ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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時系列で言うと前回よりほんの少し前の話です。


Don't regret it

夢以外で目標を持ったことはなかった。

 

この身すべてを夢に捧げるつもりだったからだ。

そうしなければ叶わない夢だと知っていた。

 

全てのウマ娘を幸福に。

 

大言壮語と笑われた夢だ。

だが、私はそれが叶うかもしれないと思わせるほどの実力をつけ、黙らせてきた。

一人だってやって見せる。

ずっとそう考えていた。

 

だが、そんな私に目標ができた。

マルゼンスキー、シービー、そして、ラック。

勝ちたい相手ができたのだ。

それだけじゃない。

エアグルーヴ。

負けたくない相手もできた。

 

少し前の私は今の自分を見てどう思うだろうか。

否定はしないだろう。

だけど、きっと肯定もしない。

昔の私は夢だけのために生きていたのだから。

 

「ルドルフ」

「……シリウス」

 

ジャパンカップが差し迫ったある日、私の元にシリウスがやってきた。勝負服をもらう前のことだった。

私は丁度いい時間だったので、トレーニングを中断する。

 

……もう夕方か。

どうにも集中するとやりすぎてしまう。

 

周りに誰もいないことを確認して、汗が滴っているシャツを脱ぎ、新しいシャツを着る。

するとシリウスがタオルを渡してくれる。

 

「ありがとう」

「ああ」

「丁度休憩にしようと思ってたんだ」

「……まだやるのか?」

「もちろんだ。ジャパンカップでは負けられないからね」

 

シリウスはふうんと言って、隣のトレーニング器具に座った。

制服なのでトレーニングをしに来たわけではないのだろう。

 

「どうしたんだ? 私に何か用があるんじゃないのか?」

「ああ。聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと?」

 

そう聞き返すと、シリウスは少しだけ黙って宙を眺めた。

いつも明け透けに言う彼女にしては珍しい沈黙だった。

そして、ため息を吐いて私に問うてきた。

 

「お前は外に興味はあるか?」

「外? 海外ということか?」

「ああ、そうだ」

「……そうだなぁ。確かに興味はあるな。今は今のことで精一杯だが、それがウマ娘のためになるなら私はどこへだって行くさ」

「そうか……」

 

相槌を打ったシリウスはまた少しだけ黙った。

 

「ダービー」

「? ダービーがどうかしたか?」

「ダービーに勝ったら海外へ行くことを許された」

「! 本当か!? 良かったな」

「ああ。お前の併せウマ娘としてな」

 

その言葉に私は思わずシリウスの顔を見た。

それはつまり、私が海外へ行かなければシリウスも行けないということだ。

 

「誰だ、そんなふざけたことを言った者は。シリウスのことに私は関係ないだろう」

「怒るな、ルドルフ。私の両親だ。私も理解してる。国内で走ることが私のためになることを。両親が私を真っ向から否定してるわけじゃないんだ」

 

その言葉に驚く。

今までのシリウスなら言われたことに反抗的になっていたはずだ。

 

「ルドルフ」

「……なんだ?」

「私は自分の夢を諦めない。今、屈辱的な気分を味わおうと、絶対に。だから、もしお前が海外に行くというのなら私を連れて行ってほしい。行かないというのなら、それでいい。また方法を考える」

「シリウス……」

「ラックに教えてもらったんだ。諦めなければできることを。私は絶対に世界を取りに行く」

 

シリウスはずっと燻ぶっていた。

夢を諦めるしかないと思わされていた。

だが、シリウスは成長して昔なら言わなかったことを言った。

なら、私も応えなければならないな。

 

「海外に行くことはトレーナーにも打診されている」

「! そうなのか?」

「ああ、ただしジャパンカップで優秀な成績を残したらという話だ」

「……そうか」

 

シリウスは私の肩を掴む。

そして、真剣な目をして私に言った。

 

「ルドルフ、私のためにジャパンカップで勝ってくれ」

 

その言葉を言うのにどれだけの屈辱的な気分を味わっただろう。

その言葉を言うのにどれだけの勇気がいるのだろう。

シリウスはずっと昔から私をライバル視していた。

それは家の立場もそうだったし、実力差からくる反骨心だったりした。いつも私を認めつつ、それでも私に対抗してきた。

そんな私にシリウスは言った。

夢のために。

 

