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「なるほど。それで俺の所にきたのか。」
でも、今回俺はそこまで力になれないと思うよ。と、嵐山の友人である男────迅悠一が口にする。続けて迅悠一は口を開く。
「今回の選択肢は2つしかない。言うか、隠すか、だ。俺としては言った方がいいと思うけどね。」
「それは未来視からか?」
「いや、コレは俺の副作用じゃなくて俺自身がそう言ってる。」
ついでに言っておくけど隠したところでいずれバレると思うよ、と迅は付け足した。確かに桐絵は騙されやすくはあるが馬鹿という訳でもない。それ故、隠した所で見破られるのは目に見えている。そこで携帯の着信音が鳴った。自分の物ではないという事を確認して迅の方を見る。着信音の正体はやはり迅の携帯だったようで彼は携帯に返信を打ちこんでいた。
「これでよし、と…。ごめん嵐山、ちょっと用事が入った。」
「いや、全然大丈夫だ。突然押しかけたのはこっちだしな。」
「うん、じゃあ最後にヒントをあげよう。───────小南はそこまで弱い人間じゃないと思うよ。」
じゃあ、また今度。と迅は部屋から出ていく。先程の言葉で考えを改める。確かにそうだ、自分は無意識に小南が事実を知れば精神的に大きなダメージを負うだろう、と考えていた。そして実際彼女はダメージを負うだろう。─────しかし、
「(さて、じゃあこれからする事は1つしかないな。────桐絵に全部話さないと。)」
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「で、話って何よ。」
「落ち着いて聞いて欲しいんだが…まず、門から人が落ちて来たことは知ってるか?」
───────その日、小南桐絵はかなり不機嫌だった。別に不機嫌な事に理由は無い。理由は無い、がイライラしていた。気晴らしにソロ戦をしようにも強い奴らは軒並み外出中というタイミングの悪さ。もう帰ろうと思っていた所に嵐山が話がある、と話しかけて来たのだ。これでつまらない用事だったらどうしてやろうか、と考えながら質問に答えた。
「当然知ってるわよ。というかA級で知らない奴の方が少ないでしょ。」
門から人が出てきた───────そんな異常事態が起きたが故に自身の携帯に連絡が来たのは記憶に新しい。誰かに確認を取ったわけではないが他のA級にも連絡が行き届いていることだろう。だが、それがどうしたというのか、まさか自分に関係がある訳でもあるまい。近界で自分に関係があるとしたら───────
「(克巳…そんな訳ないか。)」
即座に浮かんだ思考を振り払う。彼はもうこの世界にいない。近界に連れ去られたのが6歳の時だったから生きている可能性は限りなく低いだろう。思い出したくもないあの日の映像が脳に浮かび泣きそうになってしまう。もう踏ん切りはついたと思っていたのだが実際は全然ついていなかったようだ。
「知っているなら良かった。それで、その青年の名前がね────白上克巳、なんだ。」
───────脳が真っ白になる。まさか本当に克巳が帰ってきたのか、と期待してしまう。いや、ただ同姓同名なだけだろう、と期待を捨てようとして───
「言っておくけど、同姓同名なんかじゃない。間違いなく、
それを聞いて、感情を堰き止めていた堤防が決壊する。涙がとめどなく零れてくる。思い返すのはあの日の事。目の前で化け物の口に飲み込まれていく克巳に泣くことしか出来なかった自分。───大切な物を失って、“弱い奴は嫌い”という想いが自分に根付くきっかけとなった日。その日の事を鮮明に思い出してしまって、また悲しさが込み上げてきて、結局そのまま数分間涙は止まる事を知らなかった。
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「もう大丈夫そうか?」
准が様子を見て問いかけてくる。涙は止まったし、ある程度冷静さも取り戻せた。
「…うん、もう大丈夫。」
そう答えて、冷静になった頭に今度は嬉しさが込み上げてくる。何しろ失ってもう会えないと思った幼馴染が戻ってきたのだ。嬉しくない訳が無い。そこで、1つ疑問が湧いてくる。疑問とは准の表情。会った回数は少ないといえど帰ってきたのは喜ぶべき事のはずだ、なのに何故彼は今にも泣きそうなくらい辛そうな顔をしているのだろうか。それを尋ねようとして、それを遮るように彼が口を開いた。
「それで、話には続きがあるんだ。」
「?続きって…帰ってきて終わりじゃないの?」
もしかしてボーダーに入るのだろうか、と可能性を頭に浮かべる。もしそうだったらどんなに良い事だろうか。彼と戦場で肩を並べるのは複雑な気持ちがあるものの同じ職場で働ける、と考えればそう悪いことではない。そうして彼が口を開く。
「実はな、彼は───────記憶喪失になっているんだ。」
また、頭が真っ白になる。涙が零れそうになるが今度は堪える。
「それってもしかして…私たちの事も」
「…あぁ、忘れている。」
もしかしたら自分の事は覚えているかもしれない、という希望はあえなく打ち砕かれる。予想できない事ではなかった。10年間近界にいたのだ、可能性は十分あった。───────何より、生きているなら何かの拍子に思い出す可能性もある。
「……それで今克巳はどこにいるの?」
─────だから、今するべきは彼と対面することだ。
「!…今は三門病院の402号室にいるよ。」
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突然ドアが開く。今日は来客が多いな、とドアの方へと目を向ける。─────そこには、追い求めてきた人物がいた。近界で初めて戦場にたった日、トリオン兵を見た事により見たこの肉体の記憶。その中にいた少女が、そこにいた。当然そっくりなだけ、という可能性もある。───だが、問わねばならない。自分の過去を知るであろう少女に。この肉体の記憶を取り戻す為に。
