【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆33 出席番号33番
「えーと、皆さん、来週から僕達3-Aは、京都・奈良へ修学旅行へ行くそーで……! もー、準備は済みましたかー!?」
「はーい!」
そんなやりとりで、朝のホームルームが始まった。
修学旅行一週間前とは思えないやりとりだが、ネギくんは担任とはいえどその業務のいくらかは元担任の高畑先生が、今でも担っている。
だから、修学旅行についてギリギリまで知らなくてもなんとかなっていたのだろうね。
「それと皆さん、今日はなんと、うちのクラスに転校生がやってきます!」
「えーっ!?」
と、そんなことを唐突に言い出したネギくん。
突然の宣言に、クラスはざわめきに包まれていた。報道部の朝倉さんなんかは、聞いてないよって感じで唖然としている。事前に情報をつかめなかったんだね。
まあ、実のところ、私にとっては驚きの事実ではなかったりする。
「では、
ネギくんが廊下側に向けてそう告げると、教室のドアを開けて転校生が姿を現した。
この学校とは違う黒いブレザーの制服に身を包んだ女の子。黒髪を長く伸ばしており、頭には花のワンポイントがついたヘアバンドを着けている。
その女の子は、緊張した様子でネギくんの横に立つと、黒板の方を向きチョークを手にする。
そして、黒板に自分の名前を書いていった。
「……
水無瀬小夜子。実はこの子が3年A組に来たのは、私の差し金だったりする。このクラスに転校してくる前から、彼女とは知り合いなのだ。
「よろしくー!」
クラスの皆が、水無瀬さんに向けて一斉にそう言った。
そこから、3年A組の生徒達からの怒濤の質問が始まった。
「部活動はどこか入る予定ある?」
「趣味が占いだから、できれば『占い研究会』というところに入りたいわ」
「おお、ウチと同じとこやな。よろしゅうなぁ」
「うん、よろしくね」
占いか。彼女の来歴を考えると、納得だ。彼女は麻帆良の魔法生徒で、ネクロマンシーを得意とするネクロマンサーだからね。
ネクロマンシーとは、死者の霊を呼び出して占いをする魔法のことだ。
「その制服、麻帆良にある学校の制服だよね? なんで同じ麻帆良で転校してきたの?」
「えっと、前の学校ではいじめにあっていて、それで転校することになったの」
「ええっ!?」
「いじめとか許せない!」
「水無瀬さん、前の学校の人に何かされたら、私達に言ってね!」
「大丈夫。いじめは、リンネさんに解決してもらったから……」
「刻詠? ちょっと、刻詠どういうことさ!」
おっと、こちらに矛先が向いたぞ。
「ちょっとスマホで、教師ぐるみのいじめの現場をフルで撮影して、学園長に提出しただけだよ」
「何その行動力!?」
「フルで撮影とか、やっぱあんたのケータイ、性能すごすぎ」
「他校のいじめの現場を押さえるとかどうなっているのよ……」
いや、ねえ?
「ねえ、来週の修学旅行には一緒にいけるのかしら?」
「前の学校で積み立てていた資金をそのままスライドさせるらしいから、行けるみたい」
「じゃあ、班を決めないと!」
「えっと、リンネさんと同じ班が安心かな……」
「あー、そうなるよね」
これで、私の修学旅行の班は、私、ちう様、古さん、キティちゃん、茶々丸さん、水無瀬さんの六人になった。
水無瀬さんは魔法生徒の一人なので、親書と近衛さんをめぐる魔法関連の事件にも、班単位で問題なく絡むことができる。
その後もいくつか質問が飛び交い、やがて授業の時間が近づいてきたのでネギくんが止めた。
「放課後に女子寮への入寮となるので、皆さん手伝ってあげてくださいね! では、一番後ろの空いている席についてください」
「うーん、リンネさんの隣がよかったけど、仕方ないかぁ……」
そんな言葉を残して、水無瀬さんは教室の一番後ろの席に着いた。
そして、一時間目の授業が終わって、休み時間が来た。
水無瀬さんの周りに生徒達が集まって、人だかりになる。私は、その輪に加わらず、離れたところでちう様とキティちゃんの三人で集まった。
「まさか、水無瀬小夜子とはな。いつの間に手を出していたのだ」
キティちゃんが面白そうな顔をしながら、私に向けて言った。
「前々から定期的に確認はしていたんですよね。本格的にいじめが発生したのが、今年の四月からだっただけです」
「言ってくれれば、私も解決に手を貸したのになぁ」
ちう様がそう言うが、一人が都合よかったのだ。
「徳を積む絶好のチャンスだったので」
「ああ、貴様にはそれがあったな……」
「お前はそーいうヤツだよな……」
てへっ。
さて、水無瀬さんであるが、彼女がいじめられることをほぼ確定の事実として私は知っていた。
私のスマホには、予言の書『UQ HOLDER!』がある。その中に、水無瀬さんが登場しているのだ。