誰かのために戦う。

それがこんなに怖くて、勇気の出ることだとは知らなかった。

 

「勝つ。私はシンボリルドルフだ。鎧袖一触とは言わない。だが、必ず勝つと誓おう」

「……ありがとう、ルドルフ」

「ああ、観ていてくれ」

「お前の勝利を願っている」

 

シリウスはそう言って帰っていった。

あのシリウスが……。

 

 

 

私は気合を入れて一層トレーニングに励んだ。

……と言いたいところだったが、そこでマルゼンスキーがやってきた。

 

「ルドルフー?」

「マルゼンスキー、こっちだ」

「まだここに居たのね?」

「ああ、もう少しやろうと思ってね」

「はーいダメよ。トレーナーからの命令です! 今日はもうおしまい!」

「む……」

「やりすぎは逆効果よ。効率良く行きましょ?」

「……そうだな、そうするとしよう」

「もう、不満を隠して言いなさい? 全く、誰に似たんだか」

 

私は少し恥ずかしくなって、誤魔化すようにタオルで顔を拭う。

マルゼンスキーは器具の片づけを手伝ってくれた。

私は制服に着替え、帰りの準備をする。

マルゼンスキーはその間も待っていてくれた。

 

「さ、帰りましょ!」

「……そうは言うが、君は寮住みじゃないだろう?」

「いーのいーの。たまには一緒に帰りましょ?」

「君がいいならいいが……」

 

私たちは帰路につく。

 

「で、どう? 勝てそう? ジャパンカップ」

「勝つさ」

「あら、すごい自信ね」

「さっき勝つ理由が一つ増えたからね」

「シリウスとすれ違ったわ。何話してたの?」

「ジャパンカップで勝って海外に連れて行ってほしいと言われたよ」

「あら意外。そういうこと言うタイプだったかしら?」

「普段なら何をされても言わないだろうな。だが、そのシリウスが言ったんだ。私はなんとしてでも勝つさ」

 

そう言うと、マルゼンスキーは柔らかく笑った。

そして、車のキーを指先で回して音を立てる。上機嫌な時の癖だった。

 

「楽しい? ルドルフ」

「楽しいか? それは、まあ、楽しくないわけではないが……」

「楽しみましょう、ルドルフ。これはきっと神様があなたに与えた最高のレースよ」

 

最高のレース。

その言葉に私は深く納得した。

確かにそうだ。

シービー、ラック。

そして、ジャパンカップという日本のウマ娘として前人未踏のレース。

マルゼンスキーの言う通り、最高だ。

 

マルゼンスキーは車のキーを片手でマイクのように持つ。

 

「シンボリルドルフ選手、ジャパンカップの意気込みをどうぞ」

 

そう言って、私に向けてくる。

その様子に少しだけ私は笑う。

彼女はこういう子供っぽいところもあるのだ。

 

「ふ、必ず勝つと誓おう。私はシンボリルドルフ、絶対の皇帝だ。それを今再び証明しよう」

「素晴らしい意気込みですね! 注目している選手はいるのでしょうか!」

「それはミスターシービー、そして、ブラックトレイターです。私は彼女らに憧れた。ここまで熱くなれるのは、きっと彼女たちのおかげです」

「憧れであり、ライバルということですね!」

「ああ、だが、一つ心残りがある」

「? それはなんでしょうか」

「最高の舞台で、メンバーも素晴らしい。だが、そこに君がいないことだ、マルゼンスキー」

 

そう言うと、マルゼンスキーはぴたりと止まった。

そして、相好を崩した。

 

「嬉しいこと言ってくれるわね、ルドルフ」

「最近知ったんだ。レースは楽しいものだと。みんな真剣で、勝ちたいからこそ楽しいんだ。それを教えてくれたのは君だ、マルゼンスキー」

「そっか」

「だから、君とも戦いたい。楽しいレースをしたいんだ」

「ふふ、ずいぶんわがままになったのね、ルドルフ」

「そうだな。でも、こんな自分が嫌いじゃないんだ」

「私も大好きよ」

 

もう日が完全に沈み、月が見えている。

私は陸橋の中腹で立ち止まった。

それに気づいたマルゼンスキーは1歩先で振り返る。

 

「全力で、本気で戦ったレースで私に負けたら君はどんな顔をするんだ? マルゼンスキー」

「わからないわ。私にもわからない。その時になってみないと」

「私は……君が泣いているところが見たい。悔しいと、叫びながら泣いているところが見たいんだ」

 

