転生者はファンタジー世界で静かに暮らしたい   作:萬屋久兵衛

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 討伐にはその日のうちから動き始めた。帝国軍と対峙している最前線である以上時間は無駄にできないからだ。軍の追跡によりおおよその魔熊の居場所がある程度把握されていたため、数時間程度で発見した。

 

「なんか思ったより小せえな……」

 

 雑木林の向こうからのっそりと現れた魔熊を見て、グエンがつぶやく。

 魔獣化した獣というのは、たいてい筋力の増強等によりただの獣だった頃より一回り二回り巨大化することが多い。

 元々獣として大柄な人よりも頭一つ抜ける程度の大きさをもつ熊が魔獣化した魔熊は、普通の人の倍近い大きさになるものだが、この魔熊はあまり大きくない。今は四足歩行しているが、二足で立ち上がっても高身長なグエンより頭一つ分ぐらいの大きさでしかないのではないだろうか。

 

「熊違いじゃないのこれ」

 

「今日初めて相対する動物であるこの熊が標的じゃないわけないだろう」

 

 エリザの言葉をアシュレイが否定する。この熊に出会うまで、森林地帯を進んでいたが、獣の類とは一切出会わなかった。聡い獣は危険な存在がいるこの地域から逃げ出しているだろうし、そうでないものはすでに魔熊の餌食になっているだろう。

 魔熊は気が立っているのか、唸り声をあげ、すでに戦闘態勢に入っているようだ。

 『暁の星』面々も得物を持ち、周囲に展開する。僕とジョディは後方に、アシュレイはジョディの前で抜剣し、油断なく盾を構えている。

 

「てめえら、油断するなよ! 危険を感じたらすぐに下がれ!」

 

 グエンの号令を受けて、まず狩人たちが矢を射掛けた。僕とジョディは固唾を飲んでそれを見守る。

 複数の矢が魔熊目掛けて飛び、突き刺さろうとした瞬間。魔熊の身体がぶれたように見えた。

 

「ちぃっ! やはり効かねえか!」

 

 一瞬で跳ね返された矢に、グエンは舌打ちする。僕は予想していた、それも一番最悪な結果に自分の顔がゆがむのを感じた。

 魔熊の身体がぶれたように見えたのは、その身体から影が飛び出してきたからだ。その影は、拳を振り回すようにして、すべての矢を叩き潰していた。

 

「やはり……」

 

 ジョディが小さくつぶやく。

 兵士たちが打撲や骨折をしたのは風の魔法が原因ではなく、見えない影に拳で撃ち抜かれたからだ。毒や病気の類が原因と思しき謎の症状は影が持つ固有の能力である。

 その影はバイザーが付随した兜を被り、体表と同じ紫色をしたマントをはためかせている。魔熊よりも人型に近く、その表情は憤怒に歪んでおり、糸のようなもので縫合された口からはよだれが滴り落ちる。

 僕は呻くようにしてその名を口にする。

 

「パープル・ヘイズ……!」

 

 おそらく、スタンドの中でももっとも凶暴な存在。その能力は能力者自身を危険にさらすほどに凶悪だ。

 

「どういうことだ、あれは……!?」

 

 それが見えていなくとも、何か感じるものがあるのかアシュレイが戦慄した様子で呟く。『暁の星』の面々も普通でない何かを察してか、魔熊を包囲して警戒態勢をとっている。

 パープル・ヘイズはそんな彼らを魔熊の傍らに立ってうめき声のようなものをあげながら睥睨していた。そして、魔熊は威嚇するように唸り声を上げると、包囲の一角に突撃した。

 大盾を構えた大男がその目の前に進み出て、迎撃しようとする。

 

「いけない! 下がって」

 

 ジョディが声を上げて前に出ようとするのを、彼女の前方に立つアシュレイが押さえつけ、僕が服の裾を掴むことで止める。

 

「カタリナ様、下がっていてください!」

 

「君が出るのはまずい!」

 

「でも!」

 

