遊戯王Wings英雄伝「サンダーボルト」   作:shou9029

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ep2「【王者】制度」

「ほぅ、【王者】制度とな?」

「えぇ…現在のプロの制度では、世界ランキングや個性にちなんだ『異名』はあれど…コレといった特別なタイトル…『称号』のようなモノはありませんからね。」

「ふむ…確かに。」

 

 

 

全世界決闘者統括機構【決闘世界】。

 

その本部があるデュエリアの、とある会議室の一室にて…10人程の人物達が、なにやら重々しい雰囲気にて会議を行っていた。

 

…それはルールを決める側の者達による、およそ下々の者達は知り得ることすら許されないであろう重要な会話。

 

一体彼らがどんな権限を持っているのかはさておいても、それでもコレが謎に包まれている【決闘世界】の上層部の幹部たちによる会議であることは確かであり…

 

そんな、プロデュエリスト達の全てを統率している立場の彼らは。現状のプロデュエリスト達の制度の今後について、更に会議を続ける。

 

 

 

「じゃが、タイトルと言ってもどのようなモノにする?頂点に一人を据え置くのか、それとも…」

「翁、そういえば300年ほど前の水世界時代には、広い海の上に『七海王』と呼ばれた海の王者たちが居たそうですよ。なんでも、彼らの影響力は水世界でも指折り…一国の王にも匹敵する影響力を持ちながら、7人がそれぞれ対立して世界の均衡を保っていたとか。」

「それは良いですわ!近年は決闘反対派の貴族たちからの工作も無視できなくなって来ましたもの!翁、どうせなら、ソレに影響されない、何か特別な権限のようなモノを『称号』持ちのプロに与えてみてはいかがかしら?それこそ『七海王』に肖って7人ほど!」

「しかしのぅ…いくら我らがデュエリストを制御できる立場にあるとは言え、貴族に対抗できるような権限を持つ者が7人とはちと多すぎやしないかのぅ。多すぎても特別性がなくなるじゃろうし、もし『称号』持ちが結託し反乱を起こされては貴族自体が滅びてしまうかもしれんぞ?」

「確かにそうですなぁ。もし貴族が滅びれば、断続的に我らも存在できなくなってしまいますし…その影響が『三大貴族』にまで及ぶなんてことになれば…」

「えぇ、大変まずい事になりますねぇ。………では、こう言うのはどうでしょう。融合、シンクロ、エクシーズ…この世に生きる者ならば誰もが持つEx適正にちなんで、【融合王者】、【シンクロ王者】、【エクシーズ王者】をそれぞれ一人ずつ…計3名、制定すると言うのは。さすがに3名程度では、貴族に牙を剥けるほどの権限を持っていたとしても貴族に害をなす事はそう簡単にはいかないでしょうし。」

「ふむ…面白いとは思うが、そんな大それた権限を個人に与えるなど『三大貴族』が大いに反対を示してきそうじゃがのぅ…」

「まぁそこはこの竜胆に任せてください。そのための竜胆家ではありませんか。」

「なんじゃ青蛇(あおだ)、ツテでもあるのか?」

「えぇ、えぇ、勿論ですとも。我ら竜胆も貴族の1つ。穏健派の他の貴族連中に声をかけ、見事『三大貴族』を説得してご覧にいれましょう。」

「なるほど…確かにこれは竜胆のお主でなければ成せぬ絵空事じゃな。…いや、そこまでの覚悟と構想が出来ておるのならば最早絵空事でもないと言うわけか。」

「えぇ、はい。Ex適正は誰もがその内一つを持つモノだからこそ。自身のEx適正の頂点の者が居れば、その者が全世界のデュエリストの目標となりえることでしょう。」

「流石は青蛇さん、すばらしいお考えですわ!それにその案ならば、Ex適正が重要視されていない現代のデュエルにEx適正の『特別性』も付与できるオマケ付き…誰もがこぞって『頂点』への向上心を持ち、【王者】は権限と財を守るため、そしてシンボルであり続けるために自らを高め続ける。まさに、相乗効果ですわね。ワタクシも青蛇さんの意見に賛成ですわ。どうでしょう、翁。」

