まじで助かります。
ありがとう。
さて。
この中央トレセン学園には優秀なトレーナーたちが集まっている。
ベテラントレーナーからエリート新人トレーナーまで。
その思想や動機も様々だ。
ウマ娘に夢を見た者、自分が優秀だと証明するためにウマ娘を育てる者、レースの賞金が目当ての者、単純にウマ娘が大好きすぎる者、トレーナーの家系の者。僕のトレーナーはその中でも特殊な部類だが……。
優秀が基準で集められているので、その考えまでは絞ることはできない。端的に言って、性格の悪いトレーナーはいる。
理事長たちはその問題に苦心しているようだが、すぐに解決できるものでもない。
僕は生徒会室でトレーナーの資料を閲覧していた。
グルーヴちゃんもいる。
「しかし、自分と合うトレーナーとはそんなに出会えないものなのか?」
「僕は誰でもいいからって言ったら今のトレーナーが釣れたよ。運命の出会いだったね」
「それを運命というには軽すぎる気がするが……」
「グルーヴちゃんはめぼしいトレーナーとかチームとか見つかった?」
そう聞くとグルーヴちゃんは少しだけ考えたようだったが、それでも迷いはない声で言った。
「私は、リギルがいい」
「へえ、理由を聞いても?」
「やはり、あの指導だな。私に合っていると思った。効率的なところが好ましい。メンバーが多いのもいい。経験を積めるからな」
「確かにグルーヴちゃんと合うのはリギルだよね」
というか、リギルはどんなウマ娘でもちゃんと強くしてくれるところだ。堅実にいきたいならリギルを選ぶべきだろう。
「だが……」
「うん? 何か不安でもあるの?」
「ああ。リギルの入部試験は難しいと聞く。私にできるだろうか」
そういうグルーヴちゃんに僕は笑ってしまった。
「笑うな! こっちは真剣なんだぞ!」
「いや、心配しなくてもいいよ。確かにリギルは才能あるウマ娘が集まるチームだけど、グルーヴちゃんはルドルフが見出したウマ娘だよ? それに……」
「それに?」
「あのルドルフに挑むウマ娘を東条トレーナーが見逃すはずないよ」
そういうと、グルーヴちゃんはむっつりとした。
それがおかしくてさらに笑ってしまった。
きっと、東条トレーナーとグルーヴちゃんは相性もいいだろう。
「で、そのタマモクロスとゴールドシチーのトレーナーは見つかりそうなのか?」
「うーん、微妙。やっぱり多いね」
「そうだな、三桁はいるからな。お前のトレーナーには頼れないのか?」
「ベテランのトレーナーならともかく、あの顔だよ? 新人トレーナーには避けられてるよ」
「……難儀だな」
「あはは」
とはいえ、難航しているのは事実。
タマモちゃんはともかく、ゴールドシチーちゃんは性格が合わないといけない。
思うに、ゴールドシチーちゃんはゴールドシチーちゃんを見れるトレーナーじゃないといけない。
外見じゃなく、中身を見てくれるトレーナーだ。
それを知るには直接会わないと。
「……行くか」
「行くってどこに?」
「選抜レース」
僕は資料を置いてターフに向かうことにした。
この時期のターフは色々とごちゃごちゃしている。
選抜レースはしているし、それを見るトレーナーと将来のライバルを見に来るウマ娘もいる。もちろん、タマモちゃんやゴールドシチーちゃんのようにトレーナーを探すウマ娘もいる。
ホワイトローヤルモードで来た僕はその中に紛れていた。
「選抜レースは初めて見るが、こうも混みあうものなのか」
「そうだよー。流石にレース中ははけるけど。トレーナーはみんなここにいるしね」
「東条トレーナーもか?」
「リギルだってスカウトはするよ? マルゼンスキーはスカウトだって聞いたし、ルドルフは……まあちょっと例外だけど、選抜レースを走った後に東条トレーナーに正式にスカウトされてたし」
「そうなのか」
「リギルじゃなくても興味のあるトレーナーを見つけたら粉かけておきな?」
「考えておこう」
しかし、ここまでくると探すものも探せないな。
直接来たのは失敗だったか?