酷く傲慢な物言いにマルゼンスキーは薄く笑う。

だが、その微笑みは私には獰猛な笑みに見えた。

 

「ああ、楽しみだわ、ルドルフ。ずっと一人だと思ってた。どうしてこの時代に生まれたのかって思ってた。だけど、今は違う。私、この時代に生まれて良かった。あなたたちがいたから、この時代に生まれることができて嬉しいの」

 

だから、と言ってマルゼンスキーは私の胸に拳を当てる。

 

「ジャパンカップ、勝ちなさいルドルフ。そう言うのなら、あなたの強さを証明して見せて」

「ああ、何度でも誓おう。勝ってくるさ」

 

私もマルゼンスキーの胸に拳を当てる。

そして、私たちは見つめ合った。

 

それから少しして同時に笑い合った。

 

「あー、おかしい。普通言うかしら、泣いてるところがみたいなんて」

「君こそ、それに楽しみなんて言うか?」

「だって、楽しみだったんだもん」

 

私たちは再び歩き出す。

 

「私ね、ダービーの前にラックちゃんに酷いこと言ったの」

「酷いこと?」

「ええ、君はもうシービーちゃんには追い付けないって。だから応援してるって」

「……そうか」

「でも、ラックちゃんは強くなった」

「そうだな」

「ルドルフ、今回あなたは挑戦者よ。私はあなたを応援するわ」

「ふふ、ありがとう」

 

思えば、ラックとは3年の付き合いだ。

最初の印象は最悪だったが、今となってはあれだけ強いウマ娘を他に知らない。

 

「私もウマ娘だな」

「? どういうこと?」

「やっぱり本能には逆らえないらしい」

 

私は本当にわがままだ。

ラック。そして、シービー。

私は君たちの泣き顔も見てみたいんだ。

 

 

 

 

 

負けられないレースがある。

それはアタシにとって菊花賞だった。

 

あの時、ラックを倒さなければ、ラックはいつか破綻して壊れてしまっていた。その時はそれをぼんやりとしか理解していなかったけど、今ならあの時のラックがどれだけ危険な状態だったのかわかる。

 

そして、もう一つ負けられないレースができた。

ジャパンカップだ。

 

アタシは菊花賞の後、ラックに最強の座を懸けて戦おうと言った。

毎日王冠や天皇賞秋で戦ったけど、それじゃない。

世界の強豪が集まり、そして、三冠を取ったルドルフも出てくるジャパンカップこそが最強の座を懸けて戦うにふさわしいレースだと思ったからだ。

それに、そこでラックに負けたら、ラックはここじゃないどこかへ行ってしまう。

嫌だ。

ずっとアタシの隣で走ってほしい。

 

調子は落とさない。

それどころか、どんどんと上がっていくのがわかる。

これ以上ないほどの仕上がりだ。

 

「なあ、パイセン」

「なに? ゴルシ」

「なぁんでそんなにがんばんのさ。パイセンならジャパンカップくらい余裕だろ?」

 

どこからそんな考えが出てくるのかわからなかったが、ゴルシらしくてアタシは笑ってしまった。

 

「ジャパンカップがどういうレースかわかってる?」

「そりゃ知ってるけどよ、世界の強豪が集まろうが、生徒会長様が出てこようが、グレースケールが出てこようがそこまで強かったら余裕だろ?」

「全然余裕じゃないよ」

 

アタシは丁度休憩の時間だったのでゴルシの横に座ってドリンクを飲む。

 

「全然余裕じゃない」

「二回言わなくたって聞こえてるって。じゃー誰が強いんだ? 生徒会長様?」

「そうだね、ルドルフは強いよ。でも、誰がとかじゃないんだ」

「どゆこと?」

「一生に一度、最高のレースがある。きっとアタシにとってジャパンカップがそのレースだ」

 

そういうとゴルシはあんまりピンと来ていないようで、首を傾げている。

 

「つまり、バニシングポイントってこと?」

「ううん、どっちかって言うと黄金螺旋かな。あるでしょ? タイミングって」

「後悔したくないのか」

「そゆこと」

 

ゴルシは結構独特な理解の仕方をする。

その分、物覚えはいいんだけど。

 

