ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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The High Road Begun

皐月賞。

クラシック三冠を決める最初のレース。

そして、僕が出れなかったレースでもある。

 

ルドルフは4月の半ばの皐月賞まで生徒会に帰ってくることはなかった。マルゼンスキーや東条トレーナーにこってり絞られたのだろう。

その間に生徒会は生徒が良く来るようになり、それなりの賑わいを見せていた。

ちなみに僕は髪型や化粧を変えホワイトローヤルとして生徒会にいる。

ブラックトレイターは生徒会を乗っ取ったが仕事が面倒で逃げているということにしている。

 

パドックでは去年では考えられないほど人が集まっていた。

僕とシービーとそのトレーナーたちはその中に紛れ込んでいた。

 

「いやぁ、トゥインクルシリーズも賑わってるねぇ」

「そろそろここも改築したほうがいいんじゃないかなぁ」

「確かに。アタシたち専用の場所作ってもらお!」

「シービーが言うと一つ二つくらいは実現出来ちゃいそうで怖いんだよね……」

 

シービーはURAでは特別な存在になりつつある。

シービーがわがままを言えば、URAは多少のことだったらかなえてくれるだろう。

何せ久しぶりの三冠ウマ娘だ。

かつ、激戦のレースを繰り広げ、巨悪を倒した大英雄様。

人気はとんでもないことになっている。

トレーナーが本当に欲しかったのはこういう人材だったんだろうなぁと時々思う。

 

ちなみにスピカの名前も有名になり、入部希望者が殺到したらしいが沖野トレーナーの指導に満足いかずに一人また一人と離れて行ってしまっているらしい。その実力は嘘ではない。嘘ではないのだが、いかんせん指導してくれてないと感じるウマ娘が多いらしい。

何人かは残っているが、シービーがいなくなったらどうなることやら。

 

そうこうしているとパドックが始まる。

ざわめいていた観客もしんと静まりパドックを見ている。

 

注目の一人はビゼンニシキちゃん。

やはり弥生賞まで無敗という戦績は無視できるものではなく、ビゼンニシキちゃんもルドルフしか見えていないほどに闘志をたぎらせている。

適正距離を考えるに皐月賞が勝つ有力なチャンスだから、ここで勝っておきたい様子。

 

そしてやっぱり一番人気はシンボリルドルフ。

シンボリ家の最高傑作にしてすでにシニア級をしのぐとされる実力者。

感謝祭で見せた走りは伊達ではなく無敗でここまで勝ち進んできた。もしかしたら無敗の三冠ウマ娘が誕生するかもしれないという期待がある。

ルドルフもビゼンニシキちゃんを意識しているようだ。

ルドルフがパドックにやってくると歓声が上がり、気絶しそうなほどの熱狂が上がる。

 

ルドルフは緑を基調にした軍服のようなデザインだ。だが、パンツスタイルではなくスカートとなっており、違和感がないのはデザイナーの優秀さがうかがえる。

そして、よく見れば僕が渡したネックレスをつけているようだ。内側にしまってあるようだが、ちらりと見えた。

勝負服に身を包んだルドルフは凛々しく、それでいて余裕のある笑みを薄っすらと浮かべている。

調子は絶好調らしい。

 

「皐月賞……この大きな舞台に立てたことを光栄に思う。それには自分だけではなく関係者の尽力があったからだと私は知っている。レースを前に言わせてほしい。ありがとう。この恩は結果で返そう。そして、私はすべてのウマ娘の指標になれるよう、邁進することを宣言する」

 

ルドルフらしい宣言だった。

ルドルフは実力だけではなく、精神的にも成熟し始めている。

 

僕たちはそれをキャッキャしながら見ていた。

 

「ねえ! ルドルフこっち見たよ! 僕を見たんだ!」

「違うよ! アタシを見たんだ! ほら、手を振ってる!」

「お前ら静かにしろ、どっちもバレたら周りがひっくり返るくらいの有名人なのを自覚しろよな……」

「それはそっちもでしょ、ミスタートレーナー?」

「ああ、お前のおかげでな。全く、ブラックトレイターのトレーナーの無口さを見習え」

「ありがとう、トレーナー。その強面があるから僕たちはこうして席を取れてるよ」

「……別にいい」

「いいの? お前ちょっとブラックトレイターに甘くなってないか?」

「甘くなってない」

「トレーニングは鬼畜そのものだよ!」

「鬼畜じゃない」

 

