【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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●修学旅行
■12 楽しい修学旅行


◆35 新幹線の車窓から

 

 修学旅行当日。朝の集合場所は麻帆良内の駅ではなく、新幹線が出る埼玉県の大宮駅だ。

 約十五年間生きてきて電車にもそれなりに乗ったが、麻帆良周辺以外の路線は特に前世の日本と変わりないようだった。

 少なくとも、関東周辺は麻帆良のある埼玉県以外は、そのまんまだった。

 

 修学旅行一日目の午前は、京都までの移動に費やされる。

 まずは大宮駅から東京駅まで約一時間。次に乗り換えで、東京駅から京都駅まで約一時間半の移動だ。

 

 集合時間の三十分前に大宮駅へと着くと、すでにクラスメートの多くが駅に集まっていた。

 その中でも、ネギくんはハイテンションであちこちフラフラとしている。私は、クラスメートと挨拶を交わした後、スマホをいじってゲームのスタミナ消費作業に没頭。気がつけば、集合時間が過ぎて点呼が始まっていた。

 

 さて、私達3年A組の修学旅行の班分けは、以下の通りだ。

 

 1班:絡繰 古 刻詠 長谷川 マクダウェル 水無瀬 (相坂)

 2班:綾瀬 神楽坂 近衛 早乙女 桜咲 宮崎

 3班:長瀬 鳴滝(姉) 鳴滝(妹) 超 葉加瀬 四葉

 4班:春日 那波 村上 雪広 レイニーデイ

 5班:朝倉 柿崎 釘宮 椎名

 6班:明石 和泉 大河内 佐々木 龍宮

 

 六人の班と四人の班がいるのは、思いのほか三人組を作る生徒達が多かった故だ。

 本来なら5班に転校生の水無瀬さんが入るべきだったんだろうけど、転校直後の旅行なので、知り合いの私と組ませた方がよかったのだろうね。

 

 しかし、この班構成と、この旅行で起きる事件のことをいろいろ考えていくと……雪広さん、ネギくんのパートナーになったばかりなのに、早速事件に関わり合いになれそうにないね!

 雪広さんも一般人である他の子達を巻き込んでまで、事件に顔を突っ込むようなことはそうそうしないだろう。まあ、春日さんとレイニーデイさんは、実は魔法関係者なんだけどね。

 

「京都楽しみネ!」

 

 1班で固まって新幹線に乗った私達。椅子を前後に回転させて、六人で向かい合って座る。すると、早速とばかりに古さんは、おやつの肉まんを取り出して食べ始めた。

 朝食は食べてきたのかと聞いたら、始発で来たので寮では食事をしてこなかったらしい。仕方ないので、私とちう様は、お菓子を取り出してシェアすることにした。

 

『はわー、もうこの時点でワクワクしてきましたー』

 

 水無瀬さんに抱えられているぬいぐるみの相坂さんが、本当に楽しそうに言う。

 

「お菓子を分けてあげられないのが残念だわ」

 

 水無瀬さんが、ぬいぐるみの頭を撫でながら言う。ちなみに相坂さんはぬいぐるみに触れられても特に感触はないらしい。まあ、ぬいぐるみに取り憑いているわけじゃなくて、中に入っている触媒に取り憑いているだけだからね。

 

「作成中の人形は味覚も搭載してあるので、楽しみにしていてくださいね」

 

 なんかスマホの中の人達が、めっちゃ張り切っていたよ。

 

『わあー、ありがとうございますー』

 

「よかったですね」

 

 飲食が可能で、味覚もあるというロボットの茶々丸さんが、薄らと笑みを浮かべてそう言った。

 その横では、キティちゃんもニッコリと笑っていた。

 

 この真祖の吸血鬼、普段はクールを装っているが、想像以上に3年A組に心を許している。クラスメートが誘ったらボウリングも行くし、カラオケだって行きやする。登校地獄の呪いがかかっていないこともあって、嫌々学生生活を送らされているという気分がなくなったからかねぇ。

 

