ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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年代はあるけども、好きなようにやっていきます。
出したいと思ったウマ娘は出していく感じで。


A monster like Frankenstein's monster

マルゼンスキー。

最強の逃げウマだ。

だけど、それは間違いだと言う。

速すぎて、他のウマ娘が追い付けなくて結果的に逃げウマになっているのだ。

もしかしたら、逃げよりも差しや追い込みの方が得意なのかもしれない。

 

あれから1週間が経った。

相変わらず僕はトレーニングとフォームの矯正に苦心している。

だが、その甲斐もあったのか、僕のフォームはだんだんと正しいものになってきた。

トレーナー、もしかして超有能?

 

そんな僕は今、何をしているのかと言うと!

チームリギルに来ていまーす!

ぴすぴーす!

 

事の経緯を説明すると……いや、別に説明する経緯ないな。

マルゼンスキー先輩のことは話を聞いてから気になっていた。

最強のウマ娘と言われているが、クラシックレースや天皇賞には出走できない。それは僕が変えたいと願ったことだ。

 

じゃあ、それに対して僕は自分のことを優先させて何もしないのか?

僕は悩んだ。

そもそも、僕が残れるのかは怪しいのだ。

レースは時の運。

メイクデビュー戦で何が起こるかはわからない。

だから、確かに自分の実力を上げることに専念するべきなのだろう。

だけど、やっぱり僕はマルゼンスキー先輩を捨て置くことはできなかった。

 

なんぼのもんじゃい!

そもそも、トレーナーに指導されなくてもデビュー戦勝つつもりだったと言ったのだ!

じゃあ、やりてえこと全部やってやるぜ!

 

とは言いつつ、マルゼンスキー先輩が別に望んでなかったなら急がなくてもいいことでもあるので、マルゼンスキー先輩の意思を確認しに来たのだ。

 

「で? 言われた通り、リギルに連れてきたけど何をするの?」

「マルゼンスキー先輩っている?」

 

ちなみに、リギルの場所がわからなかったので、シービーにはついてきてもらっている。

僕たちはジャージを着つつ、ごく自然な感じでチームリギルに入っていった。

普通は他のチームの部屋に入るなんて言語道断、スパイ行為なので超バチクソ怒られるが、リギルの人数が多いのが幸いして普通に入室してこんにちは~とあいさつしたら普通に入れた。あいさつも返された。

新入生ならまだ顔覚えられてないだろう作戦成功である。

何人か、あんな子いたかしらという顔をされたが、あいさつしたらいたような気もするって顔になったのでセーフ。

 

「マルゼンスキー先輩」

「あら、こんにちは。トレーナーちゃんはまだ来てないわよ?」

 

シービーが声をかけた女性は、ボリュームのあるロングヘアをした大人のお姉さんと言う感じのウマ娘だった。

 

「ってあら。うふふ、お姉さん知らないわよ? 結構豪胆なのね」

「あはは、未だにリギルに入るのは緊張しちゃいます」

 

速攻バレたっぽいが、シービーがそれっぽい返事を返す。

 

「そっちのかわいい子は?」

「あ、初めましてマルゼンスキー先輩! ブラックトレイターって言います!」

「うんうん、ナウいわねぇ。シクヨロよ。で、どうしたの?」

 

マルゼンスキー先輩はちょうど準備が終わったところなのか、ジャージ姿で僕たちに向き直る。

 

「マルゼンスキー先輩のファンなんです!」

「あら! それでここまで来ちゃったの? 激感激よ」

「僕、逃げウマになろうと思ってて……マルゼンスキー先輩は逃げを使うことが多いですよね?」

「ええ、そうね。……やっぱり先頭が気持ちいいから」

 

一瞬、マルゼンスキー先輩は表情を曇らせたのを僕は見逃さなかった。

やっぱり、『結果的に逃げになってしまっている』というのは本当らしい。

 

「次の出走はどこになるんですか?」

「次はぁ、そうね、様子見でオープン戦になるのかしら? まだちょっと未定なの」

「え、でも、オープン戦じゃマルゼンスキー先輩に敵うウマ娘はいないんじゃ……」

「……そんなこといっちゃのんのんよ。ブラックトレイターちゃん。みんな一生懸命走ってその結果順位がつくの。敵う敵わないじゃないのよ」

「そう、ですね! ごめんなさい! マルゼンスキー先輩だったらもっと強い舞台に立てるのにって思っちゃって……」

「いいの。私は……楽しくレースできればいいから」

 

そう言って笑うマルゼンスキー先輩は痛々しかった。

 

