ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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マスカレードレースは意外と上手く行った。

新人トレーナーや燻ぶっていたウマ娘たちは相性のいい相手と契約を結べたという話を聞いた。

理事長も「何度もやるわけにはいかないが、年に1回はやっていきたいな」と言っていた。

 

さて、タマモちゃんとゴールドシチーちゃんは契約出来ただろうか。

僕はそれが心配で少し様子を見に行くことにした

 

タマモちゃんの教室に行くと、そこに姿はなくクラスメイトに話を聞いたら食堂に行ったと言う。

食堂? と思いながらもそこに行くとタマモちゃんは端っこの方でちょこんと座っていた。

 

「タマモちゃん」

「ん? 姉ちゃんか。どないしたん?」

「トレーナーは見つかった?」

「おお! それな! 聞いてや、見つかったで!」

「ほんと!? どんな人!?」

「今来るから紹介するわ。ちょっと待ってえな」

 

そう言ってタマモちゃんは席を勧めてくる。

僕はその言葉に甘えて座る。

 

「よかったねぇ。ちょっと心配だったんだ」

「まあなぁ。ウチもちょい焦ってたわ。せやけど、ちゃんと話せばウチの話を聞いてくれる人はおったんやな。ごめんな、強引に行ったりして」

「いいよ。たんと迷惑かけなさい」

「ありがとな、入学前から世話になりっぱなしや。いつかちゃーんと礼はするからな!」

「いいよ。でも、そうだなぁ。お礼なら元気に走ってくれればそれでいいから」

「なんやひかえめやなぁ。でも、そうやな。それなら任せとき!」

 

タマモちゃんはそう言って笑った。

しばらく雑談していると、女性がやってきた。

 

「タマちゃん、お友達?」

「おートレーナー! 来た来た! 姉ちゃん紹介するで、ウチのトレーナーや」

「小宮山勝美です、よろしくお願いします」

「ああ、どうも。ホワイト……」

「姉ちゃん」

「ん? なに?」

 

自己紹介を遮られ、首を傾げるとタマモちゃんは少しもじもじしながらも言う。

 

「ウチ、トレーナーには嘘吐きたくないんよ」

「……あー。でも、怖がらせちゃうよ?」

「ウチのトレーナーはそれを知っても逃げたりせぇへんし、言いふらしたりもせぇへん」

「うーん、わかった。じゃあいいよ」

 

僕は周りを見て話が聞こえないことを確認する。

そして、髪を結んで、制服を着崩して足を組む。

不遜な態度で見下すように言う。

 

「初めまして、ブラックトレイターだ。よろしくな」

 

そう言うと、ピシリと小宮山トレーナーが固まる。

そして、ギギギとタマモちゃんを見る。

 

「た、タマちゃん……?」

「こういうことやねん、トレーナー」

「ど、どういうこと!? だめよ、タマちゃん! こんなウマ娘と友達になっちゃ! 不良になっちゃうわ!」

「おかんかいな。別に不良なんかになったりせぇへんて。とりあえず座ろ」

「な、納得できる話をしなさいよね!」

「おかんかて。ちゃんと説明するて」

 

このトレーナー、結構いい度胸してるな……。

一生徒とはいえ、権力持ってる悪人を前にそういうこと言えるとは……。

 

「実はめっちゃええ人やねんで、姉ちゃんは」

「だ、騙されちゃだめよタマちゃん! このウマ娘は極悪非道で冷酷無比! 最低最悪のとんでもウマ娘なんだから!」

「おい」

「すみません!」

 

いや、こっちこそごめん。

そんな怯えた顔してこっち見ないで。

タマモちゃんもそんな目で見ないでって。

もうロールプレイしないから。

 

「そもそも、ウチがここに来れたのも姉ちゃんのおかげなんやで?」

「どういうこと……?」

「家が貧乏だって言ったやろ? その時に姉ちゃんに特待生制度を教えてもらったんや」

「教えただけだけど」

「それでもや。それに姉ちゃんが走ろうって言ってくれんかったらウチはあのまんまだったかもしれん」

「……でも、ブラックトレイターは悪いことしてきたのには変わりがないわ」

「かもな。だから、姉ちゃんどうしてあんなことをしてきたんか説明してほしい」

「うーん、説明かぁ。僕の目的ってトゥインクルシリーズを盛り上げることだったんだ」

「盛り上げる?」

「そう。お金がないせいで貧乏なウマ娘はレースに出れないし、実力のあるウマ娘だって、レース以外のしがらみで涙を飲むことがある。僕はそれが嫌だったんだ」

「それがなんで悪いことをするのにつながるんや?」

「まあ、悪役をすることになったのは流れだけど、やっぱりヒールがいる方が盛り上がるでしょう?」

「……呆れた姉ちゃんやなぁ。で?」

「悪いことをしてた……ように印象操作してた? 的な?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ、今生徒会を乗っ取ってるのは!?」

