ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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Racing for the sake of racing

「こんにちは!」

「歓迎! 生徒会長として話があると聞いたが、何か問題が起きたのか?」

 

理事長はすぐに歓迎してくれた。

たづなさんも居り、何か問題を起こしたらすぐに捕まえるという殺気を感じる。

こわい。

たづなさんは普通に優しいのだが、理事長がウマ娘に結構甘い部分もあるので、問題児には結構厳しく接する。まさに飴と鞭だ。

しかも、現役の実力が上位の僕ですらすぐに捕まる瞬発力をもっている彼女から逃げるのは至難の業。

ちらちらと警戒しながら僕は話をする。

 

すると、理事長は好意的な反応をくれる。

 

「確かに新人トレーナーの実績が育たないのは由々しき事態だった。相性が合わずにトレーナーを離れるというウマ娘も多いと聞く。面白い試みだ」

 

しかし、そこにすかさずたづなさんが待ったをかける。

 

「しかし、問題もあります」

「ふむ、聞こう」

「そもそも、このレースにはベテラントレーナーさんたちにうまみがありません。ベテラントレーナーさんは参加しないでしょう。なので、ベテラントレーナーさんとの出会いを期待して来るウマ娘さんを騙すことになってしまうのではないでしょうか?」

「……確かに、騙すのはよくないな」

 

僕はそこでちょっとした反論をする。

 

「僕もそれは思います。だけど、実績があるトレーナーが参加すればいいんですよね?」

 

そう言って、沖野トレーナーを指す。

 

「三冠ウマ娘を育てたチームスピカのトレーナーは参加してくださるそうです。なので、そこの問題は緩和できるかと」

 

沖野トレーナーはとんでもない実績を持っているトレーナーだ。

なにせ、日本の三冠ウマ娘は3人しかいない。つまり、三冠ウマ娘を育てたトレーナーも日本史上3人だけだ。

これ以上ないほどの人材だろう。

そう言うと、理事長は少し考えた後に、扇子をバッと開いた。

そこには『賛成』と書かれていた。

 

「許可! それならば言うことはない! ただし、できる限りでいい。君の知るトレーナーを集めておいてほしい!」

「わかりました」

 

許可が出た。

良かったと胸をなでおろす。

だが、たづなさんは少し心配そうに言う。

 

「あまり無理しないでくださいね。トレーニングも再開していると聞きました」

「大丈夫ですよ。すぐにルドルフが戻って来るので。それにトレーニングはみんなしてますから」

 

そう言っても気分は晴れないようだった。

だが、それ以上何かを言ってくるようなことはなかった。

 

こうして僕はレースを開催することになったのだった。

 

 

 

レースは大々的に開催することを広めた。

こういう時に生徒会という立場は便利だ。ホワイトローヤルモードで校内放送をすれば一発だ。掲示板にも貼り付けた。

グルーヴちゃんも意欲的に働いてくれている。仕事を増やしたようなものだが、それを嫌がるようなことはなかった。

ただ、「私とて、ラックや会長のような思想には共感するところがある。特にここの生徒と触れ合うようになってからは。零れ落ちる生徒が少ないに越したことはない」と言ってくれた。

健気過ぎて抱きしめた。

全力拒否された。

しょぼくれた。

 

さて、マスカレードレースは結構な人数が集まった。

参加条件はまだトレーナーがいないウマ娘だが、この時期には決まっていないウマ娘も多い。スカウトされたが迷っているというウマ娘もいる。

それは逆も然りでトレーナーもそうだ。

特に新人トレーナーは大半が契約できていない。

そして、これは意外なことだったが、ベテラントレーナーも参加してくれた。

能力はもちろんだが、相性というのは意外と重要視しているようだった。

そして、なんと東条トレーナーや南坂トレーナーも参加してくれた。

なんでも、新しい試みを否定しているようでは次に進めないからとのこと。とんでもなく真面目だ。

 

トレーナーたちには自分の強みと目標だけを書いてもらって、それがわかるようにしてもらっている。

もちろん、実績とかはなしで。

 

マスカレードレースを開催することをタマモちゃんとゴールドシチーちゃんに言ったら目を白黒させながらも参加するということを言ってくれた。

これで参加しないって言われたらどうしようかと思ったけど、杞憂だったようだ。

ほっとしている僕を見て、グルーヴちゃんはあきれ果てたような顔をしていた。

 

「なんで先に言っておかないんだ。参加しないと言われたらどうするつもりだったんだ」

「まあ、勇み足だったのは否めないけど、他のウマ娘やトレーナーにとっても悪くない試みじゃない? タマモちゃんたちが参加しなかったとしても開催して損はないよ」

「……はあ、ラックは自分で仕事を増やすタイプだな」

「えへへ」

 

さて、このレース、実は主催者を明言しているわけではない。

ブラックトレイター主催と言うと人が集まらないからだ。

ただ、このレースは理事長の監修のもと行われていることだけは公言してある。

もし、うまく行ったらルドルフが主催だったということにしようと思っている。

なので僕とグルーヴちゃんも仮面をつけて、素顔を隠している。

特に僕は入念に仮装しており、髪を隠し厚底ブーツを履いている。

 

