ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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昨日は2話投稿できずにすみませんでした。
実は入れなきゃいけない話を1話まるまる書くことになってしまったので、時間がかかってしまったのです。
代わりに明日は3話投稿です。
どうぞよろしくお願いします。


Those who are not weak

リボンパックちゃんの事件は学園に少なくない衝撃をもたらした。

 

ウイナーズサークルでああ言ったが、僕のデビュー戦以来しっかりと雨の日でもレースを細かく見れるようなカメラの配置になっていった。

庇いはしたが、リボンパックちゃんが体当たりしたのが僕じゃなかったら大変だったのも事実。

昔は体当たりなどのラフプレイ上等な時代もあったらしいが、今はそうではない。

ルールはルール。

……それを僕が言えた義理ではないんだろうけど。

 

リボンパックちゃんは理事長からの厳重注意をされて除名などはされなかった。

 

理事長としても苦渋だったと思う。というか、そのまんまの苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

リボンパックちゃんは許されないことをした。

だが、リボンパックちゃんは本来優しいウマ娘だったらしい。それが戦績に囚われ正気を失った。

誰が悪いのかと聞かれればリボンパックちゃんなのには変わりがないが、理事長はそれを止められなかったトレーナー側にも責任があるとした。そして、その監督責任がある学園にも。

だからこのような処置になったのだが、あんな意図的なラフプレイをしておいて厳重注意だけなのかという声もあがった。

このままだと『ファールしてでも止めろ』となりかねない。

理事長もそれがわかっていたようで、追って処罰を下すということは言っていた。

無関係なトレーナーたちにも今一度指導を見直すように厳しく言ったらしい。

 

僕はそれらを理解しつつどうにかしたいと考えていた。

このままだとリボンパックちゃんもいじめられるかもしれない。

そう思ったからだ。

 

だが、僕も気づいたらそれどころではなかった。

その不満の矛先は僕にも向いたからだ。

 

『じゃあ、デビュー戦で同じようなことしたブラックトレイターも何か言われてしかるべきでは』となったのだ。

 

え、となった。

けど、同時にそうだよなともなった。

それが事実かどうかはともかく、僕もそういうことをするウマ娘だという認識なのだ。流れでそうしたとはいえ、そう認識させたのは僕だ。

そもそも抗議の意見が出てないわけではなかったので、それが再び問題になるのは必然だった。

 

ここに来てようやく僕はこの件に関して何もできないことを悟った。この件に関しては被害者と加害者だが、僕も加害者側のようなものだからだ。

そして、僕という存在への不満が高まっているのも感じた。

 

僕はトレーナーに相談することに決めた。

 

「どうしようトレーナー」

「……そのリボンパックというウマ娘は放置しろ」

「でも、このままじゃ僕と同じだよ?」

「いじめられると?」

「うん」

 

そういうとトレーナーは少し黙った。

二人だけのトレーナー室は重苦しい空気だ。

トレーナーは言葉を選ぶようにして言う。

 

「……できることとできないことがある」

「うん」

「今回俺たちは何もできないんだ」

「それは……」

「今回はマルゼンスキーの時とは違う。明確に俺たちは何もできない立場にあるんだ。リボンパックにお前が何ができる? お前がリボンパックを助けようとするときっともっと傷つけてしまう。悪評のあるお前が庇ったら逆効果だからだ。そして、それはきっとお前にも被害が及ぶ。デビュー戦のことがあるからな」

 

僕は黙ってそれを聞く。

あの事件をなかったことにはできない。

だが、僕にヘイトを集めても……。

 

「それにお前は自分の身を守らないといけない立場だ。だから、リボンパックは放置しろ」

「……でも」

「ラック、気持ちはわかる。俺もできることはする。俺たちは、と言ったがお前よりかは動ける立場だ。だから、大人しくしていてくれ」

「……わかった」

「いい子だ」

 

そう言ってトレーナーは僕の頭を撫でた。

僕はそれに身をゆだねる。

だけど、表情に出てたのかトレーナーは苦笑する。

 

「不満か?」

「……不満じゃないけど、なんていうか、無力感はあるよね」

「そうか。少しだけ解決する方法がある。聞きたいか?」

「え! 何?」

「ヒールをやめることだ」

 

そういうトレーナーを僕は凝視してしまった。

 