 そんな感じで、楽しくおしゃべりしているうちに東京駅へと到着。慌ただしく乗り換えを行なって、また歓談タイムだ。

 お菓子を食べつつ騒いでいると、遠くの方で、お弁当販売のお姉さんがネギくんをカートでひいているのが見えた。

 その彼女を私はこっそりと観察する。

 すると、わずかに感じる魔力の気配。やはり来たか。関東と関西の講和を拒否する、過激派一派。

 

 私はカートを押して去っていくお姉さんの顔をしっかりと覚えた。

 そして、突如車内に、小さなカエルが大量にあふれかえった。

 

「ぬあっ、何アルか!? 敵の攻撃アルか!?」

 

 古さんが咄嗟に目の前に飛び出したカエルを握りつぶした。

 すると、カエルはポンという音と共に煙をあげて消え去る。

 

「むむむ、これは……」

 

 古さんが手を開くと、そこには文字が書かれた小さな紙片が。

 

「陰陽師か何かの式神でしょうね。まあ、多分危険性はゼロです」

 

 私がそう告げると、水無瀬さんは首を傾げて言った。

 

「嫌がらせってこと? なんの意味が……」

 

「それは、あれですね」

 

 私はカエルにあわてるネギくんを指さした。すると、彼が懐から取り出した親書目がけて、一羽の燕が飛来した。燕は、そのまま親書を咥えたまま車内の奥へと飛んでいく。

 それを慌てて追いかけるネギくん。

 

「あれは……!」

 

「不味いアル!」

 

「大丈夫ですよ」

 

 水無瀬さんと古さんが立ち上がるが、私はそれを押しとどめるようにして席に着かせた。

 そして、しばらくしてネギくんが親書を手に持って、奥から戻ってくる。その後ろには、人が一人同行していて……。

 

「ありがとうございます、お兄さん。大事な物だったんです」

 

「ふむ。大事なら、しっかりとしまっておくことだ」

 

「はい、そうします」

 

 ネギくんに同行していたのは、白髪褐色肌の男性だ。

 

「あれっ!? 桜咲じゃねえ!」

 

 黙って事態の行方を見守っていたちう様が、驚いたように叫んだ。

 

「え? 私が何か?」

 

 近衛さんにまとわりつくカエルを引きはがしていた桜咲さんが、不思議そうにこちらに振り返る。

 

「あ、あれえ?」

 

 ふふふ、ちう様、不思議そうだね。確かに原作のこのシーンでは、奪われた親書を取り戻すのは桜咲さんの役目だ。

 でも、今の桜咲さんは原作とはポジションが違う。近衛さんに付きっきりのガードマンなのだ。偶然席から離れて、親書を取り戻せるような位置にはいないのだ。

 

 やがて、ネギくんに同行していた男性は、こちらへと歩いてきて、一瞬笑みを浮かべながら私達の席を通り過ぎた。

 その様子を見て、キティちゃんが半目になってこちらを見てきた。

 

「貴様の差し金か、リンネ」

 

「保険として配置しておきました」

 

「ぼーやに関しては、手助けせんと言ったのに、全く……」

 

「まあ、最初の一回くらいは、ね?」

 

 そう言って、私はカエルを集める作業を開始した古さんの手伝いをするため、席を立った。

 しかし、本当に保険として配置していたサーヴァントが役に立って、よかったね。

 

 ありがとう、正義の味方エミヤマン・アーチャー!

 

 

 

◆36 ファンタシースター

 

 京都に着いてからも、関西の過激派一派によるいやがらせは続いた。

 

 恋占いの石では浅めの落とし穴があり、生徒達が落とされた。音羽の滝では滝に酒が仕込まれており、生徒達が酔い潰れる事態に。私は滝で薄めた酒とか飲みたくないので、飲むのは遠慮しておいた。

 そして、旅館では近衛さんをさらおうと、猿の式神が多数、温泉の更衣室に出現したらしい。

 

 私はそのことを旅館のロビーで、ネギくんから報告を受けていた。雪広さんと神楽坂さん、そして桜咲さんも同席している。

 

