転生者はファンタジー世界で静かに暮らしたい   作:萬屋久兵衛

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 大釜の中でこぽこぽと音を立てて煮立った薬液の中に、僕は薬草数種をすりつぶして作った汁を入れてかき回した。乳白色の液体に緑が混ざり二色の渦になったかと思うとすぐにすべて緑色に染まる。

 大釜の上には煙突が備えられており、そこから煙と匂いを排出するようになっているのだが、排出が追いつかないほどに青臭い香りが工房内に充満する。

 初めて学校の授業でこの匂いを嗅いだ時は涙目になったものだが、今となっては慣れたものだ。しかし、この作業を行った直後は会った人に顔をしかめられるのが欠点である。

 銀でできたヘラでかき混ぜながら、魔力を流し込んでいく。魔力を通すことで、薬草の効能が増すのだ。銀は魔力の伝導率が高く、薬品等へ魔力を含ませる際や金属への魔術式の彫金に最適だ。

 問題は値段が高いことだが、他の有用な金属でできたものはさらに高いため、これを使うしかない。錬金術師が独立するにはまず自前で銀製の道具を揃えられるかにかかっているのである。

 徐々に煮詰まっていく薬液の色を見ながら火加減、魔力加減に気を配る。やがて色が濃い抹茶のような色に変化した辺りで、魔力の注入をやめ、はちみつをこれでもかと投入する。

 甘味を入れないと、とても人が飲める味にならないのだ。安いポーションなどは甘味も入らないためとても不味く、金のない冒険者は危機に際して、怪我をおして魔獣と戦うか、薬液(ポーション)の不味さで気を失わないことに賭けるかの選択肢を迫られる、なんて言われるぐらいである。

 僕は火を止めると、一息ついた。後は粗熱が取れるまで置いて瓶に分けるだけである。

 とりあえず休憩しようかと、工房を出る。出た先は店舗になっていて、僕お手製の商品が棚に陳列されている。二階に居住スペースのついた僕の城、ヘンリー魔法商店だ。

 作り置きの珈琲を飲もうと店舗に顔を出すと、カウンターの裏で椅子に座ってふんぞり返っている女が盛大に顔をしかめた。

 

「何その匂い!? ジャングルの奥地から帰ってきた直後でもしないレベルの青臭さなんだけど!」

 

「ジャングルの奥地に行って匂いが移るもんなのかね」

 

「そんな話いいから。とりあえず服ぐらい着替えてきてくれない? 珈琲の香りが台無しなんだけど」

 

「ええ〜。休憩したらまた工房で作業するし、まだ着替えたくないんだけど」

 

「一緒にいるわたしの事も考えろっての。スメハラには断固たる措置をとるわよ。具体的には問答無用で服を剥ぐ」

 

「わかった、わかったから座っててって」

 

 本気の顔で椅子から身体を起こそうとする女―――ジョディを手振りで押し止めると、僕はため息を付きながら二階の居住スペースに上がった。

 着替えを済ませ、店舗に戻ってくると、ジョディは僕の襟元をひっつかむと自分の方に引っ張り、首元に顔を近づけてきた。

 

「なになになに?」

 

「確認よ確認」

 

 傍若無人な態度とは裏腹な美しく清楚な顔立ちが間近に迫り、落ち着かなくなる。為す術もなくゆるく三編みにした銀髪の頭部を見る僕に対して、彼女は気にせずくんくんと鼻を鳴らし、やがてひとつ頷いて手を離した。

 

「まあ、このくらいなら良しとしましょう。入室を許可します」

 

「いや、一応言っておくけどここ僕の店だからね……?」

 

 僕の言葉をスルーして、我が物顔で珈琲を飲んでいる彼女は、ジョーダン教会のジョディ。先日とある冒険者ギルドの依頼(クエスト)を受けた際に出会った、僕と同じ転生者である。

 神様から授かった能力(チート)で優秀な治療術師、聖女カタリナとして名を馳せていた彼女と、錬金術師として慎ましく暮らしていた僕は引かれ合うようにして出会った。惹かれ合って、ではないので誤解しないでいただきたい。