「ふむ…」

 

 

 

矢継ぎ早に、次々に。

 

下々の者達には決して理解出来ぬであろう会話が、彼らの中で次々と交わされていく。

 

国単位では断じてない、ただの『一組織』に過ぎないはずの全世界決闘者統括機構【決闘世界】の面々が…一体どうして国の権限すら操れる『三大貴族』を引き合いに出せつつ、こんな大それたモノを決める会議を行っているのか。

 

…その全貌を知る者は居らず。その深淵を知る者は居らず。

 

太古の昔から存在しているという、謎多き【決闘世界】という組織において。およそ、人の寿命よりも長く長く在り続けてきたこの組織のことを、人間が生きているうちに解明出来る事はないのではないだろうか。

 

しかし、この会議の中で判った唯一つのことは…

 

今の時代では全世界決闘者統括機構【決闘世界】と呼ばれている組織が、この世の最大権力である『三大貴族』に拮抗できうる組織であるという…ただソレだけの事で…

 

そんな、幾度となくその肩書きを変えつつ存在し続けてきたこの組織は。およそ国と国とのしがらみなどには囚われない、一種の『別枠』な存在として何時の世も世界のデュエリスト達の側に居続けてきたその在り方をそのままに…

 

 

 

「ま、いいじゃろ。おあつらえ向きに、今の世界ランク1位2位3位のEx適正はそれぞれエクシーズ、融合、シンクロの者じゃしな。彼らが初代【王者】となるということで…では採決を取る。青蛇の案、『【王者】制度』は決定で宜しいですかな?」

「異議なし。」

「同じく。」

 

 

 

決闘界にとって革命となるであろう出来事の採決について、この場のほとんどの者が賛成の意を見せた…

 

その時だった―

 

 

 

「…私は反対です。」

 

 

 

不意に…

 

満場一致で可決されようとしていた【王者】制度の案に対し、この場に居た10人の内の一人が反対の意を示したのだ。

 

…それはこの緊張した場において、とても勇気の居るたった一人の反対の意。

 

しかし、人間というのは如何なる場においても強調意識が働くもののはずで、他の9名が賛同していると言うのに、たった一人反対の意を示せると言うのは…

 

得てしてその人物の意思が、強固かつ強靭であるという証明でもあるのか。

 

…そのまま、反対の意を示したたった一人の人物へと対し。

 

『【王者】制度』を提案した、竜胆 青蛇と呼ばれていた人物は…不思議そうに、声をかけるだけ。

 

 

 

「おや…無明(むみょう)さんはどうして反対を?」

「…竜胆氏…貴方の案にはEx適正に『特別性』を持たせるとあったが、『頂点』をEx適正の種類で決めるなど私は不安だ。これでは、そう…いずれ、Exモンスターありきの時代、Exデッキ至上主義のような時代が来るのでは無いかと思ってな。」

「ははっ、それは無いでしょう。現状を見てくださいよ、現状の、世界のExデッキの使用率の低さを。貴族や名家と呼ばれる家の者以外、まともにExデッキを使ったデュエルを行いやしないんですから、えぇ。」

「…それはカードの普及がまだ追いついていないからでは?今後100年、200年も経ち、もっと一般人にもカードが普及すれば………誰もが【王者】になりたいが為に、Exデッキを使うことがデュエルの基本となり、それ以外のデュエルを認めないような時代がきっと…」

 

 

 

竜胆 青蛇に食い下がるのは、この【決闘世界】の幹部会において最も若い、『無明(むみょう) 涅槃(ねはん)』という男だった。

 

