────黒鍵を模したスコーピオンを投擲する。戦場に身を投じた事の無いC級隊員が銃弾と殆ど同じ速度で飛んでくるそれを回避出来るはずも無く、投擲された黒鍵は寸分違わず相手の心臓を穿った。
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ランク戦の部屋から出て、手の甲へと目を向ける。─────そこに刻まれているポイントは4000点。それは彼がB級隊員に上がったことを示していた。
「少し時間をかけすぎたな…早く玉狛に戻らなければ。」
当然とも言えるが彼とて簡単にB級に上がれた訳ではない。確かに初期ポイントが他の隊員より2500点高いというハンデはあった。が、しかし、戦った相手のポイントが自分のポイントより小さければ勝利してもポイントの上がり幅が小さくなるという仕様により彼は4000点に至るまでに約6時間もの時間を要した。それ故、もう日は沈みかけている。一応途中で小南がランク戦室に来たので何をしていたかは連絡が行っているだろうが…それでもかなり遅くなってしまった。少し足を早め廊下を曲がる。────瞬間、衝撃が走る。人とぶつかったのだ、と気づくのにはそこまで時間はかからなかった。すぐさま立ち上がりぶつかった相手に手を差し伸べる。
「すまない、怪我は無いだろうか。」
「いえ、気を抜いていたこちらにも非がありますので。怪我も大丈夫です。」
自分が差し出した手を掴み相手が立ち上がる。…入隊初日から隊員に怪我を負わせるなんて事にはならなかったことに安堵する。
「怪我が無いのなら良かった。それではまた、縁があれば。」
そう言って相手がこっちを見る。────その時、一瞬だけ相手が驚愕に目を見開いた。何だろうか、と思い、相手に質問を投げかける。
「すまない、何かあったのだろうか。俺の顔に何かあるなら教えてくれると助かる。」
「─いえ、何でも。…すみません。名前だけ聞いておいてもよろしいですか?」
「?…白上克巳、という。…しかしなぜ名前を?」
「いえ、これから共に防衛任務をこなすこともあるでしょうし聞いておいて損は無いでしょう。…こちらも自己紹介を。バゼット───
それだけ言うと彼女は自身の脇を通り抜けて廊下を歩いて行った。しかし、バゼット・フラガ・マクレミッツ────前世でも聞いたことのある名前だ。歴代最強クラスとも言われた封印指定の執行者であり「
─────この後木崎に「ランク戦に精を出すのは構わないが遅くなるならせめて連絡をしろ。」と叱られ、彼の入隊初日は終わりを告げた。
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「(─────白色の髪に白上克巳という名前…そして何より
コツコツと足音を響かせながらバゼットは思考を巡らせていた。考えるのは先程ぶつかった青年が転生者であるのかどうか。何しろ、前世でとある神父から聞いた名前とその名前の人物と似通った容姿。────そして、こちらの世界では存在しえないはずの黒鍵を使った戦闘方法。ここまでの共通点があるのだから
────だが、彼女はその考えが合っているのかどうかが分からずにいた。その理由は至極簡単、転生が奇跡に奇跡を塗り重ねてようやく出来るか、というような代物だからである。
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ここで少しだけ転生について少し解説しよう。
まず「転生」とは、死者を異なる世界に移動させた上で蘇生する事である。(この小説では転生をこう解釈する。)
そしてこれを起こす為には幾つも奇跡を起こさねばならない。
まず起こさなければならない奇跡は異世界への移動である。そもそも平行世界の運営を行い平行世界の移動を可能とする第二魔法ですら異世界への移動は不可能であるのにただの魔術師であるバゼットやそもそも魔術師ですらない白上克巳が出来るわけがない。
それに加えて転生を行う為には死者の蘇生を行わなければならないのだ。死者の蘇生には、時間旅行、平行世界の運営、無の否定、のいずれかが絡んでくる。もはや言うまでも無いだろうがいずれもバゼットや白上克巳に出来る事ではない。
