遊戯王Wings英雄伝「サンダーボルト」   作:shou9029

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ep4「雷の英雄譚」

「ら、落雷が街中に…なにが起こって…」

 

 

 

作成したばかりの、『3枚』の悪魔のカードが遊震の手元から消えたその直後…

 

窓の外を見た遊震の目に飛び込んできたのは、あまりにありえない光景であった。

 

そう、遊震の目に映ったのは、普通であれば考えられないような異常気象にも程がある光景であり…

 

 

―!

 

―!!

 

―!!!

 

 

爆音と、雷音と…

 

見える限りの、決闘市中のあちこちに突如として『落雷』が降り注ぎ。

 

それに伴い、早朝にも関わらず遊震の耳には落雷の音に混じった人々の悲鳴のような、とてつもない混乱の音のようなモノが聞こえ始めたのだ。

 

…一体、何が起こったのか。

 

3日も徹夜したそのボンヤリとした頭では、遊震は一体決闘市に何が起こったのかを全くもって理解するコトができず…

 

いや、徹夜明けだとか関係なしに、ソレは例え誰であろうと理解出来るような光景では断じてなかったことだろう。そう、晴天だった早朝に、突然無数の落雷が降り注ぎ始めたなんてこんな異常気象…例え遊震でなくとも、理解出来るはずも無いことであり…

 

 

…決闘市に降り注ぐ落雷の群れ。

 

 

それはまさしく千の雷…いや、神の怒りにも似た万の怒槌。

 

そんな、人間にはおよそ理解出来るはずもないような突然の異常気象が巻き起こるなんて…一体誰が予報出来ていたというのだろうと言うほどの、あまりにありえない光景が遊震の目には写しこまれていて。

 

 

 

すると、決闘市中を落雷が暴れまわる音に混ざって…

 

 

 

…バンッ!…っと、遊震の部屋の扉が勢いよく開いたかと思うと。

 

そのまま、一人の女性が遊震の部屋へと慌しく入ってきた―

 

 

 

「遊震起きてる!?」

「あ、ヒカリ…」

 

 

 

放心している遊震の部屋へと飛び込んできたのは、恋人であり婚約者でもある、アパートの隣の部屋に住む鳴神 ヒカリであった。

 

…狂ったように徹夜続きの遊震に、怒りを顕にしていた先日までの態度はどこへやら。

 

ヒカリはそのまま、放心している遊震へと近づくと。遊震の袖を掴みつつ、突然巻き起こった異常気象にどこまでも不安な表情を見せ始め…

 

 

 

「ねぇ外見た!?な、なんか大変なことに…」

「うん…落雷が…街中に…」

 

 

 

弱々しくそう言うヒカリの声は、心の底からこの無数の落雷を怖がっているかのよう。

 

…いや、実際にそうなのだろう。いくらその戦闘スタイルと扱う雷馬から彼女が『稲妻』と呼ばれていようとも、ホンモノの落雷がこれだけ激しく決闘市中に降り注ぎ街を襲っている光景を見れば、恐れるなと言う方が無理な話なのだから、

 

また、ヒカリが入ってきたその少し後に。遊震の部屋へと、続けて2人の男が慌てた様子で入ってきて…

 

 

 

「…震。」

「起きていたか、遊震。」

「暴琉斗…遠雷…」

 

 

 

ヒカリが入ってきた後。

 

神妙な面持ちで、ゆっくりと部屋へと入ってきたのはヒカリと同じくこのアパートに居を構えている遊震の幼馴染である皇 暴琉斗の姿と…

 

昨夜は仕事関係で暴琉斗の部屋に泊まっていた、友人である灰羅 遠雷の姿であった。

 

 

 

「…当。」

「…うん…」

 

 

 

そんな暴琉斗は、窓から見える落雷が降り注ぎ続けている街の光景と、遊震の表情をゆっくりと見比べたかと思うと。

 

遊震の返事から察するに、まるで『心当たりがあるのか?』と言っているかのような言葉を遊震へとかけ…そして遊震もまた、暴琉斗に対し嘘偽り無い短い返事をただ返すだけ。

 

…すると、そんな遊震の返事を聞いて。

 

同じく部屋へと入ってきた遠雷が、遊震へと向かって徐にその口を開き始めた。

 

 

 

「まて、心当たりだと?遊震…お前、本当にこの異常気象に心当たりがあるというのか?」

「うん…これは…僕のせいだ…僕が、アレを作ってしまったから…」

「いや、お前は何を言っているのだ?落雷が暴れていることとお前と、一体何の関係があると言うんだ。」

「…実は…さっきまで作っていたカードが、完成と同時に消えてしまったんだ。そして、今決闘市に落雷を落としているのは間違いなく…僕が作った、【降雷皇ハモン】が…」

「…すまん、まるで意味がわからんのだが…」

「…狂。」

「なに?遊震が何かに取り憑かれたようにしてカードを作っていただと?」

 

 

 

遊震と暴琉斗の掛け合いを解説するかのように、驚きの声を上げる灰羅 遠雷。

 

…この異常気象の前なのだ。ヒカリの前では暴琉斗の言葉が分からない振りをしていたことも今は置いておいて。

 

そのまま、『放電』と呼ばれし灰羅 遠雷は…

 

この落雷が街中に襲い掛かっているという異常気象に対し、『心当たり』があると肯定した遊震へと詰め寄るようにして更に言葉を投げかけ続け…

 

 

 

「遊震、一から説明しろ。この異常な状況が、お前とどういう関係があるというのだ。」

「ん…実は4日ほどまえに、こっそり北地区に見つかったっていう遺跡に行ってみたんだ…」

「遺跡?それって一緒にニュースで見た…で、でも遊震、遺跡になんて興味ないって言ってたじゃん!」

「興味なんてなかったよ。でも、ニュースに一瞬だけチラッと『石版』が映った時に聞こえてきて…僕を呼んでるような声が…」

「…それはいつもの、カードになりたがっている存在と言う奴の声か?」

「多分ね…それで僕はその遺跡で、古代に描かれた絵を見た…そしたら、そこで変なイメージを感じ取って………それで、僕にはそこからの記憶がぼんやりしている。気がついたら、3日ほど経っていたんだ。」

「気がついたらって…、だ、だからここ最近の遊震、様子が変だったの?」

「多分…」

「…震。」

「うん…僕には、この落雷の元凶が何なのか…心当たりが、1つだけ…ある。」

 

 

 

普通であれば、信じられないような事を話す玖我 遊震。

 

しかし、神妙な面持ちで話続ける遊震の顔を見て…ヒカリも、遠雷も、そして暴琉斗も、ソレが遊震の狂言などではなく、本当のことなのだとして納得せざるを得ないのか。

 

何しろ、街中全土に謎の落雷が襲いかかり続けているのだ。誰も理解できない、急に巻き起こったこんな超常現象に対し…遊震が心当たりがあると言っていることに、誰も疑問を呈する者はここには居らず。

 

それ故…

 

 

 

「あの遺跡だ。この前北地区の山で見つかったっていうあの遺跡…多分、この落雷を発生させている原因はそこにいるはずなんだ。僕には分かる…だって、あのカードを作ったのは僕なんだから。」

「遊震…お前もしかして、この落雷の中でその遺跡に向かおうと言うのではないだろうな。」

「え!?ダ、ダメだよ外に出るなんて!危ないに決まってるでしょ、もう!」

「でも行かなきゃダメなんだ!元はと言えば…ぼ、僕があのカードを作ったせいで…」

「…呼。」

「うん…感じるんだ。僕が作ってしまったカードの1枚が、あの遺跡で僕を待ってるって。だから、僕は今からあの遺跡に…」

 

 

 

…この事態に対し、責任を感じている遊震が。

 

落雷の中、一人で件の遺跡へと行くと提案した…

 

その時だった。

 

 

 

「わ、私も行く!」

「…え?」

「だ、だってそんな危険なところに遊震一人行かせられないよ!」

「だ、ダメだよ!外に出たらヒカリにまで危険が…それに元はと言えば僕の責任なんだし…」

 

 

 

一人で行こうとした遊震に対し、一緒に行くと言い出したヒカリ。

 

それだけではない。

 

 

 

「ならば私も一緒に行くぞ。」

「え?で、でも、遠雷には家族が居るじゃないか!もし君に何かあったら…それに、奥さんやルゥちゃんも…」

「あぁ、わかっている。だがその遺跡に元凶となる『何か』があるのだとしたら、頭数は多い方が良いだろう?それに私のマンションは最新鋭の新築だぞ?防災設備は万全だ、落雷程度で崩壊などせん。だから妻とルゥには絶対に家から出るなと言ってある。問題はない。」

「遠雷…」

「…同。」

「暴琉斗…」

 

 

 

ヒカリだけではなく、遠雷と暴琉斗まで一緒に行くと言い出し始めたのだ。

 

この落雷の中では、外に出る方が危険だと言うのにも関わらず…

 

それでも、彼らは唯一無二の友人をみすみす一人で行かせるわけにはいかないのだとして。頑として、自分達も一緒に行くのだと譲らぬ姿勢を見せていて。

 

 

 

「ん、わかった。止めたって無駄だってことだね。………よし、みんなで行こう、あの遺跡に。」

 

 

 

だからこそ、そんなヒカリや遠雷、暴琉斗の性格をよくわかっている遊震は恋人と友人と幼馴染の思いを無碍にすることはせず。

 

『何』が待っているのか分からないからこそ、危険だとはわかっていても全員で件の遺跡へと向かうことを飲み込みつつも納得するのか。

 

…そうして、急いで部屋を出た遊震たち4人はアパートの駐車場の方…

 

遊震が自分の単車に乗り込み、その後部座席にヒカリを乗せ。暴琉斗もまた、自分の単車に跨ると遠雷を後ろに乗せると…

 

4人はすぐさま、落雷が降り注ぐ危険な決闘市の中を爆速にて駆け抜け始めたのだ。

 

 

 

…落雷を避け、凄まじいスピードで駆け抜ける2台のバイク。

 

 

元々、趣味でよくツーリングに行っていた経験が功を奏し、遊震と暴琉斗は後ろにヒカリと遠雷を乗せているにも関わらず、かなりのスピードとドライビングテクニックにて落雷降りしきる決闘市の中を猛スピードで駆け抜け続ける。

 

…また、この落雷によって街の人々も外に出るのは控えているのだろう。

 

街を走っている他の車などは居らず、街中に人が居ないことも幸いし…信号無視をしても誰にも迷惑をかけることなく、およそ法定速度などまるっきり無視したようなスピードを遊震と暴琉斗は捻り出しつつ、風となりてバイクを駆り続けるだけ。

 

…しかし、こうしている間にも決闘市中には絶えず落雷が降り注ぎ続けている。

 

どこからか聞こえる悲鳴は、もしかしたら落雷による被害を誰かが受けたのかもしれない。

 

どこかで鳴っている消防車のサイレンは、もしかしたらこの落雷によって火災が発生しているのかもしれない。

 

決闘市のどこからか聞こえるパトカーの音や救急車の音と言った、普段であれば余り聞かない緊急時のサイレンがこの街の悲惨な現状を物語っている…決闘市中に降りしきる落雷が、非常事態かつ異常事態であるのだ、と。

 

 

 

そんな、あまりに現実離れした落雷が襲い続ける決闘市の中を遊震たちは果敢にも進み続け…

 

 

 

そうして…

 

 

 

何度か落雷がすぐ近くに落ちるという、危機的状況も多々あったものの。

 

遊震とヒカリ、そして暴琉斗と遠雷は目的の場所…

 

何故か落雷が降り注いでいない、決闘市北地区の山の中にある…

 

件の『遺跡』の入り口へと、辿り着いていた。

 

 

 

「ここがその遺跡か…」

「不思議…街にはあんなに雷が落ちてるのに、この辺はすっごい静かだね…」

「…灯。」

「そうだね…暴琉斗の言う通りだ。『アレ』は間違いなく僕を誘っている…僕に、ここに来いって言っているようなものだ。」

 

 

 

しかし、開発の進んでいない決闘市北地区の山へと辿り着いた遊震たちを待っていたのは、先ほどまでの落雷の騒音が嘘の様な…

 

…謎の『静寂』に包まれた、異様に重たい山の空気であった。

 

遊震たちがいるこの場所も、間違いなく決闘市の中であるというのにも関わらず。この北地区の、それも『遺跡』の山にだけ落雷が落ちていないこの異様な静寂はあまりに不気味かつあまりに不可解であり、それはまさしく暴琉斗が言った通り…

 

そして遊震が言った通り、『落雷』の根源がこの遺跡に居るという限りない証明となりて遊震たちを遺跡の中へと誘っているとでも言うのだろうか。

 

