赤い靴は履いたまま   作:巴瑠

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「本当にバカ、バカよね。あんた」

「……バカでけっこう」

開き直ったセリフを吐いた彼女だったけれど、その表情はどこか少しだけ、バツが悪そうだった。

「あら、お二人はお知り合いでいらっしゃったんですか?」

さて、婚約者をまんまと泥棒猫に横取りされたフローラ様は、何故か朗らかにニコニコ微笑んでいる。

「まあそんな所ですね。フローラ様、この女に平手の一つや二つやっておかなくていいですか? あなたにはその権利がありますし、私は口外しませんよ」

からかい半分、本気半分で告げると、あら、と首を傾げられた。

「まさか。ビアンカ様とアベル様はお似合いですし、こうして仲人めいたことをさせて貰えて光栄ですわ。あとーー」

そうして、フローラ様はは彼女の方へぱちんと目配せをした。

「いいものを見せていただきましたし! ええ、やはりこう苦労もせずに育つと、見えないものがあるものですね!」

はは、と彼女の愛想笑いが引き攣るのを、その時初めて見た。何か二人の間でもあったらしい。ーーそして、やっぱり。この女は、可憐でたおやかな花だ。毒とか棘とか持っていそうに見えて持っていない。ただ、「そこにいる」という事実だけで場を盛り上げ、枯れていないか人に気を配らせる。天性か、後天か? ……些細な問題か、そんなの。

「けれど、このバカが無茶苦茶なオーダーをしてくれたので時間がないの。優秀だからデザインと型紙作りは済ませといたから、さっさと裁断に入りましょう」

はーい、と二人の声が姉妹のように重なった。

 そう、彼女の恋は実ったーーというより、いま「始まって」いるのだろう。私の恋が始まる前に終わったのとは反対に。

 そんな彼女に、彼女も含めた女三人で、私達はこれから呪いをかける。あなたはもう後戻りができない。選んだのはそういう道だ。分かった上で選んだはずだ。

 同時に私達は祝福をする。だから、まっすぐに飛んでくれ。これから先に、あなたの道行きを阻む籠なんてないのだから。いずれその重みがないことを後悔するときも、寂しく思うときもあるでしょう。それでも、まっすぐに生きてくれ。

 その、私が美しいと思った背筋を、曲げることなく。

 そういう祈りを込めて、私は布を裁ちきった。

 白。彼女の名を冠する色。光の色。光のない闇の下では、どんな色も真っ黒だ。だから、白は全ての色の始まりの色。全ての美しさの根源。ひかり。朝を告げるもの。醜い少女にも、濡れた地面にも、平等に差すもの。

 私はこれから、「そういうものだ」と彼女を定義するドレスを作る。

 彼女を、この世で一番美しいいきものにするために。

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