遊戯王Wings英雄伝「サンダーボルト」 作:shou9029
「ねぇ暴琉斗、このカードにこういう効果持たせるのってどう思う?コレとのコンボを想定してて…」
「…替。」
「あ、そっか!確かにこの効果はコレじゃなくてもう一枚の方に付加した方が動きがスムーズになる!いやー、やっぱ前線に出てる暴琉斗の意見は参考になるよ!これは僕も盲点だった、流石は暴琉斗だ!じゃあさ、昨日コレも思いついたんだけど…【ライトニング・ストーム】っていうカードで…」
「…不可。」
「あーやっぱりかー。僕もこれだと流石に強すぎるかなって思ったんだよなー。【サンダー・ボルト】とか【ブラックホール】とかって複製不可に認定されちゃってるから、その代用カードにって考えてみたんだけど…」
「…分。」
「ん、そうだね。じゃあここは暴琉斗の言う通り、効果を分けつつこういう制約をつけて…んで、この効果を削って…」
「…良。」
「あ、これなら暴琉斗も良いと思う?ありがとー!」
決闘市にある、世界最大規模を誇るスタジアムの控え室。
そう、通称、『セントラル・スタジアム』の選手控え室にて。カードデザイナーである玖我 遊震は、幼馴染である現世界ランク1位、『虚空』の皇 暴琉斗へと…
色々と質問を投げがけつつ、何やら会話を弾ませていた。
…いや、コレを弾ませていたと表現してもいいのかは疑問が浮かぶところではあるが、しかし実際に『一言』でしか返事を返さぬ皇 暴琉斗の言葉に対し、遊震には色々と他人には聞こえぬ声がしっかりと聞こえている様子を見せており…
「…いっつも思うんだけどさー、幼馴染ってだけで、遊震ってなーんで暴琉斗のアレだけでそこまで理解できるんだろーね。ねぇ遠雷君、どー思うー?」
「…私に聞くな。アイツらは高校の時からあんな感じなのだ。私も暴琉斗のアレは未だによく理解できん。」
また、そんな遊震と暴琉斗の光景は、他人が端から見ても異常なモノとして映るのだろう。
そう、この控え室に居たのは、遊震と暴琉斗の他にも2人おり…
一人は、暴琉斗と同じくこれよりプロの試合を控えている世界ランク3位、『稲妻』の鳴神 ヒカリ。
そしてもう一人は、試合は無いものの何故か居合わせた世界ランク2位、『放電』の灰羅 遠雷であった。
…すると、ワイワイと会話を続ける遊震を見てヒカリは一体何を思ったのか。
試合前のプロの控え室に来てまで、自分勝手な会話を続ける婚約者へと向けて…ヒカリは、少々強めの口調にてその口を開き始めた。
「…ていうかさ、ねぇねぇ遊震、私と暴琉斗君これから試合あるんだけど。なんで控え室でカード談義してるわけ?」
「いやそれがさ、昨日の夜にふと新しいカードの案が浮かんじゃって。でも一晩考えても効果が纏らなかったから、ちょっと暴琉斗に助言でもらおうかと…」
「は?また徹夜したの!?いい加減にしなって言ったよね、もう!」
「あ、で、でもこのカードが許可されればきっと皆が喜ぶかと思って…」
「でもそれって試合前の控え室に来てまで相談することなの!?大体、遊震のせいで集中できなくて試合に負けたらどうするつもり!?」
「え?勝つでしょ?ヒカリも暴琉斗も。試合前に僕と話したくらいで君達負けないじゃん。だって強いし、二人とも。」
「それは…むー、そうだけどさー。」
しかし、あっけらかんとそういう遊震の言葉を聞いて。何やら、逆に言い返された気になってしまった様子をヒカリは見せて。
…確かに試合前にナーバスになるよりは、遊震と取りとめのない会話をする方が返って緊張が解けるのはヒカリにも経験があるとは言え。
それでも、常識的に考えて試合前のプロの控え室に部外者が立ち入り、試合とはまるで関係の無いことを一方的に話しているのは…少々配慮が欠けているというか、抜けて居ると言うか、とにかくそう言う事をヒカリは遊震に言いたかったのだが…
…すると、遊震はそんなヒカリから視線をずらしたかと思うと。
今更ながら気がついたようにして、控え室にいたもう一人…世界ランク2位、『放電』の灰羅 遠雷へと向けて、再度その口を開き始め…
「あれ、そういえば遠雷、何で居るの?」
「なっ!?お前が連れてきたのだろうが!解説者で呼ばれた私を!エレベーターの前で『丁度良かった!』とか言って捕まえて!強引にここまで引っ張ってきておいて何を言う!」
「あれ、そうだったっけ?でも、だったらなんで仕事に戻らなかったの?」
「…一応、私の解説の仕事は午後の『新人戦』のだからな。マネージャーにも連絡入れたし、まだ時間があるから居てやっただけだが…」
「…直。」
「ッ!ちょっ、ぼ、暴琉斗、なにもそこまで言うことないよ!確かに遠雷はお、おぼっちゃん育ちだけど…プッ、ははははは!」
「お、おいまて遊震!暴琉斗は何と言ったのだ!?『直』とはなんだ!?大体なぜデュエル以外でまともに喋らないのだコイツは!」
「…豆柴。」
「ぼ、暴琉斗ぉ、こ、これ以上笑わせなはははははははははっ!」
「だから何と言っているのだー!なんなのだー豆柴とはー!」
…それは高校の頃から変わらない、男同士の馬鹿なやり取り。