 

 

「でも、罠だったとしても行くしかないんだよね?」

「…是。」

「ん、そうだね…一刻も早く…落雷を止めないと………そうだ、暴琉斗、遠雷…」

「…」

「なんだ?」

 

 

 

そして、遺跡に入る前に。

 

遊震は、ヒカリには聞こえないような声で…遠雷と暴琉斗へと向かって、こっそりと何かを話し始め…

 

 

 

「僕が先行するけど、もしもの時はヒカリを連れて逃げてほしい。…頼んだよ。」

「…任。」

「…あぁ、わかった。」

 

 

 

そうして…

 

喧騒けたたましい決闘市とは打って変わって。一種の静寂すら感じる北地区の、山中にある遺跡の中へと入っていく遊震たち4人。

 

…遺跡の中は薄暗く、しかし周りの岩が微弱に発光しているのではないかと思える程度の明るさを灯していることに彼らは少々の疑問を抱きつつも…

 

しかし、そんなコトは今はどうでもいいのだとして、彼ら4人はどんどんと遺跡の先へ先へとその歩を進めるだけであり…

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

遺跡の奥、洞窟のようになっている場所を抜けたかと思うと。

 

山の胎内の中腹のど真ん中に開いた、あの『土の橋』がかかったまるで『渓谷』のような場所へと遊震たちは辿り着いたとき。

 

向こう側…

 

遺跡の最奥部に、『何か』人の形をしたモノが立っていた―

 

 

 

『来たか…』

 

 

 

「な、なにあれ!?」

「人…ではないな…」

「…電。」

「うん…アレは…」

 

 

 

ヒカリたちが驚いた声を上げたのも無理はない。

 

なにしろ、土の橋の向こう側…渓谷を挟んだ反対側に立っていたのは、人の形はしているものの、およそ人間とは呼べぬような『モノ』であったのだから。

 

 

…そう、そこに居たのは人ならざるもの。

 

 

それは電雷が、まるで人の形を模しているかのような…

 

金色に弾ける、人型の電雷であったのだから―

 

 

 

そして―

 

 

 

『声を聞く者よ、我が分かるか?』

 

 

 

徐に…

 

ゆっくりと振り返りながら、遊震たちへと向かって…否、遊震一人へと向かって、そう言葉を発した謎の雷電。

 

…いくら人間の形を模しているとは言え、その声は口の部分からは出ておらず。果たしてこの謎の雷電が、どこから声を発しているのかなど遊震たちには分かりえない事とは言え…

 

しかし、驚きを隠せていないヒカリや遠雷を他所に。

 

語りかけられた本人…遊震は、謎の人型をした雷電に対しても微塵も震えることはなく。

 

まるで、語りかけるような口調にて…バチバチと鳴っている雷電の人型へと向かって、ゆっくりとその口を開くだけ。

 

 

 

「あぁ、君は【降雷皇ハモン】…僕が作った、3体の『幻魔』のうちのひとつだ。」

『あぁ、そうだ…我は『3つ』の内の一体………だから我は怒りに震えている!何故だ!何故我を『3つ』に分けたのだ!』

「…え?」

『…『黒の巫女』…あの憎き遊弥呼に施された封印を解いたのは感謝する!我が声を聞き、封印を解ける者が現代にまで残っていたのは幸運だった!しかし、貴様はあろう事か憎き巫女と同じく封印の資質を持つ者だった…それだけではない!あろうことか貴様は創造主の資質まで持っていた!そんな貴様は我を『カード』という屈辱的なモノに落とし込み、あまつさえ余計な枷まで付与し、それどころか我の体を『3つ』に分けた!我の意思に触れた貴様が、一体どうしてそんな行動を取れたと言うのだ!答えろ、創造主の資質を持つ者よ!』

「…悪いけど、その時の記憶が凄く曖昧なんだ。あの時感じた『悪魔』のイメージから、どうして君を3つに分けたのかなんて全く覚えていないけど…でも、うん、これだけは分かる。」

『…なんだ?』

「僕が作った…いや、君に作らされた『幻魔』のカードは強すぎる力だ。だから僕は君を…君達を、3つに分けたんだと思う。無意識だろうけど、強すぎる力をそのままカードにするわけにはいかないから。」

『…』

 

 

 

得体の知れない存在の滲ます、溢れんばかりの怒りを浴びてもなお。

 

それでも、どこまでも普通に会話を重ねる玖我 遊震。

 

…こんな謎の存在に対し、彼に恐れはないのだろうか。

 

遊震の見せるその態度は、目の前の人型の雷電に対し微塵も恐怖など抱いていない様子でもあり…そう、それはまさしく、目の前の存在の『正体』を、作り手である遊震はわかっているが故なのだろう。

 

だからこそ、遊震は目の前の雷電が見せる怒りを受けてもなおも動じず。ただただ淡々と、己の信念を持って言葉を続けるだけで…

 

 

 

「強すぎるカードは、時として使い手であるデュエリストにも牙を剥く。だから僕が君達のカードを作ったときも、手が勝手に『そう』したんだろうね。」

 

 

 

それはデザイナーとしての本能か、それとも玖我 遊震という天才だからこそ抗えたのか。

 

そう、悪魔のイメージに触れてしまい、まるで何かに取り憑かれたようにしてカードを作っていたとは言え…

 

それでも、遊震のはち切れんばかりのカードデザイナーとしての経験と才能が、無意識の内に『悪魔』に逆らい付加したであろう、悪魔でさえ予期していなかったソレは紛うことなき悪魔への枷。

 

…過上な力は、使い方を間違えれば凶器となる。

 

ソレを、誰よりも知っている遊震だからこそ―

 

例え目の前の相手が、人間ならざる『悪魔』の化身そのものだったとしても。自らが作ったカードであるのならば、恐れることは何もないのだとして…ただ淡々と、その怒りを受け止めるのみ。

 

 

 

しかし―

 

 

 

 

『貴様の所為で我の意思もまた『3つ』に分かれてしまった。だから他の2体が何処へ行ったのかは分からぬ…だが、『我』は貴様を決して許さぬ!創造主の資質を持つ貴様を生かしてはおけば、いずれ必ず『我』に牙を突きたてる力を生み出すからだ!だから『我』はこの地に留まった!生み出す者よ、創造主の資質を持つ者よ!貴様を、この手で葬り去る為に!』

 

 

 

悪魔の怒りは収まらない。

 

…怒りを顕に、憤りを表に。

 

バチバチと音を立て、人の形をした雷電のその手が、デュエルディスクのような形へと変わっていく。

 

 

 

『またか…またデュエル…デュエルデュエルデュエル!何時の世も、貴様ら人間は『コレ』ばかり!我と契約した『ジョー』も、我をこの地に封じた『黒の巫女』も!貴様ら人間は何時の世も『決闘』による争いばかり!その『決闘』が、幾度文明を滅ぼして来たのかも知らぬ愚か者めが!』

「デュエルが…文明を滅ぼしてきた?………そんなことはない!デュエルは人々を喜ばせる為のエンターテインメントだ!」

『真の『決闘』を知らぬ愚かな現代の者よ!貴様に我は止められぬ!封印と創造の資質を持つ貴様を葬り、世界中を蹂躙し!人類が二度と愚かな行為に走らぬよう、我が世界を滅ぼしてやろう!貴様らの『デュエル』でな!』

 

 

 

―!

 

 

 

底の見えぬ渓谷から、暴風が突如として吹き昇る。

 

そして、山の胎内だと言うのに…聞こえてくるのは、街の比じゃないくらいの強烈なりし落雷音…

 

…そう、自らを悪魔と名乗った人型の雷電の怒りが、遊震たちが今いるこの山に集中的に襲いかかり始めたのだ。

 

その怒りは落雷という実体を伴い、山を穿ち抜かん勢いでますますその炸裂音を大きくしていくだけで…

 

 

 

「遊震!あ、あんなのとデュエルするの?危険だよ!」

「…鳴神、止めても無駄だ…お前も分かっているだろう?ここは、遊震が戦うしかないのだと…」

「う…でも…」

「…信。」

「しん…え?」

「内容は割愛するが、とにかく遊震を信じろと言っている。鳴神、お前も知っているはずだろう?遊震の…デュエリストとしての力を。」

「…う、うん…」

 

 

 

また、後ろでヒカリが遊震を止めにかかろうとも。

 

この事態が、既にそれどころではないことを理解しているであろう遠雷と暴琉斗がヒカリを制し…

 

…そして、悪魔と、ヒカリたちを。

 

交互に見た遊震は、ゆっくりと自らの腕にデュエルディスクを装着しながら―

 

 

 

『貴様に分けられた我が名はハモン!原初の紫より分かたれし『輝雷の悪魔』なり!さぁ名乗れ、我がカードを作りし者よ!冥土の土産に、その名を覚えてやろう!』

「カードデザイナー、玖我 遊震!『輝雷の悪魔』…【降雷皇ハモン】!お前を倒して、街の落雷を止めさせる!」

 

 

 

こんな、他の誰も与り知らぬところで。

 

決闘市の命運をかけた…いや、世界の命運がかかったデュエルが、こんな誰も知らぬ山の胎内で―

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

先行は、玖我 遊震。

 

 

 

「僕のターン!【太陽電池メン】を召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【太陽電池メン】レベル4

ATK/1500 DEF/1500

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

遊震の場に現れたのは、太陽光をエネルギーへと換える最新鋭の電池の一体であった。

 

…ここが太陽の光届かぬ山の胎内でなければ、もっと爆発的な力を見せるのではないかという程の力みを奮わせながら。

 

現れた太陽電池の戦士を前に立たせ、輝雷の悪魔を前にして…更に、遊震はその手を進める。

 

 

 

「【太陽電池メン】の効果発動!デッキから【電池メン-単三型】を墓地に送るよ!僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

遊震 LP:4000

手札:5→3枚

場:【太陽電池メン】

伏せ:1枚

 

 

 

そうして…

 

遊震は必要最小限の動きにて、まずはこのターンを終える。

 

…何せ、得体の知れない悪魔が相手。

 

下手な手を打つ事は出来ず、どんな戦法を仕掛けてくるのかも分からない相手にはまず『見』に回るのが定石なのだということを守りつつ…

 

 

 

(【降雷皇ハモン】は永続魔法を3枚場に揃えないと出せないモンスター…出てくるには時間が必要なはず。だから、隙を突いて速攻をしかけないと。)

 

 

 

そのカードを、自分が作ったというアドバンテージをフルに活かしながら。

 

ひとまず、手早く自らのターンを終えるだけで…

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

『我のターン、ドロー!【暗黒の招来神】を召喚し、デッキから【降雷皇ハモン】を手札に加える!』

「なっ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

【暗黒の招来神】レベル2

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

ターンが移り変わって即座に。

 

輝雷の悪魔が召喚したのは、ある1体の悪魔の眷属であった。

 

そして、まだモンスターを1体召喚しただけだと言うのにも関わらず…召喚されたそのモンスターを見て、思わず驚きの声を上げた玖我 遊震。

 

 

 

 

「【暗黒の招来神】!?な、なんだそのカードは!そんなカード、見た事も聞いた事も無い!」

 

 

 

…当たり前だ。

 

何しろカードデザイナーという職業柄、常人よりも遥かに多いカードへの知識を持っている遊震を持ってしても。輝雷の悪魔がたった今召喚した、【暗黒の招来神】というカードは遊震が見た事も聞いた事もないカードであったのだから。

 

…それは、発動されたそのモンスター効果が物語っている。

 

そう、この世にあるカードでは、絶対に発動されることがないソレはあまりにありえない効果と言えるのではないだろうか。

 

何しろ、遊震が作ったばかりのはずの、他に誰も知らないはずの【降雷皇ハモン】を…

 

『サポート』するカードが、この世に存在するわけがないのだから―

 

 

 

「ま、まさかカードを創造したのか!?じ、自分に有利なカードを!」

『そうだ!これぞ我に従う為の眷属!いくら封印の資質を持とうとも、巫女ではない貴様の科した枷では我を完全に封じることなど貴様には出来ぬ!【暗黒の招来神】の更なる効果により、我は更に攻守0の悪魔族モンスターを召喚できる!我は【暗黒の招来神】をリリースし、【暗黒の召喚神】をアドバンス召喚!』

 

 

 

―!

