テレサが指揮官にチョコを渡すだけのお話   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさいませ! 指揮官様!
というわけで1週間遅れですがバレンタインイベントです。
今回はいつもの硬い調子を捨ててスピード重視にしました。誰が話しているのか分かりやすいようにセリフの前に名前を置いているので多少は読みやすいかと思います。複雑な文章や表現、文字量も控えていますし

注.本作を楽しむ為に
◯貴方は指揮官です。
◯指揮官の性別はとくに設定していません。
◯指揮官( ) の()内にあるものが貴方のセリフです。
必ずしも()内の言葉を言っているのではなく、あくまでもこのようなことを言っているという意味なので、指揮官様の口調に合わせてお好みで変更してください。

それでは、ごゆるりとお楽しみ下さい。


本編

新暦██年

2月14日ーバレンタインー

指揮官が運営する

エリア████ベース████

 

 

 

ー夜ー

基地 多目的ホール

 

 

 

指揮官(ん、これで一通りチョコは渡せたかな?)

 

基地で働くスタッフ一人一人に感謝の気持ちを込めて作ったチョコを一通り贈り終えたところで、指揮官は時刻を確認した。いつのまにかすっかり夜も更け、もう間も無く日付が変わろうとしていた。

 

指揮官(あと渡せてないのは……テレサだけかな?)

 

べサニー「お勤めご苦労様です、指揮官様」

 

指揮官(うん。べサニーも材料の調達ありがと)

 

指揮官が大量のバレンタインチョコ作りを手伝ってくれたシャロやアルト、グルミに曦夜たちの頑張りを労って後ろ姿を見送っていると、彼らと入れ替わるようにしてべサニーが多目的ホールに姿を現した。

 

べサニー「ふふっ……毎度、ご贔屓にして下さってありがとうございます。指揮官様にはいつも私のところで沢山のお買い物をして貰っていますので、その分沢山のサービスをしなくてはいけませんね♪」

 

指揮官(それは嬉しいね。じゃあ管制塔に行こうか)

 

べサニー「はい! それでは、早速……」

 

少しだけ顔を赤くして寄り添ってくるべサニーの手を取り、指揮官は優しげな笑みを浮かべた。それから材料の調達にかかった費用の支払いも兼ねて、2人で基地の管制塔に向かおうとした時だった。

 

 

 

ドオオオオオオオオオンンンンン!!!!!

 

 

 

指揮官(……ッッッ!?)

 

突如、滑走路の方から響き渡った轟音に指揮官は身構えた。敵襲? そう思い込むも、しかし基地の防空システムは何の反応も示していないことから、即座にその可能性を否定する。

 

べサニー「指揮官様!? これは……」

 

指揮官(見てくる、べサニーはここにいて!)

 

混乱した様子のべサニーを落ち着かせてそう告げると、指揮官は自身をブーストさせ滑走路に向かって走った。そして滑走路の中心で、飛行機らしきものが炎上しているのを目撃した。

爆炎に包まれた機体の前に数名の人影が見える。

 

指揮官(テレサ!? それに光子……!?)

 

黒焦げになったそれが誰であるのか認識した瞬間、指揮官は慌てて3人の元へ駆け寄った。

 

指揮官(み……みんな、これは一体……?)

 

テレサ「し、指揮官……」

 

黒焦げになったテレサは指揮官の声に気がつくと、ゆっくりと立ち上がり、フラフラとした足取りで歩み寄り、懐から取り出したバレンタインチョコの箱を指揮官へと手渡した。

 

テレサ「こ、これを……」がくっ

 

指揮官(テレサ!? しっかりして!)