とてもじゃないが、試合前に世界ランクの1位と2位と、そして部外者が試合に何の関係もない馬鹿騒ぎしているだなんて…このセントラル・スタジアムに集ったファン達の、一体誰が想像しているだろう。
いや、誰も想像出来ているわけがない。何しろ、本日これより行われる対戦カードは、世界ランクトップクラスの者たちによるトーナメントの準決勝…
決闘市における最大規模のプロの賞金トーナメント、通称『金林檎杯』の準決勝なのだ。
だからこそ、反対側の控え室…今日のヒカリと暴琉斗の相手である、世界ランク4位の『氷結』と6位の『爆炎』は真剣に試合に臨もうと集中を研ぎ澄ませている頃だろうというのに…
片やこちら側の控え室は、男共が馬鹿騒ぎ中。大事な試合前だと言うのに、そんな男達の馬鹿騒ぎを見て…この部屋で唯一の女性であるヒカリは、一体何を思うのだろう。
「…はぁ…ホント仲いーよねー3人とも。緊張してた自分が馬鹿らしくなってきたよ、もう。」
高校の頃のノリをそのまま持ってきたような男達の馬鹿騒ぎを見て、溜息を1つ吐きながらもそう呟いた鳴神 ヒカリ。
それは怒るのも叱るのも馬鹿らしくなった、一種の呆れにも似た深い溜息なのか…
…まぁ、とは言えヒカリも先ほどまで感じていた肩の荷がどこか軽くなった感覚を覚えていないといえば嘘になる。
そう、今日の相手、同じシンクロ使いの世界ランク4位、『氷結』の
何しろ相手は同じシンクロ使いかつ、自分よりもキャリアの長い言わばトッププロの定住者。
ソレに引き換え、自分は最近になってランキングを上げてきたプロの上位の者達からすれば新参者なのだから…
もしここで負けて、世界ランキングの変動が起こってでもしまえば。折角もらえていた【シンクロ王者】の話も、無かったことにされてしまう恐れがあったというのだから。
…まぁ、【王者】制度に関しては既に全世界決闘者統括機構【決闘世界】がその任命者を決定事項としているため、例えここでヒカリが負けたとしてもランキングが大きく変動することは無いのだが…そんな事などまだ知らないヒカリからすれば、大事な試合を前に馬鹿騒ぎする男共に対し苛立ちを感じるのは当たり前で。
とは言え…
男共の馬鹿らしいやり取りを見て、そんな緊張していた自分までもが馬鹿らしいとさえ思えてしまうほどに。
ヒカリはもうひとつ、今度は深呼吸するかのようにして深い息を吐いたかと思うと…
どこかリラックスしているかのようにして、ふと時計へと目をやり…
「それじゃ、私そろそろ時間だから行くね。」
「あ、ヒカリの試合次だっけ。相手は確か…」
「世界ランク4位の『氷結』さんです。超強い人ですよ。」
「ん、そうだった。でもヒカリなら大丈夫。君には『雷馬』がついてるんだからね。」
「わかってますよ。じゃあ行ってきまーす。」
そのまま、元気よく控え室から出て行くのだった。
そして…
「…ヒカリ、少しは肩の力抜けたかな。」
「やっぱりか。お前がカードの相談をするためだけに試合前の控え室にまで来るなんておかしいと思っていたんだ。そんなに鳴神が心配だったのか?」
「んー、別に心配はしてなかったんだけど…ま、ヒカリも【王者】の話が来てから少し気負いすぎてる部分もあったし、少しはリラックスした方がいいかなって思ってね。」
「…強。」
「あぁ、そうだな。今日の鳴神の相手もあの『氷結』だ。去年も鳴神が上位に上がってくるまでは、お前と私と奴の3人でトップを争って居たほどの男…雪霜のあのキャリアは伊達ではないぞ。」
「…鋭。」
「うん、そうだね、雪霜さんの鋭い読みと【極氷獣】には少しの隙も見せられない…ヒカリが上がってこなかったら、確実に初代シンクロ王者は雪霜さんになっていたはずだし。」
ヒカリが出て行った後。
先ほどまでの、学生時代の馬鹿騒ぎが嘘のように…急に、大人な雰囲気を滲ませながら、静かにそう言葉を交わし始めた男達3人。
その変化は、本当に先ほどまでの学生のノリを見せていた男共と同じ人間なのかと錯覚するほどに…
そう、遠雷が、暴琉斗の言っている事を理解しているのもそうだが。後先考えない学生のノリとは断じて違う、彼らの雰囲気には確かな社会経験を経てきた大人の細かな配慮が滲み出ているのだ。
…一体どこまでが演技で、どこからが本物だったのか。
それは高校時代からこれまで、実に10年近い年月を語り合ってきた親友同士の彼らだからこそ成せる御業なのだろう。
ヒカリの前で遠雷が暴琉斗の言葉をわからない振りをしている事もそう。配慮に欠けているようで、その実しかとヒカリを案じていた遊震に、阿吽の呼吸で乗る形で暴琉斗と遠雷が察したという…ただ、それだけのこと。
それ故…
「でもヒカリだって自然体で行けば絶対に負けない。去年からのヒカリの伸びは凄まじい。しかもアレでまだ成長途中なんだから、今日だって下手に守りに出るよりは攻めの姿勢を貫いた方がヒカリらしいデュエルになると思ってね。」
「…そうだな。本当に、ここの所の鳴神の伸び具合は凄まじいの一言だ。一昨年までランキング3桁だった奴が、『雷馬』を手に入れてから連戦連勝で世界ランク3位にまで上ってきたんだ…全く、何てモノを鳴神に与えたんだお前は。」
「いや、アレは…」
「…乗。」
