ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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天皇賞です。


You gave it to me

天皇賞秋。

由緒あるこのレースは今年から2000mになった。

毎日王冠より200m長い距離。

だが、僕とシービーには長い距離の方が有利だったので、少しがっかりした。

 

注目のメンバーはまたしても4人。

僕とシービー、サンオーイにスズカコバンちゃんだ。

 

毎日王冠で好走した僕ら3人はもちろんだが、スピードに優れるスズカコバンちゃんも注目されている。

宝塚記念の時のことが評価されているのだ。

 

ジャパンカップに出場するシービーは誇張なく日本中の希望になっている。

天皇賞でも、レースを観に来るというよりシービーの調子を見に来る人も多い。

どれだけジャパンカップで好走できるのかと。

そういう意味では僕もだが、やはりというかあの出遅れがなかったら負けていたので、大逃げで頑張って海外勢の体力を削ってほしいという感じで期待されている。いわばデバフ要因だ。

なので、主戦力はシービールドルフ、伏兵が僕といった感じで思われている。

 

「準備はできたか、ブラックトレイター」

「できました」

 

今回は東条トレーナーに出走登録を頼んだ。

前回のシービーの失態によって沖野トレーナーは色々と忙しくなってしまい、シービーに付きっ切りになってしまったのだ。

そう言う意味ではルドルフも2週間後に菊花賞なのだが、今日はルドルフも見に来るというので、そのついでに来てくれているのだ。

 

「トレーナーとしてなにかアドバイスは必要か?」

「え、してくれるなら聞きたいですけど……」

「怪我だけはするなよ」

「……みんな同じこと言いますね」

「それがトレーナーの願いだからな」

「ま、ジャパンカップが控えてますからね。無理はしませんよ。天皇賞ウマ娘のトレーナーになれてラッキーだったと考えておいてください」

 

そういうと東条トレーナーは珍しく笑った。

 

「変わらないな、お前は」

「そうですか? 成長してると思いますけど」

「ああ、成長はしている。だが、あり方は変わらない」

「あり方? ……そうだなぁ」

 

僕は少し考えてその通りだと思った。

確かにそうだ。

あの時、エーちゃんと別れた時から僕は変わらない。

 

「そうですね。ずっと前からそうでした」

「そうか」

「それじゃ、行って来ます」

「ああ、行ってこい」

 

東条トレーナーに見送られてパドックに行く。

その道中にスズカコバンちゃんとばったりと会う。

 

「……ブラックトレイター」

「そういえば」

「?」

「長いだろう? 俺のことはラックと呼べ」

「……いいの?」

「良いも悪いもないが……お前はライバルだからな」

「そう。じゃあ、私もスズカって呼んで」

「いいだろう。で? 何か言いたげだが何の用だスズカ」

 

そう問うと、スズカは足を止めて僕をじっと見る。

スズカは口下手なところがあるので、トレーナーと同じでこういう時は待つのに限る。

だが、しばらくすると、首を振った。

 

「……いいえ、なんでもないわ」

「なんでもないってことはないだろう」

「本当に、なんでもないの。私にできることは走ることだけだから」

「……そうか」

 

それは僕が過去に言ったことだ。

ライバルにできることは走ること。

確かにそう言ったはずだ。

だからスズカが言いたいことはあったはずだ。

きっとそれはトレーナーのことで、僕を励ます言葉だったのだろう。僕にはそれが伝わった。

 

歩き出したスズカに言う。

 

「スズカ」

「?」

「ありがとう」

 

スズカは少し驚いた顔をして、それから薄く微笑んだ。

 

「私も、あなたのライバルだもの」

「そうだな。今日は俺が勝つ」

「いいえ、私が勝つわ」

 

それからは無言でパドックに行く。

すでにパドックでは13人のウマ娘が準備をしていた。

 

今日の参加者は15人。

これが多いか少ないかと言えばダービーや菊花賞からすると少ないといったくらいか。

しかし、毎日王冠とは違い、外枠は不利だと言わざるを得ない人数ではある。

 

サンオーイとスズカは1枠1番2番。

僕は4枠7番、真ん中だ。

そして、シービーが7枠13番、不利なところにいる。

 

そのシービーはいつも通りの勝負服を着て体を温めている。

 

