『シンボリルドルフ、今1着でゴールイン!! 2着に5バ身の差をつけてその強さを証明しました!! そして、このレースで8戦8勝、無敗の三冠達成です!! このトゥインクルシリーズに未来永劫語り継がれるだろう伝説を打ち立てました!!』
「ほらここ! 絶対僕を見てる!」
「いや、こっち見てる! ちょっと右見てる! アタシ見てるって!」
「ちゃんと見てよ! ほらもう一回見るよ!?」
『シンボリルドルフ、今1着でゴールイン!! 2着に5バ身の差をつけてその強さを証明しました!! そして、このレースで8戦8勝、無敗の三冠達成です!! このトゥインクルシリーズに未来永劫語り継がれるだろう伝説を打ち立てました!!』
「ほら、三本指立てた瞬間! 見てるって!」
「だから、アタシを見てるって! アタシのためにこのパフォーマンスしてると言っても過言ではないよ!」
「ちょっと、これ拡大できないの!? この綺麗な瞳には僕が映ってるはずだから!!」
「ちょっと落ち着け二人とも……」
僕らは今、生徒会室にいた。
今日は休みということもあってこうして久しぶりに三人で集まっていたのだ。そして、生徒会の仕事もあらかた終わらせている。
ちなみにグルーヴちゃんは今まで仕事を任せていたので休んでもらっている。
「ルドルフはどっち見てたの!?」
「アタシだよね!?」
「……二人を見ていた、と言ったら?」
「僕だけを見てよルドルフ。どこでも、レースでも君の瞳を独占したいんだ。ダメ、かな……?」
「いいや、ルドルフ。アタシだけを見ろ。君にはアタシしか必要ない。君の全てをアタシに捧げるんだ。わかったね?」
「なんだその変わり身の早さは。じゃあ、どっちも見てない。この話はこれで終わりだ」
「えーん、ルドルフが冷たい~!」
「えーん、ルドルフが冷めてる~!」
僕とシービーはルドルフに抱き着くが、しらっとした目で見られる。
「さすがに君たちのからかいにはもう動揺しないぞ。本気じゃないってわかっているからな」
そう言われて僕らはお互いを見る。
「つまり、それって本気だったら受け入れてくれるってこと?」
「そういうことだよね?」
その言葉にルドルフの顔が引きつる。
「待て待て待て、言い方が悪かった。動揺しない、だけで良かったな。うん。本気にするな」
「ルドルフ……」
「待て! それ以上近づくな! 顔が怖いぞ!」
「そんなこと言わないで?」
「くそ、何がそこまで君たちを駆り立てるんだ!」
ルドルフは椅子ごと後退ろうとする。
その拍子にテレビのリモコンを落としてしまう。
ピと先ほどまで見ていた録画の画面は地上波の映像に変わる。
「む、二人とも」
「なに? 誤魔化そうとしてる?」
「いや、ジャパンカップの出場者がいるぞ」
「え?」
僕らがそちらを向くと確かにベッドタイムさんとマジェスティーズプリンスさんが映っていた。
記者会見のようだ。
どうやら、ジャパンカップ直前ということで先にやってきている二人に直前インタビューを開いているようだ。
二人は並んでインタビューを受けている。
険悪な感じもなく、普通に話し合いながらインタビューを受けている。
興味が湧いたので、大人しくそれを見ることにした。
「お二人が来日してから数日が過ぎましたが、日本での生活はどうでしょうか」
質問には英語で答えている。
それを横の人が通訳する。
だが、僕は英語は聞き取れるので特に必要なかった。
ニュアンスもある程度聞き取れるようになったので、通訳の人が隠そうとしているものも感じられる。
『悪くなかった。やはり日本の飯は美味かった。来てよかった。後は女の子も可愛いな』
『それについては同意だな。飯は上手い! ま、ちょっと小さいが……。私はあのかつ丼ってのが気に入ったな! ビッグサイズはないのか?』
「あ、ありがとうございます。ジャパンカップに向けて調整はなされているのでしょうか?」
『もちろんだ。蟻を潰すのにも全力を出す主義なんだ。油断もなにもない。日本の芝にも慣れた』
『へぇ~。蟻ってのは私のことも含めてるのかい?』
『……いや、そうだな、少しだけ骨のあるウマ娘はいるようだ。ここにいるのは日本のウマ娘だけではなかったのを忘れていた』