「な、なに言ってるの、トレーナー?」

「悪役をやめれば悪いことを悪いと肯定できる。お前は優しい。このままだと苦しいだろう? お前が悪役をする理由はもう俺以外にないはずだ」

 

その言葉に僕は首を横に振る。

 

「嫌だ。ダメだ。それなら大人しくしてる。確かに僕はリボンパックちゃんをどうにかしたいって気持ちはある。だけど、それよりもトレーナーが大事だ。だから、もうそんなこと言わないで。トレーナーだってそんなこと望んでないでしょ? ほら、それにモンスニーちゃんにも迷惑かかっちゃうからダメ」

「……そうだな。お前を試すようなことを言って悪かった」

 

トレーナーのその言葉に僕はほっとした。

……なんでほっとしたのかは自分でもわからなかったけど、とにかく安心した。

 

「でも、結構話題になってるんだよね。僕の耳にも聞こえてくるくらいだし」

「そうなのか」

 

僕は気にしてないけど、いじめも悪化している。

 

「まあね。あーあ、せっかく仕事なくしてルドルフにバトンタッチしたっていうのに、これじゃ僕が問題起こしちゃったようなもんじゃん」

「ふ、じゃあ、シンボリルドルフに謝ってくるんだな」

「……そうしようかな」

「これもお前にとっては良い薬になる。たまには周りの気持ちを味わってこい」

「? よくわかんないけど……まあ行ってくるよ」

「ああ」

 

 

 

僕はトレーナー室を出て生徒会室へ向かう。

入ると、ルドルフは一人でノートパソコンで何かを見ていた。仕事をしているわけではなかったようだ。

 

「ルドルフ」

 

そう声をかけると、顔を上げてこちらを見る。

少し微笑んでノートパソコンを閉じた。

 

「珍しいな。そんな叱られる前の子供みたいな顔して」

「……むう、間違ってないよ」

「ほう。今度はなにをやらかした?」

「知ってるでしょ、京阪杯での事故」

「……それが?」

「それで学園全体がちょっとギスっちゃってるじゃん。……せっかく生徒会長にもどったのに、ごめん」

「なんだ、そんなことか」

 

ルドルフは背もたれに寄りかかる。

ギシリと軋む音がする。

 

「ラック」

「なに?」

「そもそも君は被害者だ」

「……そうだけど、周り廻って僕のやったことが原因でもある気がするんだ」

「なら、悪役をやめてくれるか?」

「……それはできない」

「ふ、全く君は……」

 

そう言ってルドルフは僕に手招きをする。

僕はそれに従ってルドルフの近くに行くと、ぐいっと手を引かれる。

不意打ちだったそれに僕は逆らえない。

僕はルドルフの胸元に飛び込む形になった。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「ラック、君の所為じゃない。周りがどう言おうと君の所為じゃないんだ。君に原因の一つがあったとしても、ずっと君は誰かを助けようとしてきた。それは否定されるべきじゃないんだよ」

 

抜け出そうとする僕をルドルフは抑えて耳元で囁く。

 

「る、るどるふ!! おねがいまって!!」

「うん? そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」

「ち、ちがくて! み、みみはダメなの!」

「ああほら、あんまり暴れるな」

「ほ、ほんとに離して! だめなの……!」

「何がダメなんだ?」

「耳は、やめて……!」

 

僕は思わずぎゅっとルドルフの制服を握り込んでしまう。

耳や尻尾はダメなのだ。

前世の体とは勝手が違う部分で、大分敏感なのだ。こればっかりはどうにもできなかった。

体を硬直させ、身を丸めるようにする。

抗議の視線を送ると、ルドルフは少しだけ顔を赤らめて言う。

 

「い、いやすまない。その、そんなにダメだとは……」

「……ルドルフのバカ」

「本当に悪かった。ほら、泣かないでくれ」

「泣いてないもん」

「うん、泣いてない。泣いてないな。だから、そんな目で私を見るな」

 

解放された僕はルドルフから数歩離れて耳を抑える。

 

「悪かった。もうしない」

「ほんとに?」

「ああ、だからそんなに距離を取るな」

「……うん」

 

ルドルフは椅子を用意してくれた。

僕はそれに大人しく座る。

 

「……確かに、あの事件は無視できないものだ」

「うん」

「詳しくは知らないがURAでもどうするのかという議論もあったと聞く。SNSでも色々と言われているようだからな」

「ごめんね」

「さっきも言ったが君の所為ではない。私もできる限りのことはする」

「……できる限りのことって?」

 