「そうだね、暴琉斗の言う通りだ。アレはヒカリと『雷馬』達の相乗効果…多分、他の誰が『雷馬』達を使ってもヒカリほどの強さは得られない。ヒカリと『雷馬』達の相性が合致しているからこそ、アレだけの力になるんだって僕は思う。だから、今日のデュエルも色々考えすぎないようにって…うん、いつも通り、自分らしいデュエルで行こうって、それとなく伝えたかっただけだよ。」
ハイレベルな思考のやり取りが繰り広げられるであろう、今日の試合に注目しつつも。
男達3人は、ヒカリの勝利を微塵も疑わずに…
静かにモニターに注目を集め、もうすぐ始まる『金林檎杯』の準決勝第一試合の観覧へと回るのだった。
「…稼。」
「ッ、い、いや、暴琉斗、それは…」
「いいや、暴琉斗のいう通りだぞ遊震。そこまで気が回るのなら、こんな所で油売ってないでもう少し稼いでやることだな。さっさと帰って仕事でもしたらどうだ?」
「ぐっ…また痛いところを…」
そうして…
少しの後に、スタジアムの方から大歓声が一際大きくなったかと思うと。
壮大な音楽と共に、選手の入場に合わせて実況者が大々的な解説をTVの向こうへと届け始める。
それはいよいよ大詰め、ハイレベルな試合が繰り広げられてきた『金林檎杯』も、とうとう準決勝にまで来たという興奮でもあり…
スタジアムに入ってくるのは、長いトーナメントをここまで勝ち抜いてきた2人のデュエリスト。
新進気鋭…世界ランク3位、『稲妻』の鳴神 ヒカリ。
『2体』の雷馬を駆る、ここ数年で一気に世界ランキングを駆け上がってきた今最も勢いのある24歳として世間から大きく注目されている…女性の中では唯一トップ10に位置している、紛れもないトッププロ。
その容姿の愛らしさも相まって、主に男性ファンからの大きな声援が一際スタジアムの中に響き渡る。
対するは古豪…世界ランク4位、『氷結』の雪霜 氷河。
一時は世界ランク1位だった事もある、自他共に認める確かな豪傑。
少々年を取ってきたとは言え、その氷のような冷ややかな視線と衰えを知らぬ麗美な容姿から…女性ファンからの声援が、より一層大きく反響している。
果たして…
本日勝利し、決勝へと駒を進めるのはどちらのデュエリストなのか。
『稲妻』か、『氷結』か。
新鋭と古豪という対比もそうだが、その戦闘スタイルもまるで真逆。雷のように激しい攻撃を売りとする『稲妻』に対し…分厚い氷のような『氷結』は、その経験でどんな対応を見せるのだろう。
観客達も皆、そしてこの中継を見ているTVの前の見えない観客達もまた…そんな新鋭と古豪との対決に、始まる前から心躍らせていて。
そうして、始まる…
鳴神 ヒカリと、雪霜 氷河の準決勝が。
それは当初の予想通り、序盤から攻めの姿勢を見せる『稲妻』の雷撃の如き激しい攻めを…
『氷結』は流れるように美しく裁きつつ、的確な場面で鋭い氷柱を差し込んでくるという、本物の実力者同士のぶつかり合いとなりて決闘市中へと映しだされているのか。
…まさに、一進一退。
観客達の目には、攻撃を仕掛け続けているのは『稲妻』のように見えるのに…『氷結』の方が、ボードアドバンテージやLPと言ったモノを優位に立たせているのは流石の経験値と言えるだろう。
けれども、ターンが変わればソレを一挙に押し返すような怒涛の攻めを魅せる『稲妻』の戦いもまた観客達にとっては興奮を呼び起こす代物となりてトッププロ達の戦いは続いていき―
しかし…
激しい雷のような『稲妻』の攻撃に対し、流れるように的確な手を打ってくる『氷結』のデュエルはまさしく古豪の名に恥じぬ確かな歴戦を感じさせるモノ。
それは少しずつ…そう、少しずつではあるが、経験の差となりて少しずつヒカリを圧し始めており…
「…圧されてるな、鳴神の奴。前のターンにバイコーンの攻撃を防がれたのはかなりの痛手だ。」
「…一手。」
「…うん、これで相手の場にはアイスバーグ・ナーワルと守備表示のポーラ・ペンギン…ここまではヒカリが一手遅いね。でも…」
『魔法カード、【魔獣の懐柔】はつど…』
『甘い!カウンター罠、【見切りの極意】発動!【魔獣の懐柔】は無効だ!』
経験の差から、少しずつ圧され気味になっている婚約者を見る遊震の目は…
たった今ドローした、一発逆転を狙えるカードを無効にされたヒカリに対しても。どこまでも、確信めいた信頼の目を見せながら―
「ここまでよく【エアーズロック・サンライズ】を温存した。あとは逆転するだけだ。」
と、そう言葉を投げかけていて―
そして―
『【エアーズロック・サンライズ】の効果で、墓地から【マイン・モール】を特殊召喚してアイスバーグ・ナーワルとポーラ・ペンギンの攻撃力を800下げるよ!そのままレベル3の【マイン・モール】に、レベル2の【森の聖獣 ヴァレリフォーン】をチューニング』
ヒカリの叫びに呼応して、天へと昇る土竜と小鹿がその身を3つの雷球と2つの光輪に変える時。
閉ざされたセントラル・スタジアムの上空に、突如として雷音が鳴り響く。
『蒼穹の彼方に鳴り響け、天翔ける雷よ!」
…轟く雷鳴、瞬く稲妻。
ソレはヒカリの元に落ちる落雷となり、スタジアムの中央に降り立つ一筋の雷光となりて…
―ここに、現れる。
「おいで、レベル5!【サンダー・ユニコーン】!」
―!
