ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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Evil King's Tale, Epilogue

『初めまして、だな? URAの会長さまに会えるとは光栄だ』

『ふん、感謝しろよ。私が直々に貴様に交渉するのだから』

『ふうん? で、交渉ってのは?』

『ジャパンカップの話だ』

『ああ、そういうこと』

『貴様が勝てるとは思っておらん。だからせめて海外勢の邪魔をしろ』

『へえ、俺が勝てないと。まあいい。一応聞こうか、そりゃまたどうして?』

『愚鈍が。シンボリルドルフかミスターシービーを勝たせるためだ』

『そりゃ結構。だが、それをする理由が俺にはないな』

『……業突く張りが。3億だ。それでいいだろう?』

『3億ってなぁ。ジャパンカップで勝っても3億だろ?』

『どうせ勝てないのだからいいだろう』

『それでもなぁ、天下のURAの会長様がケチ臭くないか?』

『……なら4億だ。それでいいだろう。わかっていると思うが……』

『わかってるよ。()()誰にも言わないさ』

『ああそう。で、肝心のシンボリルドルフとミスターシービーはそのこと知ってるのか?』

『知っているわけなかろう。堅物と自由人だぞ。言っても聞かん。だが、あの二人は貴様がどういう作戦で行くのかは知っているだろう』

『確かに俺の走り方知ってりゃそうだろうな。……で、邪魔っつっても露骨なことはできねえぞ。世界が注目してるんだからな。失敗すりゃ俺ごとURAが非難されるぜ。逃げれることじゃねえ』

『体当たりなどではない。大逃げしろ。菊花賞でしたことは知っている。あれをもう一度しろ』

『ふうん、あれをした結果は知っているのか?』

『ミスターシービーが勝ったろう? そんなことは知っている』

『……ああそう。ま、元々その予定だった。いつもと変わらねえさ』

『では、そういうことだ』

『待て待て、契約書とかあるだろ? 信用ならねえから、一筆書いてくれよ』

『……本当に小賢しいガキだ。いいだろう。だが、それが見つかったら……わかってるな?』

『わかってるさ。でも、ここを録音されてたらおしまいなんじゃねえの?』

『ふん、私の部屋だぞ。ありえんな。ここに近づく者は私の息がかかっている者だけだ』

『ふうん。ま、いいけど』

 

その録音でURA会長を告発したのは、URA宣伝長であり、会長補佐であるシンザンだった。

この会話をしている時、この二人以外にもシンザンが部屋にいたのだ。というより、秘匿されているがそもそもブラックトレイターを交渉の席に着かせたのはシンザンだった。

シンザンはずっとURAに利益をもたらしていたので、URAの会長に信用されていたのだ。

 

シンザンは言う。

 

『URAはこのようなことを繰り返しており、内部が腐っていました。決定的な証拠を残さないように尻尾切りを繰り返し、金儲けにトゥインクルシリーズを使っていたのです』

 

そして、シンザンはその立場を利用して得たURAの暗い部分を全てさらけ出す。

その中にはテンポイントの事件や持ち込みの制限のこともあった。

だが、URAの会長を失脚させた決定打はその録音だった。

 

ジャパンカップから半年後の、天皇賞春が終わった後の出来事だ。

 

それを非難したのはトレセン学園と、シンボリ家やメジロ家の者たちだった。

守るべきウマ娘を道具にしたことは許せないことだと。責任は取らなければならないと。

 

その結果、URAは組織の再編を余儀なくされた。

URAはもちろん、中央トレセン学園も所属組織として見直しが入った。

 

トゥインクルシリーズは荒れに荒れた。

URAは役員が大量に辞めさせられ、開催できないレースもあった。学園は後ろの暗いトレーナーが順々に解雇され、ウマ娘たちがトレーナーを失い、戸惑うこととなった。信用できないと辞めていったウマ娘やトレーナーもいた。

大混乱と言っても過言ではない大事件だ。

 

ジャパンカップで各国の代表を下した日本は世界中から注目されていたので、URAは逃げられなかった。

それを利用し、シンザンは徹底的に組織の浄化に努めた。

ネズミ一匹、アリ一匹逃がすことはしなかった。

URA所属の者はシンザンの姿を見ただけで悲鳴を上げるほどになった。

 

