ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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The Emperor and Servants

「遅くなった、今日から復帰だ」

 

それからすぐにルドルフは帰って来た。

顔色も良く、無駄な化粧もほとんどしていない。元々顔がいいのでルドルフは化粧が必要ないのだ。まつげなんてばっさばさに長い。

 

「おかえりー」

「ああ、迷惑をかけたなラック」

「ほんとだよ? もうこういうことしないでよね?」

「もちろんだ。絶対にないと誓おう」

「……一応聞くけど、僕の言った『こういうこと』ってなんだかわかってる?」

「自己管理を怠ったこと……と言いたいが、わかっている。わかっているから怖い顔をするな。君たちを頼らなかったことだ。マルゼンスキーにもトレーナーにも絞られたよ。……だが、一番効いたのはシービーだな」

「へえ? シービー? 何か言われたの?」

「何も言われなかったんだ。ただ淡々とやるべきことをしていた。あるべき姿を見せられていたよ」

「ひょえ~こわ。一番怒ってるじゃん」

「そのようだった。本当に、深く反省したよ」

「ま、シービーはすぐに機嫌なおすでしょ。ルドルフには甘いからね」

「そうか……?」

 

そうなのだ。

シービーは気に入った相手はとことん構うがそうでもない相手には構わない。淡々と見せられたということは構いに行っていたのだろう。シービーはルドルフにとても期待しているようで隙あらば構おうとする。

 

「エアグルーヴも、すまなかったな」

「いえ、いい経験になりました。……きっと会長の下ではできない経験でした」

「うん、すまない」

「いえ」

 

うんうん、いいことだと思っていたらグルーヴちゃんに呆れたような顔をされる。

なんで?

いい経験だったんでしょ?

 

「そうだ、会長」

「うん? 何かな?」

「私は会長を超えます。今はできませんが、いつかはあなたを打ち負かすと誓いましょう」

 

そうグルーヴちゃんが宣言すると、ルドルフはぱちくりと目を見開いた後にこらえきれずに笑い出す。

 

「ふ、ふふ。本当にいい経験になったようだな。いいだろう、私は逃げも隠れもしない。絶対の皇帝として君の前に立ちはだかることを誓おう」

「ええ、よろしくお願いします」

 

ルドルフはちらりと僕の方を見る。

 

「私も負かしたいウマ娘たちがいる。君の気持ちはよくわかる」

「そうですか。会長はそういうことはあまり関心がないのかと」

「そんなことはない。私とてウマ娘。勝ちたい相手くらいいるさ。それは君もそうだ」

「……光栄です」

 

イチャイチャしてるなぁ。

そう思って眺めていたらグルーヴちゃんはこちらを見る。

 

「ラック、私は貴様にも勝ちたいと思っているからな」

「え、僕?」

「ああ。私には夢があるし目標は会長ではあるが、進むべき道を示してくれた。私なりの恩返しをしたい」

「……それが僕を負かすこと?」

「ああ」

 

僕はルドルフと顔を見合わせる。

そして、思わず笑ってしまった。

 

「あはは! いいね! もう、グルーヴちゃんは健気だなぁ」

「そうだな、ここまで可愛い後輩を持てたのは幸運だったと言わざるを得ない」

 

グルーヴちゃんは少し顔を赤らめながら誤魔化すように言う。

 

「私が勝ったら貴様の悪の仮面を引っぺがすからな」

「それは困るなぁ。これはトレーナーの目標に必要だから」

「全く、どうして貴様はそうなんだ。見ているこっちが辛いぞ?」

「そう! そうなんだよ、エアグルーヴ。何度言ってもやめないんだ。本当にどうしようもない。どうして茨の道を進んでしまうんだ。百歩譲って悪役をするのはいい。だが、トレーナーたちからも悪として見られているのはどうかと思うぞ」

「ああもう、この話はやめたいんだけど……」

 

