訓なんて不慣れなことをするべきではなかったか……」とつぶやいていた。
京都新聞杯は10月の終わり。
菊花賞は11月の半ばだ。
この不調は半月で治るの……?
いや、治してもらわないと困る。
そんなことで菊花賞回避されてもどんな顔すればいいのか、わからなくなるから。
ただでさえモンスニーちゃんがいなくなっているし、スズカコバンちゃんも菊花賞は出走回避したのに、シービーもいなくなったらハッピーミークちゃんしかライバルがいなくなっていしまう。
ハッピーミークちゃんが力不足という意味ではなく、せっかくの大舞台がライバルが少なかったなんて言われたくないのだ。
京都新聞杯から僕はトレーニング禁止の命令が出ている。
軽く走るだけで、負荷のあるトレーニングは疲労を理由に禁止されている。その分、賢さトレーニングは欠かせないが。
有り体に言って時間がある。
僕はシービーをどうにかする方法を模索することを決めた。
シービーは夏バテから来る連鎖的な不調だ。
プールにぶち込んで体を冷やせれば良かったのだが、シービーは病み上がりだ。それもできるはずがない。
この連鎖的な不調、結構根が深い。
ウマ娘は純粋故にメンタルが弱い部分がある。シービーの場合、それが体の不調とかち合ってしまった。
簡単に言えば最悪のパターンで不調に陥ったのだ。
それを治すために半月もあると考えるか、半月しかないと考えるか。
「沖野トレーナーはどうしようと思ってんです?」
「そうだなぁ、どうもこうもねえな。休むしかない。動かせば動かすほど不調になるからな……しっかり食って、しっかり寝て、ほんの少しだけ走る。それがベストだろうなと思ってた」
「……まあ、そうだよね」
というか、それしかない。
うん。
それしかないならそれをしよう。
僕はトレーナーにメッセージを入れる。
そして、スマホを仕舞うと沖野トレーナーに言う。
「よし、沖野トレーナー、休みましょう」
「う、うん? おう、そのつもりだが……」
「しっかり休もう。最高の場所で。最高の休みを……」
「……何を言っているんだ?」
「北海道へ行きます。慰安旅行です」
「は!? 今からか!?」
「今からです。休むのにも時間が必要ですから」
「というか、何で北海道!?」
「避暑地です」
「なる、ほどね!?」
「らっくぅ……」
「よしよし、シービー。僕が君を助けてあげるからね」
「えーん」
泣きすぎて幼児退行しているシービーを担ぎ、僕は準備をしに行くのであった。
北海道。
そこは試される大地。
だが、同時に我々には大きな恩恵をくれる母なる大地。
前世では日本のサラブレッドの大半はここで生産された。
そして、人参の生産量第一位を誇る。
避暑、食べ物、自然がそろった場所なのだ。
まあ、避暑地と言っても流石にずいぶん寒いが。
高級旅館を予約した僕たちは次の日には北海道に向かった。
そこはウマ娘が来ることも想定されている旅館で、外国から来るウマ娘たちも良く利用するらしい。
人里から全く切り離された場所にあり、広大な自然を味わえると評判だ。秘境の宿と言えばいいだろうか。
僕はともかくシービーが見つかったら休むどころの話じゃないからここを選んだ。
「悪いな付き合ってもらって」
「いいですよ。僕も休む予定でしたから。ね、トレーナー?」
「……俺は仕事があるんだが?」
「ほら、トレーナーもこう言ってますし」
「……そうだな!」
シービーは未だにのびている。
少しずつ回復しているようだが、少しでも目を離すと走り出すので回復が遅くなってしまう。
どうにかして抑えている。
数の少ないバスを乗り継いで目的地へ向かう。
旅館に着くと、僕は丁度出てきた大きなウマ娘にぶつかってしまう。
「あ、すみません」
「Oh、こちらコソ」
そのウマ娘はそのままそそくさと出て行ってしまった。
ずいぶん厚着をしていたし、どこかへ出かけるのだろう。
「ありゃおっきいな。ばんえいウマ娘か?」
「いや、競走バだろう。話し方が日本人じゃなかったからな」
「そりゃそうか」
そんな事件があったが、僕たちはそのままチェックインをして部屋にシービーを放り込む。
