ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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A new generations

「次はどのレースに出ればいい?」

「……お前は希望はないのか?」

「うーん、ジャパンカップに勝てればトレーナーの好きなようにしてくれていいよ」

「俺はお前の意見を聞きたいが……」

「でも、天皇賞春は出ちゃダメなんでしょ?」

「まだ調整もできていないからな。天皇賞春は長すぎる」

「ま、そうだよね」

 

僕はトレーニングの合間にトレーナーに聞いた。

トレーニングは再開され、いつも以上に扱かれている。だが、それは等速ストライドを完成させるための練習だ。

負荷がえぐいことになっているが、それでも強くなっているという実感があるので充実感がある。

 

走るレースは僕としては天皇賞は走りたかったが、そこは仕方がない。

春はモンスニーちゃんとの約束まで取っておこう。

 

「やっぱりG1狙いたいよねー」

「そうだな」

「そうなってくると、安田記念、帝王賞……後は、宝塚記念かな」

「ああ」

「トレーナーはどれがいい?」

「走れるようになったとはいえ、お前は芝の中距離が好ましい」

「そうなってくると宝塚記念?」

「そうだな。それがお前のためになる」

 

僕はトレーナーの顔を覗き込む。

 

「トレーナー?」

「なんだ」

「あのね、僕は目標は達成できたの。だから、トレーナーのために走るんだよ?」

「いや、ジャパンカップがあるだろう」

「何言ってるの。それはあるけど、ジャパンカップに勝てればそれでいいから。それ以外はトレーナーのために走るよ。だって、トレーナーはまだ自分の目標を達成できていないでしょ? だから、『僕が』じゃなくて、『トレーナーが』必要なレース選んで」

 

そう言うと、トレーナーは動きを止めて少し何かを考えているようだった。

だが、それもすぐに終わり、頷いた。

 

「そうだな」

「よろしい。で、僕はどのレースに出ればいいの?」

「宝塚記念。その前にステップレースとして一つ出よう」

「どのレース?」

「そうだな、京阪杯とかどうだ」

「おっけー、京阪杯ね。他のウマ娘はどうなるかな」

「有力なウマ娘は出ないだろうな。宝塚記念に続くウマ娘もいないだろう」

「そっか、じゃあ等速ストライドの確認かな」

「そうなる。そこで完成させる。そして、宝塚記念で最終確認だ。そうすればお前ひとりでやっていけるくらいの実力になる」

「なりませーん。トレーナー、僕だってこの等速ストライドが自分のためにはならないことはわかってるよ。だから、そんな気休めを言わなくてもいい」

「……そうか」

 

しかし、宝塚記念か。

ビッグレースだ。

記念がその年の総決算ならば、宝塚記念は上半期の総決算だ。勝ったウマ娘は上半期最強を名乗れると考えていいレースだ。

 

「宝塚記念は誰が出てくると思う?」

「そうだな……スズカコバンあたりか」

 

僕はそれを聞いて、思わず笑ってしまった。

そうか。

スズカコバンちゃんか。

なんて運がいいんだ。

スズカコバンちゃんには鳴尾記念の借りがある。

雪辱を果たして、ジャパンカップへの足掛かりにしよう。

 

 

 

「ラック、調子はどうだ?」

「レッドさん。悪くないよ。ただエネルギーの消費がえぐい。レッドさんが大食らいなのがわかるよ」

「そうか。良く食えよ。カロリーはいくらとってもいい」

「それはレッドさんだけだよ」

「そうか?」

 

練習には時々レッドさんが顔を出してくれる。

レッドさんは日本語が上手になった。

元々堪能ではあったけど、発音が良くなったのだ。

 

「ねえ、レッドさん」

「なんだ?」

「レッドさんにはライバルがいた?」

「いや? 全くいなかったな。わたしは無敵だった」

「すげー。誇張じゃないのがまじで」

「だろ」

「でも、ライバルはいいよ。一つの目標になってくれる」

「ふうん」

 

レッドさんは興味なさげに言う。

 

「興味ないんだ?」

「ないね。わたしがもう一人生まれたってなら別だけどな」

「……そういえば、レッドさんは現役時代なんで走ったの? ほら、前に僕に聞いたじゃん。レッドさんは?」

 

そう聞くと、レッドさんはポリポリと頭をかいた。

 

「わたしには姉さんがいたんだ」

「へえ、そうなんだ」

「ああ。で、小さい時は姉さんの方が優秀だって言われてな。で、わたしには居場所がなかった。だから奪うことにしたんだ」

「わお」

「で、奪うには奪ったんだが、どんどんとわたしの居場所を奪おうとするやつらが現れてな。そいつらを潰してたらこうなってた」

「ターフが居場所だったんだ」

「ダートもだ。だから、褒められた理由じゃねえな。夢もなにもねえから」

「いや、なんだかわかる気がする」

「そうか」

 

