僕とジョディにアグニヤさんが、僕の店のお隣、シャーレさんの武器屋、その二階にある居間にお邪魔すると、椅子に座ってうなだれている少女が目に入る。僕はその少女―――ミゼットちゃんに声をかける。
「やあ、ミゼットちゃん」
「お、お兄ちゃん……?」
ミゼットちゃんは僕を見て驚いたような顔をしたと思うと、顔をくしゃりと歪ませ、僕に飛びついてきた。
「お兄ちゃん!お、お母さんが……。し、死んじゃうかもって……!」
「うん。話は聞いてるよ。超一流の治療術師が来てくれたから、もう大丈夫」
僕の胸元で涙するミゼットちゃんの頭をなでながら、落ち着かせるように言葉をかける。
居間の気配を聞きつけて、奥の部屋から老齢の修道女が顔を出す。部屋の中からはくぐもったうめき声が聞こえた。
「ジョーダン教会からの応援の方かしら?」
修道女の言葉に、ジョディが進み出る。
「わたしが応援の治療術師です」
「……この前の破廉恥な人?」
僕にすがりついていたミゼットちゃんが目を丸くする。仕事モードのジョディはミゼットちゃんの言葉に動揺することもなく穏やかに微笑むと、修道女に視線を向けて問う。
「様子はいかがですか?」
「どうも、逆子みたいなんだけど、ちょっと難しそうね。お腹を切るか子供を諦めるかご家族とも相談していたところなの。……どちらにしろ母親も子供も危ない状況ね」
「そうですか」
厳しい顔をしている修道女に対して、気負った様子もなくうなずいた。
「よろしければ、わたしに任せていただけませんでしょうか」
「任せてって言われても……」
ジョディの提案に、修道女は眉を寄せる。若い治療術師の言葉がいまいち信用できないのかもしれない。
「大丈夫だよ。この方に治せないものなんてないんだから」
アグニヤが言い添える。修道女は、アグニヤの鎧についた十字架を見て目を丸くし、少し考えるとため息をついた。
「あなたがどなたか知らないけど、ここは騎士様の言葉を信じましょう」
「ありがとうございます」
ジョディはにこりと微笑むと、アグニヤを伴って部屋に入っていく。そして、すぐに僕に声がかかった。
「ヘンリーさんも、入ってきてください」
「おい、お前も入るのか?」
ヴェイゴさんがジョディの言葉に難色を示す。キリスト教もとい聖教は出産を「ケガレ」であると捉えている。産みの苦しみは始めの女性、イヴの罪であるとされるからだ。なので、男は基本的に出産から遠ざけられるものだ。……とさっきジョディに聞いた。
それに、中でシャーレさんがどんな姿をしているか考えたら、旦那としては若い男はあまり中には入れたくないだろう。
「彼には出産の手助けをしていただきますので。旦那さんやお子さんも、よろしければ入っていただいて結構ですよ?すぐに終わりますから」
ジョディが顔を出して親子に言う。
「い、いいんですかい?」
困惑した様子のヴェイゴさん。これは僕が中に入るための口実である。
「今回は例外的に男性を出産の場に入れますので。どうせなら奥さんについていらっしゃったほうがいいでしょう?」
「え、ええ、できるのであればぜひ」
ヴェイゴさんがミゼットちゃんを伴って、恐る恐るといった様子で部屋に入っていく。僕も流れでしれっと入室した。
中は寝室のようで、ベッドや棚が設置されている。修道女は男が部屋に入ることにお冠らしく、渋面顔をしており、それをアグニヤがなだめていた。
シャーレさんは部屋の中央にいた。天井から吊り下げられた縄につかまり、立ったままの状態である。口には布を噛んでいて、食いしばった歯の間からくぐもった声が漏れている。汗で身体がぐっしょりと濡れ、憔悴という言葉ではすまされないほど消耗しているようで、さながら幽鬼のようであった。
下半身には、ジョディが先に入った際にやってくれたのか、布を巻いて局部を隠してくれている。