未来の麻帆良学園都市であるアマノミハシラ学園都市を舞台とした事件に、彼女は悪霊として登場していた。彼女の死は、いじめの類が原因であると察せられる。
自殺か他殺かは不明だが、彼女の墓には命日が『SEP 23 2003』と刻まれていた。今年の九月二十三日である。
そして、生誕日が『JUN 30 1988』とあった。没年は十五歳。中学三年生。
つまり悪霊水無瀬小夜子は、ネギま原作の3年A組一同と同年代だったのだ。
「しかし、修学旅行の班に追加か……」
「おそらく、あれ関連の生徒だから大丈夫だろ」
それぞれキティちゃんとちう様がそんなことを言う。二人とも予言の書を読んでいるので、彼女の存在は当然、知識にある。
ちなみにいじめをしていたのは、魔法と関わり合いのない一般生徒と一般教師。
魔法でいくらでも反撃できたのに、それをしなかった水無瀬さんは我慢強いよね。我慢強すぎて死んでしまうんだから、理性が強ければいいってわけでもないけど。
「まあ、分かった。水無瀬小夜子は私達の班に受け入れよう」
そうキティちゃんが言うが、そんな彼女に私は一つ言うことがあった。
「ああ、そのことなんですけど、さらに追加で一名、修学旅行のうちの班に入れますね」
私は、教室の左角にある空いた座席を指出してそう言った。
一番前の席なのに、誰も座らない不自然な席。だが、本当は一人の少女が今も座っているのだ。
それは、幽霊の女の子。『UQ HOLDER!』における水無瀬小夜子と違って、悪霊ではない麻帆良学園本校女子中等部の地縛霊。
「相坂さよさん。彼女も修学旅行に連れていってあげましょう」
水無瀬さんはネクロマンサーだ。それも、占いをするだけの凡庸な術者で終わるような存在ではない。その才能は『UQ HOLDER!』にて、感染型のゾンビ化魔法を操って、地球人類を滅亡させかけたくらいである。
稀代のネクロマンサーがいるなら、善良な地縛霊を連れ出すくらい、可能だよね?
◆34 出席番号1番
修学旅行を前にした日曜日。旅行用の最後の買い物を終えた私は、水無瀬さんをともなってエヴァンジェリン邸へとやってきていた。
エヴァンジェリン邸には、ちう様と古さんも集まってきている。キティちゃんが集合をかけたのだ。
水無瀬さんは、魔法社会に悪名とどろく
そんな緊張をほぐすためにも、私は水無瀬さんに話を振りつつ、今日あったことを話していく。
「ほう、いじめの主犯が厚顔無恥にも、そやつの前に顔を出したと」
キティちゃんが、緑茶を飲みながら私の話にそう問い返してきた。
「うん、偶然を装っていましたけど、あれは知り合いの伝手を使って探し当ててきた感じでしたね。そうでしょ、ちう様」
「ああ、電子精霊に探らせたが、メールのやりとりは確認済みだ。停学を食らった恨みを晴らそうとしていたようだな」
「逆恨みではないか」
主犯の愚かさに、キティちゃんはあきれ顔。
「逆恨みだから、買い物に同行していたうちのクラスの女子達に、口でボコボコにされていましたよ」
「ああ、3-Aの面子は、いじめの類は嫌いそうだからな」
「で、うちのクラスのメンバーから連鎖的に伝わって、麻帆良中の女生徒がその主犯達の所業を知ることになりました。これはもう、社会的な制裁ですね。私も向こうの学校に、停学中の生徒が水無瀬さんの所に御礼参りに来たって知らせておきました」
やり過ぎと思う人もいるかもしれないが、私が介入しなかったら水無瀬さんは九月に死んでいたし、死んだ水無瀬さんは何十年も悪霊として殺人を繰り返した後に、人類を滅ぼそうとする。それを考えたらこの程度どうってことはないのかもしれない。インガオホー。
「正直、気分がスッとしたわ」
初めて会ったときとはだいぶ表情が変わった、水無瀬さんであった。
さて、そんな感じで雑談は終わり。キティちゃんがあらためて、今日このメンバーを集めた理由を話し始めた。
「新顔が二名いるので、最初から話していくが、修学旅行の予定と方針についてだ」
キティちゃんが、水無瀬さんと、彼女の前のテーブルに置かれた人形を見る。
ぬいぐるみは、黒のセーラー服を着た白髪の少女を模した三頭身の人型。その内部には、スマホの中に住むネクロマンサーが作った触媒が納められている。その触媒には、3年A組の教室から連れ出した相坂さよさんが憑依していた。
「相坂さよは、この麻帆良に魔法使いがいることは知っているな?」
『はい、ときどき見ますねー』
ぬいぐるみからそんな声が聞こえる。ぬいぐるみには発声器官などついていないのだが、水無瀬さんの術式のおかげで声が出せるようになっている。
「この麻帆良の魔法使いは、おおよそ関東魔法協会という組織の傘下にある。一方で、修学旅行で行く京都には、関西呪術協会という別の組織が存在している。この二つの組織は、すこぶる仲が悪い」
