【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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●物語が始まる前に
■1 世紀末のメアリー・スー


◆1 神様転生

 

 歩きスマホは止めましょう。

 散々そう言われてきたが、私は歩きスマホを止められない駄目人間だ。そんなのだから、地面に空いた穴に落ちてしまうのだ。

 

 歩きスマホをしていた私が落ちた穴は、天界に通じる片道通路という不思議空間だった。

 落ちた先にいた住人さんにいろいろ説明されたが、どうやら私はもう元の世界に戻ることはできず、さらには元の世界で生まれ変わることすらできないらしい。

 

 じゃあこのまま天界に住むことになるのか? と思ったのだが、徳が足りないとはっきり言われてしまった。

 さもありなん。歩きスマホするような人間だもんね。天界に住めるわけがなかったね。

 

 それから私は天界のお偉いさん、つまり神様と面談することになり、今後の行き先を決めることになった。

 

 神様曰く、元の世界やそれと同等のランクの世界は、魂が厳密な戸籍のようなもので管理されており、死亡履歴が付くまでは生まれ変わることができない。

 元の世界で死亡していないため、転生処理が適切に行なえないとかなんとか。

 でも、天界に来た時点で肉体は消し飛んでおり(!?)、私はどこかの世界で生まれ直さなければならないと。

 

 なので、元の世界、地球があった宇宙よりランクの低い世界で生まれ直してほしいとのことだった。

 ランクの低い世界。畜生界とかかな?

 

 ……あ、ちがうのね。どうやら、地球で創作物として扱われているような架空の世界が無数に存在し、そこに転生することになるらしい。

 はいはい! 私、『ハリー・ポッター』の世界がいい!

 現代の地球がベースなうえに、魔法が使える世界!

 

 ……え? 人気で空き枠が無い? いやいや、私と同じ境遇の人他にもいるの? いるの。いるのかぁ。

 うーん、他に、現代地球がベースで魔法が使えるようなファンタジー味のある創作世界は……。

『魔法先生ネギま!』の世界? 主人公の子供先生が担当するクラスと同年代の女子枠が空いている?

 

 ネギまかー。いいね!

 ん、ちょい待ち。アニメ版? コミックボンボン版? まさかの実写ドラマ版とは言わないよね?

 ああ、ちゃんと週刊少年マガジン連載版ね。よかった、甘ロリドレスを着て『ハッピーマテリアル』を歌わなくて済みそうだね。

 

 うおー、目指せ魔法生徒!

 えっ、好きな願いを言えって……神様、そんな異世界転生のドテンプレをわざわざ踏襲してもらわなくてもいいんですよ。

 あ、ああー。ランクの低い世界に行くから、私の魂のランクが強すぎて、スーパーパワーに変換しなきゃ人の器に収まらないと。

 

 どんな願いでもいいの?

 え、本当にどんなのでも。

 じゃあ、私が持ってたスマホにインストールされていたゲームアプリ、それに登場する全ての力を自由自在に扱えるように……ええっ、通るの!? 通していいの、この願い!? マジで!

 

 えっ、宇宙規模のスーパーパワーでも構わない?

 別にラ=グースとか時天空とか出てくる世界観じゃないんだよね?

 うん、『魔法先生ネギま!』がベースで、そこに紐付けされた『A・Iが止まらない!』や『ラブひな』、『UQ HOLDER!』を内包する世界と。

 

 あー、UQも入るのかー。そりゃ入るよね。それなら、スマホの全アプリの力くらいはあって困る物ではないね。

 じゃあ、そういうわけで神様お願いします!

 

 容姿? そこまで選べちゃうの?

 じゃあ、このゲームのこの推しキャラで……。

 

 

 

◆2 幼児リンネ

 

 生まれ変わって埼玉県。

 麻帆良学園都市内の一般家庭に生まれた私。なんでか前世の記憶が消えずに、無事ネギま世界へ転生した。異世界転生といえば記憶そのまま持ち越しと勝手に思い込んでいたけど、よく考えたら転生って記憶がリセットされるものだよね。どうして記憶が消えなかったんだろうか。

 

 さて、そんなことは考えても無駄なので、今の私だ。今生の名前は刻詠(ときよみ)リンネ。黒髪青眼の純日本人です。

 日本人なのに青眼かー、と思っていたけれど、外に出るようになって青眼程度、普通の容姿だということが分かった。

 

 さすがは漫画の世界なのか、みんな割とカラフルな頭髪をしていて瞳の色も様々。

 でも、顔つきはばっちり日本人。この中途半端さは六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストさんも落胆しますわ。

 

 さて、そんな感じで一般人の範疇な容姿の私、リンネちゃんですが、私には一般人の範疇で収まらない不思議な力がありました。

 神様に頼んだゲームの力……ではなく!