…端整な顔立ちに、真っ黒な長髪をした若き男。それは中年以上の年齢が多いこの【決闘世界】幹部会では珍しい、30代にも満たない年齢にも見えるかなりの若手の男であり…

 

そんな無明は、賛同者しか出ない竜胆 青蛇の提唱した【王者】制度への危機感を顕にしつつ。自らの脳裏に過ぎった、この世界の行く末を案じるような反対意見をこの場にいる全員へと向けて説得するように漏らすものの…

 

しかし…

 

 

 

「全く、無明さんは考えすぎですよぉ。そもそも『そんな時代』が来ると仮定してもですよ?一体全体、ソレのどこがいけないんですかぁ?ふふっ、Ex適性なんて、人間ならば誰でも持っているモノなんですから。」

「青蛇さんのいう通りだと思いますわ。無明 涅槃…貴方、自分の『決闘学園設立案』が通ったからって、少しばかり口が過ぎるのではなくて?」

「そうだよ。それに君が発案した『決闘学園設立案』なんて、もっと大掛かりな計画と予算がかかるモノだったじゃないか。」

「大体、ここに居る9人が賛成している案に若造のお前一人反対したところで採決は変わらないだろ。寧ろ全人類の目標が生まれるのは良い事じゃないか。」

「ぐ…それは、そうだが…」

 

 

 

多勢に無勢。

 

無明のその目に、いくら確かな未来の行く末への危機が視えてしまっていたとしても。

 

それでも、陰謀策略の中に棲み続けている古株たる【決闘世界】の幹部連たちは、一向にその意思を変える素振りは全く見せず…

 

むしろ一番の若手である無明を、まるで腫れ物を扱うかのようにして突き放すその言葉は…出る杭を打つのだと言わんばかりの高圧的な同調意識を用い、年の功による上から目線でただただ封じ込めるだけ。

 

 

 

そうして…

 

 

 

「うむ。では採決の結果、賛成9名、反対1名でこの件は【決闘世界】最高幹部であるこの儂、綿貫 景虎の名において可決とする。次期より、3名の【王者】制度を導入すると…『世界』にも、そう伝えておこう。」

 

 

 

一人の男が危惧したその案は、無情にも賛成多数で決定となるのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「除外された【雷電龍-サンダー・ドラゴン】の効果で、私はデッキから魔法カード、【雷龍融合】を手札に加える!そしてそのまま【雷龍融合】を発動!除外されている3体の『サンダー・ドラゴン』モンスターをデッキに戻し融合召喚する!」

 

 

 

決闘市…

 

その、とある小さなスタジアム。

 

本日は貸切となっている、そんな小さなデュエルスタジアムの中心で…今、2人の男によるデュエルが行われていた。

 

 

 

「眩き紫電の轟きよ!降り注ぐ百雷と交わりて、雷神と化し姿を現せ!融合召喚!現れよ、レベル10!【雷神龍-サンダー・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【雷神龍-サンダー・ドラゴン】レベル10

ATK/3200 DEF/3200

 

 

 

「そして手札の【雷源龍-サンダー・ドラゴン】の効果発動!このカードを捨て、雷神龍の攻撃力を500アップさせる!そして雷源龍の効果にチェーンし雷神龍の効果も発動!遊震、貴様の伏せカードを1枚破壊する!そして雷劫龍の攻撃力も…」

「させないよ!破壊される前に罠カード、【和睦の使者】発動!このターン僕はダメージを受けない!」

「くっ、小癪な!雷劫龍の攻撃力は300上がるが攻撃しても意味が無い…私はカードを1枚伏せターンエンドだ!」

 

 

 

灰羅 遠雷 LP:200

手札:4→1枚

場:【雷神龍-サンダー・ドラゴン】

【雷劫龍-サンダー・ドラゴン】

伏せ:1枚

 

 

 

それは貸切のために、観客などは居ない静かなスタジアムでの戦いの様子。

 