そう聞くとルドルフはいくつかの書類を取り出す。

リボンパックちゃんへの書類のようだ。

 

「リボンパック先輩には理事長が厳重注意をしたが、それだけではだめだと理事長も考えていた。だから、追加で3ヶ月の出走停止を罰として科すことになった」

「……そっか」

「それと同時に、サポート科と同じようにリギルのサポートをしてもらう」

「サポート?」

「ああ。早い話、奉仕活動だ。わかりやすく罰としてそれを科す。もちろん走ることは許さない。勝ちたい選手としては一番の罰だ。それにリギルはトップのチームだからな。そのトレーニングを見れば『勝つ』ということがどういうことか再確認できるだろう」

「……いいの?」

「ああ。私とてどうにかしたいとは思っているからな。大丈夫、リボンパック先輩がいじめられるようなことにはならないと誓おう。それに罰としてリギルにいれば私生活でも抑止力になる。生徒会長である私もいるし、東条トレーナーはそういうことを許さないことで有名だからな」

「迷惑じゃない?」

「迷惑じゃないさ。トレーナーも了承してくれた。マルゼンスキーも気にかけてくれるそうだ」

「ありがとう」

「ふ、そもそも、君は被害者だぞ? 恨みごとの一つも言ってもいい立場なのだがな」

「……これは自業自得だから。僕っていう存在がいることで治安が悪くなっちゃったのかもしれないし……」

「よしんば君が本当に悪いやつでもそれが君をレースで害していい理由にはならないんだよ。それに、認めたくない事実だが、リボンパック先輩のようなウマ娘はいつもいると聞いている。未勝利で終わるウマ娘も半分はいるからね。リボンパック先輩のように一線を越えてしまうウマ娘はそうそういないが……」

「……そっか」

「それに君が罪の意識を持っているなら、それが罰だ。君はこの事件に関して、ただ見ていることしかできないからな。それに、君のデビュー戦についての問題もどうにもできない」

 

ルドルフは僕の顔を見て微笑む。

 

「歯がゆいか?」

「……うん、そうだね」

「私はいつもそうだった。君が傷つくたびにそう思った」

 

僕は黙ってしまう。

……トレーナーはこのことを言っていたのか。

 

「私は君のことを大切に思っているんだよ」

「……なに、告白?」

「そうだと言ったら?」

「ちょ、ちょっと……」

 

ルドルフが顔を近づけてくるもんだから、僕は思わず身を引く。

そんな僕にルドルフは笑った。

くそぅ、からかったな……。

 

「そう思っているのは私だけじゃないんだぞ」

「? どういうこと?」

 

ルドルフはノートパソコンを開く。

SNSを開いていたようだ。

さっき見ていたのはこれか。

検索欄には『黒王』と打ち込まれている。

 

「この黒王ってなに?」

「君のことだ」

「え、僕?」

「ああ、やっぱり気づいてなかったか。君にだってファンはいるんだぞ?」

「それは知ってるけど……」

 

SNSだってチェックしてるし、ウイニングライブだって僕のイメージカラーのライトがあるのは知ってるし。

 

「この人たちは君に迷惑をかけまいとファンの中での愛称を決めて応援しているんだ」

「黒王ってやつ?」

「ああ。ブラックと魔王から来てるんだろうな。君が悪役をすると決めているからそれを邪魔しないようにしているんだろう」

「へぇ……」

 

僕はスクロールして投稿された呟きを見ていく。

 

『黒王様まじでしびれる』

『感謝祭で30分限定で黒王様にあーんってしてもらえたって本当? タイムスリップできん?』

『あのヒール具合がいいよな。プロレス好きのおやじが黒王様にハマったわ』

『ボロボロの黒王様も好きだったけどやっぱり不遜な黒王様がいいわ』

『黒王様のグッズ手作りしました!』

『黒王陛下万歳! 黒王陛下万歳!』

 

僕はパタンとノートパソコンを閉じた。

うん、こそばゆい。

僕こういうのダメかもしれん。

 

ルドルフは呆れたように僕を見た。

 

「さすがに耐性がなさすぎじゃないか? 褒められ慣れてなさすぎだろう」

「いや、トレーナーは褒めてくれるし、友達はみんな良くしてくれるけど、こういうのは初めてで……」

「今日は君の珍しい顔をたくさん見れて嬉しいよ」

「見ないでバカ」

「罵倒にもキレがないぞ」

「もう! 僕のことはいいでしょ!」

 