 なんか念じたら、手元にスマホが出現するようなのです。

 

 スマホですよ、スマホ!

 ネギま本編は西暦2000代初頭から始まる物語で、今は1990年代初頭。一般人が携帯電話を持っているわけもなく、スマホという単語自体存在しない。

 私の手元にあるスマホを見て、お母さんが「どこで拾ったの?」と不思議そうに取り上げたものの、当然操作方法も分からず首をひねるばかり。

 

 お母さんに奪われたスマホを見て、どういうことじゃろと思った私は、さらに念じてみる。すると、お母さんの手元からスマホが消える。

 まさかの出し入れ自在なマイ端末。

 

 手元から突然スマホが消えて驚いたお母さんに、私はすかさず「わー、マジック?」と手を叩いてはしゃいでみせた。

 先ほど言ったように、現在は1990年代初頭。テレビではマジシャンがスプーン曲げや消失マジックを披露していた時代で、そのノリで私は驚いてみせたわけだ。

 

 すると、お母さんは不思議そうな顔で「マジックかぁ。不思議ねぇ」とスマホの消失を流してしまった。

 チョロい。

 我が親ながら心配になるが、こうして私は謎のオーパーツを隠し通すことができた。

 

 さて、そんなスマホであるが、一人になったときに確認したところ、神様からメールが届いていた。それによると、このスマホは神様からのサービス能力らしい。

 

 なんでも、私が手に入れた力は膨大な数にのぼり、力を正確に使いこなすためには、関連するゲームを忘れないようにする必要がある。

 そのため、いつでもゲームを起動して力の確認をできるようにしてくれたとのこと。

 

 このスマホは前世の地球とつながっていないが、入っているゲームはオンライン専用のものもオフラインで起動できるようになっている特別製に変わっていた。

 さらには、私がプレイしていたソシャゲの過去イベントも全て復刻された状態でプレイが可能で、登場キャラクターや登場能力をチェックすることができる。

 アフターケアがばっちりすぎる神様である。別に、神様のミスで死亡したとかじゃないのに、至れり尽くせりだね。

 

 さらにさらに、電子書籍アプリでは、『魔法先生ネギま!』や『ラブひな』、『UQ HOLDER!』等のこの世界に関連する漫画がダウンロード済みだという。前世の記憶が残っていることといい、神様は私に原作知識を活用させたいようだ。

 さすが、天界に住む徳が高い神様。この世界で快適に生きていけそうで、ありがたい限りだ。

 

 

 

◆3 ちう様の目覚め

 

 さて、親に異常性がバレないまま、小学生になった私。

 現在麻帆良学園内にある初等部の四年生である。

 

 西暦にして1998年。世間ではWindowsだインターネットだ騒がれている時代だ。すでに『A・Iが止まらない!』の物語が進行してスーパーAIが世に爆誕していると考えると、IT分野が前世と同じ発展をするかというと疑問にも思うね。

 

 ちなみに私が通う初等部は男女共学だが、気になる人物を一人見つけた。

 その人物の名は……長谷川(はせがわ)千雨(ちさめ)。そう、『魔法先生ネギま!』のメインヒロインである。異論は認めない。

 正直に言うと、彼女、通称ちう様はネギまにおける私の最推しキャラである。

 

 物語後半の魔法世界編で、ネギ先生の女房役としてその精神を支え続けた活躍。一クラス分、計三十一名もヒロインがいるのに、こんなに作者にひいきされていていいのかと思ったほどだ。

 ちなみに私は前世、インターネットで二次創作小説を読むことが趣味だったのだが、その中でちう様は原作の人気に応じるように主役を張ることも多く、様々な魔改造を受けていたのを覚えている。

 