そう、今この貸切のスタジアムの中では、世界ランク2位のプロデュエリスト、『放電』の灰羅 遠雷と…カードデザイナーである玖我 遊震が、新開発したカードを用いたテストプレイを行っていたのだ。

 

そしてスタジアムに居るのは、数名の関係者のみ。それは遠雷の家族やマネージャーだったり、スタジアム運営のスタッフだったり…

 

他にも、遊震に呼ばれた数名のデュエリストト…世界ランク1位、『虚空』の皇 暴琉斗と、世界ランク3位、『稲妻』の鳴神 ヒカリが、このデュエルの行く末を見守っていて。

 

 

そうして…

 

 

そのまま、ターンが移り変わり。

 

世界ランク2位の灰羅 遠雷を前に、ターンを向かえた遊震がいくつか行動した後…

 

 

 

「よし!これで全ての【電池メン-単三型】の攻撃力は3000となったよ!バトルだ!【電池メン-単三型】で、雷劫龍に攻撃ぃ!」

「フッ…無駄な足掻きだ!リバースカードオープン、速攻魔法、【エネミー・コントローラー】発動!他の単三型の1体を守備表示にする!」

「なっ!?ここでか!」

「これで単三型の攻撃力は0となる!遊震よ、自らが作ったカードで散るが良い!」

「ッ…ま、まだだぁ!【エネミー・コントローラー】にチェーンして速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉ!攻撃宣言した単三型をリリィィィィス!」

「なにぃ!?」

「現れろ、命吹き込まれし機電の竜!レベル5、【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】!アドバンス召喚ッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】レベル5

ATK/2400→3400 DEF/1000

 

 

 

激しい効果の応酬が、スタジアムの中心で繰り広げられる。

 

そんな遊震の場に現れたのは、どこか子どもの玩具の様な見た目をした…電池で動く恐竜の玩具、しかして雷神の龍にも引けを取らぬ咆哮を轟かせた、激しく動く機電の竜。

 

しかし…

 

もしこの場に灰羅 遠雷のファンが居たとしたら、きっと今繰り広げられている光景を信じることなど出来はしないだろう。

 

何せ、世界ランク2位の『放電』を相手に…そう、先ほどからずっと、『放電』の灰羅 遠雷を相手に…

 

プロデュエリストでもない者が、圧倒し続けているだなんて―

 

 

 

「攻撃力3400だと!?」

「そうだ!ボルテック・ドラゴンは使用した電池の種類によって効果を変える!単三型をリリースした事により、ボルテック・ドラゴンの攻撃力は1000ポイントアップするよ!バトル続行!ボルテック・ドラゴンで雷劫龍を攻撃!荷電粒子砲、ボルテック・ブラスター!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

灰羅 遠雷 LP:200→0

 

 

 

―ピー…

 

 

 

…そうして。

 

 

今日何度目かになる、デュエル終了を告げる無機質な機械音が…

 

今再び、スタジアム内に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

…デュエル終了後。

 

 

 

「んー、数戦してみて思ったけど、やっぱり【エネミー・コントローラー】は遠雷のデッキとは中々噛み合いにくいみたいだね。万能といえば万能だけど…次から、テスターは別の人にしてもらおうかな。」

「ぐっ…」

「あ、でも他に試してもらいたいカードもあるんだ。ほら、【クロス・ブリード】っていうんだけど、コレは遠雷のデッキに結構相性いいと思うんだよねー!次はコレ入れてデュエルしてよ!10戦はデータ欲しいなぁ!」

「少しは休ませろぉ!」

 

 

 

欲しいだけの実戦データが取れたのか、遊震と遠雷は手を止めてスタジアム中央にて何やら話し込んでいた。

 

…いや、話し込むと言うのは少々語弊があるか。

 

何しろ、既に3時間はぶっ続けでデュエルしているために…いくら仕事とは言え、かなりの疲労の色が見える灰羅 遠雷を他所に、遊震はどこまでも自分の作成したカードの使用感を試したくてウズウズしている様子を崩さないのだ。