────つまるところ本来彼らは転生など体験できるはずが無いのだ。どの奇跡も決して偶然起こることなど無い故に。
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「(しかし、私という例がある以上彼も転生をしたという可能性はある。…前世にあって現世に無いものを出して遠回しに確認してみるのもありですね。)」
そんな事を考えながら歩く彼女の手の甲には──────2500という文字が刻まれていた。
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「そういえば克巳はこれからどうするの?」
白上がB級になった日の翌日、玉狛支部のメンバーが朝食を食べている途中に小南が白上へと問いかける。その問いに答える為白上は口の中の物を飲み込んでから口を開いた。
「今日もランク戦をする予定だ。B級がどんなものなのかも知っておきたいしな。」
「…?そうなの?で、これからどうするの?」
「?…今答えただろう。」
「え?」
「は?」
「…白上、小南はお前が
2人の会話を聞いていた木崎から助け船が出される。それを聞いて白上は小南の質問の意味を取り違えていた事に気がつき、答えを訂正する。
「…暫く部隊に所属するつもりは無い。そもそも入りたい部隊も無いからな。」
「…ふーん。じゃあ逆に入りたい部隊があったら部隊に所属するって事?」
「?…それはそうだろう。まぁ当然その部隊に入る事を拒否されれば否が応でもソロになるが。」
それを聞いた小南は少し思考して─────
「克巳、あんた後で私と戦いなさい。この後時間は開いてるでしょ?」
と、そんな事を口にした。───────それを聞いた白上が心の中で、何故そうなる?と叫んだのはおかしな事では無いだろう。
「じゃあ102号室から指名するから。」
そうして小南がランク戦室へと足を向ける。そのあっさりとした一言に呆然とするが即座に腕を掴んで引き止める。
「どうしたの?…言っとくけどここまで来てやっぱり戦わないってのは無しよ?」
「違うそうじゃない。もう戦うのは良い。だがせめて何故戦う事になったのかだけ教えろ。」
「えっ?…もしかして説明してなかった?」
「少なくとも何故戦う事になったのかは聞いていないな。」
そこまで聞いて小南の顔に焦りが浮かび始める。…もしかしなくとも彼女の頭の中では既に説明を終えていたのだろう。だが、現実では説明もせずにランク戦室まで連れてきたのだから、まぁ焦りもするだろう。と、そんな事を考えている内に小南は冷静さを取り戻したようで何故戦う事になったのかを説明し始めた。
「…ほら、克巳は入りたい部隊があったらそこに入るって言ったじゃない?」
「あぁ言ったな。」
「それで、玉狛第一に入るのはどうかって思ったんだけど。」
「玉狛第一というのは木崎と小南が所属している部隊の事だな?」
「そうよ。…まぁまだオペレーターがいないから正式な隊じゃないんだけどね。」
「なるほど。…で、それが何故戦うことになる?」
「だから今説明するわよ。…で、もし玉狛第一に入るならどのくらい強いのか知っておきたいと思って戦うことにしたの。」
説明を聞き終え、納得する。確かに玉狛第一に入るのなら実力は把握しておくべきだ。それに玉狛第一に入らないにしても実力を知っておいて損は無いだろう。ついでに言えばこちらにとってもボーダー隊員の実力を知れるのであればそれは悪いことでは無い。
「よし、理由は分かった。では102号室だな?」
「!…うん。102号室だから。…手加減はしないわよ?」
「あぁ。こちらも全力で行かせてもらう。」
そう言って自身もランク戦室へと入る。なんだかんだ小南の戦闘能力の高さは分かっていない。分かっているのは日本刀のような形をしたトリガーである弧月を使うことのみ。そんな事を考えていると転送が始まる。
───────A級で攻撃手3位の隊員VSB級に上がったばかりの隊員という異質な戦いは今ここに始まりを告げた。
次回は戦闘がメインになります。アドバイス、感想、評価などお待ちしています。