事前に話を聞いていたが、予想以上の出産現場にビビりつつ、僕と同じくビビって立ち尽くしている様子のヴェイゴさんの横をすり抜けて、シャーレさんに近づく。
そして、懐から薬液の入った小瓶を取り出すと、栓を抜いてシャーレさんの口元に持っていった。
「シャーレさん、これを飲めば楽になりますよ。ゆっくり飲んでくださいね」
シャーレさんの反応は薄く、僕の言葉が聞こえたかどうかさだかではないが、彼女の食いしばった歯が開いた隙に薬液を注ぎ込むと、ゆっくりとそれを嚥下していった。
そして、瓶の中身をすべて飲み干すと、次第に瞬きの数が多くなり、目が閉じている時間も長くなってくる。食いしばった歯も緩み始め、やがてがくんと全身が脱力した。
縄を握っていた手が緩み、倒れ込もうとした彼女を受け止める。
「……よし」
「ちょ、ちょっと!あなた何をしたの!?」
修道女が悲鳴のような声で叫ぶ。
「治療の際に暴れられると困るので、睡眠薬で眠っていただきました。アグニヤさん、ヴェイゴさん、ベッドに寝かせますので手伝ってください」
問題なんてなにもない、と言わんばかりの僕の様子に、アグニヤさんは困惑しつつ、ヴェイゴさんは動揺しつつも手を貸してくれる。
「お、おい!本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫ですよ。一時間ばかり、ぐっすり寝てもらうだけです。シャーレさんが次に起きたときには、赤ちゃんも産まれてますよ」
「……本当だろうな?シャーレと子供に何かあったら、俺は何をするかわからんぞ」
人を殺せそうな目で睨んでくるヴェイゴさんに、僕は笑みを浮かべるが、顔が引きつってちゃんと笑えているか自分でもわからなかった。
シャーレさんをベッドに寝かせると、僕とジョディはそれぞれベッドの左右に立った。
「それでは治療を開始します。ではまず、母子の無事を主に祈りましょう。」
手を組んで目をつぶったジョディに合わせて、僕も同じような姿勢をとる。
他の人達も、突然のことに困惑しつつも、手を組んで目を閉じた。
「それではいきますよ。―――天にまします我らの父よ。願わくは御名をあがめさせたまえ」
ジョディの言葉に合わせて皆が主の祈りを唱え始めた瞬間。
僕は姿勢をそのままに目を開く。
僕の意思に応えて、僕の傍らに猫の獣人のような姿のスタンド、キラー・クイーンが出現する。
ジョディの方をちらりと確認すると、彼女の側にも中世の戦士のような風貌のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドがいる。
ジョディが小さくうなずくのを見て、僕はキラー・クイーンに指示を出した。
キラー・クイーンは、僕の意思に沿ってその右手で手刀をつくり、シャーレさんのはちきれんばかりに膨らんだお腹を目にもとまらぬ速さで十字に引き裂いた。
事前に指示されたように裂かれたお腹の中に胎児が見えた。ジョディはクレイジー・ダイヤモンドの手を裂けたお腹に突っ込み、器用に胎児を取り上げる。へその緒につながった胎盤も引っこ抜いたときには、もうシャーレさんのお腹は元通りに閉じていた。
「「「国と力と栄えとは限りなくなんじのものなればなり。アーメン」」」
クレイジー・ダイヤモンドがへその緒を胎児から切り離したと同時に、皆が祈りを唱え終える。
そして、彼らが目を開けて顔をあげた時には、ジョディの手の中で布に包まれた赤子が産声をあげていた。
「なっ……!?え、え……!?」
何が起きたかわからず混乱しているヴェイゴさんに、赤子の顔を拭っていたジョディが、にこやかな顔で赤子を差し出す。
「元気な男の子ですよ。奥様はまだ眠っていらっしゃいますので、旦那さんが抱いてあげてください」
「え、ええ……」