 

崩れ落ちたテレサの体を抱きしめ、指揮官は絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式バレンタインイベント

『テレサが指揮官にチョコを渡すだけのお話』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは遡ること数時間前……

 

 

 

ー朝ー

指揮官の執務室 兼 自室

 

 

 

 

 

テレサ「指揮官、ちょっといいかしら?」

 

右手に持ったそれを後ろ手に隠し、ノックもそこそこに執務室へと踏み込んだテレサは、部屋の中を見渡して指揮官の姿を探した。

 

シェロン「んー? 指揮官(アニキ)ならいないよー」

 

しかし部屋の中にテレサが探していた人物の姿はなく、代わりに青髪の少女……シェロンが指揮官用の椅子に座って、書類が山積みになったデスクを前に何やら忙しそうに手を動かしていた。仕事をしているのかと思いきや、その手に握られているのはペンではなく携帯ゲーム機であった。

 

テレサ「そう、いないのね……」

 

シェロン「指揮官に何か用ー?」

 

テレサ「いえ、なんでもないわ」

 

シェロン「あー、もしかしてバレンタイン?」

 

テレサ「……!」

 

ゲームの片手間に発したシェロンの何気ないひとことに、立ち去ろうとする直前でテレサは小さく息を呑んだ。

 

テレサ「……なぜ、分かったの?」

 

シェロン「え? だってほら……今日バレンタインだし、指揮官のところに人が来るんだったら大体これ関連かなって」

 

テレサ「…………」

 

シェロンの言葉に、テレサは観念したように目を閉じた。そして、これ以上隠し続けても無駄だと判断したのか後ろ手に忍ばせていたバレンタインチョコの包みをゆっくりと正面に出した。

 

シェロン「うん、まあそーだと思ってた。いやー、指揮官も隅にはおけないねー、ひゅーひゅー」

 

テレサ「そうじゃない。バレンタインは……日頃なかなか伝えられない感謝の気持ちを伝えるという意味もあると聞いたから。そう、指揮官にはいつもお世話になっているから……うん」

 

シェロン「そっかー。まあ、とりあえず指揮官はしばらく戻ってこないと思うから、適当にそこに置いてたらいいんじゃないの?」

 

テレサ「そうさせてもらうわ」

 

そう言ってデスクの上にチョコを置いておこうとしたテレサだったが、その直前であることに気がつきピタリと動きを止めた。彼女の視線の先には自分以外の誰かが送ったチョコがいくつか置かれている。デスクを埋め尽くす書類の山で、今の今まで隠れて見えなかったのだ。

 

テレサ「…………」

 

シェロン「ん、どったの?」

 

テレサ「いや、やっぱりやめておくわ。これは指揮官に直接渡すべきだと思う。私の気持ちも、ちゃんと伝えておきたいから……」

 

シェロン「ん、まあいいんじゃないの?」

 

テレサ「ところで指揮官はどこに?」

 

シェロン「多分、司令部の方だと思うよー」

 

テレサ「司令部ね」

 

シェロン「そうそう。でも急いだ方がいいかもだよ? だってこの後、指揮官は…………っていないし、まあいっか」

 

指揮官の行き先を聞き出したテレサは、シェロンの言葉を最後まで聞くことなくそのまま部屋から退出してしまった。1人部屋に残されることとなったシェロンは手元のゲーム機から目を離して半開きになったドアにチラリと目をやり、それから軽く肩をすくめてみせると、気を取り直してまたゲーム機へ視線を落とすのだった。

 

 

 

それから約10分後……

 

 

 

シェロン「よっしゃ! ラージャン討伐完了〜、あはっ、鎧袖一触とはまさにこのこと……ってね!」

 

感無量といった調子でゲームを遊び終えたシェロンは、ゲーム機をデスクの上に置いてため息を吐くと、大きく背伸びをして気持ち良さそうな呻き声を上げた。

 

シェロン「あ〜〜〜つっかれたぁ〜〜〜! うーん、やるべきことはやったし昼寝ならぬ朝寝しよっと。あー……でも自分の部屋まで戻るのめんどいから、このまま指揮官のベッド使わせてもらうとしますかねぇ」

 

まるで机の上に溜まった書類の山など目に入っていないかのように呟き、シェロンは椅子から立ち上がると、そのまま寝室まで行こうとして……

 

 

バァン!!!