 ネギくんの説明が終わったところで、私は近衛さんをさらおうとしている勢力がいることを説明。

 

「お嬢様を狙っているだと……!」

 

 桜咲さん激おこ(未来の死語)である。

 

「エヴァンジェリン先生に言われて、近衛さんの護衛に加わりますので、よろしくお願いしますね」

 

「おお、あんたが仲間に加わってくれるなら、頼もしいぜ!」

 

 オコジョ妖精のカモさんが、そんなことを言うが、ちょっと待ってほしい。

 

「私達エヴァンジェリン先生と愉快な仲間達が手を貸すのは、近衛さんの護衛だけです。親書は自力で頑張ってくださいね」

 

「嬢ちゃん、そりゃないぜ!」

 

「エヴァンジェリン先生の指示ですので」

 

「くそー、あれが相手なら強くも言えねえ」

 

「カモくん、木乃香さんを守る人が増えたことだけでも十分ありがたいよ」

 

 そんなネギくんに、私は言う。

 

「そうですね。ネギくんは、親書を届けることに専念してくださればいいかと」

 

「いえ、生徒の危機なんです。僕も手伝えることは手伝いますよ」

 

「そうだ、兄貴、嬢ちゃん。仲間になったなら、いっちょ一発パクっとくか?」

 

「ええっ!」

 

 カモくんの仮契約(パクティオー)宣言に、ネギくんが慌てる。

 

「んまあ! ネギ先生の純潔をなんだと思っているのです!」

 

 黙って話を聞いていた雪広さんが、目をつり上げて怒り出す。

 

「待て待て、あやかお嬢ちゃん。兄貴の戦力は、少しでも多い方がいいだろ?」

 

「うぐっ!」

 

 いや、ちょっと待て。

 

「なんだか、私が仮契約をする感じになっていますが、しませんよ?」

 

「えー。嬢ちゃん、そりゃないぜ。アーティファクト欲しくねえのかい?」

 

「私、不思議な道具は山ほど持っていますので。追加で何か与えられても、使いこなし切れません」

 

 私はスマホを手元に呼び出して、中から『ファンタシースターオンライン2 es』のソード、ライフル、ロッドを取り出してみせる。旅館の他の人に見られることはない。

 それを見た神楽坂さんが呆れたように言う。

 

「リンネ、あんたねー。これ、銃じゃないの」

 

「実弾は入っていませんよ。私以外は撃てないので安心安全です。フォトンというエネルギーを撃ち出す、一種のエネルギーガンですね」

 

「何それ? SF?」

 

「SFですね」

 

「魔法はどこいったのよ……」

 

「明日菜さん、こちらに杖がありますので、この杖で魔法を使うのでは?」

 

 雪広さんが、ロッドを手に取りながら言った。

 だが、それは魔法の発動体にはならないんだよね。

 

「それは、フォトンを用いて魔法に似た現象を引き起こす、いわば科学魔法用の杖ですね」

 

「科学魔法……そんなものもあるのですね」

 

「ええっ、僕、そんなの聞いたことないですよ」

 

 ネギくんが何やらショックを受けているが、そりゃあ聞いたことがないだろう。この世界で、私しか使えないんだから。

 何せ、この宇宙は大気中にフォトンが存在しないからね。身体からフォトンを発するアークスの力を引き出せる私じゃなければ、科学魔法(テクニック)は使えないだろう。

 

「こちらは両手剣ですか……刻詠さんは剣も使えるのですか?」

 

 大太刀を武器として使う桜咲さんが、ソードを見ながら興味深そうに言う。

 

「手札を増やすために、武器は一通り練習していますよ。その分だけ器用貧乏になりがちなので、専門が少ない古さんには、もう格闘戦では勝てなくなったわけです」

 

「なるほど、武器をいっぱい持っているから、アーティファクトはいらねーってことか。くー、嬢ちゃんなら、いいのが出ると思ったんだけどな!」

 

 カモさんは、仮契約の仲介料が欲しいだけだよね? まあ、私には追加の道具は不要だ。

 その後、桜咲さんも仮契約を勧められたが、桜咲さんはキスを恥ずかしがって保留にすることとなった。

 

 というわけで、この場は解散となり、ネギ先生は外へ見回りに。桜咲さんと神楽坂さんは、近衛さんに付きっきりの護衛に。私と雪広さんは、廊下の見回りに行くことになった。

 

 

 

◆37 ミッション:近衛木乃香を取り戻せ!

