遊戯王Wings英雄伝「サンダーボルト」 作:shou9029
カードデザイナー。
それはデュエルにおける最も重要な存在である、『カード』の『作成』を許された特別な者達。
社会においてその重要性はプロデュエリストに並んで高く、加えて子どもにも人気の職業の1つであり…
この時代において世界に2つしかないカード製作会社は、この星の全職種の全企業における全商品の売り上げを比較しただけでもトップ1とトップ2の売り上げを叩き出しているほどの超大企業に数えられている。
そう、この世界においては老若男女…老人から赤子にいたるまで、ほぼ全員がデュエリストと言っても過言ではないのだから…
世界中のほぼ全ての人間が必ず携わるデュエルというモノにおいて、絶対に無くてはならない『カード』を『製作』する立場に回っている者は、果たしてどれだけ特別な選ばれし者だというのだろうか。
…しかし、その道は狭き門。
そう、年間合格率1%以下といわれるデザイナー試験は、才能無き者を容赦なく蹴落とし続けている。
また、その狭すぎる試験を突破し、晴れてカードデザイナーの資格を得た者であっても…そこから長い長い下積みを経て修業を重ね、独立を経て自分の製作したカードを世に出すまでデザイナーとして耐え切れる者は極々僅かと言われているのだ。
…資格を取得しても、一枚もカードを世に生み出せずに消えていく者だっている。
つまりカードデザイナーと言うのは、専門の知識を学び、プロデュエリスト試験にも匹敵する難関中の難関である厳しい試験を突破し、長い下積みを耐え、その間もセンスを失わなかった者だけが世界中に自分の作ったカードを披露することを許されるという、あまりに厳しすぎる現場で生きる者たちのことを言う。
…どれだけカードをデザインしても、ソレが世に出ないこともある。
…どれだけ理想を描いたとしても、大衆に全く理解されないこともある。
…どんなに努力してカードを作成しても、ソレが公式の場で全く日の目を見ないこともある。
果たして…
日常的に何気なくデュエルをしているデュエリスト達は、自分達が普段何気なく使用しているカードの事をどれだけ知っているのだろう。
1枚のカードに込められた思い。1体のモンスターに秘められた感情。その『1枚』が自分のデッキに入るまでに、一体どれほどの年月がかかっているのかを。
これは、そんなカードを製作する側の…
歴史の表舞台には出てはこない、とある一人の男の話で―
―…
この世には、心から生まれたいと願っているカードたちが沢山ある。
まるで、そんなコトを考えているかのように…一心不乱に、机に広げられた紙に筆を走らせている男が、他に誰もいない部屋に一人居た。
―『
それが、この男の名。
齢にして24歳。難関と呼ばれているデザイナー試験を、一発で突破したことで一時有名になった彼は今日もアトリエを兼ねたアパートの自室の一室にて…
その落雷のように垂れ下がる髪を片手で掻き揚げつつ、雷のように跳ねた頂点の髪を揺らしながら。アトリエを兼ねているアパートの自室で、恐るべき集中力を発揮し紙の前に向かい合っていた。
そして、机の傍に散らばっているのはきっと彼がデザインしたであろう、多種多様のモンスター達のイラスト。
人型もある。ドラゴンもいる。機械兵のようなデザインもあれば、獣のようなイラストに…それ以外にも、『場面』や『モノ』を描いているような、多種多様と呼べる様々なラフ画が散らばっていて。
…そのどれにも統一性はないものの、どれもが今にも動き出しそうな躍動感を感じるモノばかり。
そんな、色も付いていない、清書もされていない、まだ下書き段階のモノばかりだとは言え、まるで生きているかのようにさえ感じる彼のそのイラストを見れば、それだけで彼がどれだけの才能の持ち主なのかが手に取るように分かるに違いないことだろう。
…チクタクと時を刻み続ける時計の音と、鉛筆を紙に走らせる心地良い音がリズムを奏で流れ続ける静寂の部屋。
よほど集中しているのだろう。外からは早朝の喧騒が微妙に聞こえてくると言うのにも関わらず、遊震は瞬きすら惜しいのだと言わんばかりの形相でいつまでもいつまでも紙に鉛筆を走らせ続けており…
…そして、部屋の時計の針がどれだけの時を刻み続けた頃だろうか。
心地よい静寂のみが充満していた部屋に、バタバタとした『別の者の音』が近づいてきたかと思うと…
ほんの数瞬の後に…
―バンッ!
