ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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とっても短いです


The Miracle of Dreams

勝つ。

勝つ。

勝ってやる。

他の誰でもない、僕が勝つんだ。

 

トレーニングはより一層激しくなる。

もうジャパンカップまで時間がない。

僕には回復力があるから、ギリギリまで自分を追い込める。

 

その日も夜までトレーニングをする。

集中して、集中して、追い込んで、追い込んで。

ただ自分を深めていく。

 

そうしていたから、僕は最初来訪者に気づかなかった。

気づいたのは自分の水分不足を感じて、ボトルを取ろうとした時だ。

投げ捨てておいたボトルを拾い上げて砂を拭いて渡してくれる人がいた。

 

「やあ、こんばんは」

「……プロミス先輩?」

「うん、久しぶり。ちょっと休憩しない?」

 

そのウマ娘は怪我で引退したプロミス先輩だった。

 

 

 

先輩は空になったボトルを見て、自販機でスポーツドリンクを買ってくれた。

そうして、あの時みたいだと笑った。

最初の合宿の日のことだろう。

もう2年前だ。

 

「先輩はどうしてここに?」

「ジャパンカップに出るって聞いてね。顔を見たくなったんだ」

「ありがとうございます! 僕も先輩に会いたかったですよ」

「あはは、嬉しいね」

「……それで、足の方は……」

「ん、まあ、生活に支障がないくらいにはなったかな」

「そうですか、良かったです」

 

先輩は柔らかく微笑む。

 

「どう? ジャパンカップ、勝てそう?」

「……正直、わからないです。シービーは当たり前だけど、ルドルフの仕上がり方はウマ娘史上最高なんじゃないですかね」

「そっか。私もあの菊花賞、嘘でしょって言っちゃったもん」

「ですよね? あれで本気じゃないんだから笑っちゃいますよ。……でも、勝ちます。だって……」

「わたしたちはそうやって生きていくんだから?」

「……はい。先輩に教えてもらったことです」

 

先輩は足を摩る。

それは無意識だったのかもしれない。

 

「やっぱりまた走りたいですか?」

「ううん。って言えたら良かったんだけどね。やっぱりジャパンカップに置いてきちゃったものはあるかな」

 

ぎゅっと手を握り込む。

その顔には無念さが滲んでいる。

あの時、先輩は確かに1着へ届いていた。

怪我さえしなければ、きっと世界に届いていた。

 

「あはは、やっぱり悔しいや」

「……先輩」

 

先輩は僕の服をぎゅっと掴む。

顔を歪ませながら、言う。

 

「ラックくん」

「はい」

「本当はこんなこと、言いに来たんじゃなかったんだけど」

「言ってください」

「ジャパンカップ、勝って。わたしが取りこぼしたものを取ってきてほしい」

「はい、任せてください」

 

力強く、そう言う。

元よりそのつもりだ。

先輩はそれを聞いて、力を抜いて笑った。

 

そして、すとんとその場に座った。

 

「少しわたしの話をしていい?」

「もちろんです」

 

先輩は僕のシューズの一つを拾い上げて話す。

 

「わたしには憧れが2つあったんだ」

「2つ?」

「1つはジャパンカップ。小さい頃見たあの光景を忘れられずにそっくりそのまま夢になった」

 

その瞳はまだその光景を夢想しているようだった。

 

「もう一つはウマ娘」

「憧れた人がいたんですね」

「うん。あのデッドヒートを忘れられない。私の走りは実は私なりにあの人を真似たんだ」

「そうなんですか?」

「うん。形になったのは、ずいぶん後だけどね」

 

先輩はそう言って、シューズを履いた。

きゅっと靴紐をきつく締め、一度大きく深呼吸する。

そして、立ち上がる。

 

「先輩? 何をして……」

「そのウマ娘の名前は……『テンポイント』」

 

その告白に僕は驚く。

テンポイント。

トレーナーの教え子で、トレーナーがああなったきっかけ。

 

じゃりじゃりと先輩はウッドチップの踏んでレーンに行く。

危ないですよと駆け寄ろうとすると、先輩はそれを制する。

額に脂汗を滲ませながら、僕の引いたスタートラインに立つ。

できるはずがないと喉まで出かかった。

 

「わたしは……奇跡が起きたってもうレースでは走れない」

 

その瞳が燃える。

 

「だけど、奇跡があるのなら、それをここで起こす」

 

正面を睨みつける。

 

「見ていてほしい。それだけでいいから」

 

僕にはそれを止める言葉がなかった。

ただ、言葉もなく、頷いた。

 

もう一度、先輩は大きく深呼吸をする。

 

「行くよ――」

 

その光景を僕は生涯忘れないだろう。

キョウエイプロミスというウマ娘を。

その夢の残骸を。

 

「――これがわたしの、『全身全霊』だっ!!」

 

 




前回、前々回の話でよくわからないという感想をもらいました。
実は自分でも作中屈指の難産だったので、少しだけ解説を入れます。
わかってるよーという方はスルーしてください。



ラックとシンザンの考えの道筋は少し違います。
シンザンはURAの悪い部分を切除したい。
ラックは自分のしてきたことを清算し、トレーナーを続けさせたい。そして、それをするためにはURAの腐った部分も切除したなくてはならない。
目標に到るまでのプロセスが違うのです。
簡単に言うとラックは自分がしたいこと以外にはあまり目を向けていないです。
もっと言うと、ラックはラックの主観的な罪を見ているので、ラックにとって一般的な罪科はあまり関係ないのです。罪の重さもラックはラックが判断しているので、大分主観的です。

「極論社会的な罪は重要じゃなくて、ラックが悪だと考えた相手を対象に罰を与えたいんだろう」と感想をくれた方がいらっしゃいました。
今回言いたかったのはまさにその通りのことです。
感想をくださった方、ありがとうございました。
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