 前世が男であった彼女は、異性への距離感がおかしいところがあり、お付きの教会騎士たちを無自覚に攻略している逆ハーレム野郎? であるらしいが、僕らはただの友人関係だ。

 僕らの能力、スタンドを使う者達はどういうわけか、それが運命であるかのように出会うことになっているのだ。その因果のお陰で彼女と出会い、そしてとんでもない目にあったわけである。

 彼女は知り合ってからというもの、度々僕の店を訪ねてはこうして珈琲を飲んで好き放題した後、住処であるジョーダン教会へ帰っていくということを繰り返している。

 彼女付きの騎士、アシュレイを撒いた上で店に来るものだから、僕は彼に嫌味を言われて胃が縮む思いをしているのだ。

 僕は魔法瓶から杯に珈琲を注ぐが、魔法瓶の軽さに顔をしかめる。朝には瓶になみなみと注がれていたはずの珈琲がほとんど残っていない。

 犯人であるジョディを睨むが、彼女は椅子にふんぞり返るように座りながら、珈琲を片手に最近店に置き始めた薬草入りクッキーをつまみながら本を読んでくつろいでいて、こちらのことを気にもとめていない。クッキーの代金を支払っていなかったら問答無用で叩き出しているところだ。

 この女がうちに入り浸り始めてから、珈琲豆の消費は増えるわ聖堂騎士ににらまれるわで僕の神経はすり減らされている。植物の心のように平穏で、あと自由な人生を心情としている僕としてはストレスの元になるものは遠ざけるべきなのだが……。

 そこまで思考してため息をつく。結局、この世界で一番境遇が近く、気のおけない友人と縁を切ることはないだろうから、無駄な考えである。

 

「む……」

 

 残り少ない珈琲をしっかりと味わうように飲んでいると、ジョディが小さく声をあげる。そちらを見ると、どうもクッキーがなくなったようで、何も乗ってない皿の上を白魚のような手がさまよっている。

 ジョディは難しい顔でしばし唸っていたが、よし、と決意した様子で席をたった。

 

「ああ、もう帰るの?」

 

 そうだろうと思いながらも、確認のために声をかける。さっさと彼女が散らかしたカウンターを片付けて仕事に戻ろうと思ったのだ。だが、彼女はカウンターの表に出ると、商品棚から、薬草クッキーの入った紙袋を手にとってカウンターに置いたのである。

 

「ええ……」

 

「なによ、店の商品を買ってあげるのに文句でもあるの? 最後の品だしちょうどいいじゃない」

 

「いや、いいんだけどね……。一応女の子な君に言うのもなんだけど、そんなに食べたら太るよ?」

 

 なりは立派な女性であるが、中身がともなっていない残念な友人は胸を張る。

 

「大丈夫よ。女になってわかったけど、本気(マジ)で甘いものは別腹だから。それに、最近は全部これが吸ってくれるし」

 

 そう言って、両手で無造作に胸を持ち上げるジョディ。確かに体型の細さに対して素晴らしいものをお持ちであるが、体型に比べて態度に女性らしさが致命的に足りていないやつである。

 ジョディがアピールする胸部緩衝材を眺めながら、まあ金を払うなら彼女の体型がどうなろうと関係ないかと考えていると、ベルの音とともに店の扉が開いた。

 

「こんにちは、ヘンリーくん。この前頂いたクッキーを買いたいのだけど……。あら?」

 

 店に入ってきたのは、お隣で武器屋を営むシャーレさんだった。彼女は入ってきて僕たちを見るなり、軽く目を見張ると笑顔を浮かべた。

 

「お邪魔だったかしら?」

 

「お、お兄ちゃん! 誰よその女!」

 

 そのシャーレさんの後ろからひょいとこちらを覗いたミゼットちゃんは、シャーレさんとは異なり、こちらを見てまなじりをつり上げて叫んだ。

 ミゼットちゃんはシャーレさんの娘で、武器屋の看板娘だ。母親譲りの金髪をポニーテールにした姿は、穏やかなシャーレさんと比べて活発な性格も相まって、命のやり取りで荒んだ冒険者の心を明るくしてくれると評判である。