「そろそろだ」

「おっけー。う゛う゛んっ! あ、あーあー。『調子は最高だ、さあ行こう』」

「こ、声まで変えられるのか」

「『ああ、エアグルーヴ。どうかな、徹夜して考えたギャグなんだが』」

「やめろ! 会長みたいな声で変なことを言うな! ……本当に多彩だな。レース以外でも食べていけそうだ」

「まあね。僕はちょっと特別だから。後でルドルフが言わないようなこと言ってあげようか?」

「………………そんな誘いに乗るとでも?」

「そう言うにはラグがありすぎませんかね……」

 

前世と今世という二つの体の感覚を知っている僕だからできる芸当だ。

ただ、まあ、ルドルフに寄せすぎると失敗した時によくないので、ちょっと似ているくらいで行こう。

 

ターフ前の実況席に来ると、集まっているウマ娘やトレーナーたちがよく見えた。

みんな一様に仮面をつけている。

気合が入っている子なんておそらく手作りだろう豪華な仮面を被っていた。

 

『やあ、今日は集まってくれてありがとう』

 

そう言うと、視線がこちらに集まる。

 

『今回のレースはトレーナーとまだ契約をしていないウマ娘とまだスカウトをしている最中のトレーナー限定のイベントだ。特殊な選抜レースだと思ってくれていい』

 

概要を説明するが、特にものが飛んでくることもなく進行する。

なんだか新鮮だ。

 

『スピカやリギルなどのトレーナーが来ているということを聞いているウマ娘も多いはずだ。それは本当のことだ。だが、そのトレーナーを探すことはやめてほしい。何故なら、このレースは名前と実績ではなく、実力と思想によるマッチングのためのレースだからだ』

 

そう言うと少しざわめくが、反対もされない。

仮面をつけさせられている時点でそういう意図があるのだろうとみんなわかっていたのだろう。

 

『どんな考えを持ち、どんな夢を見て、どんな目標を掲げているのか。性格の相性もあるだろう。今回はそれだけを以てレースとスカウトをしてほしい。レースが終わったら話し合いの時間もしっかりと取る。そこで見極めてほしい。もちろん、逆スカウトだってしてもいい。新人もベテランも関係なく頼むよ。それでは、マスカレードレーススタートだ』

 

その宣言をすると、アナウンス係のグルーヴちゃんが進行してくれる。

生徒会にお花の話をしに来てくれていたウマ娘さんたちも今回は手伝ってくれている。こういうイベントが好みらしい。

 

さて、レースが始まると、僕は正体がバレないようにもう一つある放送室で出走表を確認しながらレースを眺める。

僕たち主催者側には誰が出ているのかはわかっている。流石にそこまで匿名にしてしまうと進行に支障が出るからだ。

 

名前を見ながらレースを確認していると、意外な効果があることに気づいた。

聞いていたレースの順位や実力と大きく変わっているウマ娘が多いのだ。

僕はそれに気づき、普通の選抜レースの録画を少しだけ再生してみる。

そして、その原因に気づいた。

 

おそらくあがっていたウマ娘が仮面があることによって緊張が緩和されているのだ。

つまり、リラックスしてレースに臨めているということだ。

本番と違いすぎるという反省点ではあるが、逆に本来の実力を見れるという利点でもある。意外な効果だった。

タマモちゃんやゴールドシチーちゃんもその中の一人だった。

意外、と言ったが、考えてみれば競馬でも同じようなことしていたなと思った。

 

これからの僕の仕事はない。

ただ、レースを眺めているだけだ。

 

そうしていると、バンとドアが開いた。

そちらを向くと紙でできた仮面をくっつけたウマ娘が立っていた。

 

「またアタシ抜きで楽しいことしてる!」

「シービー……」

 

シービーだった。

 

「君抜きというが、これは形を変えた選抜レースだぞ? スピカが嫌になったか?」

「でも、別にこれ、選抜レースだけでやらなくてもいいでしょ? 絶対楽しいからシニアクラシックでもやろうよ!」

「うーん……」

 

それ、なんの建前でやるんだ。

いや、楽しいだろうけど……。

 

と考えた時に僕はちょっと思った。

これ、シービー僕に気づいてるのか?

声も姿も背格好も違う。

ワンチャンルドルフと勘違いしてないか?