「生徒会長のルドルフが無理して仕事してたから代理。そもそも、悪いことしてたら理事長が許さないよ。仕事もしてるし、感謝祭も頑張ったよ!」

「じ、じゃあ、デビュー戦は!?」

「あー懐かしいの出してくるね」

「なんや、デビュー戦て」

「ブラックトレイターはわざと接触したの! でも、その相手が降着になって、URAの決定だからって……」

「一緒に走ってた子が限界以上に走っちゃって、ぬかるんだ足元で転びそうになったんだ。で、バランスを取ろうとしてこっちに来ちゃったんだけど、そのままだと転んじゃうから、支えたんだ」

 

説明すると、タマモちゃんは「やっぱ姉ちゃんは姉ちゃんやな」と笑った。

小宮山トレーナーは愕然としているようだった。

 

「このこと、言っちゃだめだからね?」

「言っても信じてもらえないよ……」

「それはそうかも」

 

しかし、警戒心は解かれないようだ。

僕が騙してるかもという猜疑心は拭い去れない。

まあ、それは仕方のないことだ。

 

「で、なんでタマモちゃんはここで待ち合わせしてたの?」

「うんとな、トレーナーがお弁当作ってきてくれるって言うてくれてん」

「お弁当?」

「せや。姉ちゃん言ってたやろ。ちゃんと食べないと走れへんて。ウチは少食や。それを話したら作ってきてくれるってな」

「へえ! 良かったね!」

 

思った以上に相性のいいトレーナーと契約を結べたようだった。

これには僕も嬉しくなってしまう。

 

「じゃあ、これからそれを?」

「せや」

「そっかー! 良かった良かった!」

 

それを知れたのなら僕はもう用はない。

 

「じゃあ、僕はお邪魔だね。そろそろ行くよ」

「ええんか? ウチはいてもええで?」

「いいのいいの。せっかく親睦を深めるって時に水差しちゃうことになるし」

「そか。ほな、またなー」

「うん。また」

 

席を立った僕はゴールドシチーちゃんのところに行くことにした。

 

 

 

しかし、案の定というかなんというか、教室にはゴールドシチーちゃんもいなかった。

どうやら今日はモデルの撮影らしい。近くで撮っているから、そろそろ終わるんじゃないかとのこと。

邪魔しちゃ悪いと思いつつ、興味をそそられた僕は遠目から見てみることにした。

 

だが、その場に行くと大声が聞こえてきた。

裏路地の方らしい。

まあ、ゴールドシチーちゃんは目立つから人目に付かない場所にいるのだろう。

……大声出してるけど。

 

「だから! それは仕方のないことでしょう!? あなたは、『ゴールドシチー』なんだから!」

「そんな……! アタシは……!」

 

どうやら修羅場に来てしまったらしい。

ゴールドシチーちゃんとスーツを着た女性がにらみ合っている。

悲壮感溢れるシーンだ。

見るに女性はゴールドシチーちゃんのマネージャーか何かだろう。

他には男性も立っている。

その胸元にはトレーナーバッジがついている。

どうやら、見たところ新人だがゴールドシチーちゃんもトレーナーを見つけられたらしい。

 

「アタシは……空っぽのお人形じゃない……! どうしてわかってくれないの!?」

「あなたのことを想ってるのよ、シチー。どこへ行ってもモデルのゴールドシチーというフィルターは消せないの。傷つくだけなのよ? だから、レースは辞めましょう?」

「嫌だ、アタシは……自分を証明したいの! 見た目だけじゃないアタシを!」

 

その言葉を聞いて、トレーナーが声を上げる。

 

「マネージャーさん。どうしても認めてくれませんか?」

「……シチーが傷つくのは、許せないの」

「そんなの、アタシの勝手じゃん!」

「それで怪我でもしたら、モデルもできなくなるのよ! あなたには才能があるのよ、容姿っていう才能が!」

 