「シービー」

「ん、ラック。どうしたの?」

「いや、今日は大丈夫そうだなって」

「あはは、流石に二回連続でやらかしたりしないよ」

「仕上がりもいいみたいだ」

「ジャパンカップはもっといいよ」

「頼もしいな」

「何言ってるの、敵でしょ?」

「みんなはそう思っていないみたいだけど」

 

シービーは僕の顔をまじまじと見る。

 

「みんなっていうのはターフに来るの?」

「来ないけど……」

「レースが始まったら、そこはアタシたちの世界。違う?」

「……違わないね」

「あ! でも、それとは違うけど、URAに言ってあることがあるから楽しみにしてて!」

「言ってあること?」

「んふふ、内緒!」

 

いたずらっ子のような笑顔を浮かべるシービー。

こういう時は何か面白いことを考えている時だ。やばいことをしている時はすました猫みたいな顔をしている。

僕はそうなんだ、とそれ以上何かを聞くことはしなかった。

 

「おい! ミスターシービー! ブラックトレイター!」

 

そのタイミングで声をかけてきたのはサンオーイだった。

腕を組んで仁王立ちをしている姿は特攻服も相まって少し似合っていた。

 

「あ、やっほー」

「なんだ、別に声かけなくてもいいんだぞ、友達でもあるまいに」

「う、うるせえやい! ちゃんと宣戦布告しておかないとお前らが気を抜くかもしれないだろうが!」

「……べつに抜かねえよ」

「ふん、どうだかな」

「あー、そうだな、毎日王冠じゃお前は死ぬほど油断してたからな。だが、俺はしないぞ」

「油断なんかしてねえよ!」

「じゃーあれが本気か」

「本気でもねえよ!」

「油断してなかったが、本気でもなかったと?」

「それは……ちょっと待て、うん?」

 

自分のスタンスに混乱するサンオーイ。

賢さトレーニングは十分か?

 

「とにかく! 今日はあたいが勝つからな!」

「今日も俺が勝つ」

「今日はアタシが勝つから~」

 

そう言い合う僕たちを尻目にパドックが始まる。

 

『秋空が綺麗な今日、由緒正しきレース天皇賞が行われます! その栄光に輝くのは果たしてどのウマ娘なのか! それでは参加ウマ娘の紹介に映りたいと思います』

 

「――だから、今日のあたいは絶好調で、お前たちを倒すために……」

「おい、サンオーイ」

「……トレーナーと、ってなんだよ?」

「お前、1枠2番じゃなかったか?」

「え? あ、やべえ! 行ってくる!!」

「行ってらっしゃーい」

 

サンオーイは急いでパドックの舞台へ向かって行った。

僕とシービーは呆れながらそれを見送る。

 

「……大丈夫かな」

「掛かり気味だね」

「調子を取り戻せるといいんだけど」

「ま、他人の心配しててもしかたないよ」

「そうだね」

 

そう言って僕たちはアップに戻る。

集中力は乱されたかもしれないが、それもすぐに取り戻せる。

当初の目標でもあった天皇賞だ、勝ってジャパンカップに繋げよう。

 

それから少しして僕はパドックへ呼ばれる。

表に出ると、歓声と共に出迎えられる。

僕は少しびっくりして立ち止まる。

だが、それではいけないと思い、パドックの舞台の真ん中へ歩いていく。

 

『4枠7番、ブラックトレイター。毎日王冠で見せた逃げ足をまた見せてくれるでしょうか!』

 

「ブラックトレイター!」

「がんばれー!!」

「実はシービーよりも好きだ!!」

「ジャパンカップも応援しているぞ!」

「お前の逃げが好きだー!」

 

その応援に僕はどう対応していいのかわからなくなる。

周りを見渡して助けを求めるが、もちろん応援されている人を助ける人間などいない。

僕はどうにか取り繕い、腕を組む。

 

「ようやく俺の偉大さがわかったか? いいだろう。その応援に応えてやろう」

 

僕はそう言って、そそくさとパドックへ引っ込んだ。

戻ってくると、僕の顔を見たシービーが不思議そうな顔をしていた。

 

「どうしたのラック?」

「……なんでもない」

「ふうん?」

 