 

 

 

【暗黒の召喚神】レベル5

ATK/ 0 DEF/ 0

 

 

 

「ッ、それも知らないモンスター…」

『さぁ、我をカードに落とし込んだ不届き者よ!己が作ったカードの力が如何なるモノか、その身を持って知るが良い!我は【暗黒の召喚神】をリリース!現れよぉ!』

 

 

 

そして、輝雷の悪魔は驚きを顕にしている遊震など意に介さず。

 

遊震の科した召喚条件を破り捨てるかの如く、遊震の知らないモンスターの効果を発動したかと思うと…

 

…唸る雷轟、弾ける電雷。

 

空の見えぬ山の胎内で、突如として黄金なりし放電が暴れ回り始め…

 

そして輝雷の悪魔の宣言と共に、その身となる雷電の手が上空へと向かって掲げられた…

 

その瞬間―

 

 

 

 

『失楽の果てより出でし臨界!生きとし生ける全てに怒り!霹靂となりて蹂躙せよ!』

 

 

 

 

 

…不穏なる声と共に、そして雷が弾けると共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、現れる―

 

 

 

 

 

『降臨するがよい、我が羽!【降雷皇ハモン】!』

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それは、『雷』そのモノだった。

 

人間が見てはならない領域。人間には理解などできない存在。

 

底の見えぬ渓谷の闇から、ゆっくりとその『羽』を羽ばたかせ浮かんでくるのはあまりに巨大な…轟く雷が悪魔の形をしているかのような、あまりの怒りに満ちたその電圧。

 

存在そのモノが『雷』の化身で、存在そのモノが『雷』という概念。大気を震わし、木々を引き裂き、星その物を轟かせる純粋なる雷そのモノ。

 

それはまさに煌々たる雷の化身。その煌くも禍々しく浮かぶ姿は、まさしく悪魔と称するしか例えるモノが見つからない、人の理解の追いつかぬ存在とも言えるのか。

 

この世にこんなモノが存在することなど、この場にいる誰にも信じられないかのように…

 

その煌く姿を一目見ただけで、全身が雷に打たれたかのように動かなくなってしまうソレ

はまさしくこの存在から駄々漏れている純粋なる『怒り』がそうさせているのか。

 

そう…

 

誰もが、理解してしまった…

 

これがまさしく、『悪魔』そのモノであるということを―

 

 

 

 

 

【降雷皇ハモン】レベル10

ATK/4000 DEF/4000

 

 

 

 

 

「…な、なんなの、あのモンスター…」

「あんな禍々しいモンスターは見た事がない…まるで、本物の…」

「…魔。」

 

 

 

 

 

それ故、遊震の後ろにてこのデュエルを見ていたヒカリ、遠雷、暴琉斗もまた、突如目の前に現れた輝雷の悪魔から目を逸らすことが出来ずにいるだけではなく、己が感じた事以外の事から目と耳を逸らす事が出来ずにいて。

 

…一説には、神の怒りこそが雷であるという逸話もある。

 

だから、3人も何故か目を逸らすことが出来ない…一瞬でも目を逸らしてしまえば、神の怒りに触れてしまい雷に撃たれるのではないかという恐怖を…その本能で、感じ取ってしまっているから。

 

 

 

「くっ、あの召喚条件を簡単に破ってくるなんて!」

『言ったはずだ!巫女ではない貴様の枷など、緩める事など容易であると!まだだ!フィールド魔法、【失楽園】発動!その効果により、カードを2枚ドローする!』

「【失楽園】…それも、知らないカード…」

 

 

 

そして、次々と。

 

遊震の知らない、およそこの世の誰も知らない悪魔のカードを次々と繰り出しつつ…

 

輝雷の悪魔はどこまでもその威圧を緩めることなく、遊震へと向かってただただその圧を強めていくだけで…

 

 

 

『だが、貴様にも猶予をやろう。我も長く封印されていた所為か、思うように動けぬゆえ…貴様に、自分の罪を悔い改める猶予をやる。【暗黒の召喚神】の効果により、我はこのターンバトルが出来ない。我はカードを1枚伏せターンエンドだ。』

 

 

 

輝雷の悪魔 LP:4000

手札:6→4枚

場:【降雷皇ハモン】

伏せ:1枚

フィールド:【失楽園】

 

 

 

…そうして。

 

まさしく悪魔のように、対峙する人間達に恐怖を植え付け。

 

まるで懺悔の時間を与えるかのようにして、ただ淡々と輝雷の悪魔はそのターンを終えるのだった。

 

 

 

「…僕のターン、ドロー…」

 

 

 

(どうする…攻撃力も守備力も4000…覚えてないとはいえ、我ながらなんであんなにステータス盛っちゃったんだろう…3000くらいに押さえとけばよかった…)

 

 

 

…また、ターンを迎えたと言うのに。

 

そんなことをぼんやりと考えている遊震もまた、目の前にこんなにも早く立ち塞がった輝雷の悪魔の本体にどことなく気圧されてしまっているようではないか。

 

…デュエルディスクにて相手のカードの詳細を確認しようとも、ディスクの液晶に謎のノイズが邪魔をしていて確認も出来ない。

 

きっとこれも悪魔の仕業なのだろう。自分という存在が、どこまでも人間とはかけ離れたモノであるのだと言う事をまざまざと見せつけてくるその圧倒的な存在感は…

 

下手な人間であれば、とっくに心折られ失禁してしまっているような恐怖を、どこまでもどこまでも遊震へと与えてくるだけなのだから。

 

 

 

「…でも、ここで引くわけには行かないんだ!【強欲で金満な壷】を発動!Exデッキを6枚除外し2枚ドローする!そして僕は【太陽電池メン】をリリースし、【充電池メン】をアドバンス召喚!その効果により、デッキから【電池メン-角型】を特殊召喚するよ!更に角型の効果発動!デッキから【燃料電池メン】を手札に加え、角型の攻撃力を1000ポイントアップする!まだだ!場に電池メンが2体以上存在する時、【燃料電池メン】は特殊召喚することが出来る!【燃料電池メン】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【充電池メン】レベル5

ATK/1800→2700 DEF/2100

 

【電池メン-角型】レベル4

ATK/1000→2000 DEF/1000→2000

 

【燃料電池メン】レベル6

ATK/2100 DEF/ 0

 

 

 

しかし…

 

決闘市への被害が、自分が作り出してしまったカードが原因であるという責任感からか。

 

輝雷の悪魔に気圧されず、一瞬の動きで即座に3体もの電池の戦士を遊震は場に呼び出して。

 

現れるのは、味方の電位を力に変える充電池の戦士と…そして一瞬ではあるが爆発的なエネルギーを生み出す角型電池の戦士に、化学変化によってエネルギーを生み出す燃料電池の戦士。

 

そうして、爆発的な展開の勢いをそのままに。

 

更に遊震は、輝雷の悪魔へと向かって畳み掛けるのみ。

 

 

 

『ほう、まだ立ち向かう勇気があるか。だが、そんなにも小さき者どもで一体何が出来る。』

「小さくたって、集れば何だって出来るモノだよ!魔法カード、【漏電】発動!電池メンが3体以上場に居ることで、相手のカードを全て破壊する!」

 

 

 

そして…

 

爆発的な力にて、一発逆転を狙える電気の力を行使した遊震が、雷の化身へと果敢にも魔法カードを発動した…

 

―その時だった。

 

 

 

『無駄だ!カウンター罠、【神の摂理】を発動!手札の魔法カードを捨て、【漏電】の発動を効果を無効にし破壊する!』

「なにっ!?」

 

 

 

無情にも…

 

遊震が炸裂させた、漏れ出した電気の暴走をいとも簡単に消し去ってしまった輝雷の悪魔。

 

それは神の名を冠したカウンター罠ではあるものの、些か悪魔と名乗る存在が扱うとは思えないカードであり…

 

 

 

「【神の摂理】…悪魔が、神の名の付いたカードを使ってくるなんてね。」

『愚問だな。神と悪魔に違いなどありはしない。我にとっては、神と悪魔という分類など人間が勝手に決めたモノに過ぎぬ…貴様らが『神』と呼ぶ者があるとすれば、我はそれと同格であると言えよう。』

「…」

 

 

 

けれども、輝雷の悪魔はさも当然のようにそう言うと。およそ人間には理解出来ぬであろう思想を、ただただ淡々と告げてくるだけ。

 

果たして…自らを神と同格の存在であると豪語する悪魔に対し、渾身の一撃を簡単に止められた遊震の心中は如何なるモノなのだろう。

 

 

 

(【燃料電池メン】の効果でハモンを戻せるけど…あの【失楽園】…効果が読めないけど、あの手のカードには多分…)

 

 

 

「く…僕はカードを1枚伏せる…エンドフェイズに【電池メン-角型】は自身の効果で破壊される…ターン、エンドだ…」

 

 

 

遊震 LP:4000

手札:4→2枚

場:【充電池メン】

【燃料電池メン】

伏せ:2枚

 

 

 

神にも等しき悪魔を相手に、悔しげにターンを終えるしかない遊震。

 

ここで【燃料電池メン】の効果を使用し、【降雷皇ハモン】を敵の手札へと戻す選択肢だって遊震には取れたはず。

 

しかし、それをしなかったのは…いや、出来なかったのは、偏に遊震のデザイナーとしての経験から、あの【失楽園】というフィールド魔法が何らかの耐性を【降雷皇ハモン】に与えているのではないだろうかという推測を立てたからこそ。

 

多分、対象にならないとか…あの手のフィールド魔法には、そう言った効果が付与されていると…自分ならば、悪魔に耐性を持たせるために『そう作る』という、当たらずとも遠からずなその推測から…

 

遊震は、これ以上動けることなくそのターンを終えるだけで…

 

 

 

『我のターン、ドロー!【失楽園】の効果により更に2枚ドロー!』

「ッ…一気に手札が6枚に…」

『人間程度では我に追いつく事などできぬ!【死者蘇生】発動!墓地より【暗黒の召喚神】を蘇生しリリース!レベル6、【デーモンの召喚】をアドバンス召喚!更に手札より【イリュージョン・スナッチ】も特殊召喚!』

 

 

 

―!!

 

 

 

【デーモンの召喚】レベル6

ATK/2500 DEF/1200

 

【イリュージョン・スナッチ】レベル7→6

ATK/2400 DEF/1000

 

 

 

しかし、そんな遊震を意に介さず。

 

連続のドローから続けざまに、先の遊震の怒涛の展開を再現するかのようにして…輝雷の悪魔が畳み掛けるように、一瞬で2体もの上級モンスターを呼び出して。

 

現れたのは、迅雷纏いし狂骨の悪魔と…現れた途端にその姿を模した、実体持たぬ幻影の悪魔。

 

そのまま、輝雷の悪魔は勢いを抑えないままに。どこまでも遊震とそのモンスター目掛け、万雷の怒槌を振り下ろさんと―

 

 

 

 

『【降雷皇ハモン】で【燃料電池メン】へ攻撃!消え去るがいい!天竺消滅疾風迅雷ィ!』

「ト、罠発動、【ガード・ブロック】!戦闘ダメージを0にし1枚ドローする!」

『無駄だ!【降雷皇ハモン】がモンスターを破壊した時、相手に1000のダメージを与える!」

「ッ!?」

 

 

 

―!

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」

 

 

 

 

遊震 LP:4000→3000

 

 

 

「がっ…い、今の…衝撃は…」

 

 

 

そして、【燃料電池メン】を破壊した恐るべき雷撃の余波が、自分へと襲い掛かってきたその衝撃を受けて…

 

…遊震は、『ある事』を理解してしまった。

 

そう、たった今喰らった雷撃の余波。それはソリッド・ヴィジョンによるエフェクトなどではなく、本当に全身を電流が駆け巡ってきたかのような衝撃を与えてきたのだ。

 

つまり、このデュエルは…

 

 

 

「…くっ…ま、間違いない…このデュエルは、実体化している…」

「え!?遊震、それってどういう…」

「リアルダメージルールと言う事か?」

「…否。」

「ん…かなりビリッとしたよ…スタンガンを思い切り喰らったみたいだった…」

 

 

 

また、遊震の言葉を聞いて。後ろにいたヒカリたちが驚きの声を上げるも、その非現実的な状況は紛れも無い現実のモノとなりて遊震の身を襲ったことに間違いなく。

 

…そう、このデュエルは、ソリッド・ヴィジョンではなく本当にモンスターが『実体化』したデュエルになっている。

 

何しろ、ハモンの攻撃の余波で遊震が実際の雷撃のようなモノを喰らったのもそうだが…もしこれがリアルダメージルールの衝撃であったのならば、その雷撃の余波が広がって山の岩肌が音を立てて崩れ落ちるわけがないのだ。

 

遊震は見た…自分に襲い掛かった雷撃の余波で、山の岩肌までもが音を立てて崩れ落ちていくところを。

 

そんな芸当、立体映像であるソリッド・ヴィジョンであったならば絶対に無理なこと。デュエルディスクによる効果音などでは断じてないソレを、実際に自分の目の当たりにしては…

 

いくら察しの悪い者であったとしても、ソレは絶対に理解してしまう事に違いなく。

 

 

 

『何を驚いている!当たり前であろう、我と戦うと言う事はそう言うことだ!本当の『決闘』というのはこう言う事だ!何も知らぬ現代の者よ、本当の『決闘』を知らぬ貴様に我は倒せぬ!』

「く…」

『さぁ、悪あがきもこれで終わりだ。【デーモンの召喚】で【充電池メン】に攻撃!そして【イリュージョン・スナッチ】でダイレクトアタックだ!』

 

 

 

―!!

