【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆38 仮契約
朝食の席で行なわれた、ネギくんがどこの班に同行するかの争いは、宮崎のどかさんの勝利で終わった。
宮崎さんかぁ。私は目撃していないが、どうもネギくんが教師に就任した初日、原作通りの宮崎さん階段落下事件が発生していたらしい。手すりのない階段の横から落ちた宮崎さんが、とっさに魔法を使ったネギくんに抱き留められて助けられるという事件だ。
それをきっかけに宮崎さんはネギくんに惚れるわけだが……どうやら、この世界でも宮崎さんはネギくんに、ほの字(死語)らしい。
なお、私達1班が、宮崎さんのいる2班と同行することは、朝食の場では口にしなかった。
だって、みんなに知れ渡ったら、紛糾するのは確実だからね。同行を知る雪広さんの恨めしい顔が、ちょっと怖かった。
そして始まった、奈良での自由行動。
奈良公園ではキティちゃんが、鹿に鹿せんべいを与えながら、超ハイテンションで笑っている。動画に撮っとこ。
「怪しい人物は見かけませんねー」
そんな中、ネギくんは桜咲さんと神楽坂さんの二人と一緒に、周囲の警戒を行なっている。
まあ、昨日はあれだけ痛めつけたし、本拠地の京都ではないし、そこまで心配しすぎることもないとは思うのだが……。
そう思いながらキティちゃんにカメラを向けていると、私のそばに近づく影が。2班の
「ねえねえ、リンネっち。ちょっといい? 相談があるんだけど……」
「宮崎さんとネギくんを二人っきりにしたいという相談ですか? 構いませんよ」
「うおう、分かってたかー。それじゃあ、1班の人達を任せていい?」
「はいはい。みんな連れて、近衛さんと一緒に行動しますね」
「よろしくー」
そうして私は班員を誘導して、近衛さんを護衛するような形で売店に移動した。
だが、キティちゃんは、宮崎さんとネギくんを隔離するのにあまり乗り気ではないようだ。
「クラスメートの恋を応援してやりましょうよ」
私はそう言うが、キティちゃんは不満顔。
「ただの恋愛ごっこなら、気にも止めないんだがな。だが、ぼーやの場合、必ず
「キティちゃんは、宮崎さんの仮契約反対派でしたね」
「そうだな。アレは厄介極まりない。貴様は賛成派だったな」
「そりゃあ、仲間が増えるのは頼もしいですから」
「私だって、増えるのがアレでなければ、反対派には回らなかったさ」
まあねえ。彼女がネギくんとの仮契約で手に入れるアーティファクト。あれは、魔法による防御を越えて、心の中を覗いてくる。
つまり、予言の書の知識すら抜かれる可能性がある。彼女がその力を不用意に私、キティちゃん、ちう様の三人に使うと、秘するべき未来の重要情報がすっぱ抜かれて、第三者に拡散されてしまう危険性があるのだ。
だから、宮崎さんが仮契約した場合、私達はアーティファクトカードを封印させるか、完全に仲間に引き入れるかしないといけなくなるのだ。
「なんの話かしら?」
売店でお団子を買っていた水無瀬さんが、私とキティちゃんが会話をしているのを見て、近づいてきた。
「ええと、宮崎さん……あのネギくんと二人っきりになった子が、ネギくんと仮契約したら今後が大変だな、という話をしていました」
「確かに、一般人相手に仮契約とか、大変な事態じゃない」
「いえ、そっちはどうとでもなるのですが、仮契約したときに出てくるアーティファクトが問題なんですよ」
水無瀬さんは、私の言葉に首をかしげる。
「とある高名な方に占ってもらったのですが、宮崎さんがネギくんと仮契約した場合、読心アイテムが出てくる可能性があります」
「その占い本当なの?」
「はい。それなりに信憑性はあります。なにせ、水無瀬さんがいじめにあうことすら当てていましたから」
「えっ……リンネさんが私を助けてくれたのって、占いがきっかけ?」
「はい。未来を知ったので、助けられるなら助けようと頑張りました」
本来ならば死んでいたことは、さすがに黙っていよう。
そして、いじめ解決の嘘の真相を聞いた水無瀬さんは、ニッコリと笑って言った。