……と思っていると、足に違和感が。
「な、なんていう筋肉の密度。ここまでくるともはや芸術だな。柔軟性も十分だ。怪我とは無縁の足! 垂涎ものだな。しかも、バランスもいい! ……君! 名前は!」
「なにやってんの、沖野トレーナー……」
「げ! ブラックト――」
「ホワイトローヤルです」
沖野トレーナーに足を触られていた。
しかも名前を呼ばれそうになったので、とっさに口を塞ぐ。
「ホワイトローヤルです」
そう繰り返すとコクコクと頷いたので解放してやる。
「あのね、言っておくけど、いつか死ぬよ?」
「いやぁ、丈夫さには自信があるんだ!」
「物理的じゃなくても、社会的に捕まるっつーの!」
尻尾でベシベシと叩いてやると沖野トレーナーはしょんぼりとする。
その一連の流れにグルーヴちゃんは唖然としている。
「なんだ、この不審者は……」
「あれ、知らない? この人はスピカのトレーナー。つまり、シービーのトレーナーさんだよ」
「よろしく」
「こ、こいつがか!?」
「うん。シービーとは相性悪くないし」
「何が幸いするのか、わからんな……」
「そんなに褒めるなよ」
「褒めてない!」
「……で、このウマ娘さんはどなた?」
「エアグルーヴちゃんだよ。カールちゃんの親戚。ルドルフが誘って先行入学してくれてるんだ。生徒会を手伝ってくれてる」
「そうなのか、ありがとうな」
「貴様に感謝される筋合いはない」
こめかみに青筋を浮かべながらそう言うグルーヴちゃん。
一見相性悪そうに思えるけど、意外といいかもと思った。
「で、なにをやってるんだ? お前はこんなところに来るようなウマ娘じゃないだろう?」
「トレーナーが見つからないって子がいたから僕が探しにきたんだ」
「ほー? どんな子だ? うちで面倒みようか?」
「無理だよ」
「なにぃ? うちはあのミスターシービーのいるチームだぞぉ!」
「だって、一回入ったって聞いたから」
「……そうですか……」
明らかに落ち込む沖野トレーナー。
「なんて子だ?」
「タマモクロスちゃんとゴールドシチーちゃん」
そういうと覚えていたのか「あー」と声を上げる。
「タマモクロスはここじゃ強くなれないって抜けたな。ゴールドシチーは……完全に性格の不一致だな」
「言い方がフラれた時の男なんだけど」
「同じようなもんさ……」
「ああそう……で、あの二人は沖野トレーナーから見てどうだった?」
「才能はある。特にタマモクロスは上手く育てれば大きなレースで勝つことだって容易だ」
「そんな子を逃がしたの?」
「だから落ち込んでるんだよ! シービーには笑われるし、ゴールドシチーは有名人だから抜けたことが知れ渡るし、チームの名声は地の底だ!」
「あはは!」
「笑うなぁ!」
うごごと頭を抱える沖野トレーナー。
「それで、聞きたいことがあるんだけど」
「……なんだ?」
「その二人に合いそうなトレーナーはいる?」
「どうだろうな……タマモクロスは志が合えばどこでもやっていけそうな気がするが……」
「ゴールドシチーちゃんは難しそう?」
「難しそうだな。トレーナーは色々な基準でウマ娘をみる。どこを重点的に考えるかはそれぞれだが、見た目を無視するというトレーナーは基本いない。正直、人気に直結するからな」
なんだ、ゴールドシチーちゃんの悩みをちゃんと見てるじゃんと思う。
だったらそれに気づけた沖野トレーナーが一番いいと思うのだが、確かに性格と指導方法という点で言えば合わないのだろう。
「そうなってくると、むしろ頑固な職人気質なトレーナーとかがいいのかなぁ」
「……それはそれで合わないと思うぞ。そういうトレーナーはレース以外にうつつを抜かすなって言うからな」
