今日は3話投稿します。
この後は19時半と21時半です。
お見逃しのないよう、お願いします。
車で突っ込んできた犯人の件で警察に事情聴取をされた。
だが、被害者ということもあって、そこまで時間は取られることはなかった。
被害届や慰謝料などの話があったが、一緒に来てくれたトレーナーに全部任せた。
どうしようと相談したら、的確に答えが返ってきたので丸投げしたのだ。
なんでも、トレーナーは法律を勉強していた期間があるそうで、素早く終わらせてくれるそう。
手っ取り早く終わらせて僕らはトレーニングに向かった。
ジャパンカップまで後半年。
僕のトレーニングの密度は異常に高まっていた。
「もう一本だ!」
「ああ!」
「ダメだ! フォームが崩れた! やり直し!」
「もいっぽん!」
「もっと縦にエネルギーを使うことを意識しろ!」
怒鳴るようにトレーナーは指導する。
気弱なウマ娘は怖がって同じターフを使わないくらいだ。
トレーニングが過激になることに否はない。
だが、最近は違和感を感じていた。
体とかではなく、トレーナーに対してだ。
何かを焦っているように感じる。
特に京阪杯からは。
それに最近はリギルやカノープスとの合同練習が多くなっている。
てっきり僕の走法の完成度をできるだけ高めるだけにトレーニングをするのかと思っていたから意外だった。
合同練習の時は向こうのチームのトレーナーの指示ばっかりでトレーナーはあんまり指示しないし。
「休憩! 5分後に再開だ!」
「……はぁ、はぁ……」
返事する元気もなく、僕は倒れる。
トレーナーは水を持ってきてくれる。
「ゆっくり飲め」
「うん……」
水を飲みながら僕はトレーナーを観察する。
相変わらず無表情だ。
サングラスもかけている。
その視線に気づいたトレーナーは逆に僕をじろじろと見る。
「どうした、どこか痛むのか?」
「え、痛まない痛まない! 大丈夫だから!」
「痛むようなら言え」
「わかってるよ、もう……」
その様子に少し呆れながら僕は聞く。
「どうかな、僕強くなってるかな」
「ああ、なっている。これで夏には間に合いそうだ」
「宝塚記念?」
「……そうだ」
「そっか。ところで、トレーナー」
「なんだ」
「今日終わったらどこか行かない?」
「どこか?」
「ほら、遊びに! いいでしょ、気分転換だよ」
「……悪いが、今日は理事長のところへ行かないといけない」
「あら、そうなの? じゃあ仕方ないね」
「すまないな」
「いいよー、でも埋め合わせよろしくね!」
「……仕方ないな」
そう言ってトレーナーは頭を掻いた。
それから僕に話がないとわかると、何かを書き始める。最近はいつもそうだ。何を書いているのかはわからない。
「何書いてるの?」
「……そうだな、来年からどうするのか、とかだな」
「ふうん。新しい子をスカウトするとか?」
「……いや、スカウトはもうしない」
「じゃーそれ僕のだ。見せてよ」
「ああ。だが、完成したらな」
「えーいいじゃん、ケチ!」
「雑念が入ってもダメだろう。将来のことは俺がどうにかするから、お前は今に集中しろ」
「むむ……」
「それとも……俺が信用できないか?」
「……わかったよ。全くもう」
「すまないな」
「いいって」
そう言われれば、僕は引くしかなかった。
だが、トレーナーの言う通りでもある。
等速ストライドの完成度は上がっている。
今は宝塚記念に集中しよう。
「そいえばさー」
「どしたの?」
「ラックが開催したレースあるじゃん」
「あー、マスカレードレース?」
「うん」
「それがどしたの?」
「それでトレーナーがスカウトして来た子がいてさ」
「え! そうなんだ。というか、今スピカ誰がいるの?」
「アタシとその子だけ」
「……あはは」
「ね、笑える」
「で? なんていう子?」
「ゴールドシップって言う子」
「……ゴールドシップ?」
うーん、どこかで聞いたことあるような。
前世かな。
あんまり覚えてないけど、名前を聞いたことがあるってことは名馬だったんだろうな。
「で?」
「その子、本当にジュニア級なのかなって思って」
「え? 参加条件はジュニア級だよ?」
「だよね。ラックが見逃すはずないもんね」
「……そう言われると自信ないな。でも、レース表は生徒会に残ってるよ」
「見に行っていい?」
「……シービーも生徒会役員だよ?」
「そうだっけ?」
「まったくもう」
ということで生徒会に行くことにした僕たち。
生徒会室にはルドルフが仕事をしていた。
「やっほ」
「ん? やあ、何か用かい?」
「いや、マスカレードレースの出走表の確認をしたくてね」
「そうか。確か、3段目の右手にあったはずだ。探してみてくれ」
「ありがとー」
邪魔しちゃ悪いので、僕とシービーは静かに探すことにした。
それもきちんと整頓していたので、すぐに見つかる。
だが、いかんせん数が多い。
せめてレースを絞りたい。
「その子は何のレース走ったの? 芝? ダート?」
「芝の長距離。追い込みだってさ」
「芝……長距離……」
僕たちはそれを手掛かりに探していく。
ないかと思ったが、最後のレースに出走していたようだ。
「あったね、確かに出走してる。だったら、出バ投票用紙があるはず。そこにクラスとか書いてあるよ」
「うえー、それも探すの?」
「もちろん。さ、手を動かして」
「はーい」
そう言って僕たちは探す……が、今度はない。
「あれ、おかしいな」
「ないね。なくした?」
「いや、ある意味これは個人情報だからしっかり管理してたはず」