『ふむふむ』
「闇の福音が、そんな関西呪術協会のお膝元に行っていいのかしら……」
水無瀬さんがそのようなことを言うが、キティちゃんはなんてことない風に答える。
「私に賞金を懸けていたのは魔法世界で、私の悪名が知れ渡っているのも、魔法世界を中心とした魔法社会でのことだ。日本土着の組織である関西呪術協会は、それらには関係ないよ」
「なるほど、そういうこと……」
「さて、話を続けるぞ。今回の修学旅行にあたって、ネギのぼーやが、関西呪術協会への親書を届ける役割を与えられている」
ネギくんか。水無瀬さんは彼について、「噂には聞いていたけれど、本当にいるとはびっくり」とか言っていたね。
「学園長のジジイからは、さりげなく手助けしろとは言われたが……私は特に何もするつもりはない」
「アイヤ、相変わらずネギ坊主に厳しいアルネ」
先ほどまでパクパクと茶菓子を食べ続けていた古さんが、そんなことを言った。
「厳しいくらいが一番伸びるんだよ、あのぼーやは」
「というか、ネギ坊主の助けをして、私に戦う機会をくれる約束だったアルヨ?」
「心配するな。機会はある。親書の件とは別に、今回の修学旅行で、3-Aのクラスメートである近衛木乃香をかどわかそうとする動きがあることが、とある筋から寄せられた」
とある筋(予言の書)ですね分かります。
「私達はこちらを対処する。リンネを窓口にして、そこから随時こちらの戦力を必要に応じて送り込む形でいく」
「リンネ、私に敵を振るアルネ!」
「まあ、機会がありましたら」
古さん、戦いに飢えているなぁ。まあ、修行のメンバーもずっと固定されがちだから、仕方ないんだけど。
スマホの中から出てきて修行の手伝いをしてくれる人が、固定メンバーになっちゃっているんだよね。これも、スマホの中の住人が、スマホの中で勢力間交流を始めちゃって、現世にあまり興味を持たなくなったせいだ。
「あの……私も戦力にカウントされているのかしら?」
水無瀬さんが、おずおずと手を上げながらキティちゃんに向けてそう言った。
「いや、お前は相坂さよを守っていればそれでよい。この短期間では、相坂さよを霊的に守る用意がさほどできないからな」
「その役目なら問題なくできそうね」
『水無瀬さん、よろしくお願いしますねー』
「ええ、よろしく。寺社で
ああ、相坂さんって幽霊だから、寺社の多い京都・奈良ではうっかり祓われる危険性があるのか。盲点だったなぁ。
「今回、相坂さよは、修学旅行へその人形に入れて連れていくことになるが……その後はどうするつもりだ、リンネ」
キティちゃんにそう問われ、私は勝手に決めていた予定をここで初めて披露する。
「現在、特製の人形を作成中です。最近私のお知り合い達が技術交流とかやっていまして……そこに幽霊を取り憑かせて動作する人形を作れないかって、発注してみたんです。そうしたら、快く受けてくれまして」
私のお知り合いとは、当然スマホの中の住人である。
王国のくぐつ使い達がメインになって、カルデアからはダ・ヴィンチちゃんとガラテアが協力。さらに機械的な仕組みに関しては、オラクル船団のアークス研究部がハイキャスト技術を提供するらしい。
「なにっ! 特製の人形だと……!」
おおっと、人形遣いであるキティちゃんの興味を引いてしまった。
「私も参加させろ……!」
「いやあ、基本的に外に出ない人達ですから。キティちゃんは中に行けないですし、結果だけ見て満足してください」
「くっ……」
現世の人間は、スマホの中に入れない。私ですら不可能だ。一度くらいは行ってみたいものだけど、無理なんだよね……。
「よかったな、相坂。お前の身体を作っているそうだぞ」
『嬉しいですー』
ちう様に話を振られて、相坂さんが本当に嬉しそうな声音でそう言った。ぬいぐるみなので、表情は変わらないが。
そんなこんなで、話し合いは終わった。
修学旅行の方針を要約すると、近衛さんを私が中心になりほどほどに守って、ネギくんの方は放置。ネギくんは過酷な戦いを強いられるだろうが、今後の成長のためには必要な試練、か。
別にここで伸ばさなくても、どこかで帳尻を合わせるように成長する子だとは思うんだけど、キティちゃんはビシバシ鍛えるつもりのようだ。
鍛えると言ったら、水無瀬さんはどうしようか。私達の仲間に引き込むか、普通の魔法生徒として距離を取るか。
スマホの中には、ネクロマンサーは何人もいるから鍛えようと思えばできるけど、彼女が戦いを望んでいるとは限らない。というか、普通に考えたら戦いからは遠ざかりたいと思うだろう。
そう考えると、彼女を鍛えるためにスマホの中のネクロマンサー達と連絡を取る必要はない、か。
修学旅行では、スマホの中から人を呼び出せるということは、彼女に隠した方がいいのかなぁ? などと私は頭を悩ませるのであった。