Battle Dolls -VR世界で大型人型ロボットに乗って戦うeスポーツ少女-   作:のこのこ大王

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第12話

 

 

 

 

 

■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華

 

 

 

 

 

 その瞬間、誰もが驚いた。

 まさかあんな逆転武装を持っていたなんて。

 しかもそれをあそこまで温存して、そして使用にまで持っていった実力に。

 

 会場では大歓声が鳴り響いていた。

 

 まさに一発逆転。

 ギャンブルとも言える結果だと思えた。

 でもそこまでしなければ雷鳴の重装甲と戦えるような武装ではなかった以上、あの判断は間違いではない。

 

 初めての負けに部屋の中の空気も少し暗い感じになった。

 でもまあ仕方が無いよねと思った瞬間

 

 ドンッ!

 

 大きな音と共にVR装置のドアが開く。

 中から早乙女さんが出てくるがその表情は無表情で、とてもではないが声をかけられる雰囲気ではない。

 こちらを見もせずにそのまま外へと出て行ってしまう早乙女さん。

 更に何とも言えない空気になる部屋。

 

「いやぁ~、悪いね清水」

 

 そんな空気を何とかするためなのか、鹿島先輩が声をかけてきた。

 

「本当なら清水を出させないようにしたかったんだけどさ」

 

「い、いえ。仕方が無いことですから」

 

「ホント困ったお嬢様だわ。せめて一言あれば良いものを」

 

「それだけ負けてショックだったのでしょう」

 

「まあさっきのは色々仕方が無い部分さ。まさかあんなもの隠し持ってるとはね」

 

 そういって先輩も一定の理解を示す。

 そう、あれはある意味仕方が無い部分である。

 相手の賭けが成功した……それだけの話だ。

 

「じゃあ私、行ってきますね」

 

 ある程度話をしてから私はVR装置に向かう。

 

「冬華ちゃん、頑張って!」

 

「が、頑張って下さい!」

 

 2人からの声援を受けてVR装置に入る。

 

 

 

 

 

■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 早乙女 可理菜

 

 

 

 

 

 女性用トイレに入ると、誰も居ないことを確認する。

 そして誰も居ないと解ると反射的に思いっ切り洗面台を殴りつけた。

 

「なんて無様な……ッ!!」

 

 逃げ回る相手を確実に追い詰めたはずだった。

 トイフェルファウストも腕とシールドを犠牲に止めきったはずだった。

 最後の足掻きの突撃もガトリングで止めきったはずだった。

 

「警戒していたはずなのに……ッ!!」

 

 右腕の装甲に関しては武装の可能性を考えていた。

 にも関わらず、最後の最後でその一撃を許してしまった。

 

 そもそも雷鳴は、その原型が無くなるほどに強化された機体である。

 特に重装甲化に伴う歩行力低下とバランスの悪さを何とかするために思い切ってタンク脚部を採用。

 そうすることで重量のある装甲や武装を二足歩行型の3倍以上運用出来るようになった。

 低下した機動力や旋回性能に段差などのタンクに不向きな場所への対処にブースター・スラスター・バーニアなどを増設し、欠点を可能な限り潰すことにも成功していた。

 現段階でこれ以上無いという改造が施された機体で、特にコックピットは一番硬い装甲で覆ってある。

 それが貫かれたのだ。

 貫通性能に特化したパイルバンカー相手だったのだから仕方が無いと言えばそうなのだが、それでもあそこまで綺麗に決められてしまうとは……。

 

 私にとってBattle Dollsは、手段の一つでしかなかった。

 しかしそれでも最低限の技術は必須だ。

 早乙女の名を背負う以上、Battle Dollsだろうが何だろうが優秀でなければならない。

 ましてや「楽勝と思われた予選での負け」など許されない。

 

「もっとトレーニングが……いえ、機体改造も手配すべきね」

 

 思い立ったら即行動とばかりに携帯を操作して様々な指示を出す。

 それを終えた瞬間、ふと鏡に映った自分を見る。

 