 そんなミゼットちゃんのことを見てジョディは目を輝かせた。

 

「あら、かわいい娘ねえ。ヘンリー、あなたこんな娘にお兄ちゃんなんて呼び方させて、犯罪よ犯罪。わたしはジョディっていうの。あなたのお名前を教えてくれる?」

 

 僕に対して失礼な言葉を吐きながらジョディはミゼットちゃんに声をかけるが、ミゼットちゃんはそんな彼女からぷい、と目をそらす。

 

「破廉恥な人に名乗る名前はありません」

 

「は、破廉恥!?」

 

 驚愕の表情を浮かべるジョディを見ながら、僕は先程の状態を思い返す。確かに先ほどまでの様は、はたから見ればそう言われてもしょうがなかったかもしれない。しかし、見せつけてきたのはジョディであって、僕に罪はない。よって僕は破廉恥ではない。

 自己完結して己の名誉を守った僕は、来訪した親子に声をかける。

 

「いらっしゃい、シャーレさん、ミゼットちゃん。薬草入りクッキーですね。ちょうど最後のひとつが残っていますよ」

 

 そう言ってジョディが購入しようとカウンターに置いたクッキーの入った紙袋を示す。ジョディはまだ呆然としながら、「破廉恥……わたしが……?」とか呟いているので購入の意志無しと勝手に決めつけた。

 

「ありがとう、ヘンリーくん。風味は独特だけど、甘くて美味しいからついたくさん食べてしまうわ」

 

「ははは、食べ過ぎは良くないですが、このクッキーには栄養の有るものもたくさん入っていますからね。お腹の子供のためにも体にいいものは取っていただかないと」

 

「そうね。最初は食欲がないぐらいだったのに、落ち着いたら今度はすぐお腹がすくようになって。二回目とは言え慣れない感覚だわ。この子も栄養を取って元気に産まれてきてくれたらいいのだけど」

 

 そう言って、慈しむようにお腹をさするシャーレさん。彼女のお腹はマタニティドレスを着ていてもわかるぐらいに膨らんでいる。もう臨月を迎えているとのことで、ミゼットちゃんからは弟と妹どちらがいいか迷っているという皮算用な話を会う度に聞かされているし、旦那さんのヴェイゴさんはいつもどおり無口だが、シャーレさんが久しぶりの出産という事で最近挙動がおかしくなっている。

 店の前をむやみにうろうろしているヴェイゴさんの姿を思い出して吹き出しそうになるのをこらえながら紙袋を渡して、代わりに代金を受け取る。

 

「それで、そちらのジョディちゃんはヘンリーくんのガールフレンドかしら?」

 

「まあこいつがガールなのは間違いないですが、ただのフレンドですよ」

 

 シャーレさんが面白そうだと言わんばかりの顔で聞いてくるので僕は苦笑して否定する。

 

「あら、そうなの。とっても仲が良さそうだったからそういう関係なのかと思ったのに。……けど、これから先はわからないんじゃないの?」

 

 シャーレさんはからかうような表情で何故かちらりとミゼットちゃんの方を見る。ミゼットちゃんはなんというか、祈るような目でこちらを見ている。隣りにいるジョディはうつむきながら何かをぶつぶつと呟いているが口元に手を当てていて言葉は聞き取れない。

 僕は首を傾げながらもシャーレさんに言葉を返す。

 

「さあ、どうでしょうねえ。ジョディがもっと淑女らしくなってくれれば考えなくもないですが」

 

 この歳で淑女らしさというものをまったく身に付けていないやつなので、それは絶望的だろう。

 

「けど、ヘンリーくんもいつかは結婚して店を継いでくれる子を作らないといけないんじゃない? せっかく自分のお店も持てたんだし。夫婦や家族でお店をやるのも悪くないわよ」

 

「そうだよお兄ちゃん! このお店を大きくしたいなら可愛いくて経験豊富な看板娘が必要でしょ?」

 

「そうですねえ」

 