ゴールドシチーちゃんが言い返すよりも先にトレーナーが言う。

 

「なら、レースの才能だってある!」

「トレーナー……」

「俺は、ゴールドシチーの走りに惚れたんだ! 容姿も関係ないレースで、その走りだけに惚れた! シチーはモデルだけじゃない、それを証明できる!」

 

それは新人トレーナーだから言えたことかもしれない。

熱くトレーナーは語る。

 

「最初は驚いた。スカウトしてみれば出てきた顔が綺麗だったんだから。でも、俺には関係なかった。あの走りをするウマ娘だったからスカウトした」

「……それはあなただけでしょう? 顔を隠してレースに出ることはできない。ずっと、シチーはモデルのシチーとして見られるの。だから、辛いかもしれないけど、諦めた方がこの子のためなの!」

「違う! おねがいだ、一度でいい! この子をただのゴールドシチーとして見てほしい。そうすれば、きっとあなたにもわかる。それがこの子のためにならないことが!」

「だから、あなたやわたしは関係ないって言ってるの!」

 

どう考えても平行線だった。

お互いにはお互いの譲れないものがあるのだろう。

ゴールドシチーちゃんが築き上げた地位は今となっては大きな壁となってしまっている。

僕にはそのすべてがわからないけど、それによってゴールドシチーちゃんが苦しんでいることだけはわかった。

 

「じゃあ、どっちかを選んでもらおう」

「え? きゃっ!」

 

僕はゴールドシチーちゃんの後ろから近づいてその手と顔を掴み上げる。

荒療治だが、手っ取り早く行こう。

 

「お、お前はブラックトレイター!?」

「え!?」

 

トレーナーが僕に反応する。

 

「よう。きゃんきゃんと耳障りに楽しそうなことをしてるじゃねえか。俺も遊びに交ぜてくれよ」

「し、シチーを放せ!」

「ダメだね」

「……何が目的だ!」

「話がわかる男は嫌いじゃないぜ。どうやらお前ら、こいつの将来で言い合ってるみたいじゃねえか。モデルか、レースか」

「あ、アタシは、どっちもやるって……!」

「お前には聞いてねえ。俺がどっちかを諦めさせてやるよ」

「な、なにをする気……?」

「顔か、足か……どっちかを壊す。それならどっちかに進むしかないだろう?」

「な……! そんなことをして、ただで済むはずがないぞ!?」

「事故だよ事故。たまたまここにあったデカいゴミ入れの箱がゴールドシチーに当たった。そして、顔か足が怪我をするだけだ。大丈夫、綺麗に壊してやるから支障はねえさ」

 

その言葉にマネージャーもトレーナーも動揺する。

もちろん、トレーナーの言う通りそんなことをすれば僕もただじゃ済まないのだが、二人は動揺のあまりそれに気づかない。

なによりも僕の悪評がそれに気づかせない。

こいつならやりかねないと感じているのだろう。

 

「そうだなぁ、選んでいいぞ? お前ら二人が話し合って決めていい。だが、もしモデルを選ぶならお前はマネージャーを降りてもらう。逆にレースを選ぶならお前はトレーナーを降りてもらう」

 

僕は無茶苦茶な要求をする。

 

「もちろん、誓約書……いや、辞表も書いてもらうぜ。さあ、どうする?」

 

そういうと、ゴールドシチーちゃんが抵抗するが、僕の筋力には敵わない。

 

「大人しくしろ。別に俺はお前じゃなくてもいいんだぜ」

 

小声でそう言うと、顔を青ざめて抵抗をやめる。

それは目の前の二人もそうだ。

体が震えている。

だが、僕は容赦をする気はない。

二人を威圧しながらゴールドシチーちゃんを揺らす。

 

「さあ、決めな」

「わ、私は――」

「ブラックトレイター!」

 

マネージャーが何かを言おうとしたのを遮って、トレーナーが叫ぶ。

 

「俺は……トレーナーをやめていい!」

「ほう? じゃあ、レースを選ぶのか?」

「違う。俺は……ゴールドシチーだけじゃない、トレーナーという職を辞める。もう、ここには戻ってこない。それでお前の溜飲が下がるって言うんだったら、そうする。だから! ……だから、シチーからモデルも、レースも奪わないでくれないか」

「へえ。お前はなんなんだ? こいつに会って数週間もしてないだろう? どうしてそこまでする?」

「俺は……俺はトレーナーだ! ゴールドシチーの、トレーナーだ! シチーのためならなんだってする。だって、俺はシチーの走りに惚れたんだから。シチー以外には考えられない」

