ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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What's to come

「それで、最後は私ということか」

「うん、よろしくね、カールちゃん」

 

最後の併走相手はカールちゃんだった。

あれからルドルフやシービーと併走をしたり、他のチームと併走したりした。合宿も後半になるとずっと相手を打ち負かしていることから度胸試しで使われるようになったりした。

ちなみにルドルフやシービーにはほとんど勝てなかった。

 

カールちゃんはレースの出走が目立たなくなった。

実力が落ちたということではなく、他にやりたいことがあるかららしい。

それは勝負服製作。着ていた勝負服はグルーヴちゃんに譲って新しいものを作っている。加えて後続の育成にも力を入れているようだ。

彼女らしいと僕は思った。

もしかしたら将来はブランドや私塾のようなものを立ち上げるのかもしれないな。

そんな彼女が僕は好きだった。

 

だが、今日はレースだ。

去年のオークス。

未来永劫にわたって、あそこまで激戦と言えるオークスはないだろうと言われるくらいにウマ娘たちがぶつかり合ったレース。

あの熱い戦いに勝利できたカールちゃんは僕にとって必要だった。

あの時、シービーなんかレースを観た時にその場からターフに走り出しそうだった。というか、若干身を乗り出していて僕が止める羽目になったのだ。終わった後なんて、「来年はオークスにする!」なんて言ってたし。もう出れないっての。

 

カールちゃんにはその時の話と再現をしてもらおうと思っていた。

だが、彼女は首を横に振った。

 

「悪いが、私はもうラックの相手になる実力じゃないさ」

「そんなこと……」

「いいんだ。事実だ。今回の合宿も後輩のサポートのために来たんだからな。……少し座ろう」

 

そう言ってカールちゃんはターフの横に座った。

僕もそれに倣う。

 

「ラック、お前は今一人で走っているのだろう?」

「……ライバルはいるよ」

「だが、トレーナーはいない」

「そう、だね……」

「きっと辛いだろう?」

「まあね。でも、もういいんだ。僕はこのままでも走れるし、走ることができる」

「うん、知っている。お前はそういうウマ娘だ。だから、将来の話をしよう」

「将来?」

「ああ、私たちはどうあっても走ることを辞めないといけない」

「それは……」

「私は引退を考えている」

「え!? な、なんで!?」

「お前たちに実力が届かないことを実感しているからだ」

「そんな……」

 

レッドさんを思い出す。

あの実力をもってしても、現役ではない。

なんの事情があってそうなったのかはわからないけど、レッドさんでさえ走ることを辞めたのだ。

 

「それは悪いことではないんだ、ラック」

「……僕だって、そう思うよ」

「そこで一つ提案がある」

「なに?」

「私と一緒にデザイナーの道に進まないか?」

 

僕はその提案に驚いた。

デザイナーは僕の前世の職だ。

それに、カールちゃんに誘われるとは思ってなかったから。

 

「ラックの勝負服のデザイン案。悪役がモチーフなのはわかった。それ以上にデザインとして優れているのがわかった。そういう道もあるのかと思ったよ。私にこの道を教えてくれたのは君だ、ラック」

「そうだったんだ……」

「ああ。どうだ?」

「……今は、考えられないかな」

 

そういうとカールちゃんは優しく笑った。

 

「ああ、心の隅に置いておいてくれればそれでいい」

「ごめんね」

「謝るな。私とてラックが受けてくれるとは思っていなかった」

「でも、どうして急にそんな話を?」

 

カールちゃんは少しだけ悩んだ後に、手を僕の手に重ねた。

 

「知ってほしかったんだ。居場所というのは、いくらでも作れると言うことを。私たち学生は確かに学校と家庭がすべての世界だ。特にウマ娘はレースがすべてだと思い込むことが多い」

「……僕は別にそんなこと」

「ああ。だが、それでもだ。もう一度、お前に居場所は作れるものだと知ってほしかったんだ」

 

カールちゃんは僕の目を見て言う。

 

「モンスニーが怪我をした時、私は何もできなかった」

「でも、それは仕方ないことじゃん」

「そうかもしれない。だが、自分の不甲斐なさに気づいたんだ。自分の意義や居場所を失うかもしれない彼女に私は何もできなかった。ラックがいなかったら私は一生後悔するところだったんだ」

 

それは懺悔だったのかもしれない。

だが、カールちゃんは逃げない。

剥き出しの気持ちを僕に見せてくれる。

 

「ラックは精神が成熟していると思う。だけど、だからこそ我慢ができてしまう。トレーナーを失ったラックが感情的になっているのを見て、私は安心したんだ。君もそういう感情を持っているんだと」

「僕をなんだと思ってるのさ……」

「別に、ラックが特別だとは思ってなかった。だが……心配だったんだ。ある意味ではシービーよりも浮世離れしていたからな」

「そう?」

「そうだ。だが、君は違う世界の住人というには私たちに近すぎた」

 

その言葉にどきりとする。

そういう意味ではないとは分かっていたが、それでも『違う世界の住人』という単語に反応してしまったのだ。

カールちゃんは柔らかく微笑む。

 

「勝ちたいか、ラック」

「そりゃね。勝ちたくないウマ娘なんて……いや、ヒトだっていないさ」

「そうだな。私だってそうだ」

「うん」

「なら、勝ってこい」

「もちろん」

「だが、勝たなくていい」

「矛盾してない?」

「していない。全力で、悔いのないようにってことだ」

「そっか」

「ラック、どうあっても私はお前を想っているからな」

「……告白?」

「そういう、恥ずかしくなったらふざけたりして誤魔化す癖、やめた方がいいぞ?」

「わかったよぉ! もう!」

 

カールちゃんは立ち上がる。

 

「トレーニングは続けるのか?」

「うん。やらなきゃいけないことはあるからね」

「わかった。それじゃあ、それを精一杯するといい」

「そうするよ」

「ラック」

「なに?」

「応援しているからな」

「ありがと、カールちゃん」

 

カールちゃんはそう言って、帰って行った。

カールちゃんが僕に何を伝えようと思ったのかは半分くらいしかわかっていないのだろう。

だけど、カールちゃんの話は、僕の心に安寧をもたらしてくれた。

 

「よし、頑張ろ」

 

 

 

夏も終わる。

きっと明日にでも。

 

 

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