 ジョディが抗議の声をあげる。僕のことを睨むように見てくるが、貴重な治療役をあれの前に出すわけにはいかない。大盾の大男には悪いが、今ジョディが戦線離脱するようなことにはしたくない。

 僕らが揉めている間に、大盾の大男と魔熊が衝突する。いや、魔熊の前に飛び出し、大盾と衝突したのは、パープル・ヘイズの拳であった。

 全体が頑丈な金属でできていたと思われる大盾が、ぐしゃりとへこみ、あまりの衝撃に大男は後方の味方を数人巻き込みながら吹っ飛んだ。

 

「なにい?」

 

 あまりに予想外であったのか、グエンが目を剥く。

 しかし、大男と巻き込まれた面々はまだ良いほうだった。僕はパープル・ヘイズの拳に付いていたカプセルがひとつ割れるのを見た。

 

「全員その場を離れて! 毒攻撃が来ます!」

 

 パープル・ヘイズの近くにいた『暁の星』の面々が僕の言葉に反応したときには、もう遅かった。

 割れたカプセルの中から僕とジョディ、そして魔熊にしか見えない紫色の煙が周囲に散布される。近くにいた者たちはその毒煙、正確にはウイルスに巻かれると、苦しげにうめき声をあげ、その場に倒れ伏した。

 

「視認もできないの……!? これ本当に魔法!?」

 

 声を震わせながら信じられないような目をするエリザ。僕は歯噛みしつつ、周囲に警戒を促す。

 

「毒は風魔法が放たれた場に散布されます! 風魔法を受けたらその近くから一刻も早く離れてください!」

 

 僕の言葉にグエンが魔熊への警戒を強め、魔熊から視線をそらさずに問いかけてくる。

 

「なんだ、もう種はわかったのかよ。根拠はあるのか?」

 

 一瞬情報を開示することに躊躇を覚える。ちらりとジョディを見ると彼女もこちらを見ていて、こくりとうなずいたのを確認して口を開いた。

 

「以前読んだ文献に似たような状況の記述を見たことがあるんです。風魔法、と言いましたが、あれは魔法とは別の力です。魔熊の近く、五メイル以内に目に見えない人型の精霊がいて、それが殴りつけてくるのだと思ってください。毒攻撃は精霊が殴った時にその拳から噴出しているのです」

 

「わたしも同じ文献を読んだことがあります。その文献には毒攻撃を受ければ数十秒で死に至る、とありました。しかし、毒攻撃を受けた方々はまだ生きています。毒の症状が文献より弱いのかも知れません」

 

 説明できない部分をぼやかし、隠しながら、パープル・ヘイズの能力について説明すると、ジョディが僕の説明に補足を入れてくれた。正確には毒ではなくウイルスであるのだが、ウイルスという存在がまだ発見されていないこの時代では毒といったほうがわかりやすいだろう。

 二人からの説明に一応納得したのか、グエンは鼻を鳴らしてうなずいた。

 

「その文献がどんなもんかは知らねえが、つまり、この魔熊だけじゃなくて目に見えないもうひとりの敵ともやり合わなくちゃいけねえのかい。しかも、重装備の盾兵を盾ごとぶん殴って来るようなたちの悪い敵と」

 

「その通りです。……一度撤退したほうが良いかと。種がわかったのなら対策を練れます」

 

「そうしたいのはやまやまだが、素直に返してくれるかね。毒をくらったやつらも救助せにゃいかん」

 

 魔熊はひどく興奮していて、こちらをやすやすと逃してくれそうには見えなかった。ウイルスにやられた者たちを見捨てて、と言いたいところだが、グエンはそれを認めないだろうし、僕自身も気が引けてとても提案できなかった。

 

「一度俺が仕掛ける。毒を受けたやつの回収はうちのやつらが。カタリナ様、トマス──盾持ちのやつととばっちり受けたやつらの治療を頼めませんかね」

 

「承知しました」

 

 ジョディが頷いたところで、グエンが動く前に焦れたのか魔熊が咆哮を上げて一直線に突進してきた。

 