 

…しかも、世界ランク2位というかなりの著名人を相手にこの態度。

 

それはいくら高校時代の同級生である間柄であろうとも、中々取れる態度ではない。その壁のない間柄から察するに、彼らの仲はそれだけお互いに心を許しているとも取れるのだが…

 

 

 

「それより遊震、【ライバル・アライバル】を自分のデッキにも入れているなんて今初めて知ったぞ。自分から新カードのテスターを頼んでおいて、ソレは少々気遣いが出来ていないのではないか?」

「うん?対応出来なかったのは自分の実力不足でしょ?プロなのにだらしないんだから遠雷は。」

「なっ!?」

 

 

 

けれども、憤慨する遠雷を意に介さず。

 

いくら親しい間柄とはいえ、少々言いすぎにも思える言葉を何の躊躇いもなくぶつける玖我 遊震。

 

…自分から試作カードのテスターを依頼しておいて、しかも世界ランク2位に上り詰めた著名人である灰羅 遠雷に対しその態度はいかがなモノかとも思えるのだが…

 

しかし、遊震はさも当たり前のように。少々厳しい言葉と自分でもわかっていつつも、遠雷へと向けて更に言葉を続けるだけ。

 

 

 

「プロなら初見のカードが相手でも、華麗に対応してみせてこそのプロだよね。」

「ぐ…し、しかしだな…」

「言い訳しないの。君はプロはプロでも、もうすぐ【融合王者】になる予定なんだよ?だからそんな情けないこと言ってないで、【王者】になる者らしくこれぐらいのことなんて跳ね返さなきゃダメだよ。大体、僕がわざわざ君にテスターを頼むのだって、君の実力を信頼してのことなんだからさ。」

「…っ…か、返す言葉も無い…」

 

 

 

それは正論…

 

それも、ぐぅの音も出ないほどの圧倒的な遊震の論破。

 

そう現在では、試作カードのテスト要員にはプロデュエリスト達が当てられる事が多い。それはプロデュエリスト達が、一般のデュエリスト達の知らないカードを試合でよく使って観客達を沸かせているのが証明しており…

 

日々変化を求められるプロデュエリスト達にとっては、一般人が全く知らない新カードを使いこなすのを見せることもエンターテインメントと言えるのだが…

 

そして、もし遠雷が並のプロであったならば、遊震とてここまで遠雷に高望みはしていない。高校の頃からの旧友である事もそうだが、世界ランク2位にまで上り詰めた灰羅 遠雷という男の実力を遊震もまた心から信頼しているからこそ…

 

遠雷には求めるモノを大きくしているのであり、ソレはまさしく遠雷がもうじき全世界中のデュエリスト達の頂点である【王者】に就任する事が決まっているからこその鞭でもあるのか。

 

それは紛れもなく、全世界決闘者統括機構【決闘世界】が先日発表した、来期より制定するとされている史上初の決闘界における頂点の称号…

 

通称、【王者】制度に、遠雷が【融合王者】として選ばれているからに他ならない。

 

 

…全世界のプロデュエリスト達の頂点、各召喚法の頂点に立つデュエリストを制定するとされているソレ。

 

 

まだ詳しい内容は明かされてはいないものの、一般的なプロデュエリスト達とは一線を画すその『称号』にはおよそ常人とはかけ離れた恩賞が与えられると噂されており…

 

…莫大な富、凄まじい権力。

 

そんな、誰もが一度は夢見るようなモノが確約されているとされるソレはまさしく決闘界における革命、革新となるモノに違いないことだろう。

 

そして、その誉れ高き『初代【王者】』の座に内定しているのが何を隠そう…

 

 

世界ランク1位、エクシーズ使い、『虚空』の(すめらぎ) 暴琉斗(ぼると)

 

世界ランク2位、融合使い、『放電』の灰羅 遠雷。

 

