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「つまんないわ」
「……お言葉ですが、目がお曇りになられているのでは」
デザインを描いたノートを片しながら返した。目の前に座っているのは、今や一番のお得意様であるデボラ様だ。肉感的な太ももを惜しげもなく晒して、右足を上に組んでいる。「けったいな格好をしたお嬢様」なんて言われているらしい。確かに、このサラボナに至ってもスカートの丈は膝あたりがせいぜいだ。さらに今の彼女の服装は襟ぐりが大きく開いており、胸元にあしらわれている意匠は海の向こうの柄をオマージュしたものだ。
でも、だからどうしたという話。今の彼女は誰の視線でも惹きつけるし、この都市にいるどんな人間より魅力的。そんな彼女に影響を受けて、彼女に似た服装を身にまとう者も増えてきた。事実、彼女の胸元の意匠は今やそう珍しいものではない。
「前とほとんど同じじゃない? それがつまんないの」
「同じではありません。着てみれば分かります」
そう返すが、興味なさげに彼女は髪の毛束を弄る。生来長いだろうところに、さらに液体を塗って長く量を増やした睫毛が瞬きとともに重たげに下り、上がる。そして、こちらに一瞥を投げかけた。
「真新しくない。『よく見れば』『着てみれば』なんかじゃ意味ないってこと。このデボラのドレスよ? この世で一つだけだと一目で分かるものじゃないとつまんない」
とん、と赤く塗られた爪の指がテーブルに下りる。
「……ここ二年。これでもあんたのこと気に入ってるから、我慢してあげてたのよ? だけどそろそろ本当に飽きてきた」
手が、テーブルの上の布見本を払いのけた。止める間もなくテーブルの上を滑り、大きな音を立てて地面に落ちた。拾いには行かない。今彼女から目をそらしたら、私の矜持まで地に落ちてしまいそうな気がした。あくまで冷めた目で、彼女と視線をぶつけたままにする。
「だから、本当に新しいものが創れるまで来ないでくれるかしら? あんたの代わりなんて、アタシにはいっぱいいるの」
突き放すように彼女は言った。気まぐれだろうか。機嫌を損ねたときに「来るな」と言われたことはあるが、すぐにまた声がかかった。それに、経営上今更彼女に抜けられてもそれほど痛手ではない。こちらだって、金の代わりなんて幾らでもあるのだ。――しかし。
「デボラ」の容姿を持つ代わりの人間はいない。くせ毛の黒髪に縁取られた肌は少し濃い色だ。アーモンド型の目は瞳が大きくて愛らしくも見えるし、その釣りがちな角度に注目すると強そうにも見える。それを縁取る睫毛は容易に人を寄せ付けない雰囲気を纏い、つんと高い鼻はいかにも気が強そうだ。体形は胸と尻に豊かに脂肪がついて、なめらかな曲線を持つ砂時計型。見るからに毒と棘がある容姿。それを隠そうともしない猛々しさと、それに裏付けられた美しさ。彼女のような人物は、どこを探してもいないに違いない。
けれど、ここで下手に出られるほど私は器が大きいわけではない。
「そうでございますか。では何日後に替えが効かないとお気づきになられるか楽しみにしております」
私もそう言い放ち、蹴るようにして椅子を立ち上がった。