「エリザ!」

 

 グエンの声に応えて、エリザは呪文を唱えて魔法を行使する。彼女の面前に拳大の火球が出現した。僕はそれを見て目を見開く。サイズは一般的な火球よりも小さいものであったが、その数は数十にも及んでいた。威力よりも面制圧を重視しての行動と思われるが、これだけの数を準備できる者はそういない。その年齢で『暁の星』に入団するだけのことはあるということか。

 

「いけ!」

 

 エリザが杖を振り上げると火球の群れは魔熊に向かって殺到した。

 このまま魔熊を丸焦げにできるのでは、と思わせるほどの制圧力。スタンドが受けたダメージはその本体にも影響を及ぼす。これだけの数の火球だ。パープル・ヘイズで迎撃しても本体へのダメージは避けられないだろう。しかし、魔熊の行動は、その想定を凌駕した。

 どん、と地が揺れる。

 何だと疑問を持つよりも先に、僕は目を疑った。

 数百キロはあると思われる魔熊の巨体が、宙に舞った。陥没した地面を見て事態を把握できた。

 パープル・ヘイズが地面を蹴り、跳躍したのだ。本体である魔熊もそれに引っ張られるように跳び上がる。火球の群れはその足元を通り過ぎていった。

 

「うそだろ!?」

 

 グエンが驚愕の声をあげる。

 魔熊は落下態勢に入る。その視線の先にいるのはエリザだ。容赦ない殺意の視線を受けて身を竦ませたのか、エリザは避けることもできない。

 エリザに向かって落下する魔熊の横で、パープル・ヘイズが拳を振り上げる。しかし、パープル・ヘイズは突如として本体である魔熊を引っ張り、無理やり軌道を変えた。魔熊が直前までいた場所を礫が通過していく。僕がキラー・クイーンの能力によって爆弾に変えた手製の礫を投擲したのだ。

 木にぶつかって爆発する礫を尻目に軽やかに降り立つ魔熊に舌打ちする。キラー・クイーンの爆弾に変える能力は、触れると爆発する爆弾と、起爆スイッチを押すことで起爆する爆弾を選べるのだが、避けられると思わなくて接触起爆を選択したのが仇になった。

 魔熊が次の行動に移る前にグエンが切り込んだ。

 振り上げた大剣が恐ろしいまでの速度で振り下ろされる。常人では避けることも防ぐことも難しいに違いない。しかし、パープル・ヘイズはその剣戟をやすやすと捉えていた。グエンの大剣を真正面から殴りつける。剣と拳の正面衝突は相打ちで終わった。近距離パワー型のスタンドと相打ちとはとんでもない力だ。しかし、パープル・ヘイズの力はそれだけで終わらないのだ。

 剣と衝突した拳のカプセルがまたひとつ割れる。僕は警告の声をあげようとしたが、それが発せられる前に、グエンは相打ちの衝撃を利用してはるか後方に飛び退っていた。

 

「とんでもねえ力だなおい……。けどよ。調子が悪くならないってことは、毒攻撃は避けられたってことだよなあ?」

 

 そう言ってにやりと笑うグエンに僕は驚愕する。正直なところ、スタンドを知覚できないグエンがまともに戦えるとは思っていなかった。彼には申し訳ないが、彼をパープル・ヘイズが殴りつける隙をついてキラー・クイーンの能力で爆弾に変えた礫をぶつけるつもりでいたのだ。しかし、結果は予想を裏切った。

 スタンドと打ち合えるだけのパワーと、見えもしない拳とぶつかりあった瞬間に一瞬でウイルスの範囲外まで後退できる技量。一流冒険者というのはこれほどのものなのか……! 