 紫電掌を使ったり、仮面の力を引き出したり、カードの力を操ったり、宇宙人に改造されたり、マッサージの達人になったり……。

 まあ、この世界は神様曰く原作漫画の世界なので、現在のちう様が魔改造されている様子はない。

 ただ、原作初期と同じ症状を発症しているのは確かなようだ。

 

 その症状とは、すなわちメタ視点への目覚めである。

 

『魔法先生ネギま!』の初期は、シリアスさゼロの完全なコメディ漫画だ。

 登場するキャラクター達は、コメディ漫画特有のおおらかさと脳天気さを持ち合わせていた。だが、我らがちう様だけは違った。

 読者と同じ視点を持ち、クラスメートの異常っぷりにメタ的なツッコミを入れていたのだ。

 

 不思議と異常にあふれる麻帆良に住む彼女が、なぜこのような視点を持てていたかは知らない。

 彼女が神楽坂(かぐらざか)明日菜(あすな)のように魔法を無効化する能力を持つ事実は存在しないので、魔法使いによる認識を誤魔化す魔法の類を弾いているとも思えない。

 

 では、なぜそのようなメタメタな視点を持つようになったかというと……ネット中毒だからじゃないだろうか。私の勝手な予想だけど、ネット経由で世間の常識でも学んでいたんじゃないかな。彼女、リアルではぼっちだから。

 ちう様は中学三年生時点でパソコンを相当なレベルで使いこなしているので、小学四年生の現在でもネットに触れている可能性は高い。

 

 そんなちう様だが、麻帆良の非常識を目にしてはイライラしている様子をしばしば見かけるようになった。

 ネギま最大の推しキャラが苦しむ様子……正直放っておけない。

 

 なので、私は行動することにした。

 ちう様とメタ視点を共有するために。

 

 

 

◆4 千雨に魔法をバラすまで

 

 私は空を飛んでいた。魔法ではない。天狗の力だ。

 私が持つ天狗の力は、空を飛び、風を操り、人から見えない隠密状態になる。

 

 スマホゲーム的に言うと、敵の遠距離攻撃の対象にならず、空を飛び敵を足止めしない、敵の移動速度を下げる遠距離物理攻撃持ちだ。

 この力を使っている最中は、背中から黒い翼が生える。プリチーだね。せっちゃんへの色黒マウントに使えそう。

 

 そんな天狗状態の私は、ちう様が下校する様子を上空から監視していた。

 小四女子の下校をストーキングするなど、時代が時代なら事案になっていただろうけれど、私も小四女子なのでセーフ。

 

 監視開始から一週間が経過したが、今のところ何も起きていない。

 予定なら、ちう様と一緒に麻帆良の不思議を目撃してお近づきになるはずだったのだけれど……この都市、意外と異常が起きないな?

 まあ、小学生の足で登下校できる程度の短い通学路で、そうそう事件なんて起きるものじゃない。うーん、インパクトのある異常を共有しようとしたのが間違いだったかな。

 

 と、そんなことを思っていたとき、視界の隅から多脚戦車的なロボットが車道を爆走してくるのが見えた。

 おっ、これは来たかも。

 明らかに暴走しているロボット。そして、それを追う広域指導員らしきスーツの男性。

 

 よしよし、これをちう様の前に出現させるよう、風を操って……。

 

 やがて、暴走ロボットが下校中のちう様達児童達に迫る。

 私は児童達にロボットが衝突しないよう、風を操りつつ、広域指導員を追い風で誘導する。

 

 そして、児童達の目の前に広域指導員が立ちふさがり、暴走ロボットが静止した。

『気』を使ったのだろうか。広域指導員のパンチ一発でロボットの装甲が貫かれ、煙を吹き出しながらロボットは破壊された。

 

「うおー、先生すげー!」

 

「デスメガネだ!」

 

「デスメガネー!」

 

 えっ、あれ高畑先生なの? ネギ先生の前任だった原作クラス2年A組の担任教師。

 はー、二次元のおっさんが三次元になると、あんな顔になるんだね。いや、今はおっさんというか青年だけどね。若デスメガネ。

 

「パンチ一発で車よりでかいロボットを止めるとか、おかしいだろ……!」

 

 おっと、ちう様のことを忘れるところだった。

 私は急いでちう様の背後に着地し、背中の羽をしまって、ちう様に話しかける。

 