世界ランク3位、シンクロ使い、『稲妻』の鳴神 ヒカリ。

 

 

この3名であると言うわけだ。

 

 

 

また…

 

 

 

「ねぇねぇ暴琉斗(ぼると)君、遊震ってさー、普通にすっごい強いんだからさー、デザイナーじゃなくてプロになればよかったのにね。」

「…夢。」

「夢?………あ、はいはい、そうだったね。遊震の、子どもの頃からの夢だったんだもんね、デザイナーになるの。」

「…是。」

 

 

 

スタジアムの2階席…

 

デュエルを観戦していた、世界ランク1位の皇 暴琉斗と、世界ランク3位の鳴神 ヒカリもまた。

 

デュエルが一旦小休止に入ったことで、ここまで休み無しの連戦続きだった遊震と遠雷のデュエルに対し、静かに言葉を漏らしていた。

 

 

 

「でも勿体無いと思っちゃうなー。私だって1回も遊震に勝ったことないし、プロになってればあんなにお金に困らないのになーって。」

「…望。」

「…ぼう?…ごめん、やっぱ暴琉斗君の言ってることは遊震じゃないとわからないや。」

 

 

 

そんなヒカリから零されるは、実力的にはかなり高いモノを持っている恋人へと向けた素直な感想。

 

そう、世界ランク2位の灰羅 遠雷を相手に、勝ち越し続けている遊震のデュエルの実力がプロの世界でも通用するどころのモノではないことを…恋人であるヒカリもまた、イヤと言うほどよく分かっている。

 

何しろ、『デザイナー』としても天才的な腕前を持つ遊震が、『デュエリスト』としての実力も申し分ないほどのモノを持っているというのは、ここに居る世界ランクトップ3の者達はその近しい間柄からよく知っているのだ。

 

…遊震の幼い頃からの幼馴染である、世界ランク1位に位置する『虚空』の皇 暴琉斗は別としても。

 

高校の頃からの友人である灰羅 遠雷も、そして恋人である鳴神 ヒカリも。テスター云々を抜きにしても、遊震とのデュエルにおいて彼らは一度だって玖我 遊震に勝ち越したことはないのだから。

 

…カードの声を聞く才能。それはデザイナーに留まらず、デュエルにだって発揮されている稀有な才覚。

 

まるでデッキ自体が意思を持っているかのように繰り広げられる 遊震のデュエルは彼の【電池メン】というデッキの回転率と相まって…何時だって、凄まじい強さを見せ付けてくる。

 

…だからこそ、いくら新規カードをデッキに入れテストプレイだとは言え。

 

現世界ランク2位に数えられる灰羅 遠雷を、幾度と無く圧倒し続けているそんな遊震のデュエルの才能をよく知るヒカリもまた、遊震を一介のカードデザイナーにしておくには勿体無いと…

 

彼を、表舞台には出れない一介のデザイナーに留めておくにはあまりに勿体無いと、ヒカリもどうしても感じてしまうのだろう。

 

 

果たして…

 

 

それだけのデュエルの腕前を持ちながら、プロデュエリストではなくカードデザイナーの道を選んだ遊震の思いとは何なのか。

 

それはきっと彼にしか分からない彼だけの感情であり、そんな彼の姿を外野がとやかく言っても無駄な事だけは確かなのだが…

 

 

 

「遊震…私はやはり納得がいかん。高校の頃から感じていたが、同じ『融合』のEx適正を持つ者として、こうもお前との力の差を見せ続けられれば…私が融合王者となるのは、やはり間違っているのではないかと…」

「はいはい、高校の時にも似たような事言ったけど、そんなのどうでもいいことなんだって。遠雷はプロの道を選んだ。僕はデザイナーの道を選んだ。僕達は元々歩いている道が違うんだから、世界ランク2位の君が融合王者になるのは当たり前のことじゃないか。」

「しかしだな…」

 

 

 