 

 

シェロン「うぇええ!? 何事!?」

 

テレサ「…………」

 

部屋の自動ドアが勢いよく開かれた音に、シェロンは思わずびくりとなった。そして顔に暗い表情を浮かべたテレサが、再び指揮官の部屋へと姿を現す。

 

シェロン「え、ど……どったの!?」

 

テレサ「…………」

 

シェロン「あー……その様子だと、指揮官と会えなかったって感じ?」

 

シェロンの言葉に、テレサは力なく頷いた。

 

テレサ「私が司令部に着いた時には、指揮官の乗った機体は離陸した後だった。今日は用事で朝から世界各地を回らないといけないからって、だから…………指揮官、今日はもう帰ってこないかもしれないって、スタッフたちが言ってた」

 

シェロン「あー、それは惜しかったねぇ……んじゃあ、それ机の上に置いてけば?」

 

テレサ「やだ。それじゃ負ける」

 

シェロン「負けるって何に……ああ、これね」

 

2人はデスクの上に視線を送った。

スタッフたちから送られてきた沢山の個性豊かなバレンタインチョコの中に混じって、とりわけ異彩を放っているものが1つだけあった。しかも、どういうわけかそれは認識しづらく物体の周囲の空間が歪曲しているように見えた。

辛うじて見える差出人のところには『睦月より愛を込めて』と書いてあるのが見える。恐らく、彼女が真心を込めて作ったその(狂気的な)愛情の重さと深さ故に、脳が認識するのを拒んでいるのだろう……テレサは心の中で冷静にそう分析した。

 

テレサ「あんなのと一緒に並べられたら一貫の終わり、というかこっちまで呪われかねない。それに私の想いも上手く伝わらないと思う、だから指揮官に手渡ししたい。出来れば……今日中に」

 

シェロン「んじゃあ、指揮官のこと追いかける?」

 

テレサ「そのつもり、けど……移動手段がない」

 

シェロン「だったら丁度いいしアレ使えばいいじゃん。ん……なんだっけあれ、マンタみたいな形した飛行機っぽいやつ」

 

テレサ「『エアウルフ』のこと?」

 

シェロン「そうそれ」

 

 

『エアウルフ』とは

指揮官がテレサの為に用意したディアストーカーの空戦用追加兵装である。ディアストーカーにこれを装備することにより、高い狙撃能力を維持したまま高高度戦闘能力を発揮することができる。

 

 

テレサ「私もそれは考えた。でも駄目、指揮官が行動を共にしているのは機動部隊イプシロンだから、偵察爆撃機の『エアウルフ』じゃ到底追いつけない」

 

シェロン「『ファストトラベル』かー」

 

 

機動部隊イプシロン『ファストトラベル』

指揮官が創設した全24ある多種多様な専門部隊の中でも、特に足の速さを誇る部隊である。主に突発的に生じた事案への初期対応、他機動部隊との艦隊行動時における一番槍などといった役割を担っている。

 

 

シェロン「別に非常事態って訳じゃないだろうけど、1日で世界各地を巡るってなると、そりゃあ足の遅いタンカーよりもジェット機を選ぶよねー。で、どうやって指揮官にチョコを渡すよ?」

 

テレサ「それは……」

 

 

 

???「ふっふっふ! 話は聞かせて貰ったわ!」

 

 

 

テレサ「誰?」

 

突如として聞こえてきたその声にテレサが振り返ると、入口の自動ドアがスライドする気配……しかし先程のことが影響してか、開閉機構の故障により自動ドアは3分の1程しか開かなかった。

 

???「え、ちゃんと開いてくれないんだけど、何これ壊れてる!? あーもう、こうなったら力づくで……ぐぬぬぬぬ……!」

 

自動ドアをこじ開け、その人物が姿を現した。

青ツインテ、やたらヒラヒラとした服装……

 

テレサ「えっと、誰だっけ? 貴女」

 

シェロン「あー、誰かと思ったらセラスティアじゃん」

 