全てを失ったURAの会長はシンザンに詰め寄ることになる。

 

「何故だシンザン!! どうしてこんなことをした!?」

「どうして? そんなこと、あなたが一番わかっているんじゃないですか、会長」

「私はURAのために尽くしてきた! 実際ここまで盛り上がっただろう! ウマ娘の地位だって向上したはずだ!!」

「それはあなたの功績ではありませんよ。トゥインクルシリーズを走ったウマ娘たちのおかげです」

「だとしても、そうしたのは私だ! 今からでもいい、嘘だったと言え!」

「もう遅いです」

「遅くはない! まだ間に合う! 余計なことを言うメディアは消せばいいだろう!?」

「余計なことを言うメディアはそもそももう消したでしょう? それに遅いと言ったのは、責任追及を逃れることではありません」

「なに……?」

「あなたは罪を犯しすぎた。贖い切れないほどに。URA内部でもあなたを擁護する人間はいませんよ。あなたの居場所はもうどこにもないんです」

「シ、シンザンンンンンンン!!」

「お疲れ様でした、会長。あなたが作り上げたURAは私がぶっ壊します」

 

だが、それだけでは終わらない。

 

発起人であるシンザンや秋川理事長も非難されることになる。

もっと穏便に済ませられなかったのかと。これでは要らぬ被害が出てしまうと。

しかし、秋川理事長は屹然とした態度で言い放った。

 

『――否定。我々はずっと過ちを犯してきた。トゥインクルシリーズに関わる全ての人が罪を犯してきた。一人のウマ娘が病気で亡くなるところも、一人のウマ娘が期待によってすりつぶされるところも、一人のウマ娘が他人の都合ですべてを諦めようとしているところも……一人のウマ娘が! 誰かを護ろうとして傷つけられるところも!! 見て見ぬふりをしてきたのだ!! そうなったのは誰の所為だ!! 他でもない、私たちの所為だ!! 無知を言い訳にし、無知を暴力にし、無知を振りかざしてきた!! 誰も、彼も!! 全員が!! 我々に正義などない!! 痛みを伴おうとも清算しなくてはいけないことが今この場にあるのだ!!』

 

覚悟の灯った瞳で言う。

そして、優しく諭すように言う。

 

『学園にいるウマ娘たちも聞いてほしい。君たちも、君たちを護ろうとした存在を虐げた。知らなかった故だろう。悪いことをしていると思った故だろう。だが、それが人を虐げていい理由にはならないんだよ』

 

それは当たり前のことで、とても難しいことだった。

 

『そして、一番悪いのは私だ。ずっと色々なことを知りながらも仕方ないと済まそうとした。大切なものが手から零れ落ちてようやくこれではだめなんだとわかった。……今こそ、贖わなければならない。未来のために。私には、これから来るウマ娘たちの居場所を護る義務がある。……そして、ここが居場所だと言ってくれたウマ娘のためにも』

 

それは罪の懺悔であり、罪の追及だった。

今までの事実がひっくり返ったことによって観客たちの見る目、そして、観客たちを見る目が変わった。

 

トゥインクルシリーズに相応しいふるまいを。

それがファンたちにも適応されることになった。

 

一部の特定された悪質な観客はトゥインクルシリーズを追放されたりもした。

結果、改革初期の時代は荒れていたが、結果的にトゥインクルシリーズは客層も浄化されていった。

 

 

 

悪いことをしたなら、罰せられる。

それはブラックトレイターも例外ではなかった。

 

ブラックトレイターはトゥインクルシリーズから除名された。

URAとの契約書を持っていたからだ。これによって、再びブラックトレイターを嫌う人間からトゥインクルシリーズの汚点と呼ばれるようになる。

それを受けて黒沼トレーナーはURAの尻尾切りに突き合わされた存在だとして名誉を回復することになった。

復帰も時間はかからなかった。秋川理事長はトレーナーの辞表を受理していなかったので、そもそもまだトレーナーだったのだ。

 

ただ、ブラックトレイターがURAとどういう約束をしていたのかは公開された。

トゥインクルシリーズを盛り上げるウマ娘になる代わりにレースに出ることを邪魔しない。

簡単に言うとそういう約束だ。

 