 彼女たちの言葉に僕はあごに手を当てて考える。

 結婚の利点は製造から販売まで僕ひとりで切り盛りしている店の業務と、ついでに家事の分担ができることだ。子供を作って家業を手伝わせればさらに楽ができる。生活コストが二倍、三倍とはならず圧縮されるのも魅力だろう。

 それでも、僕は結婚というものに興味を持てなかった。現代の感性を引きずってしまっていることもある。前世はとても結婚を考えられる生活ではなかった。それに、誰かと共に暮らすことで平穏で自由な暮らしを妨げられるかもしれないという恐怖のような感情が僕の気持ちを妨げるのだ。

 そういった思いを胸のうちに押し隠して、僕はにこりと笑顔を作った。

 

「今のところはひとりで食べていくので精一杯ですので、今後の自分に期待ですね。まあ結婚は神様のお引き合わせ次第ですから」

 

「ふふ、それもそうね。けど、ヘンリーにはその歳でお店を開けるだけの運とか能力があるんですもの。きっと素敵な出会いがあるわ。私も楽しみにしてるわね」

 

 楽しそうなシャーレさんの言葉に苦笑する。女性というのはいつでも色恋沙汰に目がないらしい。

 それじゃあまた、と店を後にする彼女たちを見送る。ミゼットちゃんが何故か、扉が閉まる直前まで、ジョディのことを射抜くような目で見ていたのが印象的だった。

 当のジョディは未だ思考の海に沈んでいる。無視してもよかったが、店のど真ん中で突っ立っていられるのも困るので仕方なく声をかける。

 

「ジョディ。そろそろ帰ったほうがいいんじゃないの?」

 

 珈琲もお茶請けもどこかの誰かのせいで無くなってしまったし、日が暮れると店に聖堂騎士が襲撃をかけてくるので、長居はしてほしくないのが本音である。

 

「……これは由々しき事態だわ」

 

「は?」

 

 呟かれる言葉の意味がわからず聞き返すと、ジョディは決意を秘めた瞳で僕の方を振り向いた。

 

「私が破廉恥に見られていることについてよ! あんな無邪気そうな子供にもそんな目で見られているなんて、修道女失格だわ!」

 

「いや、ミゼットちゃんは結構したたかなとこある娘だと思うけど……」

 

 どんな冒険者にも愛嬌を振りまき、可愛がられる手管は、純粋な子供心では難しかろう。ただ可愛いだけで店を切り盛りしている訳ではないのである。 

 

「ていうか、はたから見て破廉恥なんて思わてるなら、そう取られないような行動を心がけるべきでは?」

 

 常識的に考えて、普通の女性は異性と必要以上にべたべたしないし、胸を強調して見せつけるなんてことはしない。その辺を改めるだけで、誹謗されることも、意図せず逆ハーレムを作り上げることもないと思うのだが。

 僕の建設的な助言に、ジョディは眉をひそめる。

 

「はあ? わたしがそんな童貞を勘違いさせる女みたいな行動するわけないじゃない。今まで真っ当な態度で生きてきたっての」

 

「……」

 

 真っ当じゃないから破廉恥呼ばわりされるんだろうがド低脳がァ! と言ってやりたかったが、面倒になったので僕は考えるのをやめた。

 無言で最後の珈琲を杯に注ぎ入れる僕のことなど気にもせず、ジョディは嘆く。

 

「ああ、わたしの何がいけないのかしら。()()()()どうかわたしに知恵をお授けください!」

 

「……ん?」

 

 僕は彼女のセリフに引っかかりを覚えた。いまだ悲劇のヒロインぶっているジョディに、確認する。

 

「ジョディ。今、誰のことを呼んだ?」

 

「は? もちろん我らが主に決まって……」

 

「違う。君は今、イエス様、と呼んだんじゃないか?」

 

「そうよ? あなた、三位一体の事も知らないなんて言わないわよね?」

 

「さすがに知ってるよ! そうじゃなくて! なんで異世界(ここ)でイエス様の名が出てくるのかって話しだよ!?」

 