もちろん、ヒューマンエラーはある。
だが、何度か確認しているからその時はあったはずだが……。
流石に名前をすべて覚えているわけではないが、数は合っている。
そうこうしていると、仕事を終わらせたのかルドルフもこちらへ寄って来る。
「どうしたんだ? 何を探している?」
「スピカに入ったって言うゴールドシップちゃんって子がジュニア級なのかを確認したくて」
「ふうん? マスカレードでスカウトしたのか?」
「うん。ああいや、逆スカウトかな。トレーナーが拉致されてたから」
「拉致……」
「いつの間にかスピカに居座ってた」
「……まあ、その破天荒さは置いておこう。どんな容姿なんだ?」
「葦毛の長髪で、170cmくらいかな。スタイルはいいね。美人なウマ娘」
「そうか……写真とかはないのか?」
「あるよ。はい」
そう言って取り出したのは、サングラスをしてターフで斜めを向いて立っているウマ娘だった。
マイケルジャクソンかよ。
どういうシチュエーションで撮ったんだよ。
それを見たルドルフは、少しだけ考え込むような仕草を取る。
「私が覚えている限りではいないな……」
「じゃあ、やっぱりジュニア級かな」
「いや、ジュニア級でもない」
「え? どういうこと?」
「私は一度見た顔は忘れないんだ。ジュニア級以外も全員確認している。その中にはいないな」
「……じゃあ、不法侵入者?」
「そういうことになるな」
「……捕まえに行くか」
「そうだな、どうあれ事情は聞くことにしよう」
こうして僕たちはスピカに行くことになった。
スピカに行くと、沖野トレーナーがいた。
「おー、お前たちか。どうしたんだ? トレーニングは休みだぞ?」
「トレーナー、ゴルシいる?」
「ゴールドシップ? 今はいないな。だが、すぐ帰ってくるって言ってたぞ」
ゴルシって言われてるのか。
その略し方だとゴールドシチーちゃんもゴルシになるな。
「なんだ? ゴールドシップに用か?」
「それなんだが、生徒会で確認したところ、マスカレードの出バ投票が出てないみたいなんだ。だから、確認したんだが、どうにも身元が不鮮明でな。少し確認させてもらいたい」
「は? なんだそりゃ。まあ、いいが……」
突然のことで沖野トレーナーも困惑気味だ。
気持ちはわかる。
チームのウマ娘が実は生徒じゃありませんでした! ってなったらどうなってるんだってなるし。
そうしていると、物音が聞こえてくる。
「どけどけどけどけーい! ゴルシちゃんのお通りでい!」
ドゴンと大きな揺れがして慌てて外に出ると、一面が白に覆われていた。
デカい白い塊がスピカの部屋にぶつかって辺り一面に散らばっているようだ。
「は?」
「なんだこれ? ……雪?」
「おー、パイセンじゃねえか! よっす!」
「よっすー」
その中から出てきたのは何故か冬服の制服を着た葦毛のウマ娘だった。
このウマ娘がゴールドシップちゃんらしい。
ゴールドシップちゃんはそのまま雪玉を作ってトレーナーに投げる。
「おい、雪合戦しようぜ! お前雪だるまな!」
「待て待て待て! ゴールドシップ! どこからこんなもん持ってきたんだ! 今初夏だよな!?」
「んだよー、ノリ悪いなー! 雪まつりしようと思ったんだよ!」
「答えになってねえ!」
とんでもない破天荒さだ。
確かに、見る限り本格化が終わっているような体格だ。早熟という可能性はあるが、ジュニア級の今の時期には珍しい。
「君がゴールドシップちゃん?」
「ん? なんだ、おめー! 雪の中にいると豆腐に垂らした墨汁みてえだな!」
「ありがとう。僕もそう思ってたんだ。君は雪ウサギみたいだ」
「ええ? まじ? そんなに褒めるなよーぶっ飛ばすぞ!」
「ところで、僕の名前はホワイトローヤル」
「そうか! アタシはゴールドシップってんだ! ゴルシちゃんって呼んでいいぞ!」
「ありがとうゴルシちゃん」
「おう、お前のことはパステルカラーって呼ぶからな! よろしくなグレースケール!」
「うん、よろしく。ゴルシちゃんは何年生なのかな?」
「とうとうそこに気づくやつが出てきたか……実はゴルシちゃん、いろんな時間軸に遍在するから、学年はねえんだ。すまねえな……」
「そうなの? じゃあ、どこに住んでるの?」
「え? ゴルゴル星かな。ちょっと交通の便が悪いんだ」
とんでもねえな。
小さい子でもここまで支離滅裂じゃないぞ。
頭良さそうなんだけど……一周回ったらこうなってしまうのか?
「ところでこのシンボルマーク、何に見える?」
「あん? なんだこれ。ロバ?」
前世の記憶を持っているかもと思ったが、そうでもないらしい。
ルドルフは珍しく頭を抱えている。
「ゴルシちゃんは正規の手続きで入学したの?」
「おう、もちろん! あの入学試験楽しかったぜ! ダイオウイカと戦って勝たないといけないのはちょっとビビったけどな……」
「正規の手続きで入ったって」
「いや、そんな入学試験ないからな?」
そうしていると、ゴルシちゃんはそのままどこからか取り出したシュノーケルを咥える。
「思い出したら、海行きたくなってきたぜ! うおー行くぜ! 待ってろ伝説の山菜たち!」
そう言って走り出してしまった。
あ、結構速い。
置いてかれた僕たちはそれを見送ることしかできなかった。
何故なら雪場適性ではないから。
……僕なら行けそうだけど。
「どうする?」
「……理事長に確認を取ろう」
「そうしよっか」
確認したら入学してないが在校しているという結果が出た。
僕たちは考えることをやめた。