 

 見回りを始めてから、しばらく後……。

 

「こらー! 待ちなさい!」

 

「待てっ!」

 

「待てと言われて待つ人はおらんでー」

 

 そんな声が、トイレの方角から聞こえてくる。どうやら、敵に侵入されているようだ。

 私は、雪広さんを置いてダッシュ。すると、廊下の向こうから猿の着ぐるみが、近衛さんを横抱きにして駆けてくるのが見えた。着ぐるみの口の部分からは顔が見えていて、明らかに新幹線で見たお弁当売りのお姉さんの顔だった。

 

「む、一般人かいな」

 

「通しませんよ」

 

 私の横を素通りしようとした女の頭部を私は、スマホから取り出したソードで斬りつけた。

 

「ぐっ! なんやそれ、光る剣とか一体どこの流派や!」

 

 ソードをギリギリのところで回避した猿の女が、こちらから距離を取りながら叫ぶ。それに対して、私は適当に答えた。

 

「はてさて、アークス流でしょうかね」

 

「なんや、外人の一派かいな。貴様も関東魔法協会か」

 

「協会に入った覚えはないですね。クラスメートの危機に参上した義勇兵です」

 

「なんか知らんが、邪魔するなら怪我するで! お札さん、お札さん……」

 

 と、やりとりをしている間に、神楽坂さんと桜咲さんはとっくに追いついていて、背後から襲いかかる機会をうかがっている。

 そして、私の背後から雪広さんが追いついてきた。

 

 だが、相手はすでに符術を発動する体勢だ。

 

「ウチを逃がしておくれやす!」

 

「はあっ!」

 

 私は踏みこんで、相手の頭部に斬りつけた。胴体部分は近衛さんが抱えられているので、頭を狙うしかなかった。

 殺傷力を抑えた一撃は、相手の着ぐるみの頭部を切り飛ばした。しかし、相手はとっさに首をすぼめたのか、着ぐるみだけの切断に終わってしまった。

 

 そして、札が発動し、廊下に猿の式神があふれかえる。

 その猿達は、一斉に私達へと襲いかかってきた。

 

 それに対するこちらは、四人。式神の方が数的に有利だが、その一体一体は、さしたる脅威ではない。

 他に三人も頼もしい仲間が居るので、私は相手に抜けられないよう壁役メインで頑張るとしよう。ちょうど敵から見て、旅館の入口方向に立っているからね。

 

「アデアット!」

 

 神楽坂さんが、パクティオーカードからハリセンを取り出して、それを式神の猿に振るう。すると、一瞬で式神が消滅した。

 

「わわっ、なにこれ!?」

 

 倒した本人の神楽坂さんが逆に驚いてしまっている。そんな彼女に、私は叫ぶ。

 

「神楽坂さん、そのハリセンなら猿は一撃です! その女の着ぐるみにも有効かも!」

 

「なっるほど!」

 

 神楽坂さんは、それを聞いてハリセンを大きく振り回しながら猿の群れに突撃した。

 

「こういうときは、武器のアーティファクトがうらやましいですわ、ねっ!」

 

 猿の式神を一体ずつ合気で地面に投げ落としながら、雪広さんも奮闘する。

 そして、桜咲さんは狭い廊下で微妙に戦いづらそうにしながら式神を斬っている。うん、大型妖魔用の大太刀だもんね。

 私も大剣は武器チョイスをミスったので、武器種を双小剣(ツインダガー)に変更して、確実に式神を処理していく。

 

「くっ、お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」

 

 追加で、女の前後に大きな猿の式神と、熊の式神が出現した。

 そして、さらに女は札を追加する。今度は膝くらいの高さの小さな猿が大量に現れた。

 

「うあッ……!」

 

「お嬢様!」

 

 小さな猿を呼び出した瞬間、近衛さんがビクンと震えた。これは、近衛さんの魔力を使ったのか!