「最高のレースには最高の状態で挑みたいんだ。もう後悔なんてしたくない」

「ふうん、後悔したことあるんだ?」

「あるよ。ほんと、バカだった。ゴルシ、一つだけ教えてあげる」

「なんだ?」

「レースは自由に走っていい。本気を出さなくても、全力で挑まなくてもいい。だけど、後悔だけは絶対にしちゃいけない。君はアタシと似てる部分があるから、特にそうだ」

「ゴルシちゃんがパイセンと?」

「うん。安定性がないとことか」

「さすがのゴルシちゃんも欠点で同類とは思われたくなかったな……」

「ジャパンカップは最高の状態で全力を出さないとアタシは絶対に後悔する。全力じゃなかったら勝ったって後悔する」

 

だから、アタシは全力で自分を高める。

今だけは最高の自分でありたいから。

 

「そんなもんかね、レースって」

「ゴルシもライバルが出来たらわかるよ」

「ライバル? ゴルシちゃんはいらねえなぁ。鯛の刺身の方が嬉しいぜ」

「気に入らない相手でもいい。きっと、楽しいよ」

「ふうん」

 

ゴルシは興味なさげに相槌を打つ。

手にはルービックキューブ。

 

アタシはその様子を見て穏やかな気持ちになる。

世話のかかる後輩だ。

いつか、わかる日が来る。

 

「じゃあ、トレーニングに戻るよ」

「そっかー、じゃあ頑張れよ、パイセン」

「うん、ありがとね」

「おう、お礼はジャパンカップのトロフィーでいいぜ」

「いいね、じゃあそういうことで」

 

 

 

「よし、今日はここまでだ。よく頑張ったな」

「うん、ありがと、トレーナー」

 

日も沈み、今日のトレーニングを終える。

ゴルシはいつも通り気づいたら消えていた。トレーナーが一度探しに行ったようだが、結局見つからなかったようだ。

 

「うん、状態は良い。このままジャパンカップまで気持ちを保っていこう」

「それは大丈夫。もう寝ても覚めてもジャパンカップのターフを思い浮かべてるよ」

「ほどほどに、と言いたいところだが、お前ならそっちの方がいいな」

「うん、大丈夫。集中力は切らさないよ」

 

その言葉にトレーナーは頷く。

 

「よぉし、今日はおごってやる! 何か食いたいものはあるか!?」

「ラックのケーキ」

「……それ以外で頼む」

「じゃー、トレーナーの作った料理が食べたいな」

「いいのか? 焼肉とか寿司でもいいんだぞ?」

「いーのいーの」

「そうか、じゃあ鍋でもするか! ゴルシも帰ってくるかもしれないしな」

「うん!」

 

アタシたちはスピカの部屋で鍋を囲むことになった。

アタシは片付けをしてシャワーを浴びる。その間にトレーナーが鍋を作る。

部屋に入った時にはもう美味しそうな匂いが漂っていた。

 

「お、来たか! ほら、トレーナー様特製鍋だぞ!」

「何入ってるの?」

「伊勢海老まるまる一匹買ったんだ! 海鮮鍋だ! うまいぞ!」

「おぉ~!」

「ほら、立ってないで座れシービー」

 

アタシは言われた通り、バッグを投げ置いて座る。

トレーナーが蓋を開けてくれ、良い匂いが部屋に充満する。

 

「美味しそう!」

「たんと食え!」

「いただきます!」

「おう!」

 

アタシは口を大きく開けて食べる。

熱い。

けど美味しい。

もぐもぐと箸を進めていく。

トレーナーはそんなアタシを見ている。

微笑んでアタシを見る表情がなんだか照れくさくて、アタシは声をかける。

 

「食べないの? トレーナー」

「え? ああ、食べるぞ」

 

そう言って、トレーナーはようやく食べ始める。

しばらくアタシたちは無言で食べ続けた。

そして、半分ほど食べたところでトレーナーはドアの方を向きながら言った。

 

「……ゴールドシップの分も残しといてやるか」

「うん」

 

立ち上がって、小さい鍋に分けていく。

 

「いやぁ、ゴールドシップが入ってくれて良かったぜ。このままだとスピカの存続も怪しかったからな」

「アタシが入った時は誰もいなかったからねぇ」

「ああ、あの時はお前がヒーローに見えたぜ、シービー」

「あはは! お昼寝したくて入ったらヒーローか。いいね」

「俺には今もお前がヒーローに見える。お前は世界一のウマ娘だからな」

「世界一かー! 悪くないなぁ」

 