という、勢いよくドアを開ける音がアトリエに響いて―
そして―
「おっはよー!遊震起きてるぅー?」
「…え、ヒカリ?『おはよう』って…あれ…もう朝?」
弾ける雷鳴のような声で、甲高く叫ばれたのはこの部屋に入ってきた一人の女性の声であった。
…そして、そのまま『ヒカリ』と呼ばれた女性は、ぐるりとアトリエの中の惨状を見渡したかと思うと。
「ゆーしんー?ひょっとしてまーた徹夜したでしょ!しかも2徹はしてる!いい加減にしなよ、もう!」
「あ、いや…だ、だってまた声が聞こえて…ほ、ほらコレ見て、今度のは凄いよ!裏側守備表示に重点を置いた、悪戯好きな幽霊とかがモチーフのエクシーズテーマっていう全く新しい戦い方!これはきっと決闘界に革命を起こ…」
「ンなこといいから早く寝ろー!早死にしたいのかー!」
一昨日から服装が変わっていない『恋人』の様子と、床を埋め尽くすほどに散らばった紙の山とに少々呆れたような表情を見せながら。
それ以上に怒りを顕にしつつ、遊震を机から無理矢理に引き剥がすと…
そのまま、ベッドへと押し倒して。
「私残して先に死んだら怨むって言ったよね!?」
「…ご、ごめん。」
「だ!か!ら!とりあえず寝て、起きたらシャワー浴びなさい!その間に部屋の中片付けたり、洗濯とか掃除とかご飯の準備とかしたげるから!全く、なんで結婚前からこんなに世話焼かなきゃいけないの!お母さんじゃないんだからさ!もう!」
「…」
…捲くし立てるように、弾けるように。
まるで雷が落ちたように、恋人を叱りつけながら無理矢理寝かせようとしてくるヒカリと呼ばれたこの女性。
…まぁ、それが愛情の裏返しだと言う事は遊震にだって分かっていることなのだから、ここで下手に恋人の言う事に逆らうことなど彼もしないのだが…
しかし、降り続けていた天啓を無理矢理に止められたことを少しだけ悔やみつつ、強引にベッドに寝転ばされた事により…
2徹による眠気が激流のように迫り来るのを遊震は感じている様子を見せ始め、婚約者である『
迫る眠気に対抗しながら、まどろみの中で思いついたアイディアを忘れないようにしつつ。遊震は、すぐに眠ってしまうのだった。
―…
「なんかさー、遊震の作ったカードってあんまり人気出ないよねー。」
「ッ!?」
3時間ほどの仮眠のあと。
目覚めた遊震は、シャワーを終えた後に朝飯だか昼飯だか分からない2日ぶりの食事を恋人である鳴神 ヒカリと食していたのだが…
食事の最中に、ヒカリが唐突に遊震へと向かってそんな言葉を漏らし始めた。
…それは独立しているカードデザイナーにとっては、苦悶とも言える聞きたくは無い言葉ではあるのだろうが…
しかし、ソレを知ってか知らずか、それとも『あえて』なのか。
遊震の婚約者である鳴神 ヒカリは、全く遠慮をすることなく。パスタを一口飲み込んだ後に、更に遊震へと言葉を続け…
「やっぱりさー、個人でカード製作し続けるのって無理があるんじゃない?他のデザイナーってさ、必ずどっちかの企業に雇われるかスポンサーになってもらってるじゃん?」
「…それは…わかってるんだけど…」
「まぁ『授賞式』でアイ社相手にアレだけ大口叩いたんだし、業界から干されるのは仕方ないとしてもですね。もうちょっとこう、売れるカード作れるようにならないと生活ってもんがですねぇ遊震さん。私のヒモになる気満々だって言われるのも仕方ないといいますかですね遊震さん。」
「…耳が痛い。」
それは結婚を控えた男女だからこそ交わされる、やや生々しい金銭面での話。
そう、いくら才能あるカードデザイナーであったとしても、デザインしたカードが全て世にでるわけではなく…また、厳しい審査を経て世に出回る事を許されたカードがどれだけ増刷されても、それが実際に商品として買われなければカードデザイナーに返ってくる金額は変動してしまうのだ。
…まぁ、企業に雇われた大多数のデザイナー達は、新カード開発の他に既存カードの『精密複製』や『補修』と言った仕事を任されている事から、大体毎月決まった額の給与が企業側から保障はされているのだが…