セラスティア「はぁ……はぁ…………やっと開いた、コホン。それでは改めまして、天才セラスティア様の登場よ!」

 

貧弱な少女……セラスティアは息を乱しつつも、そう言って決めポーズを取ってみせた。

 

セラスティア「話は聞かせて貰ったわ! 足の速い機体をご所望? それなら良いのがあるわよ、私について来て!」

 

テレサ「盗み聞き? タチが悪いわね」

 

セラスティア「うっさい! いいから来なさい!」

 

 

 

 

 

ー朝ー

格納庫

 

 

 

 

セラスティア「さあ、とくとご覧あれ! これこそ世界最高の天才と名高いこのセラスティア様が開発した超高機動型BM! 開発コード『スピードスター』よ!」

 

セラスティアに案内されるまま格納庫を訪れたテレサとシェロンは、航空機用のハンガーに収納された飛行機と対面することとなった。先鋭的でスマートなフォルムのそれは、飛行機と呼ぶよりも宇宙船と呼ぶに相応しい近未来的な外見をしていた。

 

テレサ「BM? 飛行機じゃなくて?」

 

セラスティア「何を隠そう、これ可変機なのよ」

 

テレサ「可変機? 飛行機からBMになれるってこと? ん、確か極東軍も似たようなものを作っていたような気が……まさかパクった?」

 

セラスティア「失礼ね! もともとトラ◯スフォーマーは合衆国の文化なんだから! ス◯スクもウイ◯グゼロも! どっちかというとパクリはあっちの方なんだから!」

 

 

 

シェロン「ウイ◯グガ◯ダムは日ノ丸製〜」

 

 

 

テレサ「とにかく、これに乗ってけって言うのね? 見返りは何?」

 

セラスティア「特にないわよ? でもまあ、強いて言うならこれの実戦データを持ち帰ってくれるだけでいいわ。殺人的な加速力を持ってるから並の人間には乗りこなせないけど、まあアンタなら大丈夫でしょ? これなら『ファストトラベル』だろうと余裕で追いつけるはずだわ」

 

テレサ「今、サラッと恐ろしいことを言われたような気がするけど、まあいいわ。ありがたく使わせて貰うわね」

 

そのまま、3人はコックピットまで移動した。

 

テレサ「複座なのね?」

 

セラスティア「流石に、慣熟飛行もなしにぶっつけ本番でいきなり動かせとは言わないわよ。この機体のテストパイロットを紹介するわね」

 

???「んー、呼んだー?」

 

セラスティアの声に応えるようにして、薄暗い格納庫の奥から1人の少女が姿を現した。

 

テレサ「……貴女がテストパイロット?」

 

アカネ「新条アカネでーす、よろしく〜」

 

赤紫色の髪の少女は軽い調子でそう告げた。

いかにも一般市民というような小柄で学生服姿の彼女は、とてもこういったものに乗れるような素質も適性も有しているようには見えなかった。

 

シェロン「え? なんでいんの? ここアイサガだよ?」

 

アカネ「メタ発言w 細かいことは気にしなーい」

 

セラスティア「なんか暇そうにしてたから仕事を手伝って貰ってたのよね。もちろん指揮官の許可は取ってあるわ! かくかくしかじかというわけだから、アカネはテレサのことを指揮官のところまで送ってあげてね」

 

アカネ「おぅけぇぇぇぇい!」

 

アカネは微笑ましげな様子でサムズアップしてみせると、対Gスーツを着ることもなくテレサと共に『スピードスター』へ乗り込み、機体を滑走路へとタキシング……そのままアフターバーナーを吹かして基地から飛び立つのだった。

 

セラスティア「さて、邪魔者も消えたことだし……はいこれ、私からのプレゼントってことで指揮官に渡しといてね」

 

そう言ってセラスティアは、今まで隠し持っていたバレンタインチョコの入った箱をシェロンに預けた。無理やり手の中に押し込まれる形となったシェロンは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

