「いや~何とかなってよかったね。」
「白々しいな。結果は視えていたのだろう?」
「いや、あそこで拒否される未来だってあった。今回許可が出たのは単純に運が良かったんだよ。」
会議室から出て、ブリッジ部分のないサングラスを掛けた男───迅悠一と会話する。さて、何故この男と交流を持つようになったのか。それを知るためには少し前まで遡らなければならない。
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「しかし、これではいささか弱いな。全てが嘘であり俺が裏切る、という可能性を消す必要がある。」
「それもそうね…。どうしようかしら。」
昨日、病室にて。ボーダーに入隊するために彼は小南と作戦を立てていた。何しろ彼は長い年月を近界で過ごしてきた。一般人と同じように入隊するのは無理があるだろう。それ故に交渉のための材料を揃えていたのだが───足りない。たとえ自身がボーダーに入る事で生まれるメリットが大きくてもそれを超えるデメリットがあれば確実に入隊は出来なくなる。
「あたしが克巳は裏切らないって証言したら…。」
「無理だろう。俺とお前が幼馴染なのは上層部も知っているはずだ。俺を守るためにお前が嘘をつく可能は大いにある。」
「そうよね…。あーもう!どうしたらいいのよこれぇ!」
「あまり大きな声を出さない方がいい。ここは病院だからな。しかしそうなるのも分かる。…未来視でもあればどうにでもなるのだが。」
「へ?未来視って…いるわよ?ボーダーに。」
「そうかいるのか…いるのか!?」
思わず身を乗り出す。未来視の副作用…あるかもしれないがボーダーにいるとは予想外だった。だが問題点はまだ1つある。
「その副作用を持っている人間は協力してくれるのか?」
「まぁそこそこ付き合いはあるしね。引っ張ってでも連れてきてあげるわよ。でも何で未来視なの?」
「…分かっていなかったのか?未来視があれば俺がボーダーを裏切る未来の可能性を無くせる。俺は敵対する予定なんてないしな。何より初対面だからこそ信憑性が増す。初対面の人間を庇う理由なんてないだろう?」
「…確かに。何で気づかなかったのかしら。じゃ、連れてくるわよ。今なら玉狛にいると思うし。」
「分かった。また後でな。」
そうして数十分後、ドアが開いた。そちらに目を向けるといたのは小南と袋入りのポンチ揚げを持った男。間違いなく彼が未来視の持ち主なのだろう。
「初めまして、だね白上君。ご察しの通り俺が未来視の持ち主で迅悠一だ。これからよろしくね。」
「あぁ。よろしく頼む。…それで、俺が裏切る未来は?」
「見逃して無ければ1つも無いね。隊員と戦ってる未来もあるけど周りを見るに訓練とかランク戦とかだね。────うん。君が裏切らないのは分かったし、何より小南の頼みでもあるしね。俺も手伝うよ。」
「それは助かる。では迅が出てくるタイミングについてなんだが…。」
「そうだね。タイミングは大切だ。俺の考えとしては最後の決め手として俺の未来視を使うのがいいと思うんだけど。」
「…そうだな。それがいいだろう。では、改めてよろしく頼む。」
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「白上君?」
「…っ、あぁどうした?」
回想をしていると迅に話しかけられて我に返る。気づけば迅以外にも人が立っていた。
「(この人はさっき会議室にいた─────)」
「こうやって話すのは初めてだっけ。玉狛支部支部長の林藤匠だ。これからよろしく。」
「…よろしくお願いします。」
慣れない敬語を使って返事をする。しかし、なんの用だろうか、と思考する、が、その答えは彼から伝えられることになる。
「で、ちょっと伝えないといけないことがあってさ。────白上にはこれから玉狛で過ごしてもらうことになる。」
玉狛───────ボーダーの支部の1つであり小南や迅が所属している支部だと小南に聞いた。そしてボーダー内では珍しく
「なるほど。本部に近界民を恨んでいる隊員がいるからですか。」
そう、近界民を恨んでいる隊員が本部にいるからだ。玉狛の思想が珍しいということは近界民と仲良くしたくない奴の方が多い、と言うことでもある。それならば近界民と友好関係を築こうとしている玉狛で過ごす方が都合がいいのだろう、と考えたのだが───
「いや?玉狛で過ごしてもらうのは小南からの要望で、幼馴染だったって事も聞いてそうしたんだ。」
まぁ、近界民を恨む隊員の存在も確かにあるけど、と彼は付け足した。まさかの理由に驚愕する。
「それじゃ案内するよ。こっちだ。」
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「ふむ───────新入りか。」