 

 

 

そして、追撃の如く襲い掛かる2体の上級悪魔達。

 

まずは迅雷を纏いし狂骨が、攻撃力が2100まで下がってしまった【充電池メン】を雷撃により粉砕する。

 

更に、もう片方…幻影の雷を纏いて殴り掛かってくるその攻撃は、まさしく逃れられぬ代物となりて直に遊震の腹部へと繰り出され―

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

遊震 LP:3000→2600→200

 

 

 

実体化したモンスターに思い切り殴られ、後方へと吹き飛ばされてしまった玖我 遊震。

 

…一体、遊震が喰らった衝撃は如何なるモノだったのだろう。

 

腹部を抱えてうずくまり、息も絶え絶えになってしまっているその姿はとてもじゃないがデュエルをしているとは思えない程に…痛々しいモノとなりてヒカリたちの目に映りこんでしまっていて。

 

 

 

「遊震!」

「大丈夫か、遊震!」

「…震!」

「うぐっ…な、なん、とか…ぐっ…」

 

 

 

しかし、LPが0とはならなかった為か。その足を震わせながらも、遊震はどうにか立ち上がる。

 

…痛々しく、苦々しく。

 

もしこれがLPが0となるほどのダメージであったならば、おそらく遊震は立ち上がる事は出来なかっただろう。もしかすれば、最悪の場合すら考えられ…

 

とは言え、何とか立ち上がったとは言えども。フラフラと、立ち位置へと戻る遊震の足取りはどこまでも重く、その姿を見ただけで彼の受けたダメージの重さが如何なるモノであったのかを見る者全てに物語っていて。

 

 

 

『…200残ったか。やはり封印の所為か上手く力が出せぬな。永続魔法、【失楽の霹靂】と【暗黒の扉】を発動。我はこれでターンエンド。』

 

 

 

輝雷の悪魔 LP:4000

手札:4→1枚

場:【降雷皇ハモン】

【デーモンの召喚】

【イリュージョン・スナッチ】

魔法・罠:【失楽の霹靂】、【暗黒の扉】

フィールド:【失楽園】

 

 

 

「く…」

 

 

 

…視界が掠れ、意識が遠のく。

 

どうにか立っているとは言え、見るからに遊震の体力は限界寸前。

 

それは相手側も本調子ではない様子とは言え、それでもトッププロに匹敵する実力を持った玖我 遊震がこれほどまでに劣勢に追い込まれている姿は…彼の力をよく知る者達からしても、予想外勝つ想定外であるに違いないだろう。

 

 

 

「遊震!何とかするのだ!お前ならできるだろう!」

「遊震!信じてるよ!」

「…不問。」

「ッ、みんな…」

 

 

 

けれども、それでも―

 

自分が巻き起こした決闘市の惨状に責任を感じているからこそ、足を震わせながらも遊震はどうにか立ち上がる。

 

それは一緒に着いて来てくれた恋人、友人、幼馴染を守るためでもあるのか。今自分がここで輝雷の悪魔に倒されてしまったら…いや、殺されてしまっては、残された3人に何が襲い掛かるかわかったものじゃないと言う事を遊震も理解しているからこそ。

 

なんとしても…何がなんでも自分自身でこの状況を打破しなければならないという使命感の元。

 

朦朧とした意識の中、仲間達の声を聞き。痛みを乗り越え、どうにか遊震は自らのターンを向かえ―

 

 

 

「…ぐ…ぼ、僕のターン、ドロー!…よし、【サンダー・ボルト】発動だ!相手モンスターを全て破壊する!」

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

『無駄だ!【失楽の霹靂】の効果により、ハモンを守備表示にすることで【サンダー・ボルト】の効果を無効にする!』

「なっ!?」

 

 

 

 

そんな遊震の奇跡のドローも、微塵の無情も無くいとも簡単に消し去ってしまう輝雷の悪魔。

 

どうにかドローできた渾身の一撃だと言うのに。折角ドローできた形勢逆転を狙える一枚だと言うのに…

 

逆転を狙えるカードをドローした事で逸った遊震を嘲笑うかのように、そんな希望を断ち切るかの如く…無情に淡々と雷撃を無効化した輝雷の悪魔は、どこまでも無情に遊震の発動した雷撃の槍をいとも簡単に消し去ってしまったではないか。

 

 

 

「そんな…」

 

 

 

場にモンスターも居らず、全体破壊のカードを悉く止められ、LPも残り200。

 

それに対し相手の場には、【降雷皇ハモン】に2体の上級悪魔達と…これではまさに、その命は風前の灯と言うほか例えようがない。

 

…これでは、守りを固めたところで【降雷皇ハモン】の攻撃により、次の攻撃で確実に1000のダメージを喰らって自分は負ける…いや、死ぬ。

 

…それが遊震にはハッキリと分かる。それを遊震はハッキリと理解してしまう。

 

【漏電】も、【サンダー・ボルト】も。人間が生み出したちっぽけな雷撃などでは、本物の『雷』の化身には届かないとでも言うのか。

 

攻めるも駄目、守るも駄目。神にも等しい悪魔を前に、そんな劣勢に追い込まれてしまった遊震の心は…

 

その少ないLPと同じく、既に折れかかってしまっている様子で…

 

 

 

 

 

『足掻きはそこまでのようなだ、小さき創造主よ。』

「く…」

 

 

 

 

 

すると…

 

そんな、遊震へと向かって―

 

 

 

「…震。」

「暴琉斗…」

 

 

 

後ろにいた皇 暴琉斗が、遊震へと何やら声を投げかけてきて―

 

 

 

「…今。」

「ッ…あぁ、分かってるよ、暴琉斗…」

 

 

 

また、そんな暴琉斗の言葉から、遊震は一体何を理解したのだろうか。

 

その朦朧としつつある意識の中で、暴琉斗から投げかけられた言葉を聞いて…遊震は、ゆっくりと目を閉じたかと思うと。

 

徐に、何かを考え始め…そして、再びゆっくりとその目を開けると、後ろに立つ幼馴染へと再び声をかけ始め…

 

 

 

「…暴琉斗…ここには他に…誰も、居ないよね?」

「…是。」

「そっか…なら、いいか。ヒカリと遠雷は信じられるんだし…」

 

 

 

果たして、暴琉斗の言葉から遊震は何を理解したのか。遊震の言うソレは、一体どういう意味なのだろう。

 

…高校時代からの友人である灰羅 遠雷も。恋人かつ婚約者である鳴神 ヒカリも。

 

そして勿論、対峙している『輝雷の悪魔』でさえも…

 

遊震と暴琉斗以外には理解出来ていないその言葉を、遊震はどこか覚悟を決めた様子にて震える足に力を込めると。

 

 

自らの中で、どこか『覚悟』を決めつつ…

 

 

徐に…そう、ゆっくりと。

 

目の前に対峙している、人知を超えた輝雷の悪魔へと向かってゆっくりとその口を開き始く。

 

 

 

「…震。」

「ん、わかった………ねぇ、輝雷の悪魔…君が自分のことを、『神』に等しい悪魔だって言うのなら…僕には、君に対抗できる力がある。」

『なに?』

「ヒカリ、遠雷…今から見ることは、絶対に他の人には言わないでね。」

「む?何の事かわからぬが…」

「わ、わかったよ!遊震がそう言うなら!」

「ありがとう…これで、心置きなく全力を出せる…」

『フン、面白い冗談だ!小さき人間よ、貴様のその残りの手札で、一体何が出来るというのだ!』

「そうさ、この手札じゃ無理だ………だから引いてみせる!お前を倒せる切り札を…今、ここで!リバースカードオープン、罠カード、【裁きの天秤】発動!」

 

 

 

―!

 

 

 

遊震が発動した罠…

 

それは逆転を狙える大型の罠などでは断じてなく、劣勢であればあるほど効果を発揮する一種のドローカードであった。

 

…しかし、劣勢とは言えそのアドバンテージは悪魔を前にしては微々たるもの。

 

けれども、遊震はソレを承知の上で。更にその勢いを増さんとして、己の覚悟を目一杯に決めるだけで―

 

 

 

『む?ドローカードだと?』

「…先に【サンダー・ボルト】を使っておいて正解だったかもね、だってコレが止められる事はなくなったんだから!お前のフィールドにはカードが6枚!そして僕の場と手札のカードは合計4枚!よって僕は2枚ドローする!まだだ!今引いた【強欲で貪欲な壷】を発動!デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー!」

『なんだそれは…なぜ、そんなにもドローを…』

「それは………全く言うことを聞いてくれない切り札を、どうやってもドローするためさ!【成金ゴブリン】発動!君にLPを1000あげる代わりに1枚ドロー!来た!【死者蘇生】発動!墓地から【電池メン-単三型】を特殊召喚し…【地獄の暴走召喚】発動!デッキから2体の単三型を特殊召喚する!」

 

 

 

―!!!

 

 

 

【電池メン-単三型】レベル3

ATK/ 0→3000 DEF/ 0

 

【電池メン-単三型】レベル3

ATK/ 0→3000 DEF/ 0

 

【電池メン-単三型】レベル3

ATK/ 0→3000 DEF/ 0

 

 

 

そして…

 

そんな遊震が発動したのは、現代のデュエリストならば誰でも持っているような蘇生カードの一枚であった。

 

そして、そこから連動し…

 

遊震の場には、3体もの単三電池の戦士が即座に揃うものの。

 

いつもならば必殺となりえるその展開力も、攻撃力は3000と輝雷の悪魔には遠く届かない数値に留まってしまっており…

 

…【降雷皇ハモン】のカードを作った遊震ならば分かっているはず。

 

守備表示のハモンが場に居る限り、遊震にはハモン以外のモンスターを攻撃することを許されてはいないと言う事を。

 

それでも―

 

 

 

『我は【デーモンの召喚】を選択する!デッキから【デーモンの召喚】を攻撃表示で2体特殊召喚!…攻撃力3000のモンスターが3体、しかしソレで何が出来るというのだ!人間風情が、我に勝つことなど出きるはずが…』

「いや、これでいいんだ。僕は……………3体のモンスターをリリース!」

『何!?』

 

 

 

それでも構わず…いや、それを承知で遊震は叫ぶ。

 

…それはまさしく雷の如き、悪魔の言葉を遮る閃き。

 

3体のリリース…通常の召喚では決して要求される事の無いソレは、奇しくも輝雷の悪魔の本来の召喚条件である永続魔法『3枚』の生贄にも似た宣言となりて遊震の口から轟かせられるのか。

 

今、玖我 遊震のその宣言で…

 

3体の単三電池の戦士が、天に捧げる渦を纏う。

 

 

 

「来い、レベル10!」

 

 

 

果たして…

 

遊震は一体『何』を持っているというのか。

 

神にも等しい悪魔に対しても、立ち向かえるモノを持っていると言い放った遊震の宣言にて―

 

 

他の誰もいない決闘市の山の胎内にて、今ここに呼び出されしソレは―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【オシリスの天空竜】!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時…

 

 

 

全てが、震えた―

 

大地も、空気も、そして見えぬはずの空までもが振るえ、震え、奮えているというその振動は決して感覚の錯覚などでは断じてなく。

 

 

今…

 

 

底の見えぬ山中の渓谷から、ゆっくりとその姿を現したのは真紅を超えた赤き体躯を持った、天を覆いつくさんとする巨大なる竜の神。

 

そう、神のカード…

 

天雷生み出す天空の竜神。現代の世にはもう言い伝えすら残されていない、古代を超えた神代よりも更に前の…創世記に生まれし、この世界の根幹に繋がる神のカードのその1枚。

 

これが、これこそが―

 

玖我 遊震が持っていた、誰にも言えぬ彼だけの切り札。何の因果が、彼が生まれて初めて手にしたカード…

 

正真正銘の、神のカードであって―

 

 

 

『なっ!?『デュハラの天空神』だと!?貴様ァ!何故『根源』の1つを持っている!…ッ、そうか、だから貴様は我の意思に逆らえたのか!デュハラ砂漠の加護が我に枷を…グッ、忌々しい『根源の力』めぇ!敗者の癖に…『黒側』の癖にまだ足掻くのかぁ!』