【サンダー・ユニコーン】レベル5
ATK/2200 DEF/1800
天から落ちる光の柱を貫き、今ここに呼び出されたのは、蒼き雷が化身となった幻想の一角獣。
この暗いセントラル・スタジアムの中心において、青天の空を纏ったような雷馬の体色はあまりに映える存在感を醸し出しており…
…そう、この【サンダー・ユニコーン】こそ、ランキング3桁だった彼女が一気に世界ランキングを駆け上がるきっかけを作ってくれた正真正銘の『象徴』とも呼べるシンクロモンスターの2体の内の1体。
雷角を槍に、その身を奮わせ…
主たる女性を守らんとして、雷鳴を唸らせ敵の前に勇み立ち。現れ出でた青き雷馬に、観客達が多いに沸き立つ。
そうして―
『【マイン・モール】の効果で1枚ドロー!続けてユニコーンの効果も発動だよ!アイスバーグ・ナーワルの攻撃力を更に500ポイント下げちゃうからね!』
『フッ、小娘が!それではまだ足りぬぞ!ここを耐え次のターンで…』
『わかってるよ、だからこれが私の全力全開!魔法カード、【野生解放】発動!ユニコーンの攻撃力を、その守備力分アップさせる!』
【サンダー・ユニコーン】レベル5
ATK/2200→4000 DEF/1800
『ぬっ!?【マイン・モール】のドローか!?』
『その通り!さぁいくよユニコーン!【極氷獣アイスバーグ・ナーワル】に攻撃ぃ!』
駆ける…
まるで、天を翔けるように軽やかに。
それは例え、相手が分厚い氷のように崩れぬ氷壁のような敵であっても関係無いのだと言わんばかりに…
蒼雷を纏う雷馬の角が、その輝きをより一層増すのと同時に。
ユニコーンが、纏う蒼雷を雷槍へと変え。その全身を、巨大なる槍と化し―
『貫け!蒼雷の…ライジング・ブレイヴァー!』
―!
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁあっ!』
『氷結』 LP:2500→0
―ピー…
鳴神の化身が雷槍となりて、一直線に稲光る。
それはまさしく、このデュエルの勝敗を決定付ける強烈な一撃となりて…
無機質な機械音を、セントラル・スタジアムと決闘市中の中継へと届けたのだった―
「ふぅ…心配はしてなかったけど、やっぱり雪霜さんも強かったね。かなりギリギリのデュエルだった。」
「…いや派手すぎだろう。あの雪霜を相手にアレだけの動き…鳴神の奴、また強くなったようだ。遊震、お前、なんてモノを鳴神に与えたんだ全く。」
「だから相乗効果だって。ヒカリと『雷馬』にヒカリのデッキが答えてくれたんだよアレは。」
「…過。」
「ほら、暴琉斗も言っているではないか。過上すぎる力はいつか身を滅ぼすと。」
「んー…でも確かに暴琉斗のいう通りかも。今日のヒカリを見る限りまだ必要ないと思って渡さなかったんだけど…二人がそう言うんじゃ、この【ライトニング・トライコーン】はまだヒカリには渡さない方がいいかなぁ?」
「…まだあるのか『雷馬』…」
「…恐。」
―…
「ぐ…と、止まらねぇ!」
「色即是空…レベル8、通常モンスター2体、オーバーレイ。」
『稲妻』と『氷結』のデュエルの後。
セントラル・スタジアムでは、『金林檎杯』の準決勝第2試合が行われていた。
それは世界ランク1位、『虚空』の皇 暴琉斗と…世界ランク6位、『爆炎』の弾間 獏の試合であり…
「轟…エクシーズ召喚。虚空…ランク8、【サンダーエンド・ドラゴン】。」
―!
【サンダーエンド・ドラゴン】ランク8
ATK/3000 DEF/2000
轟く雷鳴、唸る雷轟、渇いた爆音と共にセントラル・スタジアムの中心に降り立つは、終焉導く弾轟の雷竜。
それはここまで危なげなく圧勝を続けてきた、全てを無に帰す『虚空』の異名をそのままに。
世界ランク6位の『爆炎』相手に、皇 暴琉斗がどこまでも容赦なく襲い掛かる。
「終…サンダーエンド効果。1つ消費…破邪滅界。」
―!