シェロン「えー? なんであたしが? めんどくさ……自分で渡しなよー、指揮官的にもその方が嬉しいだろうしさー」

 

セラスティア「そ、そんなの無理よ……だって、は……恥ずかしすぎるじゃない! 指揮官に正面から想いを伝えるなんて……! あっ……勘違いしないでよね! べっ……別に! あいつのことなんて何とも思ってないんだからっ!」///

 

シェロン「あー……ツンデレ乙」

 

 

 

 

 

ー昼ー

ライン連邦

 

 

 

 

 

スノー「なるほど、指揮官様を追って基地から……ですか。はぁ……それは遠路はるばるご苦労様でございました」

 

指揮官の後を追ってライン連邦へと飛んだテレサは、女性だけで構成された特殊部隊・通称『紺碧少女』の詰所へと辿り着いていた。

 

スノー「な、何もないですが……ごゆるりと」

 

テレサ「長居はしないわ。指揮官はどこ?」

 

スノー「えっと、それなのですが……」

 

レイラ「んー? 指揮官ならもういないよ」

 

怖い顔でテレサに詰め寄られ、スノーがどう受け答えしていいものかと困惑した表情を浮かべていると、そこへ偶然通りかかった紺碧少女の隊長ことレイラが、大体の事情を察してそう答えた。

 

テレサ「……いない?」

 

レイラ「うん。指揮官なら、夜に演る予定のガスナとハイジのバレンタインライブのリハーサルに付き合った後、ウチの子たち全員にチョコ渡してすぐに次の所に行ったよ?」

 

テレサ「……! 指揮官はどこに向かった?」

 

レイラ「うーん、確か機械教廷に行くって言ってたような……もっとゆっくりしてもいいのにね。あ、そうそう! バレンタインチョコなら私も貰ったんだ。いいでしょ♪ でも指揮官も大変だよねー、普段お世話になってるからって毎年チョコ作ってみんなに配ろうとするなんて……めんどくさくてとても真似できたものじゃないよー」

 

スノー「あの、隊長……」

 

レイラ「うん? どうしたのスノー」

 

スノー「テレサさん、もう行きましたけど」

 

レイラ「おや? おお本当だ」

 

そこでようやくテレサがいなくなっていることに気づくと、レイラは「流石スナイパー、逃げ足が速いねー!」と感心したような表情を浮かべ、ポケットから貰ったチョコを取り出した。

 

スノー「それと隊長、他の紺碧少女のメンバーもグレッタ以外全員、指揮官へお返ししたんですから。隊長もめんどくさがらずに、今度会った時にはちゃんとお返ししてあげて下さいね」

 

レイラ「分かってるよ〜。うん、美味し〜♡」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

アカネ「あ、お帰り〜、指揮官いたー?」

 

テレサ「いや、いなかった。機械教廷に向かって」

 

アカネ「はいはーい」

 

 

 

???『そこの飛行機! 動かないで!』

 

 

 

アカネ「ん? 飛行機って?」

 

テレサ「……どうやら私たちのことみたいね」

 

発進準備中のスピードスターの中で2人が辺りを見回すと、全天周囲モニターの隅で、青いランプを点灯させた車輌数台がこちらに向かってきているのが見えた。しかも、その近くにはライオットガンを装備したBMもいる。

 

テレサ「警察か……」

 

アカネ「へー、ドイツの警察って青いんだー」

 

テレサ「動かないで、少し様子を見ましょう」

 

アカネ「いいけど、完全に囲まれちゃったね〜」

 

 

 

ゾーイ『貴方たち、ここは飛行禁止区域です。今すぐ両手を上げて機体から姿を現しなさい!』

 

 

 

数台の車輌とBMがテレサたちを取り囲む中、一台の警察車輌がスピードスターの正面へと回り込み、手にしたメガホンを使ってそう呼びかけてきた。パイロットはバイエルン市警の1人であり、指揮官とも親交のある女性警察官 ゾーイだった。

 