「やっぱり占いって素敵ね!」
「なんやー? 占いの話ー?」
桜咲さんと団子の食べさせ合いをしていた近衛さんが、占いというワードを聞きつけてこちらに来る。
近衛さんは占い研究会の所属だから、聞こえてしまったのだろう。
すると、水無瀬さんが、ちょっとあせったような声で近衛さんに言った。
「ええと、ネギ先生と宮崎さんの恋の行方は、どうなるかなあと……」
「ほうほう、恋占いなぁ。やっぱり占いの王道やなあ」
「うんうん、分かるわ。私は守護霊や先祖の情報をもとに占うのだけど――」
「ウチはカードと水晶玉で――」
と、専門の話をし始めたので、私はキティちゃんと一緒に少し距離を取る。
「ちなみに、茶々丸さんもネギくんと仮契約したら、アーティファクトが出るって占いには出ていますよ」
キティちゃんの背後にずっと控えていた茶々丸さんに、私はそんなことを言った。近衛さんに聞こえないよう、小さな声でだ。
「私はガイノイドです。魂が存在しないため、仮契約は不可能かと。マスターとドール契約は結んでいますが」
「いえいえ、茶々丸さん、付喪神って知っています? 大切に扱われた物品には、魂が宿るんですよ」
「神秘の世界では、そのようなことが起きても不思議ではないのですね……。しかし、私が仮に仮契約するとしたら、ネギ先生ではなくマスターが相手になるかと」
ふむ、この時点の茶々丸さんは、そこまでネギくんに惚れているわけではないのだね。まあ、まだ接点あんまりないしね。
仮契約か。
私とちう様と古さんの中で、誰かと仮契約をする可能性があるとしたら、ちう様が一番ありそうかな。
相手はネギくんじゃなくて、キティちゃんだけど。ちう様、もうキティちゃんを師匠って呼んでいいんじゃないかってくらい、付きっきりで魔法を教え込まれているからね。そのうち仮契約どころか、血を吸われて従者になっても私は驚きやしないよ。
◆39 ラブ・ラブ・ゲッチュー・ネギセンセエ
宮崎さんは無事、ネギくんへ告白したらしい。しかし、返事は聞けていない様子。
そして、ネギくんへ告白した人が出たとの噂を聞いて、雪広さんが何やら旅館でハッスルしていた。私はそれをスルーして、部屋にこもった。
そして、ここから事態が進行していくと、宮崎さんが仮契約に成功してしまうわけだが……キティちゃんが動く気配はない。
「エヴァンジェリン先生、仮契約を阻止したいんじゃなかったんですか?」
「いや、反対派だとは言ったが、阻止するとは言っておらんぞ」
「あれっ、そうでしたっけ」
うむーん、それじゃあ、読心アーティファクト『いどのえにっき』対策はどうするんだ?
「それこそ、あとで本人に選ばせればいい。ただの一般人として安寧に生きる道か、ぼーやと共に修羅へと落ちる道かを」
「それ、本人に尋ねなくてもどっちを選ぶか、分かりきっていますよね?」
もちろん、修羅の道だ。
「どうだかな。
あー、まあ、原作とは世界線が違うからね。同じように進行しているようで、実は全然違っていてもおかしくないか。
ちなみにオコジョ妖精のカモくんは、人と人の間の好感度を数値化する、ギャルゲーの親友キャラみたいな能力を持っている。
「何? また宮崎さんの話?」
部屋の奥で相坂さんのぬいぐるみと一緒にくつろいでいた水無瀬さんが、部屋の中央に陣取る私達の方へとやってきた。
「そ、仮契約の話ですよ」
「すごいわよねー、アーティファクト。私も、アーティファクト欲しいわね」
おやつのグミをもぐもぐと食べながら、水無瀬さんがうらやましそうに言った。
そんな水無瀬さんに、私は言う。
「欲しいなら、ネギくんと仮契約したら一発ですよ」
「え、いやいや、アーティファクトなんて、そうそう出ないでしょう」
「いえ、ネギくんは魔力も魔法の才能もすごいですから、仮契約すればほぼ確定で出るはずです。しかも、レア率高いですよ」
「本当に!?」
ずい、と身を乗り出して水無瀬さんが、食いついてきた。それに対し、私は「本当です」と答えておいた。
「やめておけ、水無瀬小夜子」
と、そこで制止の声を上げるキティちゃん。