先のターンに、全力展開にて完璧な布陣を敷いていたはずの『爆炎』の布陣を、一瞬で無に帰す轟く爆雷。
…全てを無き物にする…まさしく『虚空』の名の元に発動されたその効果によって。
あまりに無情に、『爆炎』の場が全て崩壊していき―
「…攻。終焉襲雷撃。」
―!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
『爆炎』 LP:2000→0
そうして…
決闘市最大の賞金トーナメント、通称『金林檎杯』の準決勝第2試合、世界ランク1位と6位の対戦カードは…
…大盛況の中、『虚空』の皇 暴琉斗の圧倒的勝利となりて。
来週の決勝戦へと向けて、大盛況の中で幕を下ろしたのだった―
―…
「…強すぎる力は、いつか自分を滅ぼす…か。」
ヒカリと暴琉斗の危なげないデュエルを見終わり、帰路についていた遊震はふと、先ほど暴琉斗が言っていた事について考えていた。
…それは、世界ランクを駆け上がり未だ成長途中の『稲妻』、鳴神 ヒカリに対して暴琉斗が言っていた言葉ではあったのだが…
しかし、帰路についていた遊震はあたかもソレが自分自身に言われた言葉のようにして、ぼんやりと『何か』を考えている様子でもあり…
(…カードは誰かに出会う為に生まれてくる…けど、ソレに見合う力を持っていないと自分に跳ね返ってくる…ねぇ、『君』もそうなのかな。)
遊震のその心の声は、誰に向けたモノでもない。
コートの内ポケットに仕舞ってある、デッキケースを兼ねている自分のデュエルディスクへと視線を向けている遊震の心のその声は…
およそ、他人には理解出来ぬモノとなりて、彼だけにしか知りえぬ存在へと向けてただただ一方的に問いかけるだけなのか。
…そう、遊震には、誰にも見せられない切り札がある。
それは、彼が始めてデュエルディスクを装着した幼少期に、ディスクが勝手に創造したおよそこの世の誰も見たことがないであろうただ1枚の『特別』なカードであり…
そのカードの創造がきっかけとなりカードデザイナーへの道を歩みだした遊震からすれば、まだ見ぬカード達が生まれるタイミングすらもまるで神が定めているかのような錯覚を覚えることもあるのだから、カード達の声を聞けると自負している遊震を持ってしても、カードの意思というモノは未だ答えの出ない永遠の疑問でもあるのか。
…1枚を『作成』するだけでも膨大なエネルギーが必要とされているカード製作に対し、デュエルディスクが一体どうやってカードを『創造』しているのかは未だ解明されていない。
けれども、デュエルディスクに創造されないカード達の声を聞き、カードをあるべき形で作成する事こそが自らの使命であり役目なのだという事を遊震は自覚しているからこそ…
「…んー、まぁいいや。とりあえず帰って仕事しよう。いつまでも暴琉斗と遠雷に嫌味を言われるのも癪だしね!」
一刻も早く、新たなカードを作成するため。そして結婚前に少しでも稼ぐべく。
恋人と幼馴染の勝利に気分をよくしながら、遊震は帰路を急ぐのだった―
…そのまま、また徹夜したところをヒカリに見つかり大目玉を喰らったのは置いておいて。
―…
数日後―
『これが今回新たに見つかった古代遺跡の入り口だそうです!この先は崩れやすく、専門家以外の侵入は出来ませんが、また新たな発見がされるのではないかと世界中が注目しています!』
「へー、遺跡だってさー。遊震興味ある?」
「…いや、別に。」
「だよねー。私も。」
遊震のアパートのTVから流れたソレは、一日の終盤…夕食前に流れた、とある発見を告げるニュースであった。
そしてその中継映像を、遊震とヒカリはどこかまったりとした空気で何気なく眺めており…
ソレによれば、何でも一昨日起こったやや大きめの地震が原因で…まだ開発されていない決闘市の北地区、その山中にて謎の古代遺跡への入り口が見つかったというモノらしい。
…まぁ、前々から決闘市には、先史時代の言い伝えが残る数多くの噂があったとはいえ。しかし今回の遺跡発見にて、ソレが現実味を帯びてきたと言うのだから、多くの歴史研究か達がこぞって今回発見された遺跡に対し、多大な興味を抱いているというではないか。
しかもソレが、全く開発が進んでいない山林だらけの決闘市北地区であったのだから…
今回発見された遺跡によって、これまでの歴史上における謎多き部分が何か解明されるのではないかという期待と共に、後回しにされてきた北地区の開発も進み始めるのではないかという事で決闘市も少々の賑わいを見せていて。
「ここからわりと近い場所だよね、見つかった遺跡って。そういえば北地区って何があるんだっけ?」
「ん?何もないよ、山だけ。でもこれから少しずつ開発が進むかもね。遺跡を観光名所とかにして観光地化すれば、ホテルとか色々建ちそうだ。」
「ふーん。まぁどうでもいいや。私達には関係ないし。それより晩御飯何にしようかなー。遊震は何が食べたい?」
「別に何でも…」
「何でもが一番困るんだけど、もう。」
しかし、そんな歴史的発見になど、二人は微塵も興味を抱かない様子。
そうして、夕食を作ろうとヒカリが立ち上がり、キッチンへと向かったのと同時に…
『あっ、調査に入っていた専門家たちがたった今出てきました!その手には何やら石版のようなモノがあるようです!』
ニュースの中継映像が、やや興奮気味に遺跡から出てきた専門家たちを映した…
―その時だった。
―『…』
「…ッ!?」
「どうしたの遊震?」
「あ、いや…な、なんでも…ないよ。」
(い、今…強い、『声』が聞こえた…あの石版から…?)
不意に…
TVが、遺跡から発掘されたという1枚の石版を映したのと同時に―
何やら、一瞬の強い頭痛と共に…遊震の頭の中に、『何か』の声が聞こえた様子。
(…僕を…呼んでる?)
