純白少女の行く末は 作:りらりー
『あぁ……私じゃ、足りない……足りない足りない足りない……立てないなれない至れない……』
長い長い髪を垂らした、一人の少女が椅子に座っていた。端正な顔とは裏腹に、その紫色に濁り切った瞳が歪に歪む。その瞳は真っ直ぐに、だが何もない暗闇を見詰め続ける。
『足りない成れない…………私じゃ無理……?ならならならなら、なら……なら──どうやって』
そして、ハッとしたように彼女はその小柄な体躯を震わせる。そして、その震える手で顔を覆うと、口元が弧を描いた。
『なら、なら……ならならならならそれならそれなら!!私が私で私が私で!!』
発狂したように瞳がブレる。体が震える。髪を大きく振り撒きながら、やがて彼女はその白魚のような指の隙間から、凍えるような色を称えた毒々しい紫色を覗かせ、言った。
『──私以外が、成れば良い!!!』
◆◇
「……ん」
小柄な少女が目を覚ました。泉のように澄んだ蒼い髪に、幼いながらも酷く整った顔立ち。
どこぞの好事家は酷く喜ぶだろう外見をした彼女は、その考えも強ち間違いではない。
「ふわぁあ──」
背伸びをする。涙が瞼に浮かび上がる。あまり目を開きたくはないが、そうもいってられないのであろう。これから少女にとっての日常が始まるのだから。
彼女は奴隷であった。
理由は明白である。琥珀のような瞳に、その外見。『一目見れば忘れない』。それを体現した彼女の容姿は、酷いマイナスを齎した。
生まれは知らない。何故なら彼女に取って世界とは狭い牢獄であったから。渡されるのは日に三度の食事と、時折要望によって得られる書物だけ。
逃げ出す事など考えたこともなかった。仮にも衣食住は整っていたから、尚更に。
いずれ訪れる運命を理解はしていたが、しかしぬるい今に浸かる以外に抜け道が無かったのも拍車をかけた。
この世界には、単体で『国』と評される存在もいるらしい。単体で軍を相手取れる存在もいるらしい。
そこまでいけば己の身も解放出来るのだろうが、それと同時にそれは夢見事であると少女は理解していた。
そう言うのは稀有であるから、崇められるのだ。そう言う物は、到底凡人には理解出来ないから、それ足り得るのだ。
つまり、最初から彼女は諦めていた。
「……ん?」
だから、少女は目を覚まし、欠伸を噛み殺しながら辺りを見渡した時に疑問に思ったのだ。
目を向ける。右へ、左へと視界を流す。白い壁、ふわふわなベッド、開けた窓、広い世界──。
そして彼女は思わずポツリと呟いた。
「──ここ、どこです?」