そして、ソレはヒカリのみならず。当事者である、世界ランク2位の灰羅 遠雷もどうしても考えてしまうことなのか。

 

…いや、彼の場合、同じ『融合』のEx適正を持つ者としてのプライドが在るがゆえに、ヒカリよりも感じるモノは大きいはず。

 

そう…いくら遊震が否定しても、高校の頃から通算して大きく負け越し続けている灰羅 遠雷。

 

それは、いくら自分が世界ランク2位という立場に上り詰めた身であったとしても…

 

それでも、同じ『融合』のEx適正を持つ者同士として。自分より強い融合使いがいるという事実が、本当に【融合王者】になってもいいのだろかという思考を遠雷へと与えている様子。

 

しかし…

 

そんな、遠雷に対し。

 

 

 

「大体、別に僕『融合召喚』使わないんだからさ、Ex適正が『融合』ってだけで僕が融合王者に選ばれる事になったとしても…うん、僕は絶対にソレを辞退するだろうね。だって融合使わないし、別にこれからも使うつもり無いんだから。高校の時から今までずっとそのスタイル、変えてないでしょ?」

「ぬぅ…それは…そうだが…」

 

 

 

さも当たり前のようにしてそう返した玖我 遊震。

 

そう、貴族や名家と呼ばれる家柄の者以外、『Exデッキ』に頼るようなデュエルを行わないのが今の時代のデュエルの主流。それは【決闘世界】が敷いた厳しい決闘法の弊害でもあるのだが、とにかく今の時代は一般人へのカードの普及率が極端に低い傾向にあり…

 

…下手をすれば、Exモンスターを1枚も持っていないプロだっている。

 

とは言え、それは別に恥じる事でも何でもなく。誰もが自らの持ち得る、集め得るカードを駆使して戦うのがデュエルの基本であるのだから、遊震のようにEx適正が融合でも融合召喚を使わないデュエリストなんてこの時代にはごまんと溢れているのだ。

 

それに、先ほど遊震が言った通り。

 

玖我 遊震という男は、プロデュエリストではなくカードデザイナーの道を自ら選んだ。それは彼自身が出した結論であり、そこには他人が入り込む余地のない程の遊震の覚悟が現れているからこそのその言葉なのだろう。

 

…あくまでもデザイナーである彼は、プロデュエリスト達の事情には全く持って関与しない。いや、出来ないというのが当然と言えば当然。

 

それ故、遊震は後悔も何もないのだとして…

 

 

 

「僕は僕、君は君だよ遠雷。それにほら、君にはもう守る家族だって居るんだから、」

 

 

 

静かに、遊震は目配せをしつつ。

 

すると、遠雷の後ろ側…

 

貸しきりとなっている数名の関係者しかいない観客席から―

 

 

 

「パパー!もうおしごとおわったー!?」

「ルゥ…」

 

 

 

2階席から、遠雷へと向けて声をかけてきたのは…今年で5歳になる、灰羅 遠雷の娘だった。

 

そして、娘に声をかけられた遠雷へと…

 

遊震は、更に続けて…

 

 

 

「君には奥さんもルゥちゃんも養っていく義務がある。だからコレは君にとっても良い話なんだよ遠雷。【王者】になれば収入も増える、灰羅の家名だって蘇るって君も喜んでいたじゃないか。」

「…そうか………あぁ、そうだな。しかし…」

「ん?」

「家族を養う義務なんて台詞、ヒカリのヒモになる気満々の奴に言われるのも癪だがな。」

「ぐっ!?い、痛いところを………と、とにかく、僕のカードが早く承認されるために、遠雷も協力してよね!」

「全く…仕方の無い奴だな。いいだろう、その【クロス・ブリード】とやらを貸せ。」

 

 

 

…お互いにいい年であるが故に、現実に向き合いながらも待ち受ける未来に向けて。

 

遊震と遠雷はまだまだ、『仕事』へと戻っていくのだった―

 

 

 

 

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