それはいつも聞こえてくる、カード達の囁きとはまた違った…
あまりに強い『意思』のような、そんな呼び声のようなモノを今の一瞬で遊震は感じ取ったのだ。
そして何故か…そこへ行かないといけない気がした、あの遺跡に行かなければならないという気がした玖我 遊震。
今すぐと言うわけにはいかない。いくら遊震のアパートが東地区の端にあり、見つかった北地区の遺跡にはバイクでならわりとすぐ着く距離だとはいえ…
専門家以外立ち入り禁止の場所に今から行ったところで、門前払いを喰らうのが関の山であり、下手に揉めて顔を覚えられれば一生あの遺跡には入れてもらえない可能性だって出てくる。
…しかし、それでもなお自分はあの遺跡に行かなければならないのだと―
そう思ってしまうほどに、さっきの『声』はあまりにハッキリとした意思を遊震へと伝えてきたのだ。
…ならば、行く時間帯は1つ。
そう、深夜しかない。
入り口が厳重に封鎖されるとはいえ、深夜の更に更けた時間ならば。人の居ない山の遺跡ならば、正規のルートではない場所から山に入ればまず見つかることはないだろう。
そんな、普通の人間ならば考えなさそうなことを真剣に考えてしまっていることに…
遊震は自分では気がつくこともないまま、どうしてもあの遺跡に行かなければならない気持ちだけがどんどんと大きくなってきている様子で…
「あ、今日こそ徹夜は許しませんからね。監視も兼ねて泊まってくから。」
「…はい。」
まぁ、その前にヒカリという厳しい監視の目をどうにかしないといけない事に、遊震はまた頭を悩ませ苦労するのだが…
そうして…
夜。
それも、深夜も更に更けた時間帯。
恋人同士の情事を終え、いつもより激しい情事によって精魂尽き果て気絶する様に疲れ寝てしまったヒカリを一人部屋に置いて…
…こっそりと家を出た遊震は、眠気と疲れで気怠い体を押してバイクへと跨ると。件の遺跡が見つかったという決闘市北地区の山中へと向けて、夜の町を静かに走り始めていた。
街を離れ、山岳部の北地区へと向かう静かな夜の道筋…
それは闇夜というある種の不気味さを纏いながら、だんだんと虫と鳥と風の声だけになっていく山へと遊震を誘っているのか。
…そして、走り出して30分もしないくらい頃。
すぐに目的の山の麓についた遊震は、そのまま舗装もされていない地面にバイクを置くと…
まるで『何か』に導かれるようにして、暗い山の道なき道を何の迷いもなく、強い足取りにて登り始めた。
…普通、こんな深夜に山に入るだなんて危険な行為、常識ある人間であれば躊躇するどころか実行しようとも思わないはずだと言うのに。
それでも、懐中電灯も何も持たず…遊震はただただ迷いなく、自分にしか聞こえない『声』に従ってどこまでも草を掻き分け山を登るだけで…
…夕方のニュースを見てから、ずっと遊震の耳にはあの時聞こえた『声』が残っている。
それは全く収まる事はなく、むしろ家にいる時は耳鳴り程度の残響だったその『声』が遺跡に近づくにつれどんどんと大きくなっていくのだから…
その『声』が自分に一体何を語りかけているのかを早く知りたい遊震からすれば、夜に対する恐怖と言った感情など微塵も抱かぬままにだたただ好奇心のみで遺跡へと向かっているだけなのか。
…もしここが歴史の分岐点の一つであったとしたら、遺跡に向かわなかった場合きっと玖我 遊震はこの後の歴史において『雷の英雄』と呼ばれることはなかっただろう。
しかし、恋人の厳しい監視の目と、常識という理性の垣根を超えて遺跡へと向かう事を選んだ遊震は段々ハッキリしてくる謎の『声』に対してもなお怖れも何も抱かずに。
ただただ、急いで遺跡へと向かうだけで…
―自分に『声』を届けてくる存在は、きっと『カード』に関係のある存在のはず。ならば何も怖がることはない。声無き声を自分に届けてくるカードになっていない存在の声を聞き、いつものように『カード』を作るのが自分の役目だ…
…と、そんなコトを考えながら。
ひたすらに、汗を拭いつつ遊震は舗装もされていない険しい山道を、遺跡へと向けて登っていくだけ―
そうして…
遊震の目論見どおりに。いや、まるでお膳立てされていたかのように―
遺跡へと着いた遊震は、案の定ただロープで簡易的な封鎖しかされていない…警備の人間すら居ない、無人の遺跡の入り口へと辿り着いたのだった。
…ここまで来ては、『危険につき、関係者以外立ち入り禁止』の立て札なんて遊震にはまるで見えていない。
それ故、ここへきて遊震はようやく持ってきていた懐中電灯の明かりを点けたかと思うと。入り口に一本張られていた『進入禁止』のラベルのついたロープを、全く迷うことなく潜り見つかったばかりの古代遺跡へとその歩を進め始め…
そして遺跡へと入り、一本道を進み突き当たりまで辿り着いた遊震は…
自らの目を疑うような、あまりにありえない光景を目にしてしまった。
そう、一本道を抜けた、山の中に掘られたの一本道の中にはまるで『渓谷』のような、底の見えない深い深い穴が開いていたのだから。
そして、どういう造りかは分からないが…その『渓谷』には、まるで橋のような細い『土の道』が遊震の居る場から『向こう側』へとかかっており…
…それは物理学を無視しているかのような、あまりにありえない土の橋。