「知らないよそんなコト!でも、コレがお前に対抗する為の僕の切り札…僕の、持てる力の全てだ!オシリスの攻撃力は、僕の手札の1枚につき1000ポイントアップする!」

 

 

 

【オシリスの天空竜】レベル10

ATK/ ? →3000 DEF/ ? →3000

 

 

 

そして、遊震の轟きに連動するかのようにして。遊震の手札1枚につき、その力を見る見るうちに上昇させていく赤雷の天空神。

 

…輝雷の悪魔が言った『デュハラの天空神』という言葉には、遊震には心当たりがない。何しろ、この世界には『デュハラ』という地名など存在しないのだから。

 

しかし、手札1枚につきその力を1000ポイントもアップさせると言うのは、およそこの世にあるどんなカードと比較しても破格の上昇率。

 

故に、神…

 

他の追随を許さぬその力は、まさしく悪魔に引けを取らぬ力となりて遊震の呼び声に答えるのか。

 

 

 

『だが貴様の攻撃力はたかが3000!その程度では我には勝てん!』

「まだだ!その危なそうな気配のするフィールド魔法と永続魔法も破壊させてもらうよ!手札を1枚捨て速攻魔法【ツインツイスター】発動!【失楽園】と【失楽の霹靂】を破壊する!」

『ぬぅ!?だがこれで攻撃力はたったの1000!それで何をする気…』

「これで最後だ!速攻魔法、【超電導波サンダーフォース】発動!相手モンスターを全て破壊する!」

『な、なんだそのカードは!?サンダーフォースだと!?そ、それは貴様の…』

 

 

 

しかし、それだけでは終わらない。

 

アレだけのドローの中で、新たに手に加えたソレは先の輝雷の悪魔が発動したサポートカード同様に…およそこの世の他の誰も持っているはずのない、他の誰も知らないであろう1枚のカードであった。

 

そう、それはまさしく…【オシリスの天空竜】を持っている玖我 遊震だけが持っているであろう、おそらく彼が独自に開発した彼だけのカードなのか。

 

 

 

「さぁ、【オシリスの天空竜】よ!全ての敵を…神を名乗る悪魔を、消し飛ばせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」

 

 

 

―!

 

 

 

轟く…

 

赤雷の天空神が、その大口を限界以上に開ける時。

 

ソレは天空が見えぬ山の胎内であろうとも、遥かな大空から轟く雷の如き音を鳴らしながら今その力を大きく開かれた口へと収束させ…

 

 

―そして炸裂するは、超威力を誇る雷鳴の咆哮。

 

 

全てを破壊する雷神の波動、悉くを消し去る天空の怒り。

 

神にも等しき雷の悪魔すらも消し去るほどの、超電磁波動が一直線に敵を貫く。それは3体もの狂骨の悪魔も、ソレをコピーした幻影の悪魔も…

 

そして『雷』そのモノであるはずの輝雷の悪魔の本体すらも、その全てを雷轟によって赤き天空神はその全てを消し去るだけで―

 

 

 

『なんだと!?し、しかしその程度ではまだ我を倒すなど…』

「いいや、コレで終わりだ!この効果で破壊されたモンスターの数だけ…僕はデッキからドロー出来る!5枚ドロー!」

『なんだと!?』

 

 

 

【オシリスの天空竜】レベル10

ATK/ 0→5000 DEF/ 0→5000

 

 

 

『攻撃力5000!?天空神よ、貴様何時の間にそのような力を得たと言うのだ!…ッ、創造主、貴様かぁ!貴様がソヤツに余計な力を!』

「悪いけど、さっきから何のことかさっぱりだよ!だけど1つだけハッキリしている………輝雷の悪魔、お前はこれで終わりだ!【オシリスの天空竜】、輝雷の悪魔にダイレクトアタック!」

 

 

 

そうして…

 

悪魔をも消し去った神の咆哮のすぐ後に、遊震は今高らかにソレを宣言する。

 

攻撃力5000…

 

およそ、並大抵のモンスターとは一線を画す力にまでその雷威を増した天空の神が、更にその咆哮を轟かせる時。

 

それは悪魔すらも逃げられぬ神の一撃となりて、誰も知りえぬこの山の胎内にて強く剛くその雷鳴を響かせるのか。

 

 

今…

 

雷鳴、雷轟、雷霆、その全てを超越せし超力なりし雷の波動を収束させて放たれるそれは、まさしく悪魔をも消し飛ばす一撃となりて今ここに放たれ―

 

 

 

 

 

「轟けぇ!天雷激震爆裂波動砲(サンダーボルト・ストリーム)ッ!」

 

 

 

―!

 

 

 

『グッ…ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!?』

 

 

 

 

輝雷の悪魔 LP:5000→0

 

 

 

 

 

―ピー…

 

 

 

山の中腹を貫く雷閃が、悪魔ごと遺跡の全てを貫き消し去る時。

 

それは無機質な機械音と交わりて、悪魔の存在そのモノにダメージを与える一撃となりて強く強く山の中に反響し…

 

 

 

『ぐ…我は諦めぬぞ…今一度この身を1つに束ね…今度こそ、必ずや世界の全てを葬り去る…』

 

 

 

そして、雷鳴の波動が終息してくるのと同じくして…

 

静かに…聞こえるか聞こえないかの声が聞こえたかと思われたのと同時に…

 

遊震と対峙していたはずの向こう側には、遺跡ごと吹き飛ばしたかのような山の外を覗く穴が開いていたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…な、なんとか外に出れたね…」

「出れたねじゃないよ、もう…」

「まさかデュエル直後に遺跡が崩れてくるとはな…」

「…派。」

「うん…大丈夫だよ、心配ありがとう、暴琉斗。………ほら、見てよ皆。街の方…」

「晴れていくな…悪魔を倒したからか?」

「でも信じられないよ…まさか、あんな悪魔とデュエルしてたなんて…」

 

 

 

…デュエルが終わった後。

 

突如として崩落し始めた遺跡から、遊震達は命からがらどうにか逃げ出すことに成功していた。

 

遺跡が崩落した原因…それは悪魔を倒したからなのか、それとも遊震の最後の一撃があまりに強烈なモノだったからのか…

 

その原因は誰にも分からないとは言え、しかし外に出た遊震たちの目に映ったのは街を襲っていた落雷が止み…分厚い黒雲が晴れていく、どこか幻想的な光景であった。

 

…今のデュエルの事は、およそ誰に話しても信じてもらえることは無いだろう。

 

何せ、悪魔とデュエルしていたなんて絵空事、一体誰が信じると言うのか。だからこそ、この場にいる4人は今回の出来事を他言することなど無いと言うことを、誰に言われずとも理解しており…

 

 

 

「でもさ、倒したって言っても他にも2体悪魔が居るんだよね?ここじゃないとこで他の2体が悪さしたら、他の街も決闘市みたいな被害が出るってこと?」

「ん、多分それは大丈夫…確かに輝雷の悪魔は一度倒した…でも、アイツは消えてない。でも、今回のことで輝雷の悪魔に大ダメージを与えたから…多分、他の『幻魔』もしばらくは悪さ出来ない思うよ。」

「…なんでそんなことわかるの?」

「だって、僕が作ったカードだもの。わかるよ、それくらい。」

「…調。」

「あぁ、暴琉斗の言う通りだな。遊震がそう断言する時は本当に大丈夫なのだろうな。なにせ…コイツは、天才カードデザイナーなのだから。」

 

 

 

とは言え、命を賭けた戦いに、どうにか勝利して生還する事に成功したというのもまた事実。

 

遊震たち4人は、崩れ落ちてしまった遺跡の入り口と決闘市の方を視界に入れつつ…街を襲っていた落雷が完全に止んだ事と、街を覆っていた分厚い雷雲が晴れていくのをどこか清清しい気持ちで見つめていて。

 

…遊震の持っていた、誰にも内緒の『神』のカードという切り札の事は少なからず遠雷とヒカリに衝撃を与えた。

 

何しろ、『神』のカード。『鏡の英雄』が封じたとされる悪霊の神々や、『竜の伝承』に出てくる赤き竜神に…かつて『水世界』を襲ったとされる悪海の化身といった、この世に伝承として残っている神のカードは強大過ぎる力を持った確かな存在として今なおこの世界に語り継がれているのだから。

 

遊震の召喚した『オシリスの天空竜』…ソレが今の世界の伝承には全く残っていない謎の神のカードだとは言え。

 

それでも、幻の存在に数えられる神のカードの一種を遊震が所持していたと言うのは遠雷もヒカリもあまりに衝撃的な事実であったに違いなく。

 

 

 

しかし…

 

 

 

…1つの大きな戦いが終わった安心感からか。

 

不意に、話題を変えるようにして…

 

遊震の持っていた『神』のカードにはあえて触れないように。鳴神 ヒカリが、徐にその口を開き始めた。

 

 

 

「…っていうかさ、遠雷君も暴琉斗君の言葉わかってたんだね。なんで分からない振りしてたの?」

「しまった…あぁ、それはだな…その…」

「…震。」

「あぁ、うん…僕が頼んでたんだよ。ごめんねヒカリ。僕ら3人が集るといつもあんな感じだしさ…ヒカリだけ蚊帳の外になっちゃうと思って…」

「ふーん…まぁいいや。じゃあ私にも暴琉斗君が何言ってるのかちょっとずつ教えてよね。これから付き合いだってもっと増えると思うし。」

「ん、わかった。」

 

 

 

それは無事生還したという安心感からか。それとも命が助かり街も助かったという達成感からか。

 

あえて『神』のカードの事情に触れないようにしてくれているヒカリの意思に、どこまでもありがたさを感じつつ…

 

この空のように、晴々とした気分でそう言ったヒカリの言葉を…遊震は、同じく晴天と同じくらいに晴れた気持ちでそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

数ヵ月後―

 

 

 

 

 

「それではこれより、初代【王者】任命式を執り行う!」

 

 

 

 

決闘市中央地区、その中心にある世界最大のデュエルドーム、『セントラル・スタジアム』。

 

本日そこでは、デュエルによるイベントではなく…

 

全世界のプロデュエリスト達の頂点となるべく選ばれた、初代【王者】の任命式が執り行われようとしていた。

 

…それはどこか、一国の王の戴冠式にも似た装い。

 

いや、それは当たらずも遠からずとも言えるだろうか。何せ全世界決闘者統括機構【決闘世界】が明言した【王者】の権限を考えると、ソレは下手をすれば一国の王族にも匹敵するとも劣らないような権力と財が与えられるという事が明かされたのだから。

 

それは前情報では明かされなかった、あまりに多きすぎる巨大なる権限。

 

プロデュエリストの頂点…まさしく、【王者】と呼ぶに相応しい富と権力が与えられると言う事がここへきて明かされたのだから、果たしてその発表は全世界のプロデュエリスト達…いや、全世界の人間達にどれ程の衝撃を与えたのかは言うに及ばず。

 

 

…そして、今。

 

 

全世界から集った報道陣が、セントラル・スタジアムの中央にて今まさに任命されようとしている3名の初代【王者】たちに…

 

数多のカメラを向け、歴史に残る史上初の偉業の瞬間を全世界へと向けてライブ中継していることが、事の大きさをありありと伝えているに違いなく―

 

 

 

 

 

そうして…

 

 

 

 

 

司会進行を務める【決闘世界】の幹部が、壇上へと上がってきたのと同時に。

 

 

 

今ここに、高らかに…

 

 

 

初代【王者】の、任命を始める―

 

 

 

「世界ランキング3位、『稲妻』の玖我 ヒカリ!貴殿を、初代シンクロ王者【白雷】に任命する!」

 

 

 

―『初代シンクロ王者【白雷】、玖我 ヒカリ』

 

 

 

旧姓、鳴神 ヒカリ。任命式の数ヶ月前に、婚約者との結婚を正式に発表したことで世間から大きな反響を呼んだ彼女は…

 

おそらく、史上初のシンクロ王者かつ史上初の女性王者として、これからもずっとその名を世界に刻みこみ続けることだろう。

 

…それは結婚後も、活動を止めないと宣言した彼女の負けん気が証明している。

 

一昨年までは世界ランキング3桁台だった女性が、破竹の勢いでトッププロの頂点に立ったというその快挙は…きっと後世まで語り継がれる伝説となりて、この後の歴史にもその名を残すに違いなく。

 

 

 

「世界ランキング2位、『放電』の灰羅 遠雷!貴殿を、初代融合王者【紫電】に任命する!」

 

 

 

―『初代融合王者【紫電】、灰羅 遠雷』

 