 

「回復完了しました!」

 

 ジョディの声にちらりとそちらを見ると、すでに大盾の大男、トマスとその他の面々は回復し、後退を始めていた。大盾はひしゃげたままだ。クレイジー・ダイヤモンドの能力であれば修復できるだろうが、さすがに自重したらしい。

 

「こっちはいつでも引けるわ!」

 

 弓兵の女性からも合図が出た。ウイルスの影響を受けてぐったりとしている者たちを担いでこちらも下がり始めている。

 

「うし! そいじゃあ俺が時間を稼ぐ。その間に撤退しろ!」

 

 その号令に『暁の星』の面々は全力で交代を始めた。

 その時、グエンと睨み合っていた魔熊の視線が、下がり始めた『暁の星』の面々──病人を担いでいる者たちに向いた。

 

「ちぃっ! 熊のくせに悪辣なこと考えやがる!」

 

 グエンは舌打ちをして間に入り込んだ。魔熊はそれを見ていないかのような勢いで突進する。魔熊に先行していた、パープル・ヘイズがグエンに向けて拳を振り上げる。

 グエンは、見えていないはずのその拳に大剣を合わせた。勘か経験値か、それとも別のなにかかわからないが、恐ろしいまでの対応力だ。しかし、打ち合えるのも一撃まで。カプセルがまたひとつ割れた。ウイルスが散布する前に退避しなければならない。

 僕は、グエンは先程と同じく拳の力を利用して下がると思った。そうなると熊と撤退する『暁の星』の面々の間には遮るものがなくなってしまう。

 一番近くにいる僕でも割り込むには間に合わない。せめて進路の妨害だけでもできればと礫を手にしたところで、僕は目を見張った。

 グエンは、下がらなかった。

 グエンが踏みとどまると思わなかったのか、彼に見向きもせずに走り抜けようとした魔熊は虚を突かれた形になる。一息で魔熊に踏み込み、振り下ろされた大剣にパープル・ヘイズはぎりぎり間に合った。しかし、迎撃の拳に力が足りず、大剣を逸らすのが精一杯だった。魔熊も大剣を身を捻ることで避けようとしたが、避けきれない。大剣の切っ先が魔熊の顔面に当たり、魔熊は悲鳴をあげながら、倒れ伏した。

 それを成したグエンは、魔熊に追撃を入れようとするが、踏み出した足から崩れ落ち、倒れそうな身体をかろうじて大剣で支える。魔熊に一撃を与えた代償に、ウイルスを吸い込んだのだろう。

 

「グエン!?」

 

 ミレイナが悲鳴をあげる。

 グエンは身体を支えるので精一杯の様子で、動けそうもない。顔を斬られた魔熊は、もがきながらも必死に立て直そうとしている。

 エリザが魔熊に向けて杖を掲げるが、射線上にグエンがいることに気がついて舌打ちする。かわりに狩人たちが矢を射かけるが、グエンを避けるように山なりに射掛けられた矢をパープル・ヘイズが腕を振り回して叩き落とす。

 魔熊がふらふらと起き上がる。グエンの大剣は右目を斬っていたようで、閉じられた右目のまわりは血だらけだ。魔熊は痛みからか怒りからか、自らのスタンドと同じようによだれを撒き散らしながら、立ち上がれないグエンを睨みつける。

 僕は間に合わないのを承知でグエンを助け出そうと飛び出した。が、それよりも早く彼のもとに飛び出す人物がいた。ジョディである。

 

「カタリナ様!?」

 

 アシュレイが悲鳴のような声をあげる。

 魔熊が地を蹴りグエンのもとへ迫る。ジョディはぎりぎり間に合いそうもない。僕は懐からけむり玉を取り出し、キラー・クイーンの力も使って、全力で魔熊の目の前にそれを投げ込んだ。

 地面にぶつかったけむり玉が、白煙を噴き出す。視界を潰された魔熊の怒りの咆哮が聞こえる。

 魔熊は構わず白煙に突っ込む。

 

「グエンさん!」

 

 僕の声を聞いてか、白煙に包まれる直前、グエンが転がるようにして横に倒れるのが見えた。グエンが先程までいた空間に、白煙の中からパープル・ヘイズの拳が突き出されたのが見えた。魔熊の戸惑うような唸り声が聞こえる。

 カタリナは白煙に包まれようとしていたグエンを抱え、後方に飛び退ろうとする。クレイジー・ダイヤモンドの補助を受けて軽々とグエンを持ち上げているが、勢いよく白煙から飛び出してきた魔熊が彼女を射程圏内にとらえる。

 グエンを守るようにして抱きかかえたままのジョディにパープル・ヘイズが拳を振り上げる。

 

「馬鹿! 迎撃しろ!」

 

 思わず声を荒げる僕の声が聞こえていないかのようにパープル・ヘイズを睨みつけるジョディ。その目を見て悟る。

 ───あれは、覚悟を決めた目だ……! 

