少年☆歌劇 レヴューソードロード~オレ 再生産~   作:キッコ

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第三話 『羨望のレヴュー』

 

                  オレ 再生産

 

 

 

 

 

 俺の姿が消えて、左手首に着けていたリストバンドが空中から落下して行き、無骨なプレスマシンの中央に吸い込まれるように設置される。プシュンと降りて来た機材に容赦も無く潰され、元は金属でもないそれが何故か鈍色の奇妙な金属片へと精製されていく。

 自分の意識はしっかりとあるのにどこにも自分なんて無いような不思議な感覚だ。

 ドドドドドドド、と金属片が自動金槌で成形される。ガタンガシャン、ウィーンウィーン。

 原作の溶鉱炉から始まるシーンと比べるとあまりにも派手さのない工場のラインのようなその工程。

 

 金属の塊はどういう原理か布地へ、ボタンへ、首もとのカラーへ、とそれぞれ造りかえられていく。そうして最後には黒い標準学生服――つまり学ランだ――が縫製された。

 この変身シーンは誰が喜ぶのだろう、気がつけば一糸まとわぬ姿になっていた俺に瞬時に下着と緑のTシャツが着せられ、スラックスを履かされ学ランも羽織らされ、勝手に下からトントントンと襟元までボタンがしめられていく。

 金糸で出来た型飾りがついた黒い学ラン。ボタンはすべて金ボタンだ。

 

 

 

「三十一期生、星崎勇太。よくわからねえけど、ここに来ちまった以上。ソードロード、歩いてやるぜ!」

 

 再生産された影響か、なんとなくノリでハイテンションな台詞を言ってしまったが後悔はしていない。生まれ変わったようにすごく気分が良い。まさにオレ、再生産。

 ちなみに俺の武器は柄に青いに宝石?のついた西洋風の片手剣だった。片手でもなんとか振るえて、両手で握ればもっと威力が上がりそうな感じだ。

 剣は剣でも某竜殺しみたいなのを渡されても困るので無難でよかったとほっと一息をつく。

 

 

 

 そして観客席に視線を向ければやはり居たのはあの偶蹄類。やっぱりかよ!実はメスで別固体とかでもなさそうだ。無駄に良い声がステージに響く。

 

 「お前、今アッチにいるんじゃねえの!?」

 

 「貴方のおっしゃりたいこと、わかります。オーディション一日目、『羨望のレヴュー』の開演です」

 

 

    

                  楽曲:Little Burning

 

 

 

 

 「”小さなこの俺の抱く心 誰にも馬鹿にさせはしねえ”」

 

 

 「”熱く燃え滾る血が騒ぐ 俺が一番でけえ男だと”」

 

 「紅也!」

 

 「”見ててくれよ 近いそこから 遠いそこから”」

 

 

 

 スモークが晴れた先にいたのは紅也だった。

 俺と同じ金の肩飾りのついた黒い学ラン。真っ赤な髪が黒い学ランに映える。

 目つきの悪い不良っぽい見た目ながら少し高めの声が高らかに歌詞を歌い上げる。

 フレーズが終わると、こいつが使用する獲物にしては幾分か長く見える槍を肩に担いだ紅也が、好戦的な笑みをこちらへと向けて来た。

 

 「よう、なんだ勇太。いきなりお前が相手かよ? てか剣と槍、俺ついてるぜ」

 

 にぃ、と紅也が笑みを浮かべる。

 当然リーチは相手の方が長い。それを有利と見た紅也が距離を取りつつ穂先をやや斜め下に向け、ちろちろと惑わすように穂先を回す。

 

 キリンからのメールには学ランの第二ボタンを落とされた者が敗者となると書かれていた。

 卒業式なんかで女子が男から第二ボタンを貰うのは心臓に一番近いから、とかなんとか言われていたが、このルールもアレが由来か?てか原作の肩掛けの止め具より危なくね?

 

 「はは、紅也。お前もメール受け取ってたんだな。――やるじゃん」

 

 槍対剣とかやべえ……、って内心で冷や汗だらだらなのをを出来るだけ顔に出さないようにしながら軽口を叩いてみせる。

 これは自惚れも入るが、原作から考えてみてキリンからメールが来るってことは紅也も俺と同様にきらめき(俺らの場合はかがやきらしいが)を見出されたってことだ。

 

 「このレヴューとやらの基準は分からねえけど、勝ち残りゃでっけえチャンスが貰えんだろ?」

 

 「ああ、みたいだな」

 

 「だったら、俺はダチだろうとぶっ倒す。立ちはだかる奴ぁ、全員ぶっ倒す」

 

 俺達の学校、俺達の世界は原作の少女歌劇とは違う。

 小さいってことはそれだけで確かに不利であり、それだけで仕事が減る。背丈だけで道が閉ざされるわけではないが、道が狭まるのはたしかだ。15歳にして175や180ある人間が居る御剣学園では彼の立場は厳しいものがあるかも知れない。……それでも。

 

 

 

 「貴方には出来なくとも他の人には出来ることがある。もっと背が高ければ。その苦悩……わかります」

 

 キリンの追い討ちをかけるような言葉が彼に追い討ちをかける。おのれ、わかりますbotめ!