 

 

およそプロ入り後から、堅実かつ怒涛の勢いにて頭角を現していた融合使いの若き帝王。

 

かつて名家と呼ばれし、貴族の一員でもあった『灰羅家』が没落した後に生まれた彼は…その栄華を取り戻さんとして、一族の復興を掲げ今日この日まで戦い抜いてきたのだ。

 

そして、ついにその悲願が報われた。

 

きっと、この先の歴史において彼の理念であった灰羅家の復興は、【王者】の力を持ってして成し遂げられることだろう。

 

そんな未来を夢見るかのように、彼の視線の先には大勢の観客達の中から最も大切な妻と娘の姿をしっかりと捉えていて。

 

 

 

「世界ランキング1位、『虚空』の皇 暴琉斗!貴殿を、初代エクシーズ王者【黒霆】に任命する!」

 

 

 

―『初代エクシーズ王者【黒霆】、皇 暴琉斗』

 

 

 

それは突出した才能だった。

 

血筋的な後ろ盾も何もなく、18歳でのプロ入り後すぐに怒涛の力にて瞬く間に頂点を争うまでになった彼は…

 

その寡黙な振る舞いと相まって、他の追随を許さぬ力を常に誇示し常に世界のトップクラスに君臨し続けてきた。

 

…そんな彼が、名実共に世界の頂点の一人と相成ったのだ。

 

そんな突出した才能を持った彼の事を、これからも世界の人々は称えていくことだろう。世界初のエクシーズ王者の厳格なる立ち振る舞いを、後世へと伝えていく為に。

 

 

 

そんな、セントラル・スタジアムにて行われた戴冠式の後…

 

 

 

名家や貴族や著名人、さらには多くのプロデュエリスト達やデザイナーと言った決闘界の関係者たちは、近くのホテルの会場へと舞台を移しつつ…

 

世界初の【王者】の誕生を祝うべく、盛大なパーティーを繰り広げていた―

 

 

 

 

 

「…ふぅ、ちょっと飲みすぎたかな。」

 

 

 

 

 

そんなパーティーの最中…

 

時間にしてまだ夕刻の中、バルコニーへと出た遊震は人の波から一人外れて。着慣れないスーツのネクタイをほんの少し緩めつつ、ふらっと外の風に当たりに来ていた。

 

 

…暮れかける夕焼けを眺めながら、物思いに耽る遊震。

 

 

…幼馴染が初代エクシーズ【王者】になった。

 

…友が初代融合【王者】になった。

 

…妻が初代シンクロ【王者】になった。

 

 

挙式が終わった後にヒカリに言われたのだが、妻となったヒカリがもうすぐ自分の子を産んでくれるらしい。

 

…家族のいなかった自分に家族が出来る、これ程嬉しい事はない。

 

そんな、幸せな事が続いていることを…遊震は、しみじみと噛み締めながら夕日を眺めている。

 

…それだけではない。

 

先の決闘市を襲った謎の落雷事件…

 

その真相をどうやって知りえたのか、全世界決闘者統率機構【決闘世界】が、先の決闘市を襲った落雷事件を終結させた褒美として、遊震を【決闘世界】直轄の『決札社』に雇い入れてくれたのだ。

 

それも、遊震が2年前に反故された、チーフ待遇という破格の条件で。

 

…しかし、なぜ【決闘世界】がその真相を知りえたのかは遊震にはわからず。そんな、未だ謎の多い【決闘世界】という組織ではあるものの…

 

それでも、正式に企業に高待遇で就職できたことにより。遊震の収入は、これまでと比べてもかなり良い条件にて安定したと言えるだろうか。

 

それに加え、これまでの新カード開発の実績から、『決札社』においても新カード開発にもある程度の権限を与えられ…

 

 

…だから、作った。

 

 

着慣れないスーツの懐から、自分のデッキではないカードの束を取りだした遊震。

 

それは学生時代からずっと製作を続けてきた、そして『決札社』のチーフ特権にてつい先日ようやく全ての申請が通ったカード達。

 

その、一番上のカードに記されたカード名は…

 

 

 

―『E・HERO』

 

 

 

「このカードはきっと世界を変えるデッキになるぞ。なんたって、子どもの頃から僕の憧れだった英雄たち…『ヒーロー』、その物なんだから。」

 

 

 

遊震が取り出したそのカードの束は、作られたばかりの試作カード達で組み上げられた1つの『デッキ』。

 

この世の何処にも無い、まだ仮申請が通っただけの…これから試用を重ねなければならないものの、しかしこの世において遊震しか持っていない、全く新しい『HERO』というカテゴリのカード達であった。

 

…そのモチーフは、玖我 遊震という天才デザイナーが幼少の頃から思い描き続けていた、正義を守るために戦う本物の『ヒーロー』達の姿。

 

そう、他人を救うために戦う者たちのイメージにずっと耳を傾け続け、そしてようやく形に出来た『HERO』というカテゴリーの…

 

これは、雛形。

 

まず遊震が作ったのは…そう、『まず』、遊震が作ったのは、連携によって姿を変えたり、属性によって力を増したりする、多種多様な『E・HERO』という融合モンスターを主軸にしたデッキ。

 

しかし、この『E・HERO』を作ったことによって…遊震の耳には、更に多くのまだ見ぬヒーローたちの声が聞こえてきたのだ。

 

遊震の思い描くヴィジョンには、ハッキリと新たな『HERO』見えている。まだ見ぬ幻影、新たな仮面、生まれてくる運命など様々な『HERO』達の姿が。

 

きっと、まだまだヒーローは増え続ける。まずはその雛形として、遊震はずっと思い描いていた『HERO』のカードを『デッキ単位』で【決闘世界】に申請し…そして、先日、ソレが通ったというわけで。

 

…これだけ大量のカードを一度の申請し、ソレが承認されたのはきっと後にも先にも玖我遊震というカードデザイナーだけ。

 

つまりは、それだけの才能を【決闘世界】が認めたということ。確かに【決闘世界】直轄の『決札社』の開発部のチーフという立場もあるのだろうが、それでも規格外の量のカードを申請し通ったと言う事は本当に後にも先にも例外がなく…

 

 

 

「生まれてくる子どもが僕の作ったデッキを使ってくれたら…どれだけ嬉しいだろう。」

 

 

 

そして、この『HERO』のカードを試用してもらうテスターも、遊震は既に決めている。

 

それは産前検査にて、自分と同じ『融合』のEx適正を持っているという子ども…そう、その子どもがデュエルできる年齢になった時に、是非とも自分が作った『HERO』というカードを子どもの自由な発想で使って欲しいという願いが、遊震の中には生まれたのだ。

 

それは遊震が、この『HERO』というカテゴリーには別に大量生産を求めていないと言う事。

 

…子どもが扱う以上、試用期間が何時終わるのかなどわからない。下手をすれば、正式な増刷は認められないかもしれない…

 

しかし、遊震にとってはそんなコトはどうでもよかった。ただ、自分がずっと思い描いていた『HERO』のカードを、自分の子どもに使って欲しいと…

 

世界でたった一つしかない特別なカードを、一番初めに自分の子どもに使って欲しいと…そんな、まだ生まれてもいない子どもに、親馬鹿とも思える期待を遊震は今から抱いていて。

 

 

 

…カードを片手に、夕日を眺める。

 

 

 

家族が増える喜びと、子どもにカードを作ってあげたいという展望と…これから待っているであろう、やっと掴んだ幸せにしみじみと浸っている様子の遊震。

 

妻の【王者】の仕事がどれだけ過酷なモノなのかはまだ分からない。自分の仕事もこれからどんどんと忙しくなるはず。けれども、それでもヒカリと子どもとならきっと楽しい家庭が築けるはずだと…

 

そう、遊震は今から先の幸せな未来をボンヤリと思い浮かべていて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、静かなバルコニーの端で…

 

 

 

 

 

「お、おい…ど、どうする?」

「どうするもなにも…上に報告するしかないんじゃないか?」

「でも主任はどうせイタズラだから放っておけって…」

「でも万が一だぞ?」

「そうだよなぁ…でもお前、あの場に行けるか?絶対嫌な顔されるじゃんか…」

「だよなぁ…」

 

 

 

 

 

遊震が居るところとは、反対側となるバルコニーの端…

 

そこには、遊震も見知った【決闘世界】の若い下部構成員の人物2人が…

 

何やら困った顔をして、話し込んでいた。

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

 

そして、その2人が見知った顔であったことからか、それとも彼らの雰囲気から何やら不穏な空気を感じ取ったのか。

 

仕事柄、見知った顔でもあるその【決闘世界】下部構成員の2人へと、遊震は徐に近づきながらそう声をかけて。

 

そして、その2人の下部構成員もまた、見知った顔である『決札社』のチーフデザイナーである遊震の顔を見ると。

 

少々難しい顔…と言うよりは、困った顔をしながら…

 

同じ【決闘世界】に属する者としての気の緩みからか、2人はゆっくりとその口を開き始めた。

 

 

 

「あ、遊震さん…いえ、どうせイタズラだと思うんですけどね?」

「でも、万が一って事もあると思って報告にきたんですけど…でも何か『上』の人達、すっかり出来上がっちゃってて…それで、中々割って入っていけなくて…」

「ん、どうしたの?」

「あの…この会場に、爆弾をしかけたって電話がさっき非通知でかかってきたみたいで…」

「なっ!?」

 

 

 

しかし、気軽に聞いた遊震の意に反して。

 

彼らから返ってきたのは、遊震も思いもよらぬ発言であった―

 

 

 

「そ、その話、もっと詳しく!」

「あ、で、でも見回りも点検もちゃんとしてますし、怪しい物なんて何も見つかってないいんですよ?」

「だから警備主任もどうせイタズラだろうって言ってて…」

「でも万が一があるって君も言っていたじゃないか!だから何があったのか詳しく説明して!」

「あ、その…い、一時間くらい前に、フロントに非通知で知らない男から電話が来たらしいんですよ。『パーティー会場に爆弾を仕掛けた、止めたかったら代表が2時間以内に一人でセントラルタワーに来い』…って一方的に言われて切られたらしくて…」

「それで、警備主任には一応伝えたんですけど、これまで警備していて怪しいモノなんて見つかっていないし、招待客には怪しい者もいないから…イタズラだろうって結論になってですね、それでとりあえず『上』の人に報告して、代表を適当な奴に行かせようかって今コイツと話してたところで…」

「…」

 

 

 

まるで危機感の無い若い職員2人の言葉を聞いて、一気に酔いが醒めてしまった玖我 遊震。

 

…警備部が見回りや点検をしていると言っても、もし犯人がここの構造に詳しい者であったとしたら、見つからない場所に爆弾を隠すことなんて容易な事だろう。

 

しかも、指定した『2時間』という時間制限の内、既に半分の『1時間』が過ぎてしまっているというのに当の【決闘世界】側はこのザマ。

 

…もしもの事があるはずだと言うのに、それを軽い点検だけでイタズラだと決め付け放っておけと言う辺り…

 

どれだけ【決闘世界】の警備部が温い組織か苛立ちを覚えると同時に、沸々とした危機感が遊震の中には浮かび上がってきてしまっているのか。

 

 

…代表が一人で来いという明言。

 

…金銭などの要求はなし。

 

 

つまりは、犯人は見返りなどは求めては居ないということ。そう言った類の犯人の目的は、脅しなどでなくまず間違いなくここを『爆破』したがっていると言うことになり…

 

しかし、爆発までに一体なぜそこまで時間を設けたのかはまだ遊震には分からない。それに、代表に指定した場所まで来させる理由も分からない。

 

けれども、若い職員2人からの報告を聞いて。そして頭の中で高速化した思考の中で、遊震は何やら嫌な予感を導き出している様子で―

 

 

 

「パーティーの参加者のリストを見せて!招待客と出欠席のリストも!ディスクにデータ入ってるでしょ?」

「は、はい!」

「…ッ、これは…」

 

 

 

そして、このパーティーの顧客名簿を見た遊震が、一瞬で何かに気付いた様子を見せたかと思うと。

 

 

 

「…僕が行くよ。セントラルタワー…だったよね?だから2人はどうにかして『上』の人に早く報告して、万が一に備えてみんなを一時避難させておいて。」

「え?」

「そ、それってどういう…」

「いいから!頼んだよ!」

 

 

 

未だ事態が飲み込めていない、キョトンとした顔をしている2人の若き職員を背に…

 

会場から、駆け出し始めたのだった―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

セントラルタワー。

 

それはセントラル・スタジアムに程近い、決闘市の中央地区に建てられている大きな電波塔の名称である。

 

…また、電波塔の役割を担っているとは言え。

 