「君は───────誰だ。」
質問を投げかける。少女が悲しそうな表情を浮かべる。だがそれは一瞬のこと、次の瞬間には覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「あたしは小南桐絵。────あんたの幼馴染よ。」
─────驚きはない。この肉体に残り続けた記憶。その中にいるとはどれほど大事な人間だったのか、と思っていたが幼馴染であればそれも納得できる。そして同時に喜びも湧き上がってくる。10年間自身に投げかけてきた問い、その答えが見つかろうとしている。そしてこのチャンスを逃せば答えは永遠に見つからなくなるだろう、と確信する。それ故に再度、彼女に問いかける。
「君は、俺の過去を知っているのか。」
「当然、幼馴染だもの。」
「ならば、教えてくれ。俺はそれを取り戻さねばならない。」
彼女が口を開く。笑みがこぼれそうになる。漸く、自身が求め続けてきたそれが手に入るのだと。───────しかし、彼女の言葉は予想外のものだった。
「
「…何だと?」
何故、という言葉が脳内を支配する。無理な筈が無い、彼女は俺の過去を知っていると言ったのだから───
「だって、あんたが取り戻したいのは
記憶を取り戻す手伝いならしてあげるけど、と締めくくって彼女は口を閉ざした。暴れていた感情が収まる。───────記録と記憶。俺が取り戻したいのはこの肉体の記憶であって記録ではない。そんな、初歩的な事を忘れていた自分が嫌になる。だが、答えに近づけたのは確かだ。手伝ってくれるというなら遠慮なく頼らせてもらおう。
「…すまない。確かに君の言う通りだ。記憶は俺が取り戻さなければいけない。だが俺はいま右も左も分からない。故に過去を知る君を頼らせてもらおう。」
「ま、手伝うと言ったしきちんと手伝うわよ。じゃあ手始めに───────」
「なるほど。理にかなっているな。明日には俺も病院を出られる。明日から行動開始だ。」
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翌日、界境防衛機関「ボーダー」の本部にある会議室に、上層部の人間と白上克巳がいる。
「それで、話したいこととは何かね。」
ボーダーの最高司令官である城戸正宗が問いかけてくる。今回は自分が話をしたい、と少し無理を言って時間を取ってもらったのだ。話とはもちろん小南桐絵に提案された作戦の事である。
「結論から言えば───────俺をボーダーで雇って欲しい。」
そう、これが小南桐絵が言っていた記憶を戻すための一手。彼をボーダーに入れることで身近にいた人間と交流を持つと同時にトリオン兵と戦うことで記憶を戻す、という作戦だ。彼も身近にいた人間と交流を取るのは悪くないと思ったが故に上層部に交渉に来たのだ。
「その理由は?」
「失った記憶を取り戻したい。」
「…なるほど。理由は分かった。だが今の所ボーダーへの入隊は了承しかねる。確かに君が連れ去られてしまったのは私達の責任だ。しかし、だからといって君を信頼する訳でもない。今の君は近界民に近い半近界民というような扱い、ここまでは理解しているかね。」
放たれる圧がさらに重くなる。だがここで諦めるなど論外だ。こちらとて策は用意している。
「当然、理解している。だから俺は話をしに来た。ボーダーと交渉するために。」
「ほう。では君は何を対価として何を差し出す。」
指を二本立てて口を開く。ここからは自分を売り込んでいくしかない。差し出せるものは全て差し出すつもりだ。
「俺が差し出す物は2つある。1つ目は近界についての情報。トリオン兵の種類や種類ごとの対策方法、そして近界にある国の情勢なんかのことも俺の知る限りのことを話す。」
「なるほど。それで2つ目は?」
「2つ目は俺の持っていたトリガーについての説明だ。仕組みや作り方なんかも俺は知っている。当然、それも話す。」
「…ふむ。」
少しだけ、威圧が弱まる。少しだけだが確実に揺らいでいる。ここを逃す訳にはいかない、と続けて口を開く。
「因みに俺は体術についても詳しい。トリオン体には効果が薄いがそれでも活かせる部分はある。俺を雇った場合他の隊員の戦力の強化も見込めるだろう。」
「…なるほど。君がボーダーに入る事によって生じるメリットはわかった。確かに君を雇うことによるメリットは大きいだろう。」
とりあえず、メリットは伝わったようで安心する。だがこの程度で入隊許可を出すほどボーダーは優しくないだろう、と気合いを入れ直す。
「───君が嘘をついていなければの話ではあるが。」
「(やはりそう来るか。)」
「何度も言うようだが今君は半近界民という扱いになっている。当然、君が裏切る可能性は考慮しなければならない。」
「つまり俺が裏切らない事を示す証拠が欲しい、と。」
「話が早いようで助かる。それで、証拠はあるのかね?」
「少しだけ待って欲しい。
「届く…?」
瞬間、ドアが開く。全員がそちらに目を向ける。そこには1人の男の姿があった。城戸が口を開く。
「
「そのまさかだよ城戸さん。俺が彼が裏切らないって証明する。」
城戸司令が押し黙る。他の隊員であればともかく未来視の副作用を持つ彼が証明するならば間違いは無いだろう。───────ならば、白上克巳の入隊を阻む要素は、もう無い。
「─────分かった。彼の入隊を許可する。」
上層部の他の人が喋っていないのは作者の力不足です。おかしい所があったら指摘して貰えると助かります。