そう、特に1枚のカードを刷り上げるのにも莫大な資産を必要とするこの時代においては、既に世に出回っている既存カードの『精密複製』や、ボロボロになるまで使われデュエルディスクに反応し辛くなったカードの『補修』といった、カードに関わる仕事も特別な資格を有するカードデザイナーの重要な仕事のひとつとされているのだから。
…まぁ、とは言え確かにこの世界ではデュエルディスクが時折『カード』を『創造』することが偶だがある。
それは既存のカードであったり、誰も見た事のない全く新しいカードであったりと様々。
しかし、それはかなりの低確率の現象でもあり…
そう…この世にある全てのカードがデュエルディスクから創造されるのであれば、『カードデザイナー』という職種は必要がなくなってしまうはず。
けれども、そうなっていないのは偏にデュエルディスクによるカードの『創造』の法則性が全くもって『不明』であると言うことに他ならない。
…その法則も、その原理も。
ブラックボックスとなっている、デュエルディスクの内部機構を解析できた学者は未だ居らず。そしてソレらの研究もまた【決闘世界】により禁じられていることであるが故に、一体どうやってデュエルディスクがカードを創造するのかは今でも全くの不明かつ全くの不規則となっていて。
…だからこそ、この世には『カードデザイナー』という職種が存在している。カードの複製や製作を許された、特別な資格を持つ厳選された者達が。
まぁ『カードデザイナー』という職種が生まれたのも、水世界時代が終わった300年ほど前からであるのだから、【決闘世界】の厳しすぎる門の所為もあって汎用的なカードの普及すらまだまだ追いついていないというのが世界の現状ではあるのだが…
それでも、全てのカードがデュエルディスクからの創造からしか生まれなかった過去の時代と比べれば、格段にカードの普及率は年々上がってきているというのは間違いないことでもあるのだが。
ともかく…
『カードデザイナー』達の仕事と言うのは、既存のカードの『複製』や使いこまれたカードの『修復』、そして新カードの開発と言ったあらゆるカード製作に関わる仕事であると明記されている。
そして現在、全世界決闘者統括機構【決闘世界】によってカード製作・複製・補修等を許された企業は『2つ』ある。
…ひとつは【決闘世界】によって300年前に設立された、最も古いカード製作会社である【決闘世界】直轄経営のカード製作会社、『決札社』。
…そしてもうひとつは、『神の筆』と呼ばれるほどの腕前であったデザイナー兼初代社長を務めたアイリーン・アイオーン女史が約100年ほど前に創設した…セメタリア王国に存在する、『アイリーン・カンパニー』。
そしてカードデザイナーの資格を有する者達は、普通であればこの内のどちらか2つの会社に属するか…
そのどちらかでの経験を経て独立し、所属していた会社がスポンサーとなり仕事を回して貰うというのが常識となっているのだが…
…しかし、あろうことかこの玖我 遊震と言う男。
そう、遊震は一昨年の『授賞式』…
…その年のうち最も良質なカードを作成したデザイナーに送られる、『デュエデミー賞』の授賞式に学生の身でありながら特別招待されたにも関わらず。
その授賞式の最中に『2社』の内のひとつ、『アイリーン・カンパニー』の御曹司に、真正面から喧嘩を売ってしまったのだ。
―『…へぇ…相変わらず、たいそなこと言いはるなぁ遊震。君のが、僕より良いカード作れる言いはるん?』
―『あ、あぁ、そうとも!アイザック、君の作るカードには魂が宿っていない!それじゃ、折角デザインされたカード達が可哀想だ!』
…まぁ、遊震がその発言に至るまでに色々…とにかく色々と紆余曲折な出来事が、遊震とアイザックには積み重なって居たとは言え。
そう、ソレがいくら決闘大学デザイン学部デザイナー科時代からライバル同士であった遊震とアイザックの、あくまでも『個人的』なやり取りであったとは言えども。
それでも、栄えある授賞式の真っ最中に…将来有望の若き天才デザイナー候補同士が、火花を散らしたと言う事はマスコミにとって恰好の餌食となって、瞬く間に世界中に広まってしまったのだ。
それ故、玖我 遊震は大学卒業と同時にチーフ待遇という破格の条件にて内定していた、『決札社』の職を卒業を控えた大事な時期に即刻失う事になり…