半ば観光地の1つとして数えられているソレは、連日多くの人々が出入りしている事で知られている…決闘市に来たら一度は訪れておくべきとされている、半ば決闘市中央地区の象徴的な展望台としても人々に愛される大きな塔となっていた。

 

しかし、本日は史上初の召喚法の【王者】の就任式が行われると言うことで…電波塔としての機能をフル回転させるために、観光スポットは閉鎖されている。

 

そう、普段は観光客で賑わっているはずのセントラルタワーの展望台も、関係者以外立ち入り禁止の看板が立てられている事から分かるとおり…本日に限っては、誰一人として入ってはおらず。

 

 

 

 

そんな、観光客の居ないセントラルタワーの展望ステージに…

 

 

 

「…な、なにが王者だ…こ、これまで散々貢献してやった俺を切り捨てやがって…」

 

 

 

ある、一人の男が異様な雰囲気を纏いながら、セントラル・スタジアムの方を忌々しげな目で睨んでいた。

 

それはどこか鋭い雰囲気を纏った、少々年を取っているとはいえ氷のような麗美な容姿をした…

 

しかし、あまりに強くセントラル・スタジアムを睨んでいるために、その麗美な風貌が歪んでしまっている一人の男…

 

 

 

…世界ランキング4位、『氷結』の雪霜 氷河。

 

 

しかし、一体彼はどうしてここまで怨嗟に塗れた目線でセントラル・スタジアムの方を睨んでいるのか。

 

そんなことは彼にしか分かりえない感情であるとは言え…それでも、望遠鏡を手に、苦々しげにセントラル・スタジアムとその横のホテルを交互に睨み。

 

苛立ちを隠せないのか、歯をカチカチと鳴らしているその様子はおよそ普段の物静かな姿で知られる彼とは思えない程の姿となりて…

 

あまりの怨嗟に塗れた視線で、落ち着きなくデュエルディスクで時間を確認しているだけで…

 

 

 

…すると、観光客など居ないはずのセントラルタワーのエレベーターが、この展望階に止まった音を鳴らしたかと思うと。

 

 

 

ドアが開くと同時に。そこから一人の男が展望階へと足を踏み入れつつ…

 

徐に、雪霜 氷河へと向かって言葉を発し始めた。

 

 

 

 

 

「…やっぱり雪霜さん、貴方でしたか。」

 

 

 

 

 

それはセントラル・スタジアム横のホテルから、ここまで自前のバイクにて急いで駆けつけた玖我 遊震であった。

 

…酒を飲んでいることなど構わず、寧ろ酔いが醒めているためそんな事など気にしている余裕などなく。

 

飲酒運転のペナルティなど今は気にしている場合ではないのだとして、どこまでも危機感に塗れた表情を見せている遊震はそのまま…

 

まるで、この爆破騒動の犯人に、最初から目星が付いていたと言わんばかりの口調のまま。

 

更に続けて、雪霜 氷河へと向かって言葉を向けるだけ。

 

 

 

「でもどうして貴方が…まさかとは思いましたが、本当に貴方だったなんて…」

「…お前は確かデザイナーの…お前が代表か?随分と遅かったから、時間が来たら問答無用で爆破しようとしていたのだがな…しかし、まるで最初から私が犯人だと分かっていたような口ぶりだな。」

「はい…パーティーの招待リストには名前があるのに、欠席し会場に来ていない人間は貴方一人だけでした…そして仕事柄、セントラル・スタジアムと併設されているあのホテルを頻繁に利用していたという裏付けも考えれば…警備員に見つからない場所に目星を付けられる人間も、こっそりと爆弾を仕掛ける事ができる人間も思い浮かぶのは貴方だけだった!でも、どうして『氷結』とまで呼ばれた貴方がこんな事を!」

「黙れ!俺が今までどれだけ決闘界に貢献してきたと思っている…それなのに、あんなポッと出の小娘に栄光を奪われた俺の気持ちが、一体誰にわかるっていうんだ!あんな栄光が与えられるのならば、シンクロ王者になるのは長く決闘界に貢献してきた俺になるはずだろう!?」

「それは違う!ヒカリは実力で【王者】を勝ち取ったんだ!貴方だって、ヒカリの実力を前に敗…」

「黙れ黙れ黙れぇ!あんなのは間違いなんだ!あんな小娘よりも【王者】には俺がなるべきなんだ!貴族に匹敵する権力と富があんなポッと出の小娘に与えられるなんて奇怪しいだろぉ!」

 

 

 

いつもの冷ややかな態度とは裏腹に、癇癪を起こしたようにして叫び続ける雪霜 氷河。

 

…栄光にはあまり執着の無いような振る舞いをいつも見せていたと言うのに、まさかここまで虚栄心の高い人間であったなんて。

 

そんな、TVなどからでは知る事が出来なかった彼の本性に。遊震はどこか驚きつつも、そんな遊震を意に介さず雪霜 氷河は狂ったように代表として来た遊震に言葉を投げつけ続けるだけ。

 

 

 

「しかし、あの無能ばかりの【決闘世界】の代表がまさかデザイナー風情とはな!些か拍子抜けだが、約束どおりここまで一人で来たのだけは褒めてやる!だから喜んでいいぞ!お前だけは助かるのだ!ここで、会場が爆破される瞬間を俺と一緒に迎えることを許そう!」

「そうはさせない!貴方は代表一人でここに来いと命じてきた…だから、少なくともまだ爆破する気はないんでしょう?貴方は緻密な戦略を立てる人だ…何か、爆破する前にやろうとしていることが…」

「フッ、デザイナー風情がよく分かっているじゃないか………そうだ、まだ約束の2時間…爆弾のタイマーが0になっていないからな。だから今すぐに爆破はしない。だが、会場の爆弾は俺のデュエルディスクで操作されている!ここまで頭が切れるお前の事だ、コレがどう言う意味かわかるだろう?」

「…デュエルをしろ…って、ことですね?」

「そうだ!俺に勝てば爆弾を止められるチャンスをやろう!無論断れば今すぐに爆発させる!そして俺のLPを0にする事が出来れば、会場の爆弾のタイマーがストップする仕掛けになっている!まぁ無理な事だとは思うが、それが会場の爆弾を止める唯一の方法だ!ははははは!」

 

 

 

そうして、雪霜の狂ったような笑いが静かな展望室に反響する。

 

雪霜が呈示した条件…それはある意味、ここへ来た代表も絶望するに違いない条件であったことだろう。

 

何しろ、相手は世界ランキング4位、『氷結』の雪霜 氷河。

 

かつては世界ランキング1位だった事もある確かな古豪であり、そのデュエルの腕前は誰もが知っているほどの強者であるのだとして世間から広く知られている圧倒的な実力の持ち主であり…

 

だから【決闘世界】の指示でここへ来た代表が誰であろうとも、その条件の前では絶望するしかなかったはず。

 

…勝てるはずがない。けれどもやるしかない。

 

そんな、来た事を後悔するような条件をまざまざと突きつけてくる雪霜 氷河の本性に、並の者であれば絶望しか感じないはずで…

 

 

しかし…

 

 

 

「だったらデュエルに勝って、貴方の策略を全て無に帰すだけだ!」

「無駄なことだ!何の為に代表に一人で来いと言ったと思う?…それはノコノコやってきた馬鹿を一方的に蹂躙して、この俺が気持ちよく会場を爆破するためだよ!」

「…まさか『氷結』とまで呼ばれた貴方がこんなに腐った人だったなんてね…でもそうはさせない!絶対に、爆弾は停止させてみせる!」

 

 

 

それはあくまでも、この場に来たのが並の実力しかない者であったらばの話。

 

雪霜 氷河は知らない…のこのこ現れた代表が、ただのカードデザイナーではないと言う事を。

 

『氷結』は知らない…目の前の男が、トッププロにも引けを取らない実力を持った規格外のカードデザイナーであると言う事を。

 

…デュエルによる制約は絶対の事柄。

 

つまりは、目の前の男にまだデュエリストとしての矜持がある以上。デュエルで『氷結』を倒せば、まず間違いなく会場の爆弾のタイマーはストップするに違いないと言う事は遊震には分かってはいる。

 

だからこそ、遊震はなおの事デュエルディスクを展開しながらその手に力を込めるのみ。

 

…絶対に止めて見せる。絶対に守ってみせる。

 

そんな、会場にいる大切な人達を守るために。一時は世界ランク1位であったこともあるトッププロを相手に、会場の人々の命運をかけた戦いが…

 

誰もいないセントラルタワーにて、誰にも知られる事もなく…

 

 

 

 

 

「ゆくぞ!」

「ッ…」

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

今、始まろうとしていた―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ暴琉斗君、遊震知らない?」

「…否。」

「そっかー。遠雷君は?」

「遊震か?アイツなら先ほど会場の外に出て行くのを見たぞ。」

「は?外?なんで?」

「私が知るか。大方、新しいカードのアイディアが浮かんで、急いで書きたくなったとかではないのか?」

「うーん、いくらなんでも私置いて帰るわけないと思うんだけどなー…」

「…是。」

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「くそっ!くそくそくそっ!なんでだよ!なんで20年もプロやってるこの俺がカードデザイナーごときに!」

「貴方の思い通りには絶対にさせない!【電池メン-単三型】3体でモンスターに攻撃!そしてこれで終わりだ、【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】で雪霜さんにダイレクトアタック!荷電粒子砲、ボルテック・ブラスター!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

雪霜 氷河 LP:1000→0

 

 

 

ピー…

 

 

 

セントラルタワー。その、他に誰もいない静かな展望室にて。

 

たった今、激闘の終了を告げる無機質な機械音が…倒れている雪霜 氷河のLPが0になった事により、激しく掻き鳴らされていた。

 

 

 

「ハァ、ハァ…ゆ、雪霜さん、これで、会場の爆弾は解除されたんですよね?」

「あぁ…お前のせいで…タイマーが止まってしまった…」

「よかった…」

「…」

 

 

 

呆然とした雪霜から語られるその言葉は、きっと嘘偽りの無い本当のことに違いないだろう。

 

何しろ、デュエルによる強制力は絶対のモノ。つまりは遊震がデュエルに勝利したことで、間違いなく会場に仕掛けられた爆弾は機能を停止したのはまず間違いはなく…

 

…蓋を開けてみれば遊震の圧勝。それはデザイナー風情と遊震を侮っていた雪霜の隙を、鋭く突いた容赦の無い速攻。

 

そんな、自分が負けるなんて微塵も考えていなかったであろう雪霜 氷河は…

 

恐るべき速度にて圧倒された、プロデュエリストでもない者に負けたショックをあまりに重く感じているのか。

 

ただ、大の字になって横たわっているだけで…

 

 

 

「雪霜さん、自首しましょう。まだ未遂ですし、今ならまだやりなおせ…」

 

 

 

そして、そんな雪霜 氷河に対し。

 

遊震が、ゆっくりと慈悲の言葉をかけようとした…

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…いやだ。」

「…え?」

「こんな屈辱を浴びせられて、のうのうと自主なんかしてたまるか!だから『ここ』を爆破して死んでやる!そんで俺の邪魔をしたお前も、ついでにそこら辺の奴等もみんな一緒に俺と死ねぇ!」

「ッ!?」

 

 

 

遊震の言葉を遮って。

 

倒れている雪霜は、そう叫んだのと同時に…何やら、デュエルディスクを怪しげに捜査し始めたではないか―

 

 

 

「まさかッ!?」

 

 

 

そして、瞬発的に…

 

雪霜が何をやろうとしているのかを反射で察知した遊震は、飛び退くようにしてすぐ近くにあった非常階段へと踊り出たかと思うと。

 

そのまま、飛び降りに近いジャンプにて恐るべきスピードにて…

 

遊震は、一気に非常階段を飛び降り続けて初めて―

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

―ドゴォンッ!