アカネ「あちゃあ〜、ここ飛行禁止区域だったのかー。どうするよ、このまま大人しくお縄につく?」

 

テレサ「そういうわけにはいかない。私はなんとしても、今日中にこれを指揮官に渡さなくちゃいけないから……」

 

アカネ「だよねー。で、どうするよ? 周りには武装したケーサツだらけ、加速しようにも進路は塞がってるし、無理に飛び立とうとしたら撃ってくるよねー?」

 

テレサ「私に考えがある。コントロールを頂戴」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ゾーイ『出てこないなら力づくで……えっ!?』

 

その瞬間、ゾーイを始めとする警察官たちは自分の目を疑った。なぜなら、今まで飛行機だと思っていたそれが形を変え、一瞬のうちにスマートなシルエットの人型機へと姿を変えたからだ。

 

ゾーイ『に、逃げるつもり!? 全車両攻撃……うわっ!?』

 

ゾーイは慌てて鎮圧行動に移ろうとするも、それよりも早く人型機形態のスピードスターから警察官たちに向けて複数の火の玉が放たれた。それはミサイルに対処するための防御兵装であり、威力などないに等しかったのだが、なんの前触れもなく放たれたそれは警察官たちを怯ませるだけの効果はあった。

 

テレサ「それでは、失礼するわね」

 

スピードスターを操り、混乱に乗じてゾーイの隣をすり抜けつつテレサはそう呟いた。

 

テレサ「この機体、武装はないのね」

 

アカネ「試作機みたいだからねー。まあ武器がない分軽くなってるんだから、逃げて逃げて逃げまくろー♪」

 

テレサはモニターに表示されたスピードスターの操作マニュアルを確認しつつBM用の強化道路で機体を滑走、ある程度のスピードが出たことを確認すると背部スラスターとウィングを展開、アフターバーナーによる加速を得たところで機体を跳躍させた。

 

ゾーイ『ま、待ちなさい! スピード違反の容疑も追加しますよ!』

 

ゾーイが後を追おうとした時には既に遅く……

強化道路から飛び出したスピードスターがバイエルンの空を舞う。テレサはマニュアルに従って機体を空中で飛行機に変形させると、そのまま操縦桿を引いて上昇した。

 

機械教廷の方面に向かってあっという間に遠ざかっていく機影を、ゾーイたち警察官は呆然と見送ることしかできなかった。

 

アカネ「すごいすごーい! こんな短時間で機体の操縦方法を身につけちゃうんだ。へー、やっぱ本業の人は違うねぇー、もうあたし必要ないじゃーん」

 

テレサ「それはどうも」

 

アカネの褒め言葉に淡々と返事をしつつ、テレサは機体をさらに加速させた。

 

 

 

 

 

それから少し経った後……

ー地中海上空ー

 

 

 

 

 

テレサ「見えた! 『ファストトラベル』! 」

 

アカネ「え? どこどこ?」

 

テレサの高い視力が、海面スレスレを飛行するファストトラベルの空襲駆逐艦(エアレイドデストロイヤーシップ)『ARDー5』を捉えた。スピードスターより遥かに巨大な船体はステルスシステムにより偽装されているのだが、スピードスターに搭載された視覚フィルターがそれを看破し、その姿をモニターに表示した。

 

テレサ「こちら元スカーレット所属のテレサ」

 

テレサはレーザー無線で空襲駆逐艦へ交信を図る。

 

テレサ「テレサよりARDー5へ、そちらに乗艦している指揮官とお会いしたい。着艦を要求する」

 

ARDー5『……IFF確認。こちらARDー5、オペレーターの橘です。貴方……な、なんなんですか! いきなり出てきたかと思えば要求って!?』

 

テレサ「これより着艦する」

 

ARDー5『ま、待ってください! 指揮官はこの船にはいません! 我々とは別の用事があると言って、指揮官はつい先ほど本艦の高速哨戒機に乗って出て行かれました』

 

テレサ「……え?」

 

