赤い靴は履いたまま   作:巴瑠

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9 (※嘔吐描写注意)

 私達の一度目の栄光の話は、これで終わり。次にするのは、二度目の栄光、そして一度目の別れの話だ。

 でも、その別れの話をする前に、その別れに至ってしまった理由であろうものの一つを、ここで語っておこうと思う。

 お互い16歳で成人したから、と訪れた酒場での話だ。

「ーーっづぁーー、すっきりした。ごめんねシルヴィ、着いてきてもらっ、ちゃ、うぇっ……」

「あーもう喋るな喋るな。何? 酒が飲めるからって調子に乗ったの?」

「まーーーあね、仕方ない仕方な……おえっ」

桶に向かって座る彼女の背中を擦りながら、ぼんやりとその横顔を眺める。いやまあ、綺麗、とは言わないけどーー何となくいいなぁ、と思ってしまう私は多分おかしい。長い、いつもは一つの三つ編みで前へ垂らされている髪は、口から吐き出される酒に飲まれないよう、後ろで粗雑に纏めてある。

薄暗闇。けれど向こうからは、眠らないどんちゃん騒ぎが聞こえる。今日は何かあるという訳でもないようだけどーー時折酔っ払いに起こる、「何でもない日おめでとう」というやつらしい。

そこの雰囲気にもたれてか、二人で飲む初めての酒だったからか、ひたすら飲んで、飲んで飲んでーー歯止めのなかった彼女は、このザマである。

「そんなに飲んだんだったらだいぶ酔ったんじゃない? 歩ける?」

「ーーっははぁ、大丈夫大丈夫」

そう笑った彼女の声に力はなかった。ーー吐き気は収まったらしい。けれど彼女は、桶から顔を上げないままだった。

「全然酔ってないからね」

「は?」

それなりに飲んで頭に霞がかかっていた私は、驚いて彼女を見る。確か、私の倍は飲んでたはず。

けれど考えてみたら、彼女の足取りも、声も、思考も何もかもいつも通りーーどころか。

「酔えたらよかったのにね。酔ったら全部忘れて、どうでもよくなるんだっけ? でも、ちっとも酔えなかった」

冷えきっていた。

そんな彼女に何と声をかけていいかわからず、私は黙って背をさすった。ーーすると、もう吐き終わったはずの桶に、また水滴が落ちた。今度は、きっと目から落ちてる。

指摘はしなかった。きっと彼女は、泣いていることに気づかれたくはないだろうから。なんて、御託を並べても仕方ない。

唾液と涙でぐちゃぐちゃになった彼女が愛おしかった。もっと見ていたいと思った。この彼女にこそ、私はドレスを纏わせたいと思っていた。それだけ。

そしてこう思った瞬間、きっと私は、彼女と仲が発展する可能性を、自らの手で押し潰してしまったのだ。

 それでは次から、あの忌まわしい、最低で最悪の、だからこそ彼女が大勝利を納めた、あの「例の」話をしましょうか。

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