分け終わり、それを脇に置く。

 

「でも、今もお前がみんなの英雄になるって言いだしたのは信じられないぞ。そういうタイプじゃないだろ、お前」

「まあね。別に気に入らなかったらやめるよ。アタシの想い描く英雄とみんなの英雄がずれたらやめる」

「お前の想い描く英雄?」

「うん。アタシ、誰かに憧れるってことほとんどなかったんだ。自由にできればそれで良かった。でも、ラックを見ててアタシもああなりたいってちょっと思ったんだ」

「そうか」

「ラックはアタシにとってヒールじゃなかった。ヒーローなんだ」

「ライバルでヒーローか」

「そう。だから勝ちたい。ラックにだけは負けたくないんだ」

 

憧れなんて、無縁のしがらみだと思っていた。

けど、君はアタシの光になった。

 

「頑張ろうな、シービー」

「うん、トレーナー」

 

そう言った時だった。

派手な音を立ててゴルシが入ってくる。

その手には何故か鯛。

 

「おう! 鍋なら鯛だろ! トレーナー! 用意してくれ!」

「は!? まさか追加か!?」

「あったりめえよ! ゴルシちゃんがせっかく釣ってきたんだ、美味しく調理しろよ!」

「ああもう、わかったよ。お前は分けてある鍋を食っとけよ」

「よっしゃ! このデブ!」

「そりゃただの悪口だ……太っ腹って言え……」

 

トレーナーは席を立って、アタシたちが食べていた鍋と鯛を持っていく。

ゴルシはさっきの話で鯛食べたくなったのかな?

美味しそうだし、嬉しいな。

 

ゴルシはどかっと座って鍋を食べ始める。

急いで食べるもんだから、頬に汁が飛び散っている。

アタシはそれを拭いてやる。

 

「パイセンあんがと」

「世話がかかるね、ゴルシは」

「かけさせてやってんのよ!」

「そりゃ嬉しいね」

 

バクバクと食べるゴルシは粗方食べ終わるとお腹を撫でる。

そして、なんでもないような声で話し始める。

 

「パイセンはさぁ」

「なに?」

「ジャパンカップ、後悔したくないって言ったよな?」

「言ったよ」

「それが望まない結果になったとしても、後悔しねえの?」

「負けたらってこと?」

「なんつーか、ほら、カメラみたいなもん。意外とパイセンは写実主義的なところあるじゃん?」

「あー、まあ、思うところはあるよ。未来を知ってたらって思う時はアタシにだってある。だけど、そんなのはつまんないじゃん」

「変えたいとは思わねえの?」

「ゴルシ、アタシたちは常に到達点なんだ。アタシたちは最高の時間を生きてる。これ以上はないんだよ。わかるでしょ?」

「……そっか」

 

ゴルシはその言葉に納得したようにうなずいた。

 

「ゴルシ」

「なんだ?」

「これからの話をしよっか」

「これから?」

「うん。アタシはね、スピカが大好きなんだ。アタシとトレーナーしかいなかったけど、大好きだった。ゴルシが入ってきてくれてもっと好きになった」

「うん」

「アタシがトゥインクルシリーズに入ってもう少しで3年。もう何年かしたらアタシはここを出なきゃいけない」

「そうだな」

「だから、その時はスピカを頼んだよ。トレーナーを支えて、スピカのリーダーとして頑張ってほしい」

「おう! ゴルシちゃんに任せな! きっと、いろんなウマ娘をとっ捕まえてやる! 反骨精神旺盛なやつらだろうが変わったやつらだろうがガキだろうが田舎者だろうがお嬢様だろうが関係なくゲットして、そんで日本一のチームにしてやるかんな! パイセンが自慢できるようなチームにしてやる!」

「ありがと、ゴルシ」

「あたぼうよ!」

 

ゴルシはにっこりと笑った。

そこでトレーナーが調理を終えた鍋を持ってくる。

 

「よぉし、ちょっと多くなったが3人もいるんだ、食い切れるだろ!」

「待ってました!」

「おほー、うまそうだ!」

「それじゃ……」

「「「いただきます!」」」

 




次回、ジャパンカップ開始。

明日は3回投稿をします。
7時半、19時半、21時半です。
どうぞよろしくお願いします。
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