ジャパンカップを終えたブラックトレイターは菊花賞の時よりも酷い状態だった。だが、本人も医者も呆れることに回復力も上がっていた。そして、誰が止めても約半年後の天皇賞春に出走した。

URAの摘発が入ったのはその直後だった。

 

摘発後にブラックトレイターは記者会見を開く。

だが、すべてにブラックトレイターは弁明をしなかった。

ブラックトレイターは言う。

 

「俺は長いこと迷惑をかけた。ルールも破っただろう。だから、全て受け入れる」

 

それを惜しむ声も、疑問の声も、罵倒の声もブラックトレイターは聞いた。

そして、ただ言葉少なく言う。

 

「シンザンが発表したことが全てだ。どうしてそんなことをしたのかというと、俺は自分の居場所を作りたかったからだ。結局、やり方が悪かったが……」

 

最後にブラックトレイターはとある頼み事を言った。

 

「俺がどんなウマ娘か、きっと憶測が飛び交うだろう。公表できることはしたが、俺の内心の隅々を他人が知ることはできない。俺を擁護してくれる声もあるだろうし、罵倒する声もあるだろう。そこで俺からの最後の願いを聞いてほしい。これからは俺の話題はどこでも出さないでくれ。散々荒らした俺が言えることではないが、ここから去る俺のことで喧嘩してほしくないんだ」

 

その頼みをファンたちは受け入れた。

あのブラックトレイターの最後の願い。

そうではなかったとしても、トゥインクルシリーズは新しくなる。その話題が新たなスターの邪魔になってしまってはいけないと考えた。

その結果、次第にブラックトレイターの話題は出してはいけないという暗黙の了解が出来上がっていった。

 

ブラックトレイターは最後に姿を見せた日……天皇賞春を走り終わった後の記者会見、ブラックトレイターは去り際に人差し指を立てて唇に当てた。そして、手のひらを地面に向けてひらひらと振った。

誰も気づくことはなかったが、その視線の先には黒沼トレーナーがいた。

黒沼トレーナーはその意味を正しく理解した。

 

『静かに待ってるように』

 

ブラックトレイターはそう言ったのだ。

そして、黒沼トレーナーは学園に復帰することになる。

もちろん、それは並大抵のことではない。

悪評が完全に消え去ったわけではなく、これが平時では復帰は難しかっただろう。

だが、学園は混乱し、トレーナーを欲するウマ娘は大量にいた。

黒沼トレーナーはただ愚直に黙々と自分にできることをした。

困っているウマ娘がいるなら手を差し伸べ、新人トレーナーの世話も焼いた。

そうして、黒沼トレーナーは信用されることは難しくても、必要とされる存在になるのにさほどの時間がかからなかった。

ミスターシービーに固すぎるとスーツをはぎ取られ、パーカーを着せられる事件も受け入れられる一つの要因だっただろう。

 

だが、黒沼トレーナーは担当ウマ娘を持たなかった。

彼に懐いた新人トレーナーが理由を聞くと、彼は困ったような顔をして言った。

 

「きっと、怒られるだろうが……今はまだ想っていたいんだ。過去の担当を。それに俺は一からやる。そうしたいんだ」

 

新人トレーナーは寒門出身で、黒沼トレーナーの過去を良く知らなかった。

だから、冗談めかして言う。

 

「なんか、女を振る時の言い訳みたいっすね」

 

黒沼トレーナーはむっつりと黙って、新人トレーナーはその姿がおかしくて笑った。

 

 

 

そして、学園やトゥインクルシリーズを立て直そうとしたのはトレーナーや理事長たちだけではなかった。

生徒会長のシンボリルドルフやスターたちが奮起し、トゥインクルシリーズを盛り上げていった。

特にミスターシービーは日本を超えて世界的な大スターと言っても過言ではなかった。

ニホンピロウイナーやマルゼンスキーの活躍によって短距離路線は整備され、専門の選手が増えた。その結果、トゥインクルシリーズは混乱の中でも人気を落とさなかった。

特にタマモクロスと地方から出てきたオグリキャップの戦いは人々を熱くさせた。

 

だが、それでも物足りないと思う人々はいた。

あの逃げウマがいない。その事実だけで物足りないと思ってしまう人々はいたのだ。

 

ブラックトレイターは記者会見が終わった後、姿を消した。

理由は言われなくてもわかる。トゥインクルシリーズを追放されたのだ。そもそも今の日本に彼女の居場所はない。

 