「そうですね。一歩間違えれば児童の列にロボットが衝突していましたし、そんなロボットを一撃で破壊するとか、尋常ではないですね」

 

 私がそう背後から話しかけると、ぎょっとした顔でちう様が振り返る。

 子役として売り出せるレベルの美少女顔だ。伊達メガネはしていない。

 

「な、なんだあんた」

 

「いえいえ、あなたの独り言が聞こえてしまったものでして。みんなスルーしてますが、大事故ですよね」

 

「お、おう。そうだな。確かに、あのロボットがこっちに飛び出していたら……」

 

 ちう様は顔を青くして身体を震わせる。

 すると、周囲で私達のやりとりを聞いていたのか、同級生達が口々に言い始める。

 

「長谷川ちゃん、おおげさー」

 

「通学路はデスメガネがいるから大丈夫なんだぞ!」

 

「ロボットなんてデスメガネがパンチ一発だ!」

 

 そんな児童達の態度に、ちう様はしかめっ面をして反論する。

 

「いや、こんなでかい鉄の塊をパンチ一発って、おかしいだろ」

 

「おかしくないよ!」

 

「デスメガネはこういきしどーいんなんだぞー」

 

 そう言って、児童達はちう様から興味をなくし、動きを止めたロボットに群がりだした。

 

 おわかりだろうか? この現象。

 これぞ、悪名高い麻帆良の認識阻害結界によるもの……ではない。

 

 前世で読んだネギまの二次創作小説では、麻帆良学園都市に認識阻害結界が張られているという設定をよく見たものだ。しかし、実はこの結界、原作漫画を確認しても出てこなかった。

 スマホに入っていた原作十六巻によると、麻帆良にある学園結界は高位の魔物・妖怪の類を動けなくするものであり、大電力を消費して作動している。

 つまり、この児童達は別に魔法的な誤魔化しを受けてこのような発言をしたわけではないということだ。

 

 麻帆良の住人だから感覚が麻痺しているのだろうか。

 その可能性もあるが、ここでもう一つ原作のエピソードを見ていこう。

 

 それは、原作五巻の修学旅行編。京都のシネマ村にて、敵が魔法の秘匿を考慮せずに、符術で百鬼夜行を呼び起こしたことがあった。

 道ばたに大量のあやかしが呼び出され、空を飛んで縦横無尽に駆け巡った。

 この異様な光景を見た観光客達は、シネマ村のアトラクションと勘違いし、スゴイCGだと驚くだけで済ました。

 

 ここから分かるとおり、麻帆良以外の人間も異常を異常と気づかない性質を持っている。

 つまりはどういうことか。それはすなわち……この世界の住人は、細かいことを気にしないギャグ漫画属性の人間ばかりなのである!

 

 そんなことあるかいな、と言いたくなるかもしれないが、ここは前世の地球ではない。

 前世の地球よりランクが低い創作の世界であり、物理法則の他にギャグ漫画の法則とかラブコメ漫画の法則とかが流れていても何もおかしくないわけだ。

 

 そして、ちう様は細かいことを気にする、メタ視点持ちのツッコミキャラクター属性を持っていると思われる。

 今も、児童達に自分の言葉を否定されたことを気にして、ぶつぶつと小さな声で何がおかしいかをつぶやき続けている。

 

 ギャグ漫画時空でツッコミキャラの宿命を背負った少女。

 その字面だけを見たら、ちょっと面白い子かなと思うかもしれない。

 でも、私は知っている。彼女は、いずれ伊達メガネという他者との壁を用意しないと、まともに人と会話ができなくなるほど心に傷を負ってしまうことを。

 

「大丈夫ですよ。この状況がおかしいことは、私も気づいています」

 

 だから私は、彼女に手を差し伸べた。

 うつむいていた小さな少女は、ゆっくりと顔をあげる。

 

「四年生の刻詠リンネと申します。あなたのお名前は?」

 

 反射的にだろうか、私の差し出した手を握ったちう様は、疑い深い顔で私に応える。

 

「……四年の長谷川千雨だ」

 

 ストーキングから始まった私達の出会い。

 それは少しの時を経て、『麻帆良の不思議を探す同好会』として形となる。

 




※なお、高畑先生はこの時点で二十五歳の教員です。ダイオラマ魔法球での特訓のせいでやや老けて見えますが。

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