 

 猿の群れに突っ込むようにして、私は進む。

 正直、スマホから引き出し中の力にセットしてある必殺技(フォトンアーツ)で一掃してしまいたい。

 だが、雪広さんへのフレンドリーファイヤをしてしまう可能性があるので、うかつに必殺技を放てないでいた。

 

 私が使っている能力がMORPGの『ファンタシースターオンライン2』の力なら、オンラインゲームの仕様でフレンドリーファイヤは無効となっていただろう。しかし、私が身に宿しているのは、一人用スマホゲームの『ファンタシースターオンライン2 es』の力。フレンドリーファイヤを防ぐ仕様なんて、存在しない。

 

『刻詠リンネ。旅館に、二本の剣を持った女と犬耳の少年が近づいてきている。相手はのんびり歩いているが、このままだと旅館前で子供先生と会敵するぞ』

 

 と、旅館の屋根の上から監視させていた正義の味方エミヤマン・アーチャーから、そんな言葉が届く。

 ええい、こんなときに、京都神鳴流剣士の月詠と、コタローか! エミヤさんに当たってもらうか?

 いや、待てよ。

 

『古さん、緊急事態。旅館内で敵と交戦中。そちらは私が対処するので、旅館の外に出て敵の剣士を撃破してください。このままだと、ネギくんが斬られて死にます』

 

 念話を古さんに繋げる。彼女とは、戦いの機会を与える約束だったからね。

 

『ッ!? 了解したアル! 相手が剣士なら、宝貝(パオペイ)持っていくアルヨ!』

 

『くれぐれも殺さないように』

 

『王国の人達との全力の模擬戦で、その辺は慣れているアル!』

 

 と、念話をしている間にも、敵の式神はどんどん数を減らしていた。

 特に神楽坂さんの活躍は目覚ましく、大きな熊の式神も一撃で伸して、女の着ぐるみを破壊しようと迫っていた。

 

 こちら側も負けていられないと、雪広さんが飛び出して、大きな猿の式神の腕をつかんだ。

 だが……。

 

「ぎゃふん!」

 

 式神に一撃で叩きのめされ、地面に倒れる雪広さん。

 

「雪広さん! ネギくんの魔力供給を受けていないのですから、無理しないでください!」

 

「無念ですわ……!」

 

 すると、敵はこちらが活路になると見たのか、雪広さんを越えて大きな猿の式神を私に差し向けてくる。

 だが、さすがにそれは甘いよ!

 私は、ツインダガーをきらめかせ、式神の首を引き裂いた。

 

 そこからさらに連撃を加え、式神は紙くずへと変わった。

 

「んなっ!」

 

 こちらへと走り出していた女が、驚きの声をあげて足をゆるめる。その瞬間だ。

 

「隙有りですわ!」

 

 地面に倒れた雪広さんの合気柔術が決まり、女は仰向けに転がる。そして、女は近衛さんを腕から放した。

 そこへ桜咲さんが飛びこんできて、近衛さんを確保。彼女は勢いのままこちらにやってきて、私の背後に位置取った。

 一方、神楽坂さんはハリセンを女の着ぐるみに叩きつけ、着ぐるみを強制解除。女はとっさに札を使おうと懐に手を入れるが、追加で雪広さんの投げが決まり、その衝撃で女は意識を朦朧とさせた。

 

 さらに私は、念押しをすることにした。

 

「アプリ・テリオリ・アプリオリ」

 

 始動キーを宣言し、呪文を唱える。そして、『魔法先生ネギま!』名物のある魔法を発動した。

 

「『風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)』」

 

 着ている服ごと、女が所持している符を全て風で吹き飛ばした。

 

「うわ、リンネちゃんえげつなっ」

 

「陰陽師は符があったら術を使い放題なんですから、この手に限ります」

 

 神楽坂さんの批難するような声に、私はそう軽く返した。

 