「確かに」
「となると……」
「余裕がない方が好ましいのかもな」
「あーそれは確かに」
余裕がないといえば新人トレーナーだ。
新人トレーナーはよほど傲慢でない限り、実力以外でウマ娘を見ない。というか見れない。そんな余裕がないからだ。だから、外見を重視する人は少ないはず。
まあ、ゴールドシチーちゃんに実力がある前提ではあるけど。
「新人かぁ」
「そうなるな」
「沖野トレーナーは新人だった時はどうやって担当スカウトしてたの?」
「俺か? ひたすら声をかけてたな。だけど、何の実績もないトレーナーだったからな。最初の数年は全然だった。あの時は家が大きかったおハナは羨ましかったな」
「やっぱり有名な家だとスカウトはうまくいくんだ?」
「ああ。ウマ娘も『有名な家のトレーナーに育てられた』って実績ができるからな。ほら、あのハッピーミークのトレーナーも一年目だったろ?」
「あー確かに」
ハッピーミークを担当している桐生院トレーナーは確かに新人だった。
ハッピーミークは同期なので桐生院トレーナーは今年で3年目になるが、それでもまだ新人だ。
桐生院家は代々トレーナーの家系で、なんでもそのノウハウが記された書物が家宝らしい。ここでは有名な話だ。
「沖野トレーナーは担当持てたのは何年目だったの?」
「確か……2年目。だけど、すぐに契約は解除されてな。ちゃんと通して持てたのは5年目だ」
「トレーナーの世界も過酷なんだね……」
「そんなもんさ。それが嫌だったらチームのサブトレーナーで実績を積むしかない」
「なるほどね……」
僕はそれを聞いてトレーナーが育たないのも問題だなと思った。
慢性的なトレーナー不足はそれが原因なんだろう。
とはいえ、ウマ娘としても実績のあるトレーナーについてもらいたいというのもわかる。
……まあ、このトレセン学園には実績はともかく実力のないトレーナーなどいないんだけども。
新人トレーナーは担当が付かない。
ウマ娘はチームやベテランは競争率が高いからトレーナーが付かない。
そして、どっちも相性という重要なファクターを無視しがちだから契約を結んでも長く続かない。
どうにかしたいな。
何かないか。
「……よし決めた!」
「お、何か案があるのか?」
「僕も選抜レースを開催する!」
「……今やってるが?」
「いや、僕の選抜レース!」
「いいのか、それ?」
「いーの、だって僕、生徒会長だから!」
「……生徒会長でも越権行為じゃ?」
「大丈夫、どうせすぐルドルフと交代するから!」
「やりたい放題だな……。で? 普通の選抜レースだと同じ結果になると思うが?」
「この選抜レースには、仮面をつけて走ってもらいます!」
「仮面?」
「そう! 名付けてマスカレードレース! もちろん、スカウトするトレーナーも仮面付けてね! むしろ、そっちの方が重要だから!」
「……なるほどな」
この選抜レース、大切なのは相性だ。
実績ではなく相性の合う相手を探すためのレース。もちろん、実力は大切だが、トレーナー側の実績は見れないという仕組み。
正直、ベテラントレーナーにはうまみがほぼないので長く続かないだろうけど、この一回で新人トレーナーにも担当を見つけられればちょっとはトレーナー不足も改善されるだろう。そして、それはウマ娘にも還元される。
「そうと決まれば行くよ、沖野トレーナー! グルーヴちゃん!」
「……はあ、わかったよ」
「え、俺も?」
「相性が合わなくて困ってるのスピカだからね! 協力して!」
「確かにそうだな、わかったよ」
すたこらさっさと僕たちは理事長室へ向かうことにした。
めんことかかっこいいですよね。
特にその馬のトレードマークとかになってると。