オペレーターの言葉にテレサは愕然となった。

 

テレサ「指揮官はどこに……?」

 

ARDー5『大陸を横断して日ノ丸へ向かわれたかと。あの……もしかして緊急事態ですか? よろしければ着艦を許可しますけど』

 

テレサ「いい。このまま指揮官を追……」

 

アカネ「あ、お願いしまーす。あと、ついでに補給したいでーす。いやー、もう機体の推進剤とバッテリーの残量がなかったからヤバくてww、このままだと2人まとめて海の藻屑になるところだったから助かるよー」

 

テレサ「くっ……やっと追いついたと思ったのに」

 

 

 

 

 

ー夕方ー

日ノ丸・A.C.E.学園

 

 

 

 

光子「佐伯殿!」

 

佐伯「ああ、佐々木さんか」

 

茜色に染まった教室。

掃除当番の佐伯が自前のモップを使って床の掃除行っていると、そこへ光子が息を切らした様子で駆け込んできた。

 

光子「佐伯殿、指揮官殿は何処におられる? この場所に来ていると聞いたのだが……」

 

佐伯「ああ、それならもう基地に帰ったぞ。あっちもアンタのことを探しているみたいだったが、どこにいるか分からないって言ったら、これを渡しておいてくれって……」

 

そう言って佐伯は、指揮官から預かっていたバレンタインチョコを光子に投げ渡した。しかし、それをキャッチした光子の表情はどこか浮かない様子だった。

 

佐伯「全く……インターンシップで基地に来ている全員にチョコを渡すから集まれって事前に連絡があったはずだろ? 忙しいはずの高橋兄妹や風紀委員さんだってちゃんと来てたんだぞ、連絡もなしに今までどこに行ってたんだ?」

 

光子「その……拙者、連絡を受けるまで今日がバレンタインだということを失念してしまっていて……」

 

佐伯「あー……それで慌ててチョコレート用意して遅れちまったってことか、まーよくある話か」

 

光子の手には買ったばかりのバレンタインチョコの箱が握られていた。それを見て佐伯は肩をすくめてみせると、ポケットから取り出したチョコレートを一粒だけ口に含んだ。

 

佐伯「おっ、美味いなこれ。アンタも食えよ……というか、そんな気にすんなよ。感謝の気持ちを伝えるのは必ずしも今日である必要はねぇだろ」

 

光子「しかし、せっかくの指揮官殿のお心遣いに対してお返しする事も出来ず、ちゃんとお礼も言えてませんし……拙者にこれを食べる権利はありませぬ」

 

佐伯「ハッ……相変わらずアンタ真面目だねぇ、オレはホワイトデー辺りでお返しできればそれでいいと思ってるし、そうするつもりなんだけどな」

 

テレサ「そう……またなのね」

 

佐伯「ぶっ……!? あ、アンタどこから!?」

 

いつからそこにいたのだろうか?

いつのまにか自分の背後に佇んでいたテレサの存在に気づいた佐伯は驚きのあまり、口に含んでいたチョコレートをあわや丸ごと飲み込みかけた。

 

テレサ「普通に、教室の扉からだけど」

 

佐伯「いや、それもあるが……オレが言いてーのはそーいうことじゃなくてだな、どーみても不法侵入じゃねぇか、セキュリティどうなってんだこの学園……」

 

アカネ「セキュリティ? あー、寄ってきたハエみたいなのは全部、普通に叩き落としてきたけどー?」

 

佐伯「ハエって……え? 誰お前……?」

 

アカネ「細かいことは気にしなーいw」

 

佐伯の横を通って、テレサは光子へと近寄る。

 

光子「貴女は……テレサ殿?」

 

テレサ「貴方もチョコレートを?」

 

光子「え……それではテレサ殿も指揮官殿に?」

 

テレサ「うん……でも、ちょっと難しい」

 