 怒りを抑えられない自分の顔だ。

 それを見て少し冷静になる。

 そしてその場で何度か深呼吸をし、再度鏡を確認する。

 そこには、優雅な笑みを浮かべるお嬢様の姿。

 

「……そうだわ。試合を確認しなきゃ」

 

 そう言って彼女はトイレを出た。

 

 鏡に映った怒りを抑えられない自分の顔。

 それが『純粋に負けたことに対する悔しさ』であり『競技者の顔』だったことを、今の彼女が気づくことはなかった。 

 

 

 

 

 

■side:京都府立田神高校 1年 藤崎 美潮

 

 

 

 

 

 私は何度もコックピット内で深呼吸をする。

 

 先輩達は『勝敗なんて気にせず愉しんで欲しい』と言った。

 本当ならば、その言葉通りに試合を愉しむべきなのだろう。

 

 ……だけど。

 

「先輩達の夢を叶えるために」

 

 そう、これは先輩達の夢がかかった大事な試合だ。

 私の勝敗がそのまま夢が叶うかどうかに直結している。

 

「だから、ごめんなさい先輩方。私は愉しめそうにありません」

 

 この試合は、文字通り私の命を賭けてでも勝ちたい試合なんです。

 私が先輩達に出来る唯一の恩返しなんです。

 だから、どうか。

 

 ―――もし神様が居るのなら、どうかこの試合だけで構いません。私がどうなっても構いません。だから……どうか、どうか勝たせて下さい。

 

 VR装置が動き出すと、私は仮想戦場へと送られる。

 そしてスグに本物にしか見えないロボットのコックピットが目の前に現れる。

 起動スイッチを入れると機体が動き出す。

 大きな岩場の影に膝をつく形で停止していた機体が起き上がる。

 

 マップは荒地。

 大小さまざまな岩場があるだけの殺風景なマップ。

 時折発生する磁気嵐によってレーダー類が使用不能になったり、砂嵐によって有視界が潰されることがある戦闘エリアである。

 

 ―――試合開始

 

 審判AIの開始コールで、ついに試合が始まった。

 私の機体は第二世代機:ツインマスター

 両手にロングソードを持つ接近攻撃特化の機体だ。

 一応両肩に小型ガトリングを装備している。

 

 岩場に隠れながら相手を捜索する。

 相手が射撃系か接近系かで戦い方が決まるからだ。

 しかしある程度進んだ先で、私の警戒が無駄だったことを知る。

 

 堂々と姿を晒して立つ相手。

 盾ではなくマントになってはいるが、間違いなく第一世代のソードナイトだ。

 右手にロングソードを持ち、その右肩が左肩に比べ少し大きいのが違いだろうか。

 腰にサブ武器なのかショートソードが見える。

 

 相手を見て私はほっとした。

 同じ接近系なら私のツインマスターは非常に相性が良いと言えるからだ。

 特に射撃武器が見えないこともあり、私は安心して相手の正面に出る。

 

 一応相手のことは知っている。

 清水冬華という人で、双子の姉が今Battle Dolls界で天才と噂の清水夏美らしい。

 なら彼女も天才なのかと思えば、どうやら違うようだ。

 

 凡人の妹と天才の姉。

 

 真っ先にこのワードを見つけた。

 そして理解する。

 彼女も虐げられてきた人間なのだと。

 そのことに関して多少同情する気持ちが無い訳ではない。

 でも、こうなった以上は仕方が無い。

 

「先輩達の夢のため……悪いけど勝たせて貰うわ」

 

 両手に持つ二本のロングソードを構える。

 すると相手もロングソードを右手に構えた。

 

 そのまましばらくどちらも動かない。

 会場も緊張感からか、静寂に包まれる。

 どちらが動くか。

 誰もがそう思っていた時だった。

 

 マップ内に強い風が吹く。

 すると岩場の一部が欠け、落ちた小さな岩が地面にぶつかる。

 その大きな音が鳴った瞬間、睨み合っていた二機は同時に突っ込み剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 




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