けれども、実際に足を乗せてみれば分かる。その土の橋は、下手な石橋などよりもしっかりとした硬度を誇っているかのように…遊震の全体重を乗せてもびくともしないほどに、あまりにしっかりとした『橋』となりて遊震を『向こう側』へと誘っているかのようではないか。
…だからこそ、遊震は再び迷いなく土の橋を歩き始める。
この土の橋が、一体どういった構造でこんな強度を持っているのかなんて遊震には分からない。
いや、遊震には興味がない。遊震にあるのは、益々強くなってくる『声』のみ。そのまま、不思議と何の怖れも抱かず底の見えない『渓谷』にかかった土の橋を渡ると、遊震は『向こう側』へと辿り着き…
そこにあったのは、山の胎内に作られた小さく古い空同の小部屋…
そして洞窟のような小部屋の前には、夕方のニュースで映っていた『石版』が置かれていたのだろうと推測できる、これまた古代に作られたであろう台座が1つ鎮座してはいたのだが…
しかし、遊震の目を惹いたのは台座ではなく。その小部屋のその古い石壁に、まるで血のような赤黒い塗料によって…
よく分からない、何らかの『絵』のようなモノが描かれていた―
「なんだこれ…ずいぶん抽象的だけど…これって…まるで、悪魔、みたいな…」
…それはカードデザイナーとして、普段から線画やラフ画を見慣れている遊震だからこそ理解出来てしまった恐ろしいモノの片鱗。
経年劣化によって所々崩れてはいるものの、しかしその断片や線のつなぎ方、そして壁画が何を表しているのかを…ソレを一目みただけで直感的に感じ取ってしまった様子の玖我 遊震。
そして、その壁画の上の部分…
遊震が『悪魔』だと直感してしまったモノの、その頭部らしき箇所に懐中電灯の光を当てた…
その瞬間―
―『…』
「ッ!?」
突然…
遊震の脳裏には、不思議な映像が一瞬だけ浮かび上がったのだ。
思い出すのも困難なほどに刹那な映像、しかしあまりに『壮絶』だったと言う事が分かるほどに…
遊震に見えたのは、何やら激しい『戦い』の映像のほんの一部…それはどこか『神』と『悪魔』が戦っているかのような、そして大勢の人間がデュエルディスクを手に軍勢に分かれ、血で血を洗うような血なまぐさい大戦が行われていたような…
遊震に見えたのは、そんな形容し難い戦いの光景。それはまるで『決闘聖書』にあるような、神々と悪魔の世界を分けた聖戦のようなモノであり…
吐き気を催す…あまりに血なまぐさい、人の死を直接見せ付けられたかのような今の映像に。
頭痛を覚える…知ってはいけなかったモノを見てしまったかのように、膨大な刹那に脳の処理が追いつかず。
果たして…
玖我 遊震に見えたのは、一体『何』の映像だったのか。
そんなこと、今この時代に生きる遊震には全くもって理解できないものの…
けれども、一瞬の中に見えた刹那の光景の中に。何やら形容し難い『悪魔』のようなモノのイメージが、遊震の脳裏には酷く反響し続けていて―
「い、今見えたのは………何なんだろう…で、でも今の『悪魔』が…多分、僕に声を…」
そして…遊震は、突然踵を返して走り始める。
…自分に声をかけてきたのならば、ソレはカードになりたがっている存在であるという持論を持っている玖我 遊震。
今の彼は、まるでその思いに取り憑かれたかのようにして…来た道を一直線にダッシュして、全力疾走にて帰り始めたのだ。
そのまま遊震は遺跡を後にすると、深夜を良い事に乗ってきたバイクにて法廷速度を越えたスピードを出しつつ…ただただ帰路を急ぎつつ、先の天啓にも似た衝撃を微塵も忘れないようにブツブツとイメージを言葉にして漏らしているだけ。
そのまま…
帰宅後、寝ているヒカリを意に介さず。
遊震はデスクのライトをつけると、一心不乱に紙に何やらラフ画を殴り書きし始めたではないか。
それは陽が昇り、ヒカリが起きた後も終わらない―
それだけではない…
起きたヒカリが怒っても。強い言葉でいくら止めても。何度声かけをしても。無理矢理デスクから引き剥がそうとしても。
それでも何故か遊震は、一向にカード製作の手を止めようとはしなかったのだ。
…それはまるで、本当に『何か』に取り憑かれたかのよう。
飲まず食わず、眠らず休まず、ただただ遊震は一心不乱に、カードをデザインし続けるだけで…
「遊震!何度言ったらわかるの!2日も寝ないなんていい加減にしなよ、もう!」
「…もう少し…もう少しなんだ…もう少しで、彼らの声を聞き届けられる…」
「はぁ………言う事聞かないならもう知らないから!」
「…うん、もう少しなんだ…あの時見えたイメージは…もっと、こう…」
その姿は、はっきり言ってただただ異常。
堪忍袋の緒が切れたヒカリが、苛立ちのままアパートを出て行ったことも意に介さず…
むしろ邪魔する者が居なくなったと言わんばかりに、更に遊震は勢いを増し。2日も寝ていないとは思えない程の集中力にて、見る見るうちに『3枚』のカードの清書に入り始めたではないか。
カードの清書…ソレすなわち、カード作成の最終段階の行程。
【決闘世界】に提出する前の、イラストを枠に収めたり細部に慎重に色付けしたり、細かな加工や特別な処置をするという、試刷りの一歩手前の状態。
この清書したカードを試刷りし、【決闘世界】に申請書と共に申請費を支払い提出することでようやく新しいカードが作成可なのか不可なのかの審議へと回されるのだが…