 

 

 

 

…という、今まで遊震たちが居た階層から一際大きな爆発音が鳴り響いたと思うと…

 

 

 

「ひははははははははははぁ!全部終わりだ終わりだ終わりだぁ!」

 

 

 

何やら、雪霜 氷河の断末魔らしき言葉が聞こえたような気がしながら…

 

 

 

セントラルタワーが、崩れ始めた―

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 

 

 

けれども、ソレに構っている暇など遊震にはなく。

 

爆発による崩れよりも早く、飛び降りに近いスピードで非常階段を一気に駆け落ち始めた遊震は…痛みを感じるよりも早く速くセントラルタワーから脱出せんとして、本能のままにただただ必死で非常階段を下へ下へと駆け降りるのか。

 

そして…ギリギリ飛び降りれる高さまで、ものの数秒で辿り着いた遊震は。

 

駆け落ちてきた勢いをそのままに、未だ多少の高さのある非常階段の上から思い切りジャンプし…

 

地面に綺麗に着地…

 

とまでは行かなかったものの、勢いを殺すために不恰好に転がりながらも、すぐに立ち上がって再び走り始める。

 

それは突然の爆発に逃げ惑う人々の姿を、確かにその目に映しながら…自分も急いでこの近くから離れようと、再び一挙に駆け出し始めるだけで…

 

 

 

 

 

しかし―

 

 

 

 

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!おとうさーん!おかぁさぁぁぁぁん!」

「ッ!?」

 

 

 

崩れかけたセントラルタワーの麓…

 

あろうことか、逃げようとした遊震の目に映ってしまったのは…

 

 

逃げ遅れたのか、それともこの混乱で親とはぐれてしまったのか…

 

転んで、泣いている子どもが―

 

 

 

 

 

…また、運悪く。

 

 

 

 

 

再び、今度はタワーのあらゆる場所から一際大きな爆発が複数、同時に鳴り響いたかと思うと。

 

泣いている子どもの上空に、崩れたタワーの瓦礫が落ちてきて―

 

 

 

「あぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

…それは、反射的な行動だった。

 

目の前で、瓦礫の落下に巻き込まれそうな子どもを見てしまったが故の…

 

後先を考えた行動では断じてない、ただ泣いている子どもを救おうと体が勝手に動いた結果の、これは仕方の無い行動の結果なのだから。

 

 

 

 

 

…だから、一体誰が遊震を責められようか。

 

 

 

 

 

遊震の目の前には、泣き崩れてはいるが…無事だった子どもが、一人。

 

遊震の手は、その子をしかと抱きかかえ…落ちてきた瓦礫から、体を張ってその子を守った。

 

それは瓦礫と瓦礫の隙間…奇跡的に小さな空間が出来ているところに、本当に運よく子どもが助かるだけのスペースが空いており…

 

そして、遊震が庇ったことによって。その『子ども一人分』のスペースに、その子だけはどうにか収まっていて。

 

 

 

 

 

そして、子どもを庇った遊震は…

 

 

 

 

 

 

下半身が、瓦礫に潰されてしまっていた―

 

 

 

「ッ…ぐ…ぁ…」

 

 

 

痛みはない。

 

むしろ、痛みなど当に通り越してしまった。潰された下半身から、徐々に全身が冷たくなっていく感覚だけがじわじわと遊震の体へと広がっていく。

 

また、落ちてきた瓦礫で頭も強く打ったのだろう…頭部から垂れるその血の量は、およそすぐに手当てしないと手遅れになりそうなほどの出血量となりてどんどんと遊震の体から抜け出ていて。

 

そんな、瓦礫に潰されてしまった遊震は…

 

 

 

「ヒカリ………ごめん………僕……もう…」

 

 

 

ポツリと、そう零し…

 

 

 

「あ…こ、ごめんなさい…ひぐっ…ごめんなさい…おじさん…ぼ、ぼくのせいで…」

 

 

 

そして、そんな弱々しい声で大切な人の名前を呟いた言葉が、少年の耳にも聞こえてしまったのか。

 

…助けられ、奇跡的に無傷だったとはいえ。目の前で、自分を助けてくれた男の人がこんなにも弱々しく言葉を漏らすその光景は…

 

およそ助けられた少年にとっても、あまりの罪悪感をその少年に与えているに違いなく…

 

 

 

しかし…

 

 

 

小さな体を震わせて、泣きながら謝罪の言葉を漏らす少年を見て遊震は一体何を思ったのか。

 

 

そっと…

 

 

遊震は、自分の懐で泣き崩れている少年へと向かって―

 

 

 

「…ねぇ………君…名前は…」

「ぐすっ…しま…ゆーれ…」

「…」

 

 

 

何故か。

 

静かに、弱々しく名前を聞いたかと思うと…

 

 

 

「ぐっ…う…ぁ…」

 

 

 

まるで、最後の力を振り絞るかのようにして―

 

潰された下半身は無理としても、ダメージで動かないはずの上半身を無理矢理に少しだけ上げながら。

 

静かに…

 

とても、静かに。

 

そして、とても弱々しく…

 

そのスーツの懐から、『何か』を取り出しながら。息も絶え絶えになりながらも、ソレを少年へと向けて差し出し始め…

 

 

 

「ユ、ユーレ君……こ、これを…このカードを…き、君に、あげる…」

「あ…な、なにこれ…み、見たことないカードばっかり…」

「…僕が、作ったんだよ…こ、これを君に、あげる………だ、だから…君に、お願いがあるんだ…」

「…え?」

「よ、良く、聞くんだ…無事に、ここから出れたら…た、他人に、や、優しい男に、なってくれ…困ってる人を、無条件で、助けてあげられるような…そんな…だ、誰よりも優しい男に…なるんだ…」

「…あ、そ、それってどういう…」

「…ホ、ホントは、さ…じ、自分の子どもに、そう、教えたかったん、だけど………で、でも、もう、僕には…無理そう、だから…ぼ、僕の思いを…君に、託したい…僕が成りたかった…僕が、子どもに教え、たかった…ヒ、ヒーローみたいな男に…ど、どうか、君が、なって、くれ…僕の思いを…き、君が…受け継いでほしい…」

「ひ、ひーろー…ぼ、ぼくが…」

 

 

 

見ず知らずの少年に、己の思いとカードを託す遊震。

 

それは今生の別れのような…それは、まるで遺言のような…

 

こんな見ず知らずの少年に、試作段階のカードを渡すという行為に一体何の意味があると言うのか。しかも、渡したのは融合召喚をメインとする『HERO』のカード達。もしこれで少年のEx適正が『融合』でなかったとしたら、まるで無駄な行為をしていると言うことになると言うのに…

 

しかし、そんなことは遊震だってきっと言われずとも分かっているはずのこと。

 

そうだと言うのに、それでも最後の気力を振り絞って少年にそう伝える遊震の目は虚ろになりつつも本質を見間違えていないかのような…確かに命の灯火が宿った、強い意思の篭った目をしていて。

 

 

遊震にはわかっている…

 

 

きっと、おそらく…いや絶対に、この少年のEx適正は『融合』。

 

最期の勘か、虫の知らせか。それを、何故だか無意識に分かってしまうからこそ…

 

遊震は、自分の思いと共に自分の全てを見ず知らずの少年へと―

 

 

 

「僕が作った、最後のカードたち…僕の思いを…た、頼んだよ、ユーレ…」

 

 

 

そして…

 

 

 

「わかった!絶対に約束する!ぼく、おじさんみたいなヒーローに絶対になる!」

 

 

 

自分の命を救ってくれた、本物のヒーローの様な男性からソレを確かに受け取った志摩 遊零という少年が…

 

 

強く…強く強くそう返事をしたのを聞き届けた後。

 

 

自分の思いと、最後の作品を少年に託した事に、遊震はどこか安心したかのように…

 

 

 

 

 

 

その意識は…

 

 

 

 

 

そこで、途絶えたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

…その後、セントラルタワーの爆破を受けて。

 

警察が改めて爆破予告のあったホテルの会場を調べてみると、タイマーが停止した爆発物が見つかった。

 

つまりは、【決闘世界】の警備主任がイタズラだと言い捨てた爆破予告は本当のことだったのだ。無論、これは全て【決闘世界】の責任問題となったのだが…

 

警察を含めたその辺りが、この後どう処理されたのかは今この場では語るべき事ではないためひとまず置いておくとして。

 

この爆破予告を食い止めた張本人…

 

玖我 遊震は、先の決闘市を襲っていた謎の落雷事件を止めただけではなく、初代【王者】や大勢の著名人を守った立役者として…

 

彼はカードデザイナーの中でも最高位となる称号の一つ、『神の腕』の銘を与えられると同時に。

 

この世界の『英雄伝説』になぞらえ、その瞬く稲妻のような生き方から後に『雷の英雄』と呼ばれるようになったとのことだ。

 

 

 

その後、玖我 遊震の葬儀は確かに行われたという記述があるが…

 

 

 

しかし、通常であれば葬儀の時に共に供養されるはずの本人の『デッキ』、とりわけその中でも『1枚』のカードの行方は今も分かってはいないとのこと。

 

それは彼の妻であるシンクロ王者【白雷】も、彼の友人であった融合王者【紫電】も、彼の幼馴染であったエクシーズ王者【黒霆】も…その事に関しては晩年まで一切メディアに語る事は無かったため、『雷の英雄』のデッキの所在に関しては後年においても謎に包まれたままであり…

 

 

『輝雷の悪魔』が、『デュハラの天空神』、『黒側』、『根源の力』と呼んでいたカード…

 

 

【オシリスの天空竜】は今、いずこへ―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

これは歴史の1ページ。

 

歴史の上に確かにあった、紛う事なき誰かの物語。

 

計り知れぬ決闘者としての才能と、底知れぬ創造者としての才能の…

 

その、神の領域にさえ達するといわれていた2つの才能を持っていた、しかしたった一人の他人を助けるために、自らの命すら顧みなかった正真正銘の『英雄』の物語。

 

…この後の世界の歴史において、彼の名を覚えている者は少なくはなる。

 

けれども、確かに彼はこの時代に存在し、生き、そして自らの役目を果たし、その思いを確かに次の世代へと繋げていったのだ。

 

 

 

…これより先の歴史は、また『別の誰かの物語』へと繋がっていく。

 

 

 

歴史は、進む…

 

 

【決闘世界】が、その名を全世界決闘者統括機構【決闘世界】から超巨大決闘者育成機関【決闘世界】へとその名を変えるように。

 

 

時代は、変わる…

 

 

決闘市に、世界初となるプロデュエリスト養成校『決闘学園』が創設されるように。

 

…【王者】が生まれ、人々は【王者】を目指し力を求め続ける時代へ。『実力の時代』から、『Exデッキ至上主義時代』へ。

 

 

 

こうして、世界は変換していく。

 

 

それは止めどなく変わり続けようとする歴史の中で、その時代を必死に生きた一人の人間の物語でもあり…

 

 

この物語もまた、ソレを託された次なる者への物語へと移り変わっていく。

 

 

…今この時を持って、一人の天才の物語は幕を下ろす。

 

 

しかし、彼の物語の軌跡は確かな思いとなりて、次の『誰か』の物語へと繋がっていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯王Wings英雄伝『サンダーボルト』…

 

 

 

 

 

 

 

―『完』

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘市、某所。

 

満月の昇る深夜の空の下で、他に誰もいない決闘市のどこかにある高層ビルの屋上に…

 

ある、一人の男が居た。

 

 

 

「…神に等しい悪魔の力か…なるほど、時代の暴走を止めるには、愚かな人類は一度滅びねばならぬと…私に、そう言うのだな?原初を知る者…『紫の悪魔』よ。」

 

―『…』

 

「いいだろう。私の望みを叶えてもらうぞ。『世界』の崩壊を止める…私の創る決闘学園で、私が選んだ確かな才能のある者のみが次代へと繋がるのだ。」

 

 

 

その男の名は無明 涅槃。

 

全世界決闘者統括機構【決闘世界】の幹部の一人であり、現在決闘市にて進行中の『決闘学園計画』の最高責任者である。

 

そんな彼は、他に誰も居ないはずの高層ビルの屋上にて…

 

眼下に広がる決闘市の景色を眺めながら、『誰か』と話しているかのような言葉を漏らしていた。

 

 

そして…

 

 

そんな無明 涅槃の手には、一枚の『石版』が…

 

いや、その石版が砕けたかと思うと。

 

その手には、一枚の『融合モンスター』のカードが―

 

 

 

「さて、まずはどこかへと消えた『3枚』の欠片を見つけねばな。」

 

 

 

そう呟かれた無明 涅槃の言葉は…

 

満月に照らされながら、決闘市の街の風に消えていくのだった―

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃…

 

 

 

「…おじさん…僕、絶対になってみせるよ!おじさんがくれた『HERO』と一緒に、おじさんみたいな優しい人間に!」

 

 

 

窓から覗く満月に、まるで誓いを立てるかのように。

 

民家の2階の自分の部屋で…その胸に、大事そうに握られたデッキを持った少年が一人、居た。

 

 

それは先の爆発騒動にて、奇跡的に生還した一人の少年なのだが…

 

 

近い未来、一人の英雄に命を救われたこの少年が、出会った仲間と共にこの後繰り広げる悪魔との戦いの事は…

 

 

 

 

 

…また、別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…物語は終わらない。

 

 

 

次章…

 

 

 

遊戯王Wings英雄伝『原初の英雄』へ…

 

 

 

続く―

 

 

 

 

 

 

 

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