「マルゼンスキー先輩は、勝つことが楽しいんですか?」

 

そう聞いたのはシービーだった。

その表情は真剣で、初めて見るものだった。

 

「……ええ、勝つことが楽しくない、嬉しくないウマ娘はいないわ」

「アタシはそうは思わない。勝つだけに出るレースなんてつまらない」

 

僕はシービーがクラシック路線に誘ってきた時のことを思い出す。

そうだ。

シービーならそうだろう。

そして、きっとマルゼンスキー先輩もだ。

 

マルゼンスキー先輩はため息を吐く。

 

「こんなに明け透けに言われたのは初めてね。確かにそうよ。私も激熱なレースをしたい。けど、それは叶わないの。初めて言われたわ、『タイムオーバーにしないなら一緒に走る』なんて」

 

それはいっそ残酷なほどの宣告だった。

マルゼンスキー先輩は強すぎて、ライバルどころか出走回避が多く、一緒に走るウマ娘すらいないのだ。

タイムオーバーにしないのなら走る、とは手加減してくれるなら一緒に走ると言っているのだ。

 

「外国に行くことも打診された。でも、私を育ててくれたトレーナーちゃんと一緒に走りたいの。それなら……私はどんなレースでも構わない」

 

もう、ライバルなんて望んでないの。

 

その言葉は消え入りそうな声だった。

だが、次の瞬間にはにっこりと笑う。

 

「今言ったことはオフレコよ? リギルに入っちゃったこと黙ってるから代わりに言わないでね?」

 

その言葉に僕とシービーは頷いた。

僕が聞きたい言葉を聞けたのだ。

僕はシービーの方へ向く。

シービーはその意図がわかったのか、頷いて、それじゃあ、と言いかける。

 

その瞬間、リギルのドアが開いた音がして全員が一斉にあいさつをした。

僕もシービーもとっさに声を上げる。

 

入ってきたのはスーツを着た、バリバリのキャリアウーマンと言った感じの女性だった。

シービーは小声で教えてくれる。

 

「リギルのトレーナー、東条ハナだよ」

 

「全員集まっているな? 準備もできているだろう。今日はチーム内での併走トレーニングだ。ジュニア、クラシック、シニアを混ぜての併走だ。ジュニア級は入ってすぐだろうが、胸を借りるつもりで走れ」

「はい!」

「よろしい。では今からターフへ」

 

僕は隙を見て離れようとするが、横のシービーがにやぁと笑みを浮かべる。

嫌な予感がする。

 

「よし、行こっか、ラック?」

「え? どこに?」

「どこってターフだよ」

「まさか」

「そのまさか」

 

逃げようとした瞬間、がしっと捕まれる。

くそ! この差しウマが! こんな時ばっかり速くなりやがって!

ずるずると引きずられるようにして僕はターフに向かうことになった。

 

マルゼンスキー先輩はあらあらと笑うだけだった。

 

 

 

練習用のターフはいくつかあるが、着いたターフはほぼリギルの貸し切りだった。

準備体操を入念に行う。

どうして、僕がこんな目にと思うと同時に新鮮な気持ちだった。

背中合わせになったシービーを伸ばしながら、言う。

 

「絶対、バレるってこれ」

「いいじゃーん。楽しそう……だし!」

「そうだけど、トレーナーに何言われるか……わかんない!」

「アタシはだいじょー……ぶ!」

「そっちはね! ふう、でも初めてかも」

「なにが?」

「誰かと練習するの。僕、専属だし」

「あ、確かに。アタシもだ」

「そこ! 私語は慎め!」

「「はい!」」

 

準備体操が終わったらアップが始まる。

体を温めるために並んで走る。

 

これだけで、このチームが強い理由がわかる。

一緒に練習する相手がいるというだけで、実力は上がっていく。

それは効率という点でも精神的な点でもだ。

 

僕たちは最後の抵抗として、髪型を変えている。

僕は普段ポニーテールにしている髪を流して、シービーが髪を結んでいる。

だが、バレるのも時間の問題だろう。

 

だけど、案外知らないウマ娘が混じっているなんて意識外にあるのものらしく、アップが終わる頃になってもバレなかった。

東条トレーナーは僕たちの足を注視しているのも理由の一つなのだろう。

厳しそうだけど、怪我しないように見張っている良いトレーナーだ。

 

チームもその期待に応えようとしているのか、一糸乱れぬ練習だ。

僕もシービーもそれを乱さないようにするのが大変だった。

 