普段のシービーは凛々しいが、今はふにゃふにゃだ。
少ししたら温泉にも入れよう。
とりあえず、今のうちに食事の準備をしてもらおう。
……と思ったのだが、なんとここで問題が発生。
「え、食材がない!?」
「申し訳ありません!」
「ちょ、全くですか!?」
「……全くです」
「じゃあ、僕たちは何を食べればいいんですか……?」
「出すとしたら賄いになってしまいます……」
「いや、それはあなたたちが食べる予定のものでしょ……」
というか、ウマ娘かつ現役レーサーである僕とシービーには足りない。
「どうしてそんなことに……?」
「実は健啖家なウマ娘さまがいらっしゃいまして……」
「全部食べたと……?」
「はい……」
「仕入れはどうなってるんですか?」
「仕入れ先の方が山崩れで動けない状態でして……しかも腰をやったとかで動けないらしいのです」
「うぬぬ……」
「あと1ヶ月以上は持つはずだったのですが……」
ここは高級旅館だ。
様々な想定をしているはずだ。
食料がなくなるなんてことは一番に気を遣うところのはず。
……それを超える食欲ってなんだ……。
ここは都会からは離れた場所にある。
だからこそのびのびと出来るのだが、さすがにそうなると不便だな。
「近くで食材を買える場所はありますか?」
「……20kmほど先にはウマ娘さまのトレーニングセンターがあるので、そこでなら分けてもらえるはずです」
「じゃあ、そこで……」
「しかし、今トラックを至急農場へ向かわせているので、車が使えないのです」
うん、裏目裏目……。
「そのトラックはいつここに?」
「早くて2日後には……」
うん。
思わず黙っちゃったよ。
いや、不幸に不幸が重なったんだろうけどね?
仕方ないか……。
「じゃあ、僕が取ってきます」
「お客様にそんなことさせられません!」
「大丈夫ですよ、僕はウマ娘ですから、すぐです」
「しかし……」
「台車と連絡をお願いしてもいいですか? それに僕たちの食糧ですから」
「……わかりました。まことに申し訳ありません……」
「仕方ないですよ」
僕はランニング用に持ってきていたジャージに着替えてトレーナーたちに報告する。
「食べ物がないみたいだから取りに行ってくるね」
「え? 食べ物がないってどういうことだ?」
「そのままの意味です。全部食べた人がいるらしいので……」
「しかし、仕入れとかは……」
「時間がないので、その話はまたあとで。シービーのお世話、お願いしますね」
「よくわからんが、悪いな」
「いえいえ」
「おい、あまり本気で走るなよ」
「わかってるよー。まあ、その分ちょっと遅くになっちゃうけど、我慢してね」
「俺たちは子供か……」
「はっはっは、アメでも舐めてなさい。じゃ!」
僕はそのまま外に出る。
まさか、北海道で輓バの真似をすることになるとはな。
光栄極まりない。
それに、取りに行くのはトレセン学園。
僕は中央しか知らないので、見れるのは少しとはいえちょっと楽しみだ。
入り口には超でかいリアカーが用意されていた。
「繰り返しになりますが、本当に申し訳ありません……」
「いいですって。あなたたちがどうこうできる話じゃないでしょう? じゃ、行って来ます」
「行ってらっしゃいませ」
僕は変装用のキャップを被り、リアカーを持つ。
そして、ちょっとずつ速度を上げていく。
最高速度の3分の1くらいで走る。
この速度だったら往復2時間かからないくらいか。
いい運動になりそうだ。
風を切って走る。
周りにはほとんど何もない。
自然が広がるばかりだ。
自分の息と足音と車輪の回る音しか聞こえない。
気持ちいいな。
改めて思う。
ウマ娘の本能を。
いや、ヒトだってそうだ。
風を切って進むのは楽しいし、気持ちがいい。
単純で、純粋な気持ちだ。
いきなりのアクシデントだが、悪くない。
これならすぐに着きそうだ。
その考えはすぐに証明される。
40分ほどでトレセン学園へ着くことになる。
北海道のトレセン学園は中央ほど豪華ではないものの、のびのびとできそうな場所だった。
中央よりも広く、空気が澄んでいる。