テレサたちの乗ってきたスピードスターだったが、ここに至るまでの間にかなり損傷してしまっていた。尺の都合上カットしていたのだが、領空侵犯で何度も対戦闘機ミサイルに追われるハメになり、防空網を避けるために超低空で渓谷を駆け抜けてはニアミスしかけ、禍々しい北境の怪物たちの攻撃を無理なマニューバで回避するなりして酷使しすぎた影響で、機体性能が大幅にダウンしていた。

 

テレサ「だから、力を貸して欲しい」

 

光子「えっと……しかし、拙者にできることなんて」

 

テレサ「そんなことはない。貴方には、貴方にしかできないことがある……お互い、指揮官を想う気持ちは同じな筈、だからこそ協力しましょう」

 

光子「拙者にしかできない……? テレサ殿、それは一体?」

 

テレサ「これを……」

 

そう言ってテレサは光子の手に何かを握らせた。

 

光子「これは……?」

 

テレサ「『怒火コア』(SPアップ)よ」

 

光子「…………」

 

アカネ「まだあるよー、はいこれ」

 

光子「これは、びゃ……『白虎紋』?(SPアップ)」

 

テレサ「…………引き受けてくれるかしら?」

 

光子「……ああ、そういう」

 

 

 

 

 

そして、物語は冒頭に至る……

 

 

 

 

 

光子「巌流・燕の閃きィィィィィィィィ!!!」

 

アカネ「わ〜速い速ーい!グリッドマンよりもw」

 

テレサ「見えた! 基地の明かりよ……!」

 

光子のスキル、巌流・燕の閃きを用いて機体を爆発的に加速させ、無事、3人は日付が変わる直前に基地へと辿り着くことができた。しかし、ここに来てついにスピードスターも限界を迎えたのか基地を目前に控えたところでバランスを崩し、錐揉み状態で基地へとハードランディング……もとい墜落した。

 

光子「み、みんな……無事ですか……っ!?」

 

アカネ「あはは〜、何で生きてんだろ?」

 

テレサ「な、何とか……ね」

 

炎上するスピードスターの残骸から何とか這い出た3人は、お互いの生存報告をしつつ、そして体力の限界を感じてぐったりと滑走路に倒れた。

 

指揮官(み……みんな、これは一体……?)

 

テレサ「し、指揮官……」

 

黒焦げになったテレサは指揮官の声に気がつくと、ゆっくりと立ち上がり、フラフラとした足取りで歩み寄り、懐から取り出したバレンタインチョコの箱を指揮官へと手渡した。

 

テレサ「こ、これを……」がくっ

 

指揮官(テレサ!? しっかりして!)

 

崩れ落ちたテレサの体を抱きしめ、指揮官は絶叫した。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

かくして、テレサは日付が変わるギリギリのところで指揮官へバレンタインチョコを贈ることに成功し、彼女の壮絶なバレンタインは幕を閉じるのだった。

 

この一件で、指揮官は負傷した3人を心配するのだが、テレサはもちろんのこと、光子は指揮官にちゃんとお礼の言葉を伝えられ、さらにお返しのチョコを渡せてスッキリとした表情を浮かべ、テレサに付き合っていた新条アカネもまた、リアルな世界ではとても経験することのできないエキサイティングな出来事だったと、ご機嫌な様子で今日一日を振り返るのだった。

 

おわり

 




あとがき
性別を設定しておきながらシェロンが指揮官のことをアニキと呼んでいたのは、アズレンのクリープランド兄貴(姉貴ではなく)みたいな感じで、頼れる人という意味合いがあるからです。
また、今回なんでグリッドマンの新条アカネが出てきたのかというと……スピードスターのテストパイロットはノリが良くて適度に頭がラリってる人が適任だろうなって思ったからです。つまり、なんとなく

というわけで非公式バレンタインイベントでした。
戦果や勝利も大事ですが、それがあるのは優秀なパイロットたちがいてくれたからこそのことです。なので指揮官様、貴方の前進に付き合ってくれている仲間たちのことを大切にしてあげてくださいね?

それでは、また……
ムジナでした
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