当然、御曹司かつ時期社長のアイザック・アイリーン・アイオリア・アイオーンに喧嘩を売った遊震の事を、渦中の『アイリーン・カンパニー』が雇うわけもなく…
…そうしてその事件から約2年が経った現在。
玖我 遊震という男は、こうしてカードデザイナーの資格取得後に『2社』からカードの複製や補修の仕事を貰えることもないまま。
資格取得後即独立という前代未聞の起業を余儀なくされ、既存カードの複製や修復といった仕事を2つの起業から回してもらえることもなく…
唯一彼に残された、『新規カード開発』という一点のみに活動絞って。半ばヤケクソ気味に、社会人になる羽目になったというわけで。
「っていうかさー、遊震もそろそろ意地張ってないで複製の仕事とか少しは回して貰ったら?『決札社』に知り合い何人か居るんでしょ?」
「…居るには居るけど…でも迷惑はかけられないよ。ソレで被害を被るのは向こうなんだし。」
「でも新カード開発だけで食っていけるデザイナーなんてほんの一握りだけじゃん。生活だって学生時代の貯金切り崩しながらだし、せっかくの収入だって申請費と作成費に取られてもうギリギリなんでしょ?」
「…い、いや…す、少しずつ申請通るカードは増えてきてるし…」
「はいはい。それでもこのペースじゃ破産が先になるでしょ?私イヤだよ、借金抱えた男と結婚するなんて。折角パパとママ説得したのに、肝心の遊震がコレじゃ婚約破棄されちゃうじゃん、もう。」
「う…返す言葉もない…はぁ…やっぱり僕はアイザックに勝てないのかなぁ…」
「遊震と違って人気だもんねーアイザックさんのカード。この前発表したのなんだったっけ?あの水属性の機械族の…」
「【水晶機巧】。連続シンクロする水属性の機械族のデッキ。」
「そうそう。アレ綺麗だよねー。友達もカッコいいいから欲しいって言ってたもん。来期は使う人増えそうだなーって皆で話してたの。」
「…どーせ僕の作るカードは綺麗でもカッコよくもないですよ。」
「えー?私は好きなんだけどなー、遊震のデザインするカード。【エレキ】とか【ゼンマイ】とか、遊震の作ったカードって子どもにそこそこ人気あるよね。オモチャみたいっていうか、遊び心があるっていうか。」
「ヒカリ…フォローになってないよ…」
…理想で飯が食える人間などほんの一握り。
難関と言われている資格試験を現役合格した遊震がどれだけ『天才』であろうとも、それはそれとして。ヒカリもまた、今後の生活を見据えた言動を伝えるのは偏に今後も遊震と付き合っていくという覚悟を持っているからなのだろう。
…現実を取るか、理想を追うか。
新規カード1枚作るのだって、申請や作成には莫大な金がかかるのが現実。いくら遊震が『天才』と呼ばれる部類の人種で、新人としては考えられない程のカードを作成している規格外なデザイナーであろうとも…
それでも、企業の後ろ盾がない遊震の現在の生活がギリギリどころかマイナスだということを彼女もまた知っているからこそ。
遊震の恋人である、プロデュエリストとして活動しているこの鳴神 ヒカリもまた…思った事をズバズバと歯に衣着せずに零すのか。
そう、年齢的にも、結婚を現実的なモノとして視野に入れている彼らにとっては、このまま『夢を追い求める事』か、それとも『これからの生活』の為に堅実的に動くのか、そのどちらに重点をおくのかを話し合っていくのも重要な事とも言えるに違いなく。
「ま、でも別に遊震がどうしても『そうしたい』って言うんなら止めないけどさ。どーせ遊震が破産したところで、生活自体は私が養ってあげられるんだし。なんなら借金も私が返してあげようか?」
「それだけは絶対にイヤだ。なんと言うか、男の沽券に関わるというか…」
「はいはい、私より収入低い人が沽券とか言ってもしかたないでしょ?そもそもデザインしたカードを世に出すことの方が難しいのに、即独立してある程度…っていうか、いくつか纏った『テーマ』流通させられてるのってアイザックさんか遊震くらいじゃん。」
「それは…そうだけど…」
とは言え、ヒカリもまた結婚に向けて遊震の『夢』を全否定しないのにはある程度の理解もある。
