赤い靴は履いたまま   作:巴瑠

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冬、それは彼女とは会えない季節だ。

この街は山の麓にあるが、彼女が住んでいるのはそこから更に分け入った山奥の村だ。名もない、確か温泉が湧いてるとか。温泉って何、って聞いたらお湯が湧いてるところだよ、って教えてもらった。まあとにかく、山奥にあるので 冬になったら雪で閉ざされる、そんな場所。だからこの時期、彼女はこちらへは降りてこない。

そして今は、彼女と出会って二回目の冬。ーー今年ばかりは会えなくてよかった、と思ってしまう。

「数少ない食料をあんたに回してるのよ? ランスス様があんたの水揚げをして下さるらしいから、貧相な身体じゃいけないからね。ほら、作法は覚えたかい」

黙って顎を引くと、「愛想のない」と女将は舌打ちをして部屋から出ていった。

私の誕生日は、春にある。そしてその日、めでたく娼婦になる、という訳だ。

抵抗しないのか? やり方を知らない。逃げようにもこの街のことは知り尽くされているから、きっと見つかる。かといって「外」に出れば野盗か魔物に殺されるか売り飛ばされるかして御破算に違いない。かと言って、正式に外に出るためには金を返さなければならない。借りた覚えないけど。十二万だそうだ。そんなの、どこから湧いてくるのか分からない。稼ぎ方なんてそれこそ、股を開くくらいしか知らない。だったら別に、ということだ。天井があることは知っていたから、今更その天井にどうこう文句をつけるつもりはない。

でも。

『私、シルヴィの作る服とか考える服とかすごく好きだよ。裁縫も、私が知ってる人達の中で一番上手い。将来、職人になったらいいのに』

叶いっこないこと。

蘇ったのは、彼女の言葉。私の言う通りにして、とっても綺麗になった彼女の。

当然だった。だって私が考えたんだから。二年経って分かった。私はこの世にあるものにはほとんど美しいと感じられない。好きだと思えない。ーーただ一つ、私が好きになれるのは「私が作ったもの」だけだ。水揚げの日にお前が着るんだと渡されたドレスも、ごてごてした装飾といやに身体の線を強調したラインが下品すぎて、その場で破り捨てたくなった。ねえ、このドレス仕立てるのにかかった金全部私によこせよ。無理なら、布地と糸だけでいいから寄越せ。そうしたら、私が一番綺麗に見えるドレスを作ってやる。それで、何十万何百万と稼いでやる。ーーなんて。

全部、叶いっこないのだ。

 ちいさな窓から差す光が、床の上に真四角を作っていた。やけに直線なのが気に入らなくて、ひねり潰してやりたくなった。

 

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