『ううん、やりづらいな? これじゃ私がわがまま言ってるみたいじゃんか。……調整に関しては私も同じだ。芝なら誰にも負けやしないさ』
「では、優勝の自信はあると」
『もちろんだ。負けることは万に一もあり得ないな』
『おおっと、今日はとことん意見が合うな。私もだ』
「では注目している選手はいますか?」
そう言うと、先に応えたのはマジェスティーズプリンスさんだった。
『シンボリルドルフとミスターシービーだな! で、どっちかっつーとミスターシービーだな』
「理由をお聞かせ願えますか?」
『実はレースを観てるわけじゃないんだ。だけど、聞いてる限り、知り合いに教えてもらったウマ娘ってのがこっちっぽいんだよな。だから当日に会うのが楽しみだ』
「ありがとうございます。ベッドタイムさんはどうでしょう?」
ベッドタイムさんは少しだけ考える。
そして、不敵に言い放った。
『シンボリルドルフだな』
「おお、そうですか。理由をお聞かせください」
『菊花賞を見た。シンボリルドルフの強さは確かに感じられた』
だが、とベッドタイムさんは続けた。
『だが、なんだあれは? 他のウマ娘はてんで話にならない。日本のレベルは低すぎる。ほんとにあれはレースか? 私は遊びに来たんじゃないぞ』
その言葉にルドルフの目が細められる。
『天皇賞も見た。チラッとだけだがな。ミスターシービーとかいうウマ娘も期待したほどではなかった。だから、あえていうならシンボリルドルフだ。それも私には遠く届かないが。日本のウマ娘は、遅すぎる』
僕は思わず画面を睨みつけていた。
シービーが期待外れ?
こいつ、目が見えてねえのか?
僕らの殺意とは裏腹にベッドタイムさんはマジェスティーズプリンスさんに同意を求める。
『そうだろう? マジェスティーズプリンス、お前も思っていることだろう?』
それについてマジェスティーズプリンスさんは頭を掻いて、答え辛そうにする。
『あー、ほら、私はレース見てねえからさ、答えられることはなにもねえわ』
『嘘吐くな。お前ならば歩いているウマ娘を見ればレベルを図れるだろう?』
『……ああ、まあな』
『この国をどう思った?』
『はぁ~、こういうこと、あんまり言いたくねえのよ。実力主義の国から来てるんだぜ?』
『正直に答えろ』
『わかったよ、そんなに怖い顔をするな。……正直言って、ここはここだけでやるべきだな』
その言葉に僕らはマジェスティーズプリンスさんもそう思っていたのかと驚いた。
『ここのトレセン学園に行ったが……世界にこの国のウマ娘の居場所はない。格式高いレースに出ているらしいウマ娘にも偶然会ったが……期待してたほどじゃなかった。ジャパンカップっつー賞金のでかいレースを用意してくれたのには感謝してるがな』
『そういうことだ。この国の伝説なぞ、私の国にはゴロゴロいる』
そう言うベッドタイムさんは当たり前のことを言うような顔をしていた。
それを僕は許せなかった。
僕らが戦ってきたウマ娘たちは決して『どこにでもいるウマ娘』ではなかった。みんな夢を持って、自分だけの輝きを持って、あるいはそれを求めて走った。
たとえ勝てなくてもそれを否定することは許せない。
確かに僕らがいる場所は勝負の世界だ。
だからこそ、勝てないことを否定してはいけないんだ。
そう思っていたのは僕だけではなかった。
ルドルフも、シービーもその画面を睨めつけるように見ている。
「ねえ、二人とも」
「なんだ?」
「なに?」
「ジャパンカップ、表彰台作ってもらおうよ」
「それはどうしてだ?」
「さっきの話じゃないけど、僕は二人のこと好きだからさ。最高の勝利には両手に花が欲しいんだ。それが二人以外は嫌だなって」
「ふ、いい考えだ。だが、その真ん中は私がいただこう」
「え! ダメだよ! それはアタシがいい! アタシが一番真ん中がいい!」
「どっちにしろ、3位以内は独占だ。それは約束といこうじゃないか」
「うん」
「オッケー!」
シービーはそのまま立ちあがる。
「ねえ、ちょっと走ろうよ。あんなこと言われたら我慢できなくなっちゃうよ」
「ふ、今の私は手加減できないぞ?」
「僕も、ジャパンカップ前に潰しちゃうかも」
「上等!」
僕らはそれに倣う様に立ち上がった。