そう言うルドルフだが、強引に悪役をやめさせようとしたことはない。……少なくとも僕の本性を知ってからは。

なんだかんだ言って僕のやることを否定しないのだ。小言は言うけど。

 

「うーん。まあそうだよね。でも今更なんだ」

「今更というが……」

「そもそも、僕が悪役始めたきっかけのデビュー戦は本当に悪いことしたって認識が広まってるからね。トレーナーの人達から見たらバレるかなって思ったけど、思った以上にカメラ映りがね……。で、今更『僕、悪いことしてません!』なんて言ってももう誰も信じないよ」

 

そんなこと言わないけど。

 

「だがな……」

「それに、僕のトレーナーが言うにはベテランのトレーナーは気づいている可能性あるって」

「そうなのか?」

「うん。レースは真面目に走ってるからね。若いトレーナーはそもそも担当ウマ娘を僕に近づけようとしないから気づいてないだろうけどって」

 

実際、小宮山トレーナーは気づいてなかった。

……まあ、小宮山トレーナーは素直な気質故かもしれないけど。

 

「はいこの話終わり!」

 

そう言って僕は手を叩いて強引に話を終わらせる。

二人はちょっと不満顔だが、無視!

 

「よし、じゃあ、生徒会のメンバー登録をしちゃおう」

「生徒会メンバーの登録?」

「そうそう。僕は今回生徒会に入ったからそのままでいいんだけど、シービーとかの登録はできてないから」

「いや、ラック。勝手に登録しちゃだめだからな?」

「勝手じゃないよ。ちゃんと許可取ってる。というか、シービーから言い出したんだから」

「そうなのか? 意外だな」

「マスカレードレースしたでしょ? あんな楽しいこと、アタシ抜きでやるのはずるいって言って来てね。で、生徒会じゃないと事前に知れないよって言ったらじゃあ入るってさ」

「……なるほどな」

「あとはマルゼンスキー」

「マルゼンスキーもか?」

「うん。というか、逆になんで入ってなかったのさ。不思議だったよ。もちおっけーだそうです」

「そうか……」

 

僕は書類をちゃちゃっと作り、それをルドルフに渡す。

 

「はい、生徒会長様。最初の仕事だ」

「ああ、承った」

 

そしてルドルフは書類にサインをして、机に置く。

 

「さあ、新しい生徒会だ。勤倹力行していこう」

「うん!」

「はい!」

 

 

 

とはいえ。

とはいえ僕も頑張ったので、仕事があるわけでもない。

僕の目標は仕事を残さずにバトンタッチすることだったので、それは叶えられたように思う。

残さずにやった仕事の例で言えば食堂だ。なんと無料で食べれるようになったのだ! これで大食いのウマ娘が来ても大丈夫! 僕も利用させてもらっている。

これにはルドルフも少しだけ呆れ気味だった。

 

「君は……人のことを言えないんじゃないか?」

「いやぁ、僕はトレーニングがなかった期間があるから」

 

そう言って誤魔化すが、ルドルフの視線は痛い。

だが、追及を諦めたのか、ため息を吐いただけだった。

 

「そういえば、ルドルフは三冠いけそう?」

「ああ、取るさ、必ず」

「……大言壮語じゃないのが恐ろしいところですね」

「ふ、そうでもないさ。それくらいじゃなきゃ、勝てない相手がいる」

「……ミスターシービーですか」

「ああ。それに、ラックも、マルゼンスキーも。今は私の方が強いが、君だってそうだエアグルーヴ」

 

そう言って微笑むルドルフにグルーヴちゃんは少しだけ頬を赤らめる。

イチャイチャしてるなぁ。

 

「でも、油断しないでよね。ダービーは運が重要なんだから」

「ああ、もちろんだ。君たちに勝たないうちは油断などしないさ」

「……やだー!」

「!? 急にどうした?」

「えーん、グルーヴちゃん! ルドルフに可愛げがなくなっちゃった!」

「……いいだろう、別に。私だって成長するさ」

「合宿に一緒に行けなくて駄々こねてたルドルフを返してよー!」

「なっ……! それは言わない約束だろう!?」

「知らないもーん!」

 

バタバタと暴れるとルドルフも僕を抑えにかかる。

く、成長しよってからに!