なんでもない。

うん、なんでもないさ。

 

それから僕は誤魔化すように柔軟をした。

 

 

 

『次々にターフへはウマ娘が集まってきています! おおっとサンオーイへの応援歌が歌われているようです! すごい熱狂! 過去最多の観客数です天皇賞!』

 

ターフではすでにウマ娘たちが準備している。

僕はいつも最後に入場していた。

何故なら僕が出たら微妙な空気になるからだ。応援する側も気持ちよく応援する時間が欲しいだろうと思ってのことだった。

だけど、今日は違った。

今日は僕を応援する人たちがいるからどう反応すればいいのかわからないからだ。

手を振ればいいのか、お辞儀でもすればいいのか。

 

結局僕はそれをスルーしてレースに集中することにした。

応援してくれているならレースで勝とうとすることに文句などないだろう。

 

『最後にブラックトレイターが入場します! あの三冠ウマ娘ミスターシービーのライバルにして最強の逃げウマ娘と名高いブラックトレイター! ジャパンカップにも出走を予定しております!』

 

僕はそれを無視してターフの様子をうかがう。

禿げているところもない。

晴れの良バ場だ。

2000mということもあってスピード勝負なのが予想される。

 

そういう意味では警戒すべきなのはスズカ。

サンオーイはそのパワーをスピードに変換できれば優勝争いに食い込めそうだが、そうでなければ毎日王冠と同じで厳しいレースになるだろう。

……警戒、という意味では僕が一番されている。

もはや僕に距離の壁はない。

今日はスプリント勝負を仕掛けようと思っている。

長い距離が得意なシービーはどう仕掛けてくるのか。

僕にとってはそれが一番重要だった。

 

『人気上位のウマ娘を紹介しましょう! 3番人気、サンオーイ! 気合も十分ですね!』

『掛からないといいですが……』

『続いて二番人気、ブラックトレイター! 毎日王冠ではサンオーイ、ミスターシービーを抑えての1着でした! そして、1番人気はやはりこのウマ娘! 前年度三冠ウマ娘、ミスターシービー! ここで勝って新たな王冠を被ることができるのか! ……各ウマ娘、ゲートインが開始です』

 

深呼吸をする。

落ち着け。

落ち着けばいけるさ。

足を溜めた状態からの末脚からでは敵わないが、それ以外のスピードは僕が上だ。

順番が来たのでゲートインをする。

 

今日はやけにターフがまぶしく見える。

音も、大きく聞こえる。

 

『各ウマ娘、態勢整いました。――今、スタートです!』

 

「っ!」

 

くそ。

ダメだ。

スタートは決められたが、いつも通りじゃない。

 

だが、落ち着くんだ。

先頭ではある。

一つのミスですべてが台無しになるわけじゃない。

 

この天皇賞秋は先行が有利なレースだ。次に差し。

無理に前に出るウマ娘はいない。

僕は気にせずに前に出て行く。

 

コースは2000m、毎日王冠と同じくポケットからのスタートだ。

つまり、今回もコーナーは3つだ。

130mを進んでから第二コーナーが来る。

 

第二コーナーは大きく曲がる。

そのタイミングで僕は後ろを確認する。

サンオーイとスズカは先行位置、シービーは最後尾追い込み位置だ。

シービーは出遅れではなく、そういうポジショニングをしているだけのようだ。今日はシービーのミスで逃げ切りを狙えるとは思わない方がいいだろう。

 

さて、レース展開だ。

シービーはおそらく最終コーナー後の坂で仕掛けてくるだろう。

僕がしなければならないのは、それまでにスタミナや脚、距離というリソースを残すことだ。

相変わらずラップ走法……とはもう言えないな。名付けるなら、変速ラップ走法は機能している。

 

コーナーを抜ければ、早いやつなら仕掛けてくるはずだ。

僕はそれに備える。

 

バックストレッチに入り、100mほどした時、最初の仕掛けが始まった。

仕掛けてきたのはサンオーイだった。

 

「今日はあたいが先頭だ!! どけ! ブラックトレイター!!」

 

バックストレッチには急な上り坂がある。

約2mの高さで50mの坂だ。

それまでは緩やかな下り坂になっている。

サンオーイはその緩やかな下り坂で仕掛けてきたのだ。

 

どういうつもりだと僕は考える。

サンオーイの考えていることがさっぱりわからない。

このまま先頭を譲っていいのか、ダメなのか。

 

サンオーイは差しが得意なウマ娘だ。

ここで先頭に出る意味はない。

ここは足を溜めることが重要だ。

前半に仕掛けて自分の得意を捨てる必要はない。

そうすれば、僕を潰せてもシービーには勝てないからだ。

 

だが、ここで出たのであれば意味があるはずだ。

どんな意味があるのか。

わからない。

 

くっ、こいつは意外と食わせ物か!

