ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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Preparing for battle

それはジャパンカップの3日前だった。

僕とルドルフはシービーに呼ばれて東京レース場に来ていた。

 

「何? 僕ら何で呼ばれたの?」

「そうだ。レースでも見に来たのか?」

「違うよ! サプライズだよ!」

「サプライズ?」

「……それはサプライズって言っていいことなのか?」

「いいのいいの!」

 

シービーはそう言って僕らの背中を押す。

向かうのはレース場ではなく、ウイナーズサークルの部屋のようだ。

 

その部屋に近づくと、中から話し声が聞こえてくる。

何人も人がいるようだ。

 

「誰かいるの?」

「まあね! よし、時間ぴったり! 入るよ!」

「ちょ、ちょっと!」

 

シービーは時間を確認したかと思うと、そのまま両開きの扉を大きく開ける。

その瞬間、僕らはフラッシュに焚かれる。

 

「な、なんだ?」

「なにこれ!?」

 

困惑する僕らに中にいる人たちが声をかけてくる。

 

「どうぞ、こちらへ!」

 

目が慣れると、そこはまるで記者会見のような体をなしていた。

……というか、舞台にはジャパンカップ直前インタビューと書かれている。

思いっきり記者会見だった。

 

「……これがサプライズか?」

「ううん? 別にこれはやっておいてって言われただけ」

「じゃあ、先に言ってほしいんだが?」

「え? ああそうだね?」

「なんで疑問形なんだお前は……」

 

僕はとりあえず素を隠しながらシービーに意図を聞くが、首を傾げられる。

何故だ。

 

「とりあえずゴーゴー! 仕事だよ!」

「こいつめ……」

「仕方ないな……」

 

僕らはとりあえず舞台に上がってインタビューを受けることになった。

真ん中にシービーをおいて、右に僕、左にルドルフが座る。

よく見れば舞台袖のところには沖野トレーナーが東条トレーナーにシバかれていた。東条トレーナーも今来たみたいだし、今知ったらしい。

 

「来てくださってありがとうございます! 早速質問なのですがよろしいでしょうか!」

「いいよー」

「ありがとうございます! ではまず、シニア級のお二人とクラシック級のシンボリルドルフさんは初対決ということなのですが、お互いの印象をお願いします」

「では、私から。そうだな、二人は尊敬すべき先輩だ。その実力も特出しており、私は『シンザンを超えた』と言われることがあるが、私だけではないと考えている」

「アタシはそうだなぁ。やっぱり強いよね、ルドルフ。菊花賞見た? あのレースができるウマ娘を他に知らないからね。才能という点ではウマ娘随一だし、努力も怠らないし、早く本番で一緒に走りたいって感じかな」

「……俺は、戦ったら勝つだけだ」

 

僕は言葉少なくそう言う。

僕は演技をやめたわけじゃない。

というよりも、演技をやめたら要らない混乱が起こりそうで続けている。それにシンザン会長にもURAの会長に勘づかれないために続けてほしいと言われている。でも、挑発行為は控えている。……ビッグマウスだけは演技の癖だからどうにもならないけど。

 

「では続いて、ジャパンカップに出走表明した理由をお願いします!」

「じゃあ、それは一番最初にした俺からだな。単純だ。そこを取れば日本一だってのは証明できるんだろう? まあ、ここまでメンバーが集まったんだ。世界を取れるってのは嬉しい誤算だな」

「アタシはラックが出るって聞いたのがきっかけだったかな。でも、今はそれだけじゃないよ。他の参加者の反応を見て勝たなきゃって思った」

「私も、ブラックトレイターがきっかけだな。……迂遠な言い回しになるが、生徒会長の座を乗っ取ったお返し……というべきか。だが、私は三冠を取ることを目標にしてきたが、それ以上にジャパンカップで勝つために自身を鍛えてきた」

 

そう言うと、記者はルドルフの発言を掘り下げる。

 

「菊花賞からの期間が短いという意見もありますが」

「それについては、全く問題ないと言っておこう。先ほども言った通り、私はジャパンカップも目標に調整をしていた。菊花賞で消費するような走りはしなかったさ。それこそ、皐月賞前から決まっていたことだ」

 

その返答に会場はおぉと感嘆の声を上げる。

 