赤子を受け取ったヴェイゴさんはまだ事情が理解できていない様子で抱いていたが、慌ててジョディに確認する。
「シャーレは、妻は無事なんですか!?」
「ご安心ください。体力は消耗しているでしょうが、目が覚めればお話することもできると思いますよ」
「ああ……!ありがとう、ありがとうございます……!」
赤子を抱きかかえたまま滂沱の涙を流し、崩れ落ちそうになるヴェイゴさんを、僕とアグニヤさんが慌てて抱きかかえた。
*
その後、赤子の処置をしている間に、シャーレさんは目を覚まし、無事赤子と対面した。老修道女に診察してもらったが、母子ともに健康すぎるくらい健康だという。
修道女はしきりに、信じられない、目の前で奇跡が起きたと呟いていたのでちょっと心配だったのだが、ちゃんと診察してくれて助かった。
「治療術師様、なんとお礼を申し上げればいいか……。本当にありがとうございます」
赤子を抱きながらベッドに寝たままの姿勢でシャーレさんがジョディに謝意を示す。
「いえ、無事に産まれて本当によかったです。これも我らが主が祈りを聞き届けてくれたお陰でしょう」
皆が祈りを捧げている一瞬の隙に、スタンド能力を使った力技で雑に赤子を引っ張り出しただけであるが、そんな事実はみじんも感じさせずにジョディは微笑む。
そんなジョディに、老修道女は恐る恐るといった風に話しかける。
「あの、あなたは、いえあなた様は、聖女カタリナ様ですか?」
修道女の言葉にシャーレさんと傍らのヴェイゴさんが目を見開く。
「ま、まさかあの有名な?……!お、俺たちの家はそんな方の治療術の費用を払えるお金は……!?」
顔を青くするヴェイゴさんに、しかしジョディはかぶり振った。
「いえ、わたしは通りすがりの治療術師です。それに、ただ親子の安全を祈っただけで、治療などしていません。費用など、とんでもないことです」
それでは、と背を向けるジョディ。ヴェイゴさんとシャーレさんは感じ入った様子でその背に深く頭を下げた。
「あ、あの!」
部屋を出ていこうとするジョディにミゼットちゃんが声をかける。
振り返るジョディに、ミゼットちゃんはもじもじと躊躇した様子を見せたが、ぴょこんと頭を下げた。
「お母さんを助けてくれて、ありがとうございました!それで、その、破廉恥だなんて言ってごめんなさい!」
ミゼットちゃんの言葉に、ジョディは気にしてないと言わんばかりに首を振り、彼女に微笑みかけた。
「……これから、あなたはお姉さんになるんです。お父さんとお母さんを支えてあげてくださいね」
「は、はい!」
颯爽と部屋を出ていくジョディにミゼットちゃんは、尊敬の眼差しを向けている。僕はヴェイゴさん一家に一礼すると、ジョディを追って部屋を出た。
店を出て僕とジョディ、アグニヤはジョーダン教会に向けて歩き始める。
さっさと隣りにある自分の家に帰って寝たいところであるが、まだ自重する。
既に日が落ちかけた黄昏時を、僕らは無言で歩く。武器屋からだいぶ離れて、周囲に人気がないことを確認すると、僕は隣を歩くジョディに声をかけた。
「……ジョディ。その気持ち悪い顔やめてくれない?」
店を出てからというもの、ジョディの顔は先程までの姿は何だったのかと思うぐらいにだらしなくにやけていた。内心で、計画通り……!とか言ってそうな感じだ。店を出た直後にフードを被って表情を隠そうとしていたが、ぐふぐふと漏れ聞こえる笑い声で台無しである。
普段なら気持ち悪いと言おうものなら手や足が出てくるところだが、今のジョディは意にも介さない。
「いやいやいや、これが笑わずにいられるかっての。完璧な流れだったわ……!これでミゼットちゃんのわたしへの評価もうなぎ登りよ!」
勝った! 第二章完! とか叫んでアグニヤに変な目で見られているジョディを僕は冷たい目で見た。