「さあ、併走トレーニングを開始する! 順番に並べ! ジュニアは内枠、それ以外は外だ!」

 

東条トレーナーは声を張り上げる。

拡張機を使わないのはウマ娘の耳を慮ってのことなのだろうか。

 

それに従って、リギルのメンバーは並んでいく。

だけど、僕とシービーは気づいた。

 

マルゼンスキー先輩のところには誰も行かない。

ここでもマルゼンスキー先輩は一人なのか。

僕が歩き出すと、シービーも同時に歩き出していた。

 

「ね、トゥインクルシリーズ最強のウマ娘だってさ」

「じゃあ、倒したら僕が最強だ」

「アタシはラックの雪辱と一緒に最強まで登っちゃお!」

 

軽口をたたきながら、マルゼンスキー先輩のところに行く。

 

「マルゼンスキー先輩。併走トレーニング、お願いしてもいいですか?」

「あ、あら。いいの?」

「いいのって、トレーニングですよ? それとも、公式レースじゃないと不満ですか?」

「いいえ! そんなことないわ! いいわ、一緒に走りましょう!」

 

僕はドキドキするのを止められなかった。

格上と一緒に走る機会はたくさんあった。

だけど、このウマ娘はマルゼンスキー。

『最強』のウマ娘だ。

 

シービーも獰猛な笑みを浮かべている。

 

そして、僕たちの番が回ってくる。

マルゼンスキー先輩が外枠、シービーが中間で、僕が一番内側だ。

ゲートはないので、リギルのサブトレーナーの合図を待つ。

 

「ん? 今日は気合の入った子が……いや、待て、お前たち」

「スタート!!」

 

僕たちは一斉に走り出した。

 

スタートダッシュは得意だ。それだけなら、僕はシニアにも負けないだろう。

だが。

だが、次の瞬間には外枠に居たはずのマルゼンスキー先輩が目の前にいた。

 

「なっ!?」

 

異次元だ。

当たり前のように前にいる。

しかも、その走りにはまだ余裕がある。

 

だが、僕たちも負けてはいられない。

レースの数だけで言えば僕はここにいるウマ娘にも負けない。

ピッタリとマルゼンスキー先輩の後ろにつく。

それはシービーとレースをした時にされたテクニックだ。

こうすることによって、風を避け体力を温存することができるのだ。

 

だが、それを見たマルゼンスキー先輩はにやりと笑って、さらに加速した。

僕は突き放され、風を浴びる。

 

その瞬間、隣からシービーが飛びだした。

その加速力は以前のものとは違った。

ピッチ走法。

体力を削る代わりに加速力を得る走法だ。

すさまじい速度。

 

しかし、それでもマルゼンスキー先輩は強い。

 

それでも追い付けないのだ。

僕たちは自分の持てるすべてを吐き出す。

 

だが、それでもマルゼンスキー先輩の地力がそれらを上回る。

 

笑えるほどの強さだった。

泣けるほどの差だった。

だけど、それが面白い。

シービーの言う楽しいレースだ。

 

このスーパーカーは確かに最強だ。

だからこそ、僕は思う。

きっとシービーも同じだろう。

 

どうして、僕たちはもう少し早く生まれなかったのだろう。

どうして、マルゼンスキー先輩はもう少し遅く生まれなかったのだろう。

 

着差は5バ身だった。

 

併走トレーニングは本気だが、全力は出さない。

怪我をしてしまう可能性があるからだ。

だけど、僕たちは肩で息をするくらいには疲れていた。

上がった息をどうにか整えて、マルゼンスキー先輩に言う。

 

「せん、ぱい……!」

「エクセレントね! 久々に楽しかったかも! チョベリグよ!」

「もう、一本、お願いします……!」

「……! ええ、何本でも」

「許すわけなかろう」

 

あれだけ苦しかった呼吸が一瞬止まる。

 

ゆっくりとそちらを見れば、東条トレーナー、いや、鬼が立っていた。

 

「貴様ら、知っているぞ。ミスターシービーとブラックトレイターだな? 阿呆とバカの元でトレーニングしていると聞いていたが、一体、いつから、リギルに、入ったんだ?」

「これは……」

「いやぁ、ははは」

「正座だ!! 三女神像の前で説教だ!! 特にシービー!! 勧誘を蹴っておいてなんでいるんだ!!!」

「えーん」

 

僕たちは三女神像の前で行き来する生徒たちの目の前で説教を食らうことになった。

 




弱いのに強いキャラを倒すやつも、強いからこその苦悩を持つキャラも好きです。
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