意図が全く見えてこない!

 

「どけどけどけ! あたいが先頭だァー!!」

 

僕は速度を出しすぎないようにサンオーイを見る。

こいつは何を見ているんだ。

何を考えているんだ。

 

「よし抜いた! あたいが1着だ! このまま突っ切ってやるぜェー!」

 

何を考えて……。

 

「だけどっ! なんか、結構っ、きつくない? く、まだまだぁー!」

 

何を……。

 

「き、きつい! お腹痛いっ!」

 

――こいつ何も考えてないのか!?

 

いや、考えてないことはないだろう。

僕を逃せば勝てないことは必定。

だから捕まえることは間違いじゃない。

だけど、こいつ!

その後のことを全く考えてなかったな!?

 

こいつには乱されっぱなしだ。

僕も南関東三冠ウマ娘という称号に惑わされたか。

 

サンオーイは急勾配で減速する。

僕は再び先頭に立つ。

サンオーイはそのまま下がっていく。

上位争いに食い込めるかは息の入れ方をどれだけ練習したのかによるな。

 

しかし、それは僕も同じだ。

無駄なスタミナを使った。

コーナーは息を入れるのに使う……のでは間に合わない。

それではこのリードではシービーに追い付かれる。

 

やるしかないか。

僕は減速せずにコーナーに入る。

 

『ブラックトレイター、減速しない! なんという逃げウマ根性! 息を入れずにひた走る! その作戦が吉と出るか凶と出るか!? そのまま第三コーナーを曲がり切ります!』

 

2000mくらい、休まずに走ってやるさ。

そう思った時だった。

 

仕掛けてくるウマ娘がいた。

スズカだ。

早仕掛け。

差すには早すぎる。

だが、僕もスズカならここで仕掛ける。

 

重要なのはタイミングだ。

逃げである僕に追い付きつつ、シービーからは逃げ切らないといけない。

そのためにこのタイミングで仕掛けたのだろう。

 

「……っラック!」

「来てみろスズカ!」

 

勝負の第四コーナー。

ここが一番急な角度のコーナーだ。

だが、僕らは速度を保ちつつそこへ入る。

 

スズカちゃんにとってタイミングは重要だったろう。

だが、僕にとってもそうだ。

来るならここだと思っていた。

 

だから、僕は内側を締めて走る。

 

「っ!」

 

そうすれば、スズカは外側を回るようにして走るしかない。

距離も速度も稼げない。

 

だが、僕も脚に負担がかかる。

最高速近い状態でコーナリングを行うのだ。

丈夫な脚もミシミシと音を立てる。

 

『コーナーを一番最初に曲がったのはブラックトレイター! 未だ先頭でひた走る! 2番手にはスズカコバン! ミスターシービーも上がってきているぞ!!』

 

残りは525mの直線。

400m地点からまたもや2mの上り坂がある。

それまでもなだらかな上り坂だ。

 

すでに脚は燃えるように熱い。

どこまでもつか。

いや、ゴールまで持たせてやる。

 

僕は今、先頭だ。

やってやるさ。

 

先頭なら、僕の領域だ。

 

僕は世界を置き去りにするように走る。

そうすれば、坂だって怖くない。

僕以外には何もないのだから。

僕以外には誰もいないのだから。

 

『だが、外からミスターシービー! やはりミスターシービーが来る! サンオーイも頑張っている! だが、届かないか!?』

 

サンオーイも加速している。

根性ウマ娘だったか。

確かに僕とシービーを相手取るならどちらも乱さないと勝てない。

やはり何も考えていなかったわけではなかった。

動揺を誘って自分の得意分野を押し付ける作戦だったのだろう。

だが、シービーは動揺を誘えるようなウマ娘ではなかった。

 

