「はい、それでは書類の方確認しました。……ご愁傷さまです。頑張ってね」
銀行で最後の手続きを終えた所で、ほっと息を吐いた。お母さんが死んで一週間。今日は村の人に無理を言って、お母さんの残した様々なものの手続きをしていた。大抵「しっかりしてる」と係の人には驚かれた。そして必ず、「頑張ってね」と言われた。そうして何度も「お母さんは死んだ」を事実のように紙に記入していくにつれ、ああ、お母さんはもういないんだ、死んだんだ、と実感した。
お父さんの療養のために売った宿屋、その代金、八万ゴールド。母が管理していたものを、今度は私が扱うようになる。八万ゴールド。お化け退治の冒険も、ぶどうの香りも、パンの焼ける匂いも全て込みで八万ゴールド。これが高いのか安いのか、私にはまだ見当がつかない。
本当なら少し寄り道をしたいところだけど、すぐに帰らなければならない。お母さんが死んでから、お父さんの具合もなかなか安定しなくなったのだ。もう嫌だ。あんなにひやりとする感覚を味わうのは一度でいい。だからもうさっさと帰ろうと思った瞬間、あら、と後ろから落ち着いた声がした。
「あなた……急にごめんなさいね。その、着てる服がとっても素敵だったものだから。前から声をかけそこねていたけれど、見てたのよ、あなたのこと」
振り返った先にいたのは、恰幅のいい老婦人だった。そう言われて服を見直す。もともと持っていたものを、シルヴィアが作り替えてくれたものだった。町では、なんだかんだ一人ぼっちだ。いつもはあまり思わないけれど、今日はその心細さがなぜかひどくて、つい着てきてしまったのだ。
「ありがとうございます。友達がしてくれたものなんです」
「あら、そうなの? 友達はどこのお針子さん? ウチじゃないなら、この辺では、ええと……」
「すみません、分かりません。でも、どこかで働いてるとかじゃないと思います」
――そういえば、彼女とはそういう話をしたことが一切なかった。私にとって、彼女は「シルヴィア」でしかなかった。そう言うと老婦人は「まあ、まあまあまあ!」と声を上げた。
「あら、本当?! じゃあ、もし彼女と会うことがあったら『レヴェナンの夫人からのお誘い』って伝えてちょうだい! ウチならすぐに雇うわ! ああ、こんな才能、放っておくにはもったいない」
そう言って、彼女は私の両手をぎゅっと包んだ。それから間もなく受け付けは彼女の名を呼んだようで、コツコツと靴を鳴らして彼女は去った。
『こんな才能、放っておくにはもったいない』
――そんなの、誰に言われなくても私が一番知ってるよ。
寄り道をする理由ができた。私は銀行を出て、あの場所へ急いだ。