事実その通りのようで、ウマ娘たちが笑い合いながら走っている。みんな穏やかそうで幸せそうだった。
競走バには闘争心も必要なので一概に良いとは言えないが、それでもこの幸せそうなウマ娘たちはどうあっても否定されるものではない。こういうウマ娘の幸せの形もあるのだろう。
もちろん、必死にトレーニングを積んでいるウマ娘もいる。
そういう子がきっと地方でも活躍するのだろう。
新鮮さを感じながら僕は受付の人に事情を説明する。
すると、話が通っていたのかすぐに準備をしてくれることになった。
だが、トレセン学園の中が気になっているのがわかったようで、1時間ほどかかるというので、少し見て回ってもいいと許可をくれた。
ゆっくりと歩きながら僕は見て回る。
校舎やトレーニング施設。芝もダートも。
そうしていると、いきなり声を掛けられる。
「Hey! そこのガール! ちょっとこっちへ来てクレ!」
そちらを向くと大柄なウマ娘がこちらに来るようにジェスチャーをしていた。
僕じゃないかなって思ったが、後ろには誰もいない。
自分を指さして見ると、頷かれる。
……というか、さっきぶつかった人じゃん。
食料全部食った暫定犯人さん……いや、別に犯罪じゃないし、むしろ当然の権利ではあるが。
呼ばれたので向かうと先ほどは厚着でわからなかったが、そのウマ娘の異質さが見えてくる。
170後半に達する身長に敷き詰められた筋肉。スプリンターかステイヤーでさえわからないが、すさまじい実力をしているのがわかる。体幹は異常にしっかりしており、わずかなブレさえ感じられない。恐ろしいのは、トレーナーではない僕でさえそれがわかるという点だ。
……どこかで見たことがあるような……いや、気のせいか。
勝気な目に燃えるような栗毛をしているそのウマ娘は後ろにいたウマ娘を前に出す。
「ワタシは……あー、レッドっていう者ダ。で、こいつはヒシマサル」
「はあ、ホワイトローヤルです」
無理矢理前に出されたウマ娘はまだトレセン学園に入るような年頃のウマ娘じゃなかった。
シリウスよりもいくつか下か。
綺麗な黒鹿毛をしている。
「こいつの併走相手を探してたんダ。ちょっと走ってくれないカ?」
「お、おい! やめてくれよ! 知らない人に併走頼むとか、恥ずかしいだろ?」
「なーに言ってるんダ! 強くなりてーんダロ? じゃあ、手段なんか選ぶナ!」
「あのーその子、トレセン学園の生徒じゃないですよね?」
「あーそうだけど、許可もらってんダ。ここら辺、トレーニング施設他にないダロ?」
「まあ、そうですね」
「で、どうダ? やってくれないカ?」
「うーん、でも僕今トレーナーにトレーニング止められてるんですよ」
「そうなのカ? うーん、お前いくつダ?」
「クラシック期ですけど……」
「じゃあ、半分でイイ! そのくらいの速度で走ってくれれば大丈夫ダ!」
半分か。
それなら大丈夫か。
「それならいいですけど、でもきっとあなたが走った方がこの子のためになると思いますよ……」
「手加減は苦手なんダ」
「そうですか……」
僕はくつ紐を締めなおして、ヒシマサルちゃんと向き合う。
うん、才能あふれていそうなウマ娘だ。
「じゃあ、ヒシマサルちゃん、やろっか」
「ちゃんなんてつけんなよ。マサルでいいって。悪いな、巻き込んじゃって」
「ううん、その年で頑張れるのはすごいから応援したくなっちゃうよ」
「へえ、姉ちゃんは速いの?」
「うーん、レッドさんほどじゃないかな」
そう言うと、マサルは「こいつよりはえーやつなんて世界中にもいねえよ……」とつぶやいた。
「何m?」
「1200mダ。よろしく頼むム」
「1200mね……」
トレーニング用の芝は平坦だ。
そして6ハロン。
1ハロン14.7秒くらいで走ればいいか。
位置に着いて、合図をする。
マサルの表情は真剣だ。
本気で強くなりたがっている。
それがわかったから僕も全力ではないが本気でやることにした。
「スタート!」
スタートダッシュは僕の勝ち。
だが、マサルのスピードもなかなかだ。本当に才能のあるウマ娘だったか。
羨ましいのう!