「それで、この方、どういたしますの?」

 

 一度起き上がった雪広さんが、女の関節を極めながら押さえつけに入る。ネギくんからの魔力供給来ていないのに、また無茶してからに。

 と、そこで、私の背後から声がかかった。

 

「そのくらいで勘弁してあげてくれないかな」

 

 声の一番近くに居た桜咲さんが、近衛さんを抱えたままとっさにこちらへ跳ぶ。

 

「ああ、争う気はないよ。その女の人を返してくれるなら」

 

 そこに居たのは、銀髪の少年。

 自然体で、こちらへとゆっくりと歩いてきている。

 

「で、どうかな」

 

「応じるはずがありませんわ!」

 

 女を床に押さえつけながら、雪広さんが言う。だが、その選択はなしだ。

 

「いえ、応じましょう。どうぞお帰りください」

 

「んなっ、リンネさん!?」

 

「いや、敵を確保したって、どうすればいいんですか? 警察にでも突き出します? 魔法関係者なのに?」

 

「むぅ……」

 

「引き渡すべきこの地の魔法使いの組織は、関西呪術協会。でも、この人もおそらく関西呪術協会の所属。ほら、無意味でしょう?」

 

「確かにそれはそうですが……」

 

「それに、ここでさらに争って、せっかく達成した近衛さんの救出という成果を台無しにしてしまうのは、なしですよ。というわけで、桜咲さん、近衛さんを連れて先に退散してください」

 

「分かりました」

 

 桜咲さんは即答して、この場から速やかに去っていく。

 そして、私は雪広さんに再び視線を向けると、彼女は仕方なさそうにため息を吐いて、女を解放した。

 

 すると、女は地面に散らばった服の残骸を身体の前にあてがって、よろよろと立ち上がり少年の方へと歩いていく。

 

「では、世話になったね」

 

 少年がそう言って、私達に背を向けた。その彼に、私は軽く言葉を放った。

 

「また会いましょうね」

 

 その言葉に答えることなく、少年は無言で女をともなって、廊下の向こうに去っていった。

 

「ふう、なんとかなりましたね」

 

 私は息をついて、武装をスマホの中に転送した。

 すると、神楽坂さんも「アベアット」と唱えてアーティファクトをパクティオーカードに仕舞い、地面にへたり込んだ。

 

「私はまだ納得いっていませんわよ」

 

 雪広さんが言うが、私は首を横に振って彼女に告げる。

 

「向こうが引いてくれてよかったですよ。戦っていたら、みんな死んでいました」

 

「死ッ……。それは、桜咲さんとリンネさんもですの?」

 

「ああ、この場にいるみんなじゃなくて、この旅館にいる人みんなです。生き残れるのは、エヴァンジェリン先生だけでしょうね。それほどの相手でした」

 

 私も一回か二回くらい殺されるだろう。

 ああ、それを考えると、月詠と戦っている状態で、彼……フェイト・アーウェルンクスと遭遇するであろう古さんがヤバいな。

 

『古さん、戦闘終了です。帰還してください』

 

『了解アル。こっちは私が剣士に勝って、ネギ坊主が犬っぽい男の子と引き分けたアル』

 

『分かりました。敵は確保せずに、そのまま旅館へ。ロビーに集まりましょう』

 

 私達は眠ったままの近衛さんを抱える桜咲さんをともなって、旅館のロビーへと移動した。

 近衛さんには眠りの術を追加でかけて、朝まで眠ってもらうようだ。修学旅行一日目の夜をすぐに寝て過ごすとか、ちょっと可哀想だなあ。

 




※オリ主の始動キーについて
●アプリ・テリオリ・アプリオリ
・アプリ
スマホアプリのこと。オリ主の力の源泉。
・テリオリ
ラテン語のアポステリオリのことで、経験にもとづいて後天的に身につけた認識のことをいう。オリ主にとっての魔法の暗喩。
・アプリオリ
ラテン語で、経験に先立って先天的に身についている認識のことを指す。今世のオリ主にとっての前世の知識の暗喩。

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