 

「いいでしょラック!」

「あはい」

 

普通にバレてた。

 

「……なんで僕だってわかったの?」

「こんなに楽しそうなことラックじゃないとしないし」

「ルドルフだってこういうこと思いつくよ?」

「ルドルフは自分が楽しいと思ったことをやろうとは思わないもーん」

 

言い得て妙なことを言うなぁ。

確かにルドルフは自分に一番厳しい。自分が少しでも楽しいと思ったことは行うべきかどうか他のことよりも厳しく審査するタイプだ。

まあでも、確かにマルゼンスキーやルドルフも楽しめるイベントでもあるな。

 

「……シービー」

「なに?」

「暇なの?」

「暇だよ」

「そっか」

「そうだよ」

 

そういうことらしい。

 

「怪我は? 大丈夫なの?」

「大丈夫。全然。走ろ?」

「ダメでーす! あなたのトレーナーはあそこでウマ娘の足を物色しているので許可がないとダメです!」

「えーん」

「まあまあ。ここはひとつ未来のライバルたちを見ていようじゃないか」

「ライバルねぇ。めぼしい子はいた?」

「タマモクロスって子とゴールドシチーって子。前は緊張してたみたいで実力発揮できてなかったみたい」

「ふうん。他は?」

「……シリウスかな」

「へえ。……まだトレーナー付いてなかったんだ?」

「うん。あ、いや、今付いたみたい」

「え?」

「ほら、あそこ。女性のトレーナーを口説き落としてる」

「ああ……。あれ、アタシのトレーナーは?」

「……さあ?」

 

いつの間にか沖野トレーナーは消えていた。

……トイレかな?

そうこうしていると、レースも終わりトークタイムも終わる。残っているのはただ駄弁っているだけのトレーナーやウマ娘たちだ。それでも大体は残っているけど。

 

全てのスケジュールが終わったのを見届けた僕は立ち上がってシービーに言う。

 

「じゃあ、トレーナー探して走る許可取って来な。許可取れなかったらダメだからね」

「え? ……え!」

 

キラキラとした目で僕を見るシービー。

僕はかつらを取る。

 

「人が集まるかはわからないからね?」

「うん! 行ってくる!」

 

シービーはそのまま放送室を出て行く。

僕は校内放送のスイッチをオンにする。

 

『よう。俺抜きでずいぶん楽しんでいるみたいじゃねえか』

 

ここはターフが良く見える場所にある部屋だ。

だから、ターフにいる人たちの視線が集まる。

 

『面白い催し物だ。俺がいないということを抜けばな。これより、この選抜レースは俺がジャックする! 校内に残っている生徒は仮面をつけてターフに集合しろ。仮面はなんでもいい。階級混合マスカレードレースを開催する!』

 

その宣言にざわめきが起こる。

僕はそれを無視して今決めたルールを説明する。

 

『参加資格は仮面の所持! 勝者が仮面をはぎ取る勝ち抜き戦だ! 勝って初めて負けたやつのツラを拝めるぞ! 距離はダート、芝の2000mの2つのみ! 自分が最強だと思うウマ娘は仮面を付けろ!』

 

今度はシンと静まり返るターフ。

だが、すぐに活気が戻ってくる。

校舎から色々な形で顔を隠したウマ娘たちが出てきたからだ。

ウマ娘は祭り好きなのだ。

 

『参加しないやつは雑用だ! 精々応援してるんだな!』

 

そう言って放送を切る。

すると、グルーヴちゃんと生徒会を手伝ってくれているお姉さま方が部屋にやってくる。

 

「何をしている貴様!」

「おう、来たか。参加したいやつはいるか?」

「質問に答えろ! 選抜レースだぞ!?」

「選抜レースは終わった。話し合いの時間もな」

 

そう言うと、グルーヴちゃんは目頭を押さえる。

 

「全く貴様は……」

「文句は聞かねえ。そこのお前ら、運営をしろ。ルール上特にやることはねえが、放送は必要だ」

「どうして私たちがそんなことを……」

「もし、大人しく従うって言うんだったら、シンボリルドルフに生徒会長の席を返してもいいぜ? そろそろ飽きてきた頃合いだ。仕事ばっかの席はいらねえ」

 

お姉さま方は顔を見合わせて、頷き合った。

どうやらやってくれるようだ。

僕はグルーヴちゃんの顎を上げて言う。

 

「俺のマスクを用意しろ」

「……私のを使え。これでいいだろう?」

「ダメだ。聞いてなかったのか? 参加資格はマスクだけ。学年も、ウマ娘かどうかすら関係ないぜ? 走らないのか?」

「……用意しよう」

「いい子だ」

 

 

 

こうして選抜ではないマスカレードレースが開催された。

そして、このレースは異様な盛り上がりを見せることになる。

 

僕、グルーヴちゃん、シービー、マルゼンスキーにルドルフも参加した。

僕はマルゼンスキーに、グルーヴちゃんはルドルフに、ルドルフはシービーに敗北していた。

そして、マルゼンスキーとシービーは謎のお姉さんウマ娘に優勝をかっさらわれていた。

シービーは全然本調子じゃないしマルゼンスキーは連戦で疲れていたようだが、まさか負けるとは思っていなかった。

 

……誰だったんだ、あのバカみたいに強いウマ娘は。

でも、どこかであの走り方を見たことがあるんだよね……。

緑の帽子が記憶にちらついたが、結局謎のウマ娘の正体はわからずにマスカレードレースが終了した。

 

この謎の最強ウマ娘はこの学園の七不思議のひとつになった。

 

ちなみに、覚悟していたたづなさんのお説教はほんの少しだけですんだ。

なにかいいことでもあったのかな?

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