 

 「ああ、そうだよ。俺ぁ、ちいせえ。けどそれを差し引いてもはココに立つ資格が十分にあるってこった! 背がちいせえからってなんだ! 俺のやる気も! 熱意も! 誰にも負けてねえ!」」

 

 穂先を剣で競り合うように下側から受け止めるが、紅也はそのまま振り下ろすでなく、前方へと槍を押し出してくる。それに対して俺は力任せにかち上げようとした。

が、奴はその勢いのままにくるりと槍全体を回すと、石突でこちらの胸元を突かれて距離を取らされた。

 

 「んぐっ……!!」

 

 胸に響く痛みにどうしても胸を抑えてしまいそうになるが、剣を手放すわけにもいかない。

 俺はそのまま剣を振り下ろして槍を押さえつけ、下がった穂先をを踏みつけるようにして距離を詰めようとするも……。

 

 「長モノ扱っている以上、この可能性も分かってんだよ! おっ……らぁあああああ!!!」

 

 紅也はあっさりと柄から手を離し、カランカランと地面に槍が転がる音が響いた。

 いやいやいや、そんなのありか!?いや、ルールには武器以外での攻撃は禁止、とかは書かれてなかったな!

 踏みつけられて使い物にならなくなったと判断するや即座に最大の武器を手放してしまうこの判断力、喧嘩慣れし過ぎている。

 このままじゃ顔面を殴られる!!そうなれば倒れた俺はマウントを取られてタコ殴り、ボタンも素手で引きちぎられてしまうだろう。

 

 「やらせるかよ!!」

 

 リーチの差で顔を狙うことも出来たが、俺の剣で無防備な顔を狙えばおそらく深い傷をつけてしまう。

 ほぼいちかばちかになるが、紅也の胸元へ向けて片手で剣を振りぬいた。 

 俺の剣の先端が紅也の学ランの第二ボタンの付け根へと挿し込まれる。グッと微かな抵抗だけを受けて剣を振りぬく勢いで付け根の糸を切り裂いた。

 紅也の第二ボタンが金のかがやきを見せながら宙へと弾け飛んだ。

 

 「…………っ!!」

 

 

 

 後から思えばテンションがおかしかったんだと思うけど、今はこれは言わなきゃいけない気がした。

  

 「ポジション・ゼロ!」

 

 初めて振るった剣の重みで腕はぷるぷるしているけど、それを杖のようにバミリに突き立てて大声で宣言する。

 

 「オーディション一日目、終了します」

 

 紅い幕が下ろされてステージから紅也の姿が隠された。

 

 

 

 

 

 「本来催されるはずのなかったもう一つのレヴュー…………わかります」

 

 ▲1位 三条院誠

 ▲―― 藤堂正人

 ▲―― 藤野秋

 ▲―― 星崎勇太

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

 

 

 

 

 レヴューの一日目を終えた俺は寮の自室のベッドで上下グレーのスウェット姿でぐでーっとしていた。

 勝った。勝ってしまった。……いや、勝たなければならなかったのはたしかだ。

 このレヴュー、細かいところまで原作通りなら負けた者はかがやきを失ってしまう。そうすれば来年の3月に控えている舞台『ソードロード』はおろか、その後の俳優人生も灰色のものになってしまうに違いない。そう、ロンドンでのひかりのように……。

 

 「前世でも言われてたけど、まるで聖杯だよな」

 

 かがやきと言う他者からの燃料をくべて叶えられるトップ俳優。

 俺は本当に、このレヴューに参加しなければトップ俳優になれなかったんだろうか?

 

 「ユウタ? なんだか気落ちしてる? コーヒーでも飲むかい?」

 

 同室の欧州とのハーフ、金髪で王子様のようなルックスのイケメン(この学園の生徒は大抵イケメンだ)、三条院誠(さんじょういん まこと)に頷いてコーヒーを頼むのだった。

 ……ああ、きっとこいつも参加者なんだろうな。微笑みながらコーヒーを差し出す顔を見てそう思った。




○三条院 誠(さんじょういん まこと)
十五歳182cm
欧州とのハーフ 金髪王子様ルックス 気遣い屋
第三話にして登場した主人公の寮での同室者 日本語はペラペラ


とりあえずわかりますって言わせたいだけ。
紅也とのお話はまた次回。ちょっと内容薄い気がするので後日加筆するかも。
モチベに繋がりますので感想お待ちしております。


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