 

「そもそもそれは私なりに君たちに追い付こうとしていたから……!」

「だから可愛げがあったんじゃーん! 今はもう『ふ、君たちに追い付くのは必然だ。そうあるべきで、そうでなければならないんだ』とか言いそうじゃん!」

「ええい、声真似をするな! どこで覚えたそんな技!」

「『ラック、寂しいよぉ、一緒に練習、しよ?』」

「その口塞いでくれる!」

「いやぁん、キスされるー! 初ちゅー奪われるー!」

「するか! そんな初心でもないくせに! 抵抗するな!」

「……ずいぶんとお二人は仲がいいですね」

 

グルーヴちゃんがそう言って、僕たちはぴたりと止まる。

そちらを見ると、少し寂しそうな顔をしていた。

 

「それはグルーヴちゃんもでしょう? 君を信頼しているし、感謝もしているよ。僕を支えてくれたんだ、一心同体と言ってもいい仲だろう?」

「それは私とて同じこと。エアグルーヴ、君にとっての生徒会長は私で、目標は私だろう? 嬉しいよ、君の心を独り占めしているようで」

「な……!」

「ほら、おいでグルーヴちゃん。実は君がここに来るきっかけを作ったのは僕なんだぜ。恩を感じているならこっちに来るんだ」

「騙されるな、エアグルーヴ。君を見出したのは私だ。あの時、私に挑んだ君の表情、今も鮮明に思い出せるよ。いろんな君の表情を見せてほしいな」

 

僕とルドルフはグルーヴちゃんに迫る。

グルーヴちゃんは顔を真っ赤にしてそこから飛びのいた。

 

「じ、冗談はやめてください! 会長、ラックに毒されてますよ!」

「む、そうか?」

「失礼な。毒してたのはシービーです」

 

心臓に悪い……とつぶやくグルーヴちゃん。

 

「早い所新しい人員を探すべきですね……私だけでは持ちません」

「しかし、そうだな。また募集するかスカウトするとしよう」

「候補はいるの?」

「そうだなぁ……今年入学した者だと、イナリワンあたりか……」

「お祭り気質が隠せてないけどね」

「うむ、ある種のカリスマがあることは確かだが、生徒会と合うかは別だな。後は身内贔屓になってしまうが、シリウスシンボリ」

「それこそでしょ。学外は?」

「……確か、強い姉妹がいると聞いたことがあるな。名前はビワハヤヒデとナリタブライアン。だが、すぐに入学と言うことではないから」

「じゃー、今はこのメンバーで行くしかないか」

「そうだな」

 

とはいえ、時々生徒会に遊びに来てくれるお姉さま方も色々と手伝ってくれる。

生徒会のメンバー問題は解決されたと言ってもいい。

来年からも増えていくだろう。

というか、今までの基準が厳しすぎたというのもあるのかもしれない。

基準がシンザン会長だったからなぁ。

流れでこのままだということになってグルーヴちゃんはちょっとしょんぼりしていた。

 

なにはともあれ、ルドルフが戻ってきてようやく学園も平和になるだろう。

 

 

 




くださった感想を読んで「確かにここ説明不足だったな……」とか「ここもやもやするかな……」とか思ったところは先の話で書き足していたりします。
後出しみたいになってすみません。
それでも一人称視点が多いので基本的にラックの主観の説明になります。ラックが知り得ないことや時代背景とかは説明できない部分もあります。なので「ここはこういう理由があるんじゃないか」という考察はすごく嬉しかったりします。

皆様の感想や考察は本当に励みになっています。
ありがとうございます。
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