そう。この女、ミゼットちゃんにいい格好をして見直してもらいたいがために、わざわざ僕まで引っ張り出して先程の流れを演出しやがったのである。
僕としても隣人のことであるので協力することに否は無かったし、最終的にクレイジー・ダイヤモンドが全てなんとかするからとアバウトに指示を受けて実行したが、なんか納得いかない。
「ぐふふふふ。困っている人を助ける。ミゼットちゃんには尊敬される。両方やっちゃうのがわたしの素晴らしいところね!」
すべてが思い通りになってジョディは絶好調だ。調子に乗っている、とも言えるが、善行であるだけに、なにも言えることがない。
そんなジョディにアグニヤが話しかける。
「いやあ、しかし本当にすごかったね。何度もジョディの治療を見てるけど、今回は格別だった。いったいどんな手を使ったら、あんな一瞬で、しかも母体に傷一つ付けずに赤子を取り出せるんだい?」
「それは、こう、なんていうか、普通にやってできることを、うまいこと演出して見せてるだけっていうか……」
アグニヤの質問にどもりながら答えになってない答えを捻出するジョディ。
いいぞもっとやれと心のなかでアグニヤを応援していたのだが、彼女はあっさりと納得したように引き下がった。
「ふうん。まあ治療術の知識がないわたしには細かい話を聞いてもわからないんだけどね」
露骨にホッとした様子を見せる迂闊なジョディにけど、とアグニヤが追撃をかける。
「今回の件は、独断な上に費用の徴収もしてない、完全に上の意向を無視した行動だよ。わかってると思うけど、あんたの治療術はそうそう簡単にひけらかしていいもんじゃないんだ」
「うっ……。その、ごめんなさい」
腰に手を当ててジョディを見据えるアグニヤさんに、ジョディは声をつまらせてしゅんとしながら頭を下げた。それでも、ジョディは抗弁する。
「……確かに私欲がちょっと入っていたのはたしかだけど、わたしの力で助けられる人をできるだけ助けたい、というのも本当よ。だから、その……」
たどたどしいジョディの言葉に、アグニヤはため息をつくと、仕方がないといった風に頭を振った。
「……まったく、志だけはいっちょ前なんだから。今後もこういうことを続けるつもりなら、周りの口止めなんかもちゃんとしないと駄目でしょ。今回ご家族とシスターには、あたしから言っといたけど、自分でも気をつけなよ」
「アグ姉……!」
目を輝かせるジョディにやれやれと苦笑しながらアグニヤは言う。
「けど、ほんと露骨な事はやめなさいよ?それに、口止めしても話はどこかから必ず漏れるんだから、あんまりやりすぎると呼び出しだけじゃ済まないわよ」
うんうんとうなずくジョディに、ため息をつくアグニヤ。それでも彼女はちょっと嬉しそうに微笑む。
「やれやれ。ほんとにわかってるのかね。……まあ、これでやっと姉貴分らしいことができたってことで良しとしようか」
「あら、アグ姉はわたしよりもずっと前から騎士になって孤児院を助けてくれてたじゃない。孤児院のみんなも助けてもらって感謝してるわ」
「そうは言うけどね。結局後から治療術師として働き始めたジョディの方がいっぱい稼いで貢献してるじゃないか」
「金額の問題じゃないと思うけど……」
そう呟いてから、ジョディは真面目な顔をしてアグニヤに言った。
「ねえアグ姉、騎士なんかやめて、孤児院に戻ってきてよ。わたしもたくさん稼げるようになったし、アグ姉が危険なことをする必要はないわ。なんなら、わたしの護衛ってことでずっと側にいてくれればわたしも孤児院のみんなも喜ぶと思うの」
「……」
アグニヤはジョディの言葉を瞑目して聞いていた。いつの間にか僕たちは立ち止まって、じっとアグニヤの反応を見ていた。
やがてアグニヤは息を吐いて苦笑すると、かぶり振って言った。
「馬鹿言うんじゃないよ。信仰の守護者たる騎士が、そんな簡単にやめられるわけ無いでしょ?あたしだって、自分で決めて騎士やってるんだ。自分の決めたことはそう簡単に覆せない」