僕は先頭に立ってシンザン会長直伝の揺すりをかける。
マサルはすんごく嫌そうな顔をする。
へへへ、そんな顔しちゃ嫌だってことバレちゃうぜ?
コーナーに入り、抜かそうとしてくるが、パワーが足りていない。スピードはあるが、パワーがまだまだだ。
昔の僕よりもあるけれど。
抜かせずにコーナーが終わる。
「この……!」
そして最終コーナーに入る時に空いた外を回って抜かそうとする。
僕はあえてそれを許した。
だが、それも一瞬だった。
マサルはすぐにスタミナを尽かし、そのスピードを落とした。
スピードというのは最高速を保つよりも上げたり下げたりする方がスタミナを消費するのだ。
結局僕の勝ちで終了する。
「くっそー!」
「アハハハ! あんた可愛い顔して意外とえげつないことするんダナ!」
「えー? 可愛い顔に免じて許してにゃん」
「気に入っタ! もう一度名前を聞こうカ!」
「ホワイトローヤルです」
「ホワイトローヤルか、覚えたゼ」
上機嫌なレッドさんとは反対にマサルはぶっすーと膨れている。
「なんだよ、あれ! 全然走れねえじゃん!」
「これがレースだゼ、マサル。速くたって勝てやしないンダ。これでわかったロウ?」
「んだよ、あんなの前にいたからやられただけで、スタートで勝てれば負けねえよ!」
「マサル、お前あのスタートに本当に勝てるノカ? あのスタートはアメリカでも見ねえくらいに速いスタートだゼ?」
「はあ!? なんでそんなやつがここにいるんだよ!」
「さあネ? それに、マサル本気で走られたら影さえ踏めねえゾ?」
「……おれより速えってのか?」
「1ハロン全部14.7秒だゼ。全く誤差なしダ。マジでサイボーグかもしれねえナ! まあ、つまり、全く本気じゃなかったってことだヨ!」
「嘘だ! 騙されねえぞ!?」
「なら見ナ」
そう言ってレッドさんはストップウォッチを投げ渡す。
僕も覗き込んで見てみる。
全く狂いなく14.7秒。
よっしゃ!
体内時計はしっかりしてる。
「なんだよこれ! レースの世界はバケモンばっかなのか!?」
「いやー、こりゃアメリカでもお目にかかれねえゾ? 貴重な体験だったナ」
「なにもんだよ……本当にここの生徒か? エイリアンじゃねえだろうな?」
「いや? まあ、ここの生徒じゃないけど」
「え? まじでそうなのか?」
「うん、ここには旅行。籍は中央だよ。君が来るなら一緒に走る機会があるかもね」
「え!?」
それを聞いたマサルはキラキラとした目で僕を見る。
ま、まぶし!