 わざと殴られることで安全圏までぶっ飛ばされようという魂胆だろうか。しかし、クレイジー・ダイヤモンドがグエンを支えている今、無防備に拳を受けざるを得ない。

 あまりにも無謀な行為に舌打ちしつつ、せめて彼女の覚悟を無駄にしないため、爆弾に変えた礫を構える。ジョディをぶっ飛ばした魔熊に投げつけて時間を稼ぐためだ。

 魔熊の周囲に誰もいなければキラー・クイーンの爆弾で牽制しつつ撤退ができる。

 ジョディに拳が迫る。彼女は身体を丸めて衝撃に備えている。

 そこに、彼女の後方からアシュレイが飛び込んできた。

 

「なっ!?」

 

 僕もジョディも驚愕に目を見開いた。

 アシュレイは見えていないはずのパープル・ヘイズの拳に当然のように剣を合わせると、その衝撃に付き合わず、うまく受け流して見せた。

 

「アシュレイ様! 下がってください!」

 

「あなたが先です!」

 

 怒鳴るようなジョディの声に、見えないパープル・ヘイズのラッシュを受け流しながら、彼女よりも大きな声でアシュレイは怒鳴り返す。

 彼女は顔を歪めながら、グエンを抱えて後方へ退避する。

 アシュレイはその場でしばらくパープル・ヘイズを迎撃してみせた。アシュレイのように豪剣で真っ向勝負を挑むのではなく、剣を拳にあてて受け流し続けている。

 ───ていうか見えてないのになんであんなことができるんだ!? 

 僕はアシュレイの恐ろしいまでの技量に戦慄しつつ機を伺う。隙があれば爆弾を投げ込んで、無理やりにでもアシュレイを下がらせるためだ。

 しかし、それよりも先にアシュレイの剣がパープル・ヘイズの拳に備え付けられたカプセルを割ってしまう。

 噴出したウイルスに感染し、ふらついたアシュレイにパープル・ヘイズの拳が突き刺さる。白銀の鎧がぐしゃりとへこみ、アシュレイが朱いものを撒き散らしながら吹っ飛んでいく。

 僕は、追撃しようと動き出した魔熊に向けて、礫を投げ込んだ。足元を狙った爆弾は魔熊がパープル・ヘイズの力で後方に跳躍したことで、回避される。

 僕は続けざまに礫を投げ込む。爆弾にできる石は一個だけなので、爆弾にしていないダミーも投げつけた。魔熊は爆発する礫としない礫があることは理解しただろうが、どれが爆発するかわからないのですべて回避せざるを得ない。パープル・ヘイズの力を回避に使わなければならない魔熊は唸り声をあげるが、どうしようもないだろう。

 

「ヘンリー! もう良いわ!」

 

 ジョディの声を受けてじりじりと後方に下がりながら、僕は礫を投げるのをやめない。魔熊との距離ができたので僕は振り向いて逃走を開始した。後ろを見ると、ジョディはグエンを地面に寝かせ、アシュレイを抱えている。アシュレイはすぐに治療を受けたのか、鎧も含めて外傷がなかった。容態は判然としないが、ともかく安全なところへ連れて帰らねば。

 僕は走りながらキラー・クイーンの補助を受けつつグエンを拾いあげてジョディと連れ立って撤退した。魔熊は爆弾を恐れてか、追ってこなかった。ただ、怒りに沸いた咆哮だけが後方で響き渡っていた。

 

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