 話の通じが悪いことに若干の苛立ちを覚えつつ、僕は指摘する。ジョディは僕の言葉を聞いて呆れたような顔をした。

 

「はあ? あなた、今さらそんなこと言ってるの? 何年この世界で暮らしてるのよ。この辺りの国々の国教は、地球で言うキリスト教よ?」

 

 まあ呼び名は何故か聖教なんてのに変わってるけどね。と当たり前のように話すジョディを尻目に、僕は愕然とする。

 

「うそ……」

 

「うそじゃないっての。一応貴族だったんでしょ? 聖書ぐらい読まされたりしなかったわけ?」

 

「……僕、宗教には一切関わらない主義だから」

 

「それでも名前ぐらいは聞くもんでしょ? 今までどんな生活送ってきたのよ……」

 

 そう言われても仕方ないが、前世でおばあちゃんが新興宗教にハマってから、我が家では宗教には関わるなが家訓だったので、基本的に宗教の教えを耳に入れないようにしていたのである。

 教会とか神父とか、確かにそれらしい共通要素はあったが、異世界ファンタジーなんてこんなもんだよなと思って気にもしなかった。異世界転生(なろう小説)に毒され過ぎである。

 信じられないような者を見る目でジョディが見てくるのになんとなく納得いかないが、今は目をつぶろう。

 とにかく確認しなければならないことが色々とある。

 

「キリスト教があるってことは、つまり地球の人間がこの世界に転移か転生かした事があるってことでしょ?」

 

「まあ、そうね」

 

「そうねって、教会にいるのにその辺調べなかったの? もしかしたら『同郷』がいる可能性があるってことでしょ」

 

 問い詰めるような言葉に、ジョディは肩をすくめる。

 

「そうは言っても、聖教がどれぐらい前にできたのかもわからないのよ。ジョーダン教会みたいな小さな教会でも、現神父のシモン司祭が十代目って話だし」

 

「歴史資料みたいなのはないの?」

 

「あるかもしれないけど、この時代、そんな貴重なものは出回らないわよ。聖都の大聖堂にでも保管してあるんじゃないかしら。あ、図書館には期待しないほうがいいわ。聖教関係の資料はまったくないから」

 

「……聖教に資料を見せてもらったりは?」

 

「わたしもお願いしてみたことあるけど、駄目だったわ。まあわたしも地位で言えばたいしたことないからしょうがないけど」

 

「そう……」

 

 これは驚きの情報であった。まあ、僕が真面目に聖書でも読んでればすぐに気がつけた話しなのかもしれないが。過去にも転生者が存在した可能性は高いだろう。その人物が神様から能力を授かっていたかはわからないが。色々と調べてみる価値はあるのではないだろうか。しかし。

 

「けど、それをわざわざ調べてどうするの?」

 

「それは……」

 

 ジョディの言葉に、僕は言葉をつまらせる。

 

「確かに、過去転生だが転移だかをした人がいたのかもしれないけど、それを事細かに調べたところで、どうもならないでしょ? 別に私たちは何か使命があって生まれ変わった訳でもないし、知らなくても困らないでしょ? わたしも最初は気になってたけど、調べるのも難しいしまあいいかなって」

 

「……まあ、そう言われればそうか」

 

 ジョディの言葉に僕は息を吐く。前世であれば、ネット検索でちょちょいといけるかもしれないが、電気すらないこの時代に資料を収集するのは大変なことだろう。気にはとめるだけとめておくぐらいで考えておくのが一番か。

 

「しかしまあ、聖教かぁ。人と食事をする時に適当に聖句を唱えるぐらいしかしないから、まったく気がつかなかったよ」

 

「さすがにやばいわよそれは……。よく今までそれで生きてきたわね」

 

「僕、周りに流されないようにして生きてきたからね」

 

 そのための転生。そのための能力(チート)である。

 

「そういう問題じゃないでしょ……。ちょっとは聖教について学びなさいよね」

 

 ため息をついたジョディが、ふと何かを思いついたような顔をする。

 

「……そうだ。ヘンリー、一回うちの教会に来てみない?」

 

「ふむ?」

 

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