 

それは覚悟を決めた男の顔だった。

僕は顎でトレーナーの鞄を指すとその意図がわかったのか、紙を一枚取り出してそこにトレーナーを辞める旨を書く。拇印もする。

それを僕が持っていけばこのトレーナーはトレーナーじゃなくなるだろう。

書き終わったそれをトレーナーは投げて渡してくる。

足元に来たそれを確認する。

正式な書類などわかるわけもない。だが、文面を誤魔化しなどはしていないことはわかった。

 

「いいだろう。で、そこの女はこいつがレースをすることを認めるのか? まだモデルに専念しろって言うのか?」

「……いいえ。そんなことは、言わないわ」

「じゃあ、お前も書くんだな」

「……わかったわ」

 

マネージャーもまた紙に書いて投げて渡す。

ゴールドシチーのレースを認める旨が書かれている。

それを読んで僕は頷く。

 

「――ごめんなさい、シチー、トレーナーさん。私はあなたたちの覚悟も知らずに押し付けてた。そうよね、そうだったわ。シチーはだからシチーなんだもんね」

 

そう言ってマネージャーは涙を流した。

僕はため息を吐いてゴールドシチーちゃんを解放した。

 

「トレーナー! マネージャー!」

 

そして二人に駆け寄る。

僕は落ちている誓約書2枚を拾い上げる。

 

「すまない、シチー。ここからでは無理だけど、ずっと応援してる」

「いや! 嫌だ! アタシはトレーナーと一緒だから頑張れると思ったのに!」

「シチー……」

「おい」

 

僕が声をかけると全員が睨みつけてくる。

ここまで本格的に悪役をしたのは久しぶりだな。

 

「ここであったことは口外しないと誓え」

「どうして、そんなことしないといけないの! あんたの所為で、トレーナーが……!」

「弁えてねえのか? まだ、事故は起こるかもしれないんだぞ?」

 

そう言うと、押し黙る。

そして、数秒の後に「わかった」と言った。

 

「最初からそう言えばいいんだ。お前も、お前も、お前もだ」

 

僕は三人を指さして言う。

そして、誓約書を破り捨てる。

 

「え?」

「トレーナー一人辞めさせて俺がなんの得になるんだよ。これは遊びだ。最初に言ったろ。俺の周りにいる時にどうでもいいことで喧嘩するな、耳障りなんだよ」

 

そう言うと、マネージャーはへたり込む。

トレーナーがどうにかそれを支える。

 

「じゃあな、これに懲りたら俺の近くでわめくなよ」

 

そう言って僕は立ち去ろうとする。

だが、その前にゴールドシチーちゃんが立つ。

 

「なんだよ」

「……どうして、こんなこと……」

「耳障りだったからだ」

 

そう答えると、ゴールドシチーちゃんは何かを迷うような表情をする。

長い長い沈黙の後、ゴールドシチーちゃんは言う。

 

「あんたのことは……良く知らない」

「俺は結構有名だが?」

「違う。あんたの中身を」

「……俺はお前と違って外見も中身もそう変わらない」

「それでも、アタシは見ただけで人を判断したくない」

「あのな。わかってんのか? 自分が何をされて、どんな状況だったのか。俺はライバルになるようなやつは消えてくれた方が清々するタイプなんだぜ」

 

ゴールドシチーちゃんは唇を噛む。

そして、小声で言った。

 

「……あんたには、助けられたから」

「は?」

「結果的に、レースもモデルも続けることになった。それのやり方が正しくなかったとしても」

 

恩を感じてしまっているのか。

僕はこれ以上は話すことはできないと思い、わざと大きくため息を吐く。

 

「はあ。そんなどうでもいいことのために俺を止めたのか? もう行く。退け」

 

僕は強引に押し通ろうとする。

だが、それでもゴールドシチーちゃんは僕にだけ聞こえるように言った。

 

「マネージャーとトレーナーを傷つけたことは許さない。……だけど、ありがとう」

「黙ってろ。俺にそんな口を利くんじゃねえ。お前はレースで勝つことだけを考えてりゃいいんだ。もう俺に近づくなよ」

「……うん」

 

長くなったが、今日は帰ることにした。

後輩たちはちゃんとトレーナーを見つけられたようでなによりだった。

 

 

 

 

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