ブラックトレイターに関して様々な疑問が残った。

確かにジャパンカップの契約は動きようのない事実だったかもしないが、ジャパンカップでブラックトレイターは勝っているし、他に不正をしたという話は出てこない。それにトゥインクルシリーズのために頑張っていたじゃないか。みんな悪態をつきながら、なんだかんだブラックトレイターが好きだった。

悪いウマ娘だとは思えない。

だが、そういう疑問を解消する術は誰も持ち合わせていなかった。現URAはそうだと言わざるを得ないし、事実を知るものはみなブラックトレイターの話をしたがらない。

どこで何をしているのかを知りたい。

だが、もちろん結論は出ない。

それにブラックトレイター自身が話題を止めている。

 

だから、せめて、ファンたちは、自分たちは良いがライバルであるミスターシービーはブラックトレイターのことを知っているのかを知りたかった。ブラックトレイターを初期から応援していた者たちはミスターシービーに直接聞きに行った。

ミスターシービーはその質問ににっこりを笑った。

 

「ラック? ああ、何してるんだろうね?」

 

あっけらかんというその姿に聞いた者は少しだけ驚いた。

確かにミスターシービーとブラックトレイターはライバルだったはずだ。だっていうのに少し淡泊すぎやしないだろうか。

思わず寂しくないのかと聞いてしまう。

だが、ミスターシービーは笑みを崩さない。

それどころか何かを想像し、むしろ楽しみといった風に言う。

 

「寂しい……そうかも。でも、アタシは我慢できるよ」

 

理由を問うと、ミスターシービーは両手を広げて言う。

 

「ラックは帰ってくる。アタシのところに。ラックはアタシを裏切ったことはないから。きっと面白いことになる。ああ、楽しみだなぁ」

 

ミスターシービーは待っている。

あの黒きウマ娘を。

それだけで、ファンたちは満足することができた。

ただ、一つだけ彼女を忘れないように有志で資金を出し東京レース場に文章を残すことにした。

 

『あのジャパンカップを思い出す

ジャパンカップの感動を

もう一度、君とミスターシービーの対決を』

 

その碑銘にはブラックトレイターの名前はない。

除名したウマ娘の名前を残すことは許されなかったからだ。

だが、現会長がその碑銘を残すことを許してくれた。

名前など残さなくてもあの鮮烈な光景は覚えている。

強烈な反逆という光は胸に刻み込まれている。

 

ブラックトレイター。

黒き反逆者。

その強さは人々を熱狂させた。

 

 

 

 

 

「――い、いいんですか? そんな話をして。これは結構な裏話ですよ!?」

 

記者はシンボリルドルフの話を聞き終わり、思わずそう聞いてしまった。

それが本当ならURAは彼女の犠牲によって成り立っているということになる。

だが、記者とは反対にシンボリルドルフは穏やかに言った。

 

「もう、URAにも学園にも暗いものはない。だから、これは最後の贖罪です」

「……そうですか。ではこれであなた方の改革……いえ、革命は終わりなのですね」

「え? ……あはは! すみません、言い方が悪かったですね。贖罪、というのは学園やURAのことじゃないですよ」

「え、どういうことですか?」

「精々赤面してもらいましょう。それが彼女の最後の贖罪です」

 

シンボリルドルフはそう言って、背もたれに体重をかける。

ギシリと音がする。

 

「まあ、この件が露見したところで、彼女の覚悟は変わらない。彼女はやりたいことをやった。彼女を知る人はみんな納得している」

「……そうなんですね。あなたはどうなんですか、シンボリルドルフ会長」

「私? まあ確かに不服な部分もありますよ。でも、彼女は……ラックは約束を破らないですからね」

 

そこでシンボリルドルフは時計を見る。

時間はすでに1時間ほどオーバーしてしまっている。

 

「すみません、ずいぶんと時間を使ってしまいました」

「え? あ、いいんです! こんなお話を聞かせてもらって……」

「今日はお開きにしましょう」

「今日()? 続きがあるんですか?」

「きっとすぐにでもわかりますよ」

 

シンボリルドルフはそう言って静かに微笑んだ。

 

 




次回、完結。

次の更新もいつも通りの時間です。
どうぞよろしくお願いします。
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