パドックも終わり、とうとうその時がやってくる。

 

『さあ、伝説の三冠ウマ娘のクラシック開始から1年、2度目の伝説が始まろうとしています皐月賞!』

 

天気は晴れ。

馬場も良い。

ルドルフは適度な緊張感に身をゆだねているようだった。

 

『一番はやいウマ娘が勝つと言われるこのレース、その王冠は三冠ウマ娘への挑戦権でもあります。人気上位のウマ娘を紹介しましょう! 3番人気はハートジャンボ、虎視眈々と狙っています。この人気は不満か、ビゼンニシキ2番人気。そして、やはり期待が寄せられている、シンボリ家の最高傑作、1番人気シンボリルドルフ! ――ゲートインが開始されます』

 

粛々とウマ娘たちがゲートに入っていく。

ルドルフも中ほどで入る。

 

『さあ、ゲートイン完了しました。――今、スタートです! おおっと、いきなりすうっと上がってきたのはこのウマ娘、シンボリルドルフ! 好スタートを切りました!』

 

ルドルフは余裕のある走りで展開をうかがっている。先行位置だ。

ルドルフのレース展開は質実剛健、堅実を走りにしたようなものだ。ミスは少なく、隙がない。だが、逆に少しでも隙を見せたらそこを突いてくる。単純なスペックが誰よりも高いからこそできる絶対に負けない戦術だと言えるだろう。

ルドルフを超えるにはルドルフ以上のスペックを持つか、誰も予想できないほどのトリックスターになるしかない。

 

歓声を受けながら正面の直線をウマ娘たちが走っていく。

その表情はすでに余裕がない。

完全にルドルフの空気に飲まれている。

2000mであるが、あれでは最後まで持つかわからない。

逆にルドルフは笑みこそ見せないが、余裕だ。

勝負になりそうなのはビゼンニシキちゃんくらいだろう。

 

『最初のコーナーがやってきます! シンボリルドルフはこの位置3番手!』

 

コーナーを曲がり切る。

ルドルフはここでは動かない。

周りを逐一確認し、位置の調整をしているようだった。

だが、周りはそれだけでさえも気圧され、スタミナが削られる。

 

皐月賞は2000m。

中距離でも長い方ではない。

だが、クラシック級のウマ娘がそれを走り切れるかは別だ。

皐月賞は他場よりもスタミナを消費するレースでもある。

向こう正面を越えて遠くからは確認できないが、すでにスタミナが切れかけている子もいた。

その中にはビゼンニシキちゃんもいた。

息を入れる必要がある。

じゃないと溜めた足も使えない。

 

『シンボリルドルフ4番手! 虎視眈々と狙っています!』

 

ルドルフはスキルを必要としない。

基本スペックが高いからだ。

だが、今のルドルフに慢心という文字はない。

シンザン会長を彷彿とさせるプレッシャーをかけていく。

特にビゼンニシキちゃんを意識して走っているようだ。

 

そして、第三コーナーに差し掛かる。

その瞬間、僕はルドルフの口が動くのが見えた。

この距離で聞こえるわけがないし、そう言った確証はないが僕にこう言ったように思えた。

 

『そろそろだな、勝ちに行こう』

 

絶望の時が始まる。

そして、それは同時にルドルフの栄光の始まりだった。

 

ルドルフが進出を開始した。

 

『シンボリルドルフ、すぅっと上がっていく、コーナーで先頭に立つ! そして、そのまま突き放すように速度を上げていく! 最初の栄光まで600m!』

 

正面の直線を一人で走る。

他のウマ娘は影さえ踏めない。

それでもビゼンニシキちゃんだけは食らいつく。

ギラギラとした目でルドルフを追う。

 

「シンボリ――ルドルフゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

ビゼンニシキちゃんが叫ぶ。

それでも、ルドルフは不気味なほどに油断しなかった。

 

ルドルフは一人でゴールを駆け抜けた。

 

『皐月賞1着はシンボリルドルフ! 4バ身の圧勝です! そして、これは皐月賞のレースレコードです!』

 

爆発したような歓声が上がる。

僕もシービーも声を上げてルドルフを祝福する。

 

ルドルフはゆっくりと全員が良く見える位置に移動する。

そして、ゆっくりと一本指を天に掲げる。

その意味を観客たちはすぐに理解した。

 

『まずは一つ目』

 

歴代最強の三冠ウマ娘の伝説の始まりだった。

 

 

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