「続きまして、海外の参加者のウマ娘についてをお願いします!」

「じゃー次は順番的にアタシかな。まあ、勝つよ。相手が誰だろうと負けないよ」

「それは私もだ。全てのウマ娘の見本になれるような走りをすると約束しよう」

「勝つ。それに関しては同感だな。どうあっても俺が1位だ」

 

三人がそれぞれ勝つということを告げる。

 

「今回は日本最強の布陣という意見も多いのですがそれについてご意見は!」

「ああ、俺がいるからな。こいつらがいなくても最強の布陣だ」

「布陣って言っても、一緒に走るからには敵だよ。そう言う意味ではラックに同意見。アタシがいるから最強の布陣かな」

「まあ、そういうことを聞きたいのではないのだろう。だから、私は最強の布陣ということについては肯定しておこう」

 

皇帝の肯定……ふふ、と笑っているルドルフを無視することに僕は全神経を集中させる。

 

そうやってインタビューは続き、あらかた答えたところで司会者は驚きのことを言った。

 

「では続きまして、偉大な功績を打ち立てたお三方にはURAから新たな勝負服が贈呈されます!」

「は?」

「なに?」

「やったー!」

 

上から順に僕、ルドルフ、シービーだ。

思わずシービーを見ると、にししと笑った。

これがサプライズか。

 

「ほら、三人で何かお揃いの勝負服やってみたかったんだ! ね、あの時話したこと! だからシンザン会長に頼んで作ってもらった!」

「……なるほど」

「そういう話は早く言え!」

「えー言ったらサプライズじゃないじゃん!」

 

うん。

それはそう。

でも、その話は素直に嬉しかった。

去年の夏合宿前に冗談半分で話したことを覚えているなんて。

 

運ばれてきたのは、黒を基調にした勝負服だった。

基本的な構造は同じようだが、意匠は違うモチーフになっている。

 

ルドルフは王冠が付き、スカートが鎧の腰巻になり、腰には杖がついている。

マントも相まってまさに王と呼べる出で立ちだ。

軍服ではなく、中世の王様のイメージがある。

 

シービーは上半身の服が薄い鎧になり、マントがついた。加えてデカいベルトには小さい剣がついている。頭のトレードマークのハットは緑の宝石のついたカチューシャのようなものに変わり、CBと直接彫られている。

勇者然とした恰好だ。

 

僕はスーツが軍服風に変わり、長いマントがついた。だが、ただの軍服ではなく、足や肩下に鎧がついている。そして、ハチマキがついている。

なるほど、僕は魔王か。

 

全員が物語の登場人物のようで、確かに『お揃い』だ。

そして、全員に『馬』のエンブレムが鎧に施されている。

シービーを見ると、そこが気に入っているようなのか、エンブレムを指先で撫でていた。

僕の視線に気づくと、小さく笑って声には出さずに「お揃いだね」と言った。

これには僕も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

そしてインタビューは続き、最後にと司会者は僕らに言った。

 

「最後に何か一言だけでもお願いします」

「じゃーアタシから! 絶対勝つ! みんな見に来てね!」

「では次に私が。見ていてくれ、私が勝つところを」

 

僕は少し黙った。

そうか、言っておかなきゃいけないことか。

 

「……ブラックトレイターさん?」

「一つ、言っておかなきゃいけないことがある」

「それは?」

「俺のトレーナーのことだ」

 

そう言うと、会場が少しだけざわめいた。

だが、それもすぐに収まり、僕の言葉を待った。

僕は深呼吸をして、マイクを手で持つ。

 

「……俺のトレーナーが悪かったのか、それとも俺が悪かったのか。今更それを論じることはしない。誰がどう言おうと、信じるか信じないかはそいつ次第だからだ」

 

でも、これだけは言っておかないといけない。

これは楔だから。

 

「だから、俺から一つ真実を話す。これだけは絶対に本当だ」

「それは、何でしょう?」

「俺は……ブラックトレイターというウマ娘はトレーナーによって育てられたウマ娘だ。誰が悪で誰が悪ではないのかではなく、それだけは知っておいてほしい。ここまでの道のりはあのトレーナーなくして成し得なかったものだった。……以上だ」

 

言いたいことを言った僕はマイクを置いた。

これでいい。

後は、勝つだけだ。

 

 

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