太陽の眠る時間   作:巴瑠

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 魔物が去ったのを確認して、ようやく一息つく。山の中へ入ってしばらく。……本当は、魔物をちょっと倒して小遣い稼ぎをしようと思ってたけど、道中で出会った奴らとは桁違いに強かった。それに、今は傭兵さんもいないし。これは、陽が沈む前に帰ったほうがよさそうだ。

 びゅう、と一瞬大きな風が吹いた。飛んでくる木の葉にぶつからないよう腕で顔を覆った瞬間、「おうい」と人の声らしきものが聞こえた、気がした。

 方向は、西。

 道から大きく外れるけれど、何となく勘が「こっち」と告げている気がする。ここから先は目印を付けていこう、とポーチから包帯を取り出して枝に結び、声らしきものが運ばれてきた方へ歩く。

 おうい。おうい。

 また聞こえてきた声に、やっぱり、と確信を強めて速度を上げる。ざわざわざわ、と森が鳴る。私、一人でいま歩いてる。そう思うと、どきどきと胸が高鳴った。

「おうい、誰かぁ……」

「大丈夫、じゃなさそうです、ね……」

 そう言って思わず目をそむけそうになったのを、視線を下げる程度に留める。木の根元に座り込んだおじさんの左足の脛は、布でぴっちりと巻かれていたものの、その布は赤く染まっていた。近寄ると、風に運ばれて血の匂いがする。大怪我だ。

「……嬢ちゃんか。悪いが、大人の人を……帰り道、分かる」

「分かりますし、私が連れて帰ります」

「いやいや危ない、危ないって」

「大丈夫です! 私、ここまで一人で来たので!」

 その前にケガの処置を、とおじさんの足元に近づいた。「薬草持ってますか?」と聞くと、「使い切っちまった」と。これでおじさんに使ったら私の分が無くなってしまうかもしれないけれど仕方がない。帰りはもっと用心しないと。

 外しますね、と恐る恐る布の結び目をほどいて、そろそろと――あ、骨、見えそう。そう思って総毛立ちそうになったのを踏ん張って、傷口を閉じるように引き寄せながら包帯を巻き直す。その間、おじさんには薬草を呑んでもらって、数分――「ありがとう、歩けそうだ」とおじさんは立ち上がった。

「ところで、お嬢ちゃんの名前は?」

「ビアンカって言います。昨日この村に引っ越してきました、よろしくおねがいします!」

 そう元気よく返すと、痛みもだいぶ引いてきたのか「よろしくね」とおじさんが笑って手を差し出してくれた。握手をしてから、二人で並んで歩く。

 村までの帰り道。おじさんはけっこう村でも偉い人らしい。感謝しなくちゃ、今度夕食に招待するよ。何度も言われた。ちょっと照れくさかったので、そのたびにへへ、と笑った。

「でも、ちょっと心配になるね。女の子なのに。怪我しちゃ大変だろう?」

 ひょい、と投げ渡された言葉がふいにずしりと引っかかった気がした。怪我をして大変だったのはおじさんじゃん。そう言ってはいけない気がして、ごくりと飲み込む。

「大丈夫ですよ。私、いまとっても元気です」

 言葉を選びきれずにそう返すと、おじさんはいかにも「子供」を見るような眼で私を見た。大人は、子供は分かってないと思ってこういうことをするけれど、実は私たちはちゃんと分かっている。――「女の子なのに」。その真意までは分からないから余計にもやもやするのだけれど。

 いつか分かるよ。

 諭すように、急に大人ぶっておじさんは言った。

 私は、一生分かりたくないと思った。

 

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