僕は強引に話を中断させる。

むっつりしていると、ルドルフは机に肘をついて、反対の手で僕の頬をつまんだ。

 

「そんな顔をするな、ラック。それにな、君と出会ってわかったことがあるんだ」

「……なに?」

「みんながみんな、護ってもらわないといけないほど弱くはないんだよ。勝てなくても強いウマ娘がいる」

「……そっか」

 

それからルドルフと少しだけ話して、僕は帰ることにした。

 

 

 

 

 

僕は廊下を歩いている時、見覚えのある顔を発見した。

 

スイートパルフェちゃんだ。

だが、声をかける仲でもない。

なんとなく、視線だけで追った。

その時、僕の教室から出てきたウマ娘たちが廊下のゴミ箱に何かを捨てた。

 

僕は僕の教科書でも捨てられたかな、と思った。机に教科書を忘れたから回収しにきたのだが、タイミングが悪かった。

スイートパルフェちゃんはそれを見て、立ち止まった。

回収したいから早く行ってくれないかなと思ったら、スイートパルフェちゃんがゴミ箱を開けて教科書を取り出した。

 

僕は首を傾げる。

何をしているんだろう。

 

スイートパルフェちゃんはその教科書の裏を見て、ゴミ箱に教科書を捨てたウマ娘たちに声をかけた。

 

「ねえ」

「なぁに? あら、それ拾ったの? わざわざ捨てたのに。ブラックトレイターのよ」

 

一人のウマ娘がそう言った瞬間、スイートパルフェちゃんはそのウマ娘の胸倉をつかんだ。

いきなりの行動にそのウマ娘は抵抗しようとして足を滑らせる。

尻もちをついてスイートパルフェちゃんを見上げる形になった。

 

「な、なにするのよ!」

「こっちのセリフよ! なんでこの教科書をゴミ箱に捨てたの!? 答えなさい!」

「それはブラックトレイターのだから……」

「ブラックトレイターのだからなに!? あいつには何をしてもいいと思ってんの!?」

「……なによ! あいつが悪いんじゃない! 悪いことして勝ってるんでしょ!?」

「ふざけんな! あいつが悪いことしてたなんて知らないわ! あんた、あいつと一緒に走ったことあんの!? 自分がされてから言いなさいよ!」

 

スイートパルフェちゃんはそのウマ娘たちを睨みつける。

 

「悔しくないの!? あいつが悪いなら、レースで勝ちなさい!! あいつが悪さして勝ってるなら、その上から実力で叩き潰して勝ちなさいよ!!」

 

スイートパルフェちゃんはダービーが夢だと言った。

同着だったからシービーもそうだが、その夢を阻んだのは僕だ。

だっていうのに、スイートパルフェちゃんは気高くあろうとしている。

僕のために怒ってくれている。

 

スイートパルフェちゃんは動けないウマ娘たちを睨んだ後、僕の教室へ入ってすぐに出てきた。

その手には教科書がない。

 

「私に怒ったなら、レースで勝負しなさい。受けて立つわ」

 

そして、それだけ言ってスイートパルフェちゃんは去っていった。

 

僕はスイートパルフェちゃんを追いたかった。

だが、それはできなかった。

お礼を言いたかったが、なんて言えばいいのかわからなかったし……僕はきっと、今人に見せれる顔をしていないだろうから。

 

 

 

 

 

それから、この事件の話は消えはしなかったが、沈静化はしていった。

リボンパックちゃんはいじめられているなんて話はなかったし、僕のデビュー戦の話も証拠不十分であるために何かが変わるわけじゃなかった。

きっとルドルフやトレーナーたちが手を回してくれた結果なのだろう。

 

相変わらず僕は嫌われているし、いじめがとまることはない。

だけど、僕は嫌われているだけじゃないことを知ったし、教科書が捨てられることはなくなった。

 

 

 

――ただ、URAは『指導を徹底する』ということと『詳しい調査を行う』とだけ言って沈黙した。

 

そして、その結果URAと僕が癒着しているという噂が立った。

URAは僕のことに関して一切触れなかったからだ。

それはほんの小さな陰謀論じみたものではあったけど、その所為で僕は『トゥインクルシリーズの汚点』と言われるようになった。

 

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