僕の領域を塗りつぶすようにシービーはやってくる。

最強がやってくる。

 

負けるか。

負けてたまるか。

勝ってやる。

 

「ラックっ!!!」

「っシービー!!!」

 

だが、あまりにも僕は遅い。

速度がじゃない。

スタートがだ。

 

坂を登り切った時、僕たちは一直線に並んでいた。

なら、勝負はどれだけ脚を残していたのかだ。

 

そして。

そして、それはシービーの方だ。

 

「アアアアアアアア!!!」

「ウウウウウウウウ!!!」

 

粘るが、シービーは僕よりも速かった。

僕を置いて、ゴールへ駈け込んだ。

 

『ミスターシービー1着!! 毎日王冠の雪辱を果たしました! 1/2バ身ほど離れてブラックトレイター2着!! これが三冠ウマ娘の底力か!!』

 

息が苦しい。

息を入れなかったのは、結果的に失敗だった。

やはり根性だけでは勝負には勝てないか。

 

シービーは掲示板を見る。

 

「やっ――」

 

そして、大きくガッツポーズをする。

 

「たあああああああああああああ!!!」

 

鍛え上げられた肺活量はその喜びを十分以上に表現した。

そして、その瞬間観客席は大きく湧いた。

 

「くっそ……情けないな……」

「ラック! ラァック!!」

「なんだよシービー」

「勝ち! アタシの勝ち!!」

「それ、僕に言う? 全くもう、おめでとう。負けたよシービー」

「やったー!! 楽しかったぁ!!」

「ちょ」

 

シービーは喜びのあまり僕に抱き着く。

すでに悲鳴を上げていた僕の脚が耐えられることもなく、僕は倒れそうになる。

十数歩バランスを取ろうとしてふらふらと千鳥足を踏む。

そして、どうにかして観客席近くのふちに掴まった。

僕は観客に話し声が聞こえてしまうのでどうにか取り繕う。

 

「みんな見てるんだぞ!」

「いーじゃーん! アタシの勝ち! アタシの勝ち!!」

「もう、あなたたちは変わらないですわね」

「え?」

 

僕とシービーは顔を上げる。

観客席には丁度モンスニーちゃんがいた。

 

「モンスニー」

「モンスニー! アタシ勝ったよ!! トロフィーいる?」

「ほいほいあげるものではありませんのよ?」

「そう?」

「そうですわ。それよりも、優勝おめでとうございます、シービー」

「ありがとう! 今度はモンスニーだね!」

「ええ、そうあれるように一層の努力を惜しみませんわ。それとラック」

「なんだ?」

「あの時の約束、覚えていますか?」

 

あの時。

僕がモンスニーちゃんの家に行ったときのことだろう。

一緒に天皇賞に出る。

そして、優勝をかけて戦うのだ。

 

「もちろんだ」

「では、心配いりませんね。落ち込んでいる暇など、ありませんよ?」

「――もう、わかってるよ。ありがとね、モンスニーちゃん」

「ええ。……では、次の天皇賞で」

「ああ!」

「待ってるからね!」

 

それからシービーはウイナーズサークル、僕はウイニングライブの準備のためにそれぞれの場所へ向かう。

負けたのは悔しいが、やることはやらないといけない。

その時、サンオーイから声をかけられる。

 

「ブラックトレイター」

「……義理堅いのか、負けず嫌いなのかどっちだお前は。あいさつなんぞいらん」

「あいさつじゃねえ! ……認めてやるよ。お前はスターだ」

「あ? 俺がスター? 寝ぼけてんじゃねえ。俺ほど嫌われたウマ娘はいねえぞ?」

「何言ってんだ。寝ぼけてんのはお前だろうが。見てみろよ」

 

そう言って、サンオーイは顎で観客席を指す。

そこには負けたというのに、僕のイメージカラーの旗を振り回す観客たちがいた。

もちろんシービーのイメージカラーが大半だが、それでも確実にいる。

 

「勝ち取った場所で、下向くな。あたいに勝ったんだからな」

 

僕はしばらくその光景を眺めていた。

 

 

 

ジャパンカップまで、後1ヶ月。

 

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