しかし、並のカードデザイナーなら1枚のカードを清書まで仕上げるのに1週間はかかるのが普通だというのに、『3枚』ものカードをたった3日で仕上げつつある今の遊震の状態は、本当に誰が見ても異常の一言。
そうして…
4日目の朝日が、山の向こうから上がってきた頃。
遊震の手には、たった今試刷りしたばかりの…
【決闘世界】の申請が通っていない状態ではあるものの、未だかつて誰も見た事のない全く新しい『3枚』のカードが握られていた―
「…………………ん?あれ…僕、一体何を…」
すると…
3枚のカードを、手に持ったその瞬間。
まるで、ハッと我に返るかのように…
徐に、キョロキョロと周りを見渡しつつ。今の今まで、自分が何をしていたのかを全く理解出来ていない様子を見せた玖我 遊震。
…自分のその手に、たった今自分が作ったばかりの『3枚』のカードが握られていることにも疑問を抱きながら。
時計の日付が3日以上経過している事に混乱しつつ、それ以上に自らの手に握られている『赫炎』と『憐藍』と『輝雷』の3枚の『悪魔』のカードに対し…
遊震は、おぼろげながら言葉を漏らし…
「…な、なんだコレ…コレ、もしかして僕が作ったのかな…いや、ぼんやりとだけど覚えてる…間違いなく僕が作ったカードだ…んー…でも作ったっていうより、作らされたって感じが…【神炎皇ウリア】、【幻魔皇ラビエル】…【降雷皇ハモン】…このカードは、一体…」
果たして、自分は一体何を作ってしまったのか。
自分が作ったというよりも、カードに作成させられたかのような錯覚を覚えた事に、遊震は少々の寒気を覚えた様子を見せ始める。
「…ダメだ、よくわからないけど…うん、このカード達は絶対に【決闘世界】に申請しちゃいけない気がする…」
だからこそ、遊震は確信する。
…そう、このカード達は、作るべきではなかったのだ…と。
今まで、自分が作成したカードに対しこんな感情を抱いたことなど無い遊震。それは彼が、カードを作ると言う事に誇りを持って臨んでいるというのも勿論なのだが…
…『カードは、まだ見ぬ誰かに出会うために生まれたがっている。』
カードになりたい存在の声を聞けるという遊震の抱くその持論は、得てして『好意的』な声を聞けるからこそ自らも誇りを持って生み出したいと思えるカードが作れるというモノ。
だからこそ、作成する前までは気がつかなかったが…しかし、作成してしまった今だからこそ遊震は理解してしまった。
今自分が持っている、この『3枚』の悪魔のカード達から感じるのは紛れも無い『憎悪』…
それも、とてつもなく強い醜悪な『憎悪』という感情であり、決して生まれたくて生まれた存在ではないのだ…と。
そして…
「と、とにかく、このカード達はひとまず保管してお…」
自らが作成したカード達から感じる、とてつもなく危険な感覚に畏怖を覚えた遊震が。
『3枚』の悪魔のカードを、厳重な鍵のついた箱に入れようとした…
その時だった―
―!
「ッ!?」
突如…
カードを仕舞おうとした遊震の手が、あまりに強く光り輝いたのだ―
…いや、光り輝いたのは遊震の手ではない。
そう、輝いたのは『カード』の方…
遊震の持っていた『赫炎』と『憐藍』と『輝雷』、その3体の悪魔のカードが突如として強い光を放ったのだ。
そして、突然となるあまりに眩しい閃光に、思わずカードを手放してしまった遊震。
すると、カードを手放した刹那に閃光が徐々に収まり始めたのだが…
しかし、今の今まで、間違いなくその手に持っていたはずのカードが…
そう、確かにその手に持っていたはずの3枚のカードが、いつの間にやらその姿を消しているではないか―
「な…ど、どこに行ったんだ!?」
思わず手放してしまったとは言え、落としたのならばかならず床に落ちているはず。
しかし、ライトを使ってデスクの下や隙間などまでくまなく探しても…どうしても遊震には、3枚のカードをどうしても部屋から見つけられない。
消えてしまった3枚のカード達…
これはまるで、カード達が鍵の箱に封印されるのを拒絶したかのような、自らの意思で姿を消したよう。
そして…
―!
その刹那、遊震の耳に響いたのはまるで爆発のような衝撃音であった。
いや、これは爆発ではない…
これは、『落雷』の音。
あまりに近くに雷が落ちたために、爆弾が爆発したような音となりて遊震の耳に届いたのだ。
「か、雷が落ちた…?い、今まで晴れてたのに?」
また、突然の落雷に驚いた遊震の耳に届いたのはそれだけではない…
―!
―!!
―!!!
爆発音は続く…
そしてそれ以上に聞こえてくるのは、四方八方から鳴り響くゴロゴロという『雷』の音。
そう、たった今アパートのすぐ近くに落ちた落雷と同じようなモノが、決闘市中のあちこちへと落ち続けているかのような連続した終わらぬ落雷音となりて街中のあらゆる咆哮から聞こえ始めて。
それ故、そのまま窓の外へと目をやった遊震は思わず自分の目を疑った…
…そう、誰が信じられるものか。
今の今まで、綺麗な朝日が昇り雲ひとつない晴天が広がっていた決闘市の空を…
一瞬で分厚い黒雲が空を覆ったかと思うと、遊震の目に飛び込んできた光景は他でもなく―
「ら、落雷が街中に…なにが起こって…」
千の
そう、決闘市に…
無数の『落雷』が、降り注ぎ始めたのだ―
―…
次回、遊戯王Wings英雄伝『サンダーボルト』
最終話『雷の英雄譚』