僕がゴールドシチーちゃんに言ったことだ。

もしかしたら、みんな同じ理由で戦っているのかもしれないな。

自分を証明しようと走っている。

 

「で、お前はそのライバルに勝てそうなのか?」

「どーだろう。やってみないとわからないかな。でも今度、スズカコバンちゃんっていうウマ娘と走るから、そこでは絶対勝つよ」

「そうか。シービーってやつは?」

「うーん、シービー実は軽い怪我しちゃってるんだよね。だから、戦うのは先になりそう。でも、ジャパンカップには出てくるよ」

「ふうん。一ついいことを教えてやろう」

「なに?」

「アメリカにはブリーダーズカップってのがある」

「うん」

「いろんなレースを一挙に扱い、それぞれの最強を決めるレースだ。そして、そこで力を示したものは賞金の高いレースに出てくることになる。だから、強豪がここに集まることになる。アメリカのウマ娘は、強いぞ」

「ふうん」

「なんだ、興味ないってのか?」

「いや、同じことだよ。僕はレッドさんが来ても勝つつもりで走る。だから、誰がどれだけ強いとかは研究するけど、強いからどうってことはないかな」

「ははは、なるほどな。……さっきはライバルに興味はないと言ったが、訂正しよう。お前のようなウマ娘がアメリカにも生まれていたら、違ったかもな」

「それは実力を認めてから言ってよね!」

 

ははは、とレッドさんは声をあげて笑った。

 

「だが、ラック」

「なにさ」

「レースでは一人で走ることになる」

「そりゃあそうだ」

「そこでは誰も助けてくれない。ライバルは元より敵だし、ファンも、そしてトレーナーも助けちゃくれない」

「わかってるよ」

「いいや、わかっていないさ。知っているか、神話の英雄たちは人生を決める戦いの時には、一人で戦わないといけないのさ」

「それはシービーに言ってよ。僕はヒールなんだから」

 

そういうと、レッドさんは同じことさと言った。

 

「そうだ、お前に言っておかなきゃいけないことがある」

「なに?」

「わたしはそろそろアメリカに帰る」

「そうなの?」

「ああ。もう少し先だが予定が早まるかもしれない」

「そっか、寂しくなるね」

「今度はお前が会いに来い」

「うん、わかった」

 

そうしていると、休憩時間が終わる。

トレーニングを再開しようとすると、大きな声がそれを遮った。

 

「「あの!」」

 

しかも二つだ。

そちらを向くと、タマモちゃんとゴールドシチーちゃんが立っていた。

二人も、お互いが声を上げたことを驚いているようで、顔を見合わせていた。

 

「なんや、ちょっと静かにしてくれへん? ウチ、この人に話があるんや」

「いや、アタシだってあるんだけど、横入りはそっちじゃない?」

「は?」

「あ?」

 

しかも急に喧嘩を始めてしまった。

え、何?

コントを披露しに来たの?

 

「おい、やかましいぞ。喧嘩なら他所でやれ」

「いや、こいつが……!」

「やかましいと言ったんだ。俺はトレーニングの最中だ。後にしろ」

 

そう言うと、ゴールドシチーちゃんは悔しそうに手を握りしめる。

逆にタマモちゃんはぽかんと口を開けた。

 

「姉ちゃん、猫かぶりもそこまで行くと見事やなぁ」

「あ」

「猫かぶり……?」

「あ、いや、ちゃうねん! ほら……り、理事長! 理事長の話や!」

「理事長がどうしたのさ。関係ない話しないでくれる?」

「ぐぬぬ……!」

「それよりも、話くらい聞いてほしいんだけど!」

「……はあ」

 

話を聞くのはいいんだけど、と思ってちらりと見たら案の定トレーナーがやってきていた。

 

「おい、どうした」

「こいつらが話があるんだと」

「何の話だ?」

「知らん。聞いてないからな」

 

そう言うと、タマモちゃんが声を上げる。

 

「あんちゃん、ブラックトレイター先輩のトレーナーか!?」

「……そうだが」

「頼みがあんねん!」

「……なんだ」

 

トレーナーが聞く姿勢を取ると、タマモちゃんはびしっと頭を下げる。

 

「ウチを……強くしてほしい!」

 

そして、その後を追うようにゴールドシチーちゃんも頭を下げる。

 

「あ、アタシも強くなりたいんです……!」

 