そう、それはヒカリが若くしてプロデュエリストのトップランカーに名を連ね稼いでいる事もあるのだろうが、それ以上に遊震には確かに『天才』と呼ばれるに相応しい『実績』も持っていることをヒカリも知っているからなのだろう。
…決闘界に身を置く業界人ならば、『玖我 遊震』という名は誰でも一度は聞いた事のある名前。
学生時代に、企業の有名デザイナーも参加する【決闘世界】の新カードコンペにて、学生の身でありながら『最優秀賞』を受賞したこともそう。
世界的に有名なカードデザイナーが、まだ学生であった彼にデザインのアドバイスを求めたという逸話もそう。
『神の手』と呼ばれる伝説的カードデザイナー『李 木魚』が、まだ大学生だった遊震の作ったカードを見て、嘘偽り無い賞賛の一言を送ったことなんてその最たる例と言われているのだ。
それに加え、下積みの無い新人がデビューから2年で既にかなりの数の新カードをデザインし…
普通であれば1枚を世に出すのも難しいと言われているデザイナー業界において、既にいくつか纏った枚数のカード、果ては一流デザイナーの証とも言われる『テーマ』に属するシリーズカードを幾つも世に送り出しているというのは、およそこの世に存在する全カードデザイナーの中でも異質も異質。
…なにしろ、そもそも『カード』と言うモノは、デザイナーが誰でも勝手に自由に作成して作れるようなものではない。
デザインしたイラストを元に効果やテキストを考えることは誰だって出来ることであり、それ位ならデザイナーの資格を持たない者であっても誰だって一度は自分のオリジナルのカードを想像したことがあるに違いないだろう。
しかし、好きなカードを誰でも自由に作れる世界ならば…とうの昔に、きっと決闘界は破綻している。
…そう、世界情勢すらデュエルによって左右されることがあるこの時代。
もし万人が好き勝手にカードを作れるような環境であったならば、きっと『デッキに入れているだけでデュエルに勝つ』というような馬鹿げた効果を持ったカードが世に溢れ返り…
この世界における最も重要な要素を占める、『デュエル』という行為自体が成り立たなくなってしまうに違いないのだ。
だからこそ、カードの『製作』に関わる分野には明確かつ厳格な『法律』が定められている。
…デュエルディスクがカードを『創造』するのはまた別。アレは遥か昔から確認されてきた、最早自然現象に近い代物であるのだから。
だからこそ、ディスクが創造したカードは問答無用で創造した者の物となるのが、この世界における暗黙のルール。
けれども人間の手によって『作成』されるカードについては、『決闘法』に分類されるソレにおいて細かく厳しく定められている。
それは個々人が自由に勝手なカードを作成しないよう定める法律であり、そして法の下に秩序あるカード製作を行うために全世界決闘者統括機構【決闘世界】が認めたカード製作専門の『企業』が存在しており…
…そしてカードを1枚印刷するだけでも、巨大なコンピューターによって制御された専門の私設にて専門技術を駆使しなければならないのがこの世界におけるカード製作の常識であるのだから、新たなカードを『1枚』作成するだけでも、その作成許可は全世界決闘者統括機構【決闘世界】が厳しい『審査』を強いているのがこの世界の現状であり…
…『1枚』のカード化『申請』が通るのに、下手をすれば何年も待たされる事がある。
そして『申請』が通ったとしても、作られたカードはすぐに一般の世に出回る事は無く…
作られたカードは、作成したデザイナーが『選んだデュエリスト』、もしくは【決闘世界】が指定したデュエリスト…その多くがプロデュエリストであり、その人物たちがその試作カードをしばらく使用し、その決闘記録を元に更に【決闘世界】が色々な審査を行うのが基本的な流れとなっている。
そして…
数々の実戦を経て、その試作カードがデュエルの秩序を崩壊させないと全世界決闘者統括機構【決闘世界】が最終判断をした後に―
ようやく、デザイナーが作った『新カード』は世間に一般流通することを許されるのだ―
それ故…
この世に無かった新たなカードが世間に流通するまで、早くても1年以上はかかるこの世界。
しかし、これほどまでにカードの製作に厳格なルールが存在しているのも、偏に世界の秩序を守るためでもあるのだろう。