本部から歩いて玉狛支部に入って最初に聞いた声がこれだった。言葉だけならまるで歴戦の勇士のような人物を想像するだろう。だが、実際これを言っているのは────────子供だった。
「新入りか、じゃないの
何故子供が、と疑問に感じていたが迅の説明によってそれが解消される。カピバラに乗っているのは謎だが今は気にしなくていいだろう────
「あっ!漸く来たわね克巳!」
と、そんな事を考えていると聞きなれた声が聞こえてくる。聞こえてきた方へと目を向ければやはり小南がこちらへと駆け寄ってきていた。その後ろから歩いてくるのは別の隊員だろう。そしてその隊員の姿が見えた。─その男は、
「初めましてだな。俺は木崎レイジ。これからよろしく頼む。」
「あ、あぁよろしく頼む。」
そうして少し話して、玉狛支部に用意された自分の部屋などの説明も受けて、ある程度玉狛の雰囲気に慣れた時に小南がまさかの言葉を口にした。
「…そういえば準備とかしなくていいの?正式入隊日、
は?、と告げられた衝撃の事実に戦慄する。まさか、と思い迅へと目を向けると目を逸らされる。この反応は本当に明日が正式入隊日であるということ。いや、早いうちに入隊するのはいいのだがいささか急すぎはしないだろうか、と思う。が、惚けている時間は無い。林藤支部長に正式入隊日に必要な物を聞けば一応訓練用トリガーを渡された。他にはいらないらしいのでとりあえず明日に備えて眠りにつく。
───────そして、翌日。彼は式典を終えて訓練場らしき場所へ来ていた。
「よし、これから入隊指導を行う!攻撃手、銃手志望の子はここに残ってくれ。狙撃手志望の子は佐鳥が案内してくれるからついて行ってくれ。」
嵐山隊隊長である嵐山准が入隊してきたC級へ声をかける。
「(俺は攻撃手だからここに残ればいいか。)」
嵐山が佐鳥と呼ばれていた人物を見届けて、残ったC級を案内する。
「さて、今から君たちには対近界民戦闘訓練をしてもらう。対近界民と言っても今回はあくまで動かない物をどれだけ早く倒せるかを見るだけだから攻撃される心配はない。好記録目指して頑張ってくれ。」
名前を呼ばれたC級隊員が部屋へと入っていく。すると部屋の中にバムスターが現れる。
「(バムスター、か。俺の番もすぐ回ってくるだろうな。)」
何しろバムスターは体格が大きく攻撃を当てやすい。戦闘に不慣れでも早く殺すのは難しいことではないだろう、と考え部屋へと目を向ける。
「記録、2分24秒」
「記録、2分01秒」
「記録、1分56秒」
一瞬目を疑った。期待していたわけではないがこれは酷すぎるのではないだろうか。動かないものを殺すのに2分もかかっていたら本物と相対したとき何も出来ず殺されるだろう。と、思考していると俺の名前が呼ばれる。自身のトリガーはスコーピオンというものだと聞いている。スコーピオンはどんな形にもできるのが特徴らしい。そして、自身の中には1つ考えがあった。
「訓練開始」
───────目の前にバムスターが現れる。即座にスコーピオンを発動し、前世で使っていた物と同じ形の投擲剣───黒鍵を精製する。そのまま眼に向けて投擲し、銃弾の如き速度を出して飛んで行ったそれは的確にバムスターな眼を貫いた。バムスターが沈黙し結果が告げられる。
「記録、
「(少し鈍ったな。前世であればもう少し早く出来ただろうに。)」
そう思いながら外へ出ると周りを囲まれる。凄いな、なんて声が聞こえてくるが、自身からしてみればまだまだだ。もっと鍛錬を積まねばならないな、と決意を固めて対近界民訓練は終わりを告げた。
その後、地形踏破訓練や隠密行動訓練を済ませ、ポイントについて説明を受けた。初期ポイントは基本的に1000点で見所がある隊員は初期ポイントが上がるらしい。手の甲に書いてあるらしいので見てみると3500点ととんでもなく高いポイントだった。4000点になればB級────つまり正隊員となる事ができ、ポイントを上げるためには合同訓練で1位を取るかランク戦で勝利しなければならない、ということも教えられた。
「───じゃあ質問もないようだし各自解散!ランク戦は今からでもできるから気になった人はランク戦室に行ってみてくれ!」
「(なるほど。今から出来るのか…今日中にB級になれればいいが。)」
元が3500点故に時間はかかるだろうが今日中にB級になれば戦力として玉狛にも貢献できる。
「(よし、行くか。)」
ランク戦室へと足を向けて歩き出す。───────これからのボーダーでの生活を想像し少し笑みが零れる。
そしてそれを見つめる影が1つ。
「(漸く来たか、
───────
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