その様子にトレーナーは少し困惑気味な表情を浮かべる。

 

「強くなりたいならリギルに行くといい。スピカだっていい」

「リギルには落ちた! スピカじゃウチは強くなれへん!」

「俺たちの評判は知っているだろう」

「関係あらへん! ウチは強くなりたいんや!」

「……だがな」

「……たのみます! ウチは……日本一のウマ娘になりたいんや!」

 

その気迫にトレーナーも押し黙る。

これは俗に言う逆スカウトというものか。

顔を見るに、ゴールドシチーちゃんも同じような境遇らしい。

 

「なんでトレーナーなんだ? お前らはスカウトされなかったのか?」

 

選抜レースはもう始まっている。

この二人も走っているはずだ。

そう聞くと、二人は同じように顔をしかめる。

 

「……された」

「じゃあ、何故だ?」

「せやけど、ウチをスカウトしたトレーナーはウチを日本一にしてくれへん。重賞を勝たせてやるゆうて誘ってきたんや。ウチは……ウチはそんなとこじゃ終われへん! 勝ちたいんや! いろんなレースを勝って勝って勝ちまくって! 家族にウチはここでやってけるってことを教えてやりたいんや!」

「……そうか。で? なんで俺のトレーナーのところに?」

「それは……あんたや、ブラックトレイター」

「俺?」

「あんたは強い。ダービーウマ娘で、最強のミスターシービーと競い合える唯一のウマ娘や。だから、そのトレーナーの下で教われば強うなれると思ったんや」

 

うーん。

まあ、確かに。

トレーナーは強くしてくれる。

わかっていたことだが、トレーナーはすごく優秀だ。たぶん、中央のトレセン学園でも上位に入るくらいの実力者だ。

だが、ウマ娘で言うとトレーナーは気性難の部類だ。

相性がいいのであればいいんだけど……。

 

僕はタマモちゃんをじっくり見る。

うーん、相性が悪そうだなぁ。

性格もそうだが、タマモちゃんがトレーナーに求める技術があっていないように思える。

僕はタマモちゃんの頭をぽんぽんと叩く。

 

「お前、小さいな」

「な、なんや! 姉ちゃんも小さいとダメ言うんか!? 小さいと勝てへん言うんか!?」

「小さくても勝てる。俺は本格化前にマルゼンスキーに勝ってる」

 

平等なレースじゃないけどね。

 

「だが、お前、あんまり食べないだろ」

「う……せやけど……」

「お前の家は貧乏だったな。家族は?」

「両親と……兄弟が3人」

「お前、兄弟に分けてばっかりで食べてこなかったろ」

「それは……姉ちゃんもそうやろ! 聞いてるで、孤児院出身なんやろ!?」

「俺は食ってたぞ。そこらへんに生えてる雑草とかもだ」

 

そう言うとゴールドシチーちゃんはちょっと引いていた。

 

「お前に必要なのは、栄養面でサポートしてくれるトレーナーだ。俺のトレーナーはそこをしてくれるわけじゃない。いや、できるだろうがそういうことが得意なトレーナーを探すべきだな。食わなきゃトレーニングをしても意味ないからな」

「じ、じゃあ、アタシは!? アタシはそういうの必要ないから!」

「お前、そもそもモデルと両立させたいんだろ? 一番ダメだ。俺とこのトレーナーの評判を知らないとは言わせないぞ。レースだけしたいってなら別だがな」

 

そういうと、ゴールドシチーちゃんは押し黙った。

うん、僕としてもトレーナーの下で頑張れるならいいんだけど、そもそも彼女たちの目標には僕のトレーナーでは障害が多すぎる。

ため息を吐く。

 

「今一度聞こう。お前らの目標はなんだ」

「ウチは日本一のウマ娘になる。そんでもって、いろんなレースに出て、家族に楽させるんや」

「アタシは……実力だけで周りを認めさせたい。レースだってできるんだって証明したい。……アタシも、ウマ娘だから」

「……そうか」

 

僕は考える。

放っておくことはできない。

なら、僕にできることはあるだろうか。

 

……ある。

というか、今しかできない。

僕はまだ生徒会長だ。

ルドルフはダービー前に戻ってくると言っていた。

だから、今はまだ生徒会長の特権としてトレーナーを探すことができる。

 

それに問題があるかというと、ある。

そもそも生徒会長が特定のウマ娘のためにトレーナーを探してもいいのかという問題だ。

つまり、越権行為では、という話。

 

でも、僕は過去にシンザン会長に目の前の問題から片づけていくと宣言した。

それならそこを曲げてはならないだろう。

 

そう決意し、僕はこの日は二人を帰すことにした。

 

 

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