そんな、自分がデザインしたカードを世に出せるカードデザイナーは、全デザイナーの中でも1%ほどと言われている。
それゆえ、自分のデッキである【電池メン】も含めて、既にかなりの数の『新規カード』を世に出している玖我 遊震という男は、およそ他の追随を許さない限りない天才に数えられることは先ず間違いないのだが…
…まぁ、当の遊震本人はソレをひけらかすことは無く。むしろ自分をまだまだ未熟者のようにして扱っているのだから、それはそれで面倒臭い性格といえばそうなのだが。
それでも…
そういった『企業』に属さず、厳格すぎるほどの審査を必要とする『新カード』の開発のみでここまでの実績を叩き出しているこの玖我 遊震という男は。
確かに表舞台における反響こそ少ないものの、ことカード製作という『裏方』においては若手とは到底思えない程の『実績』を自らの手で証明し続けているに違いないことで…
「ホント仲悪いよねー遊震とアイザックさん。仲直りすればいいじゃん、そしたら向こうも少しは手助けしてくれるかもしれないのに。」
「…そんなこと出来ないよ。アイザックの手を借りるのなんて死んでも嫌だ。僕とアイツは昔から気が合わないんだから。」
「はぁ…相変わらず意固地なんだから、もう。」
「それに、僕にはアイザックが許せないんだ。カードの声を無視して、無理矢理『形』に押し込まれているモンスターが苦しいって言っているのに…それに気付かないようにして、ただ『売れるカード』ばかりデザインするアイザックのあの姿勢…あんな、『数撃ちゃ当たる』みたいに魂の篭っていないカードばかりデザインするあの姿勢が………あれじゃ、アイザックにデザインされたカードが可哀想だよ。」
「…」
そんな遊震の言葉を聞いて、ふとヒカリは考える。
確かに世間では若き天才デザイナー、アイザック・アイリーン・アイオリア・アイオーンの作成したカードが多くの人気を飾っている。
しかし、かといって『長く』デュエリストに使われるカードをデザインしているのは、確かにアイザックではなく遊震の作ったカードの方である印象がヒカリにはあるのだ。
(カードの声…それを世間じゃ『天才』って言うと思うんだけどなー。)
それはきっと、遊震が作ったカード1枚1枚の『声』聞いて、そして使われるべき『誰か』の元へと絶対に届けたいという思いがあるからなのだろう。
凡人には決して分からぬ感覚を持った者を『天才』と称するのであれば、この玖我 遊震という男はまず間違いなくその類であることを婚約者であるヒカリは良く分かっている。
まぁ、1年の内に『1枚』の新規申請が通れば良い方とされるデザイナーの世界で、つい先日【決闘世界】に提出した中から『3枚』もの申請が通りテストカードが送られてきた遊震は疑うべくもなく『天才』の部類に入るのだが…
しかし、当の本人がソレを自慢することもなく、かつ当然のように言葉を続ける遊震の事を…
「どんなデュエリストにも、必ず出会う運命のカードがある。僕の使命は、出来るだけ多くのデュエリストにその運命のカードを『あるべき形』で届けることなんだ。絶対に、アイザックみたいな間違った形でデザインしちゃいけない。」
「私の『雷馬』たちみたいな?」
「うん。彼らはヒカリに出会うために僕に声を届けてきたんだ。だから、彼らがちゃんとヒカリに出会えた事が僕は何よりも嬉しいんだよ。」
「うんうん。遊震が『雷馬』たち作ってくれたおかげで、私と遊震は出会えたんだもんねー。」
「あ…そ、ソレとコレとは話は別じゃ…」
ヒカリもまた、その驕らない性格もあって惹かれてもいるのだが。
ともかく…
「あ、そういえば今日は
「うん。【クロス・ブリード】と【ライバル・アライバル】、あと【エネミー・コントローラー】の申請が通ったから、とりあえず遠雷に使ってもらって20戦ほどデータ取りたいんだよね。ほら、暴琉斗とヒカリと遠雷じゃ、遠雷のデッキが一番自由度高いから。」
「…遠雷君をアゴで使えるのも遊震くらいなものだよね、もう。」
遊震とヒカリは、この後の予定を確認しつつ。
世界ランク2位に位置している、『放電』の
ヒカリは、呆れながらも誇るのだった。
―…