「アグ姉……」
眉を寄せるジョディに、アグニヤはにやりと笑って言葉をかける。
「それにあんた、他の護衛騎士が苦手だからってあたしをダシに逃げようとしてんじゃじゃないよ」
「そ、そんなことないわよ!」
そう否定したジョディであるが、こめかみから流れた汗を僕は見逃さなかった。
「あんたは遠慮してるかもしれないけどね。みんなあんたと仲良くしたいと思ってるんだよ。あんたが受け入れてやらなきゃどうするね」
楽しそうなアグニヤの言葉に、ううん、と腕を組んで唸るジョディ。
「別に遠慮してるつもりはないんだけど、やっぱり育ちが違うせいかノリが合わないというか、貴族様相手に普段どおりの感じで話したら無礼討ちにされそうで怖いというか……」
「ジョディ、僕、一応貴族なんだけど……?」
「家を出た男爵家の三男坊は貴族の範疇に入らないから」
僕の言葉をジョディはばっさり切り捨てる。ひどい……。僕は独立したけど、同じ男爵家で貴族ぶってる次男三男なんて掃いて捨てるほどいるのに。
「まあ、アグ姉がそういうなら仕方ないか。けど、わたしも孤児院のみんなも待ってるから、その気になったらいつでも帰ってきてね」
「はいはい、騎士をお払い箱になったら帰らせてもらうよ」
ジョディの言葉に肩をすくめて応じるアグニヤ。
「けど、失礼ですが、なんのコネもない孤児が騎士になる、というのは並大抵のことじゃないんじゃないですか?看板治療術師の護衛にも抜擢されるぐらいですし、アグニヤさんが優秀なんでしょうね」
僕が持ち上げるように言うと、アグニヤさんは苦笑する。
「いや、騎士っていっても底辺のドサ回りだよ。貴族様をつまらない雑務で使うわけにはいかないからあたしみたいな孤児や平民も必要なのさ。ジョディの護衛だって身内だから選ばれてるだけだしね」
「そんなもんなんですね。けど、身内ってだけで実力のないものは選ばないでしょう?」
「そう言ってくれるとありがたいね」
「ねえ、ちょっと」
「ん?」
ジョディの声に彼女を見ると、彼女は正面をじっと見つめている。
彼女の見ている方向を見ても、何の変哲もない路地があるだけだ。
「どうしたのさ?」
「……右側の店の看板の上のところ」
ささやくようなジョディの言葉を受けて視線を向けてみる。
その店はパン屋らしく、看板には丸いパンらしいきものが描かれている。
看板の上に小人のようなものが腰掛けているぐらいで別に―――。
「んん?」
明らかにおかしなものを見つけて目を凝らす。
小人と思われたそれは、トランプのカードに手足が生えたような姿をしている。
女性が描かれているようなのでおそらくクイーンのカード。スートまではちょっとわからない。
クイーンの絵柄の目はじっとこちらを見ているように思えた。
「なに、なんかいるのかい?」
アグニヤさんもジョディの示す方を見るが、見つけられていない様子だ。
クイーンのカードは看板の上から飛び降りると、路地の向こうに走っていった。
僕はとっさにカードを追いかけた。ジョディも同じタイミングで走り出している。後ろからアグニヤの戸惑う声が聞こえるが今は気にしていられない。
カードは路地裏にひょいと入っていった。遅れて僕たちも飛び込むが、もうカードは消えてしまっていた。
僕はジョディと顔を見合わせる。ジョディは難しい顔をしている。僕も似たような顔をしているだろう。
「……ジョディ、今のって」
「ええ、たしか小説に出てきたやつだったと思うけど……。ヘンリーも読んでたのね」
僕の言葉にジョディも頷く。僕たちは、答え合わせをするように、そのスタンドの名前を口にした。
「「オール・アロング・ウォッチタワー」」
僕たちは、正解を言い当てた嬉しさなど微塵もなく、顔をひきつらせた。