「じ、じゃあ、シンザンに会ったことあるのか!?」
「あるぞー? 公式レースじゃないけど一緒に走ったことあるし、サインも持ってる!」
「す、すげえ!! まじで!?」
「まじまじ」
「じゃあ、シービー! ミスターシービーも!?」
「うん、実は同級生だ。公式レースでも走ったことあるぞ!」
「や、やべええええええ!!」
マサル……かわいいやつめ……。
ふふふ。
「じゃあ、あいつは!? あのブラックトレイターとかいう悪いやつ!!」
「う、うん。まあ、あるよ? あの悪いやつ」
「ガチで!? あいつ倒せそう!? まじで許せねえよ、おれ!!」
「だよなー!? 許せねえよな!?」
「ああ!! おれが中央で走れるようになったらコテンパンのボコボコにしてやるぜ!」
正体は絶対にバレないようにしないと……。
こんな純粋な子に嫌われたらちょっと心に来るから……自業自得だけども。
「そのミスターシービーとかブラックトレイターってのは強いのカ?」
「レッド知らねえの!? 今2冠を取ってるウマ娘だぞ!!」
「どっちガ?」
「ミスターシービーに決まってるだろ!!」
「じゃあ、そのブラックトレイターってのハ?」
「……そいつはトゥインクルシリーズを荒らしているやつだ。ちょーっとだけ、ほんのちょ――――――っとだけ強いからって調子乗ってるやつ」
「フウン? どのくらい強いんダ? 戦績はハ?」
「……8戦8勝。だけど一回は引き分けだし、G1は2勝しかしてないから!!」
「いや、十分すげえやつじゃねえカ……その引き分けってのはハ?」
「……ダービーでだよ。もうちょっとでシービーの邪魔するところだったんだ」
僕すげえ。
メイクデビュー、東京スポーツ杯ジュニアS、ホープフルS、青葉賞、ダービー、オープン戦、神戸新聞杯、京都新聞杯。
クソ強いじゃん。
はい、一回相手が強くて回避したのに自画自賛してるとか言わない。ライバルが不調で勝ちを拾ったタイトルがあるとか言わない。負けそうだから落ち込んでるとか言わない。
うん、自分で言ってて落ち込んできた。
「Black Traitor……黒い反逆者ネ。君とは真反対の名前だナ、ホワイトローヤル?」
ぎくっ!!
実はホワイトローヤルというのは英語で書くとWhite Loyal。白い忠義者という意味の名前をしている。
とても安直なネーミングをしている。あの時は咄嗟だったので、対義語でつけたのだ。
流石アメリカ人(おそらく)。
すぐに見抜かれた。
ひょえ~~!!!
にっこりと笑うとにっこりと笑われる。
絶対バレてるわ、これ。
調子に乗って中央で走ってるんだぜぇ~とか言わなければよかった。
「ホワイトローヤル、旅行って言ったナ? いつまでいるんダ?」
「うーん、2週間くらいですかね?」
「うん、ワタシもそんくらいダ。で、帰るまではここでマサルの世話することになってるんダ。もしよかったらお前も見てやってくれないカ?」
「そうなんですね。いいですよ。もし、ここに来る時に声かけてくれれば予定がなければいつでも」
「ン?」
「やっぱり気づいてなかったんですね、泊ってる旅館同じなんですよ。ほら、入り口でぶつかっちゃったの、僕です」
「オー! そりゃ悪かっタ! そうかそうか! こりゃイイ!」
「まあ、ただ友達がいるので、そっち優先になっちゃいますけど……」
「いいっテ! ありがとナ!」
にっこりと人好きのする笑みを浮かべるレッドさん。
そのタイミングで入り口の方から僕を呼ぶ声がした。
受付の人がこちらに向かって手を振っている。
「じゃあ、僕は行くので。マサル、併走楽しかったよ」
「おれも、いい経験になった」
「レッドさんはまたあとで」
「おうヨ!」
僕は少し頭を下げて入り口に向かう。
そこには大量に入れられた食料たちがあった。
「いいんですか? こんなにいっぱい……」
「ええ、もちろんですよ。実は持て余してしまうことが多くてですね。この気温ですから長持ちはするんですけど、どうしても質が落ちてしまいますからね。だったらその前に食べてもらえれば、そっちの方がいいに決まっています」
「ありがとうございます! いやぁ、ご厚意がなければ腹を空かしてしまうところでした!」
「ひもじいのは悲しいことですからね」
「ええ、本当に。じゃあ、ありがとうございました」
「いえいえ」
ここの人は良い人ばっかりなのか?
いや、東京も悪い人ばっかりではないけども、ここの人達はなんだかぬくもりを感じるなぁ。
僕はキャップを被りなおしてリアカーを引き始めた。
この話は北海道でやりたかったのです。