水無瀬さんは一瞬むっとするが、相手が闇の福音だと思い出してとっさに身を引いた。
「ぼーやのパートナーは過酷な人生を送ることになるぞ。ぼーやは英雄の息子で、恐ろしいほどの魔法の才がある。ヤツの未来は味方も多いが敵も多く、その才能に相応しい偉業をなすために、強大な敵に立ち向かう運命にある」
「敵って、何?」
「さて、関西の呪術師か、海外の邪教徒か、魔法世界の魔法使いか。水無瀬小夜子。自らに降りかかった悪意すら自力ではねのけられなかった貴様が、他者に降りかかる災厄になど立ち向かえるのか?」
「むう……」
「はいはい、キティちゃん、あんまり水無瀬さんをいじめないの」
キティちゃんの攻めはキティちゃん初心者には可哀想なので、私が横から入って会話を中断させる。
「誰がキティちゃんか!」
いや、だってこの可愛らしい見た目は、キティちゃんと言うしかないよ。本人そこんとこ気にしているから、容姿についてはあまり口に出して言わないでおくけど。
さて、そんな感じで就寝時間までの時間を潰していると、部屋に古さんが戻ってきた。
そして、部屋の皆に向けて言った。
「ラブラブキッス大作戦アルヨ!」
首をかしげる水無瀬さんだが、私とキティちゃん、そして部屋の奥でノートパソコンをいじっていたちう様は、いろいろと察した。
古さんが、大作戦の説明をしていく。
各班から二人ずつ選手を選び、生活指導の新田先生の監視をくぐり抜けて、旅館内のどこかにいるネギくんとキスをした者が勝ち。
他選手の妨害は可能だが、武器は両手のまくらのみ。上位入賞者には豪華賞品プレゼント。
「血が騒ぐアルネ!」
「あー、古さん。これ、ネギくんのオコジョ妖精が仕組んだ、仮契約を大量成立させるための罠ですよ」
私がそう言うと、古さんは「えっ」と言って身体にまとわせていた『気』をしぼませた。
「朝倉さんが主犯だったでしょう? 多分、朝倉さんにネギくんが魔法バレしちゃったのでしょうね」
「えっ、それ大丈夫なの?」
水無瀬さんが焦ったように言うが、答えは「多分、大丈夫」だ。多分としか言えないのが、不安しかないが。
「仮契約はちょっと遠慮したいアルネ。そういうのはお婿サン候補としたいところヨ」
「ネギくんは、候補にならないと?」
「昨日、なかなか根性見せたアルが、私の理想にはまだまだ遠いネ」
というわけで、古さんは選手を辞退した。さて、1班からは誰を出すべきか……。
「よし、茶々丸、行ってこい」
キティちゃんが、茶々丸さんに指示を出した。まあ、妥当なところかな。ちう様は胸の前でバツ印を作って、拒否の姿勢だし。
となると、後は一人。私か、もしくは……。
「じゃあ、私、二人目ね」
そう言いながら、水無瀬さんが立ち上がる。
「先ほどの話を聞いても、なお求めるか?」
「いいじゃない、英雄候補生のパートナー。素敵よね。それに……」
水無瀬さんは、キティちゃんの言葉を聞き流しながら、床からまくらを二つ手に取る。
「私だって、変わりたいのよ。敵に立ち向かえる、私に」
そうして『くちびる争奪! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』が始まった。
旅館の館内放送設備を勝手に乗っ取った朝倉さんが、各部屋のテレビに館内の監視カメラの映像を生放送していた。
テレビの画面の中では、各班の選手が、まくらをぶつけ合って醜いキャットファイトを繰り広げている。
というか、すでにパクティオーカードを持っているはずの雪広さんが参戦していた。まあ彼女なら、ネギくんとキスができると聞いたら、仮契約関係なしにやってくるか。
そして、我らが1班だが、茶々丸さんはありあまるロボパワーで他班を圧倒。まくら片手に館内をうろつき回っている。
水無瀬さんは……カメラにずっと映っていないな?
「あいつ……魔法を使っているな」
キティちゃんのその言葉に、ノートパソコンから目を離してテレビに注目していたちう様が、あぜんとした。
「ずるすぎる……!」
「妨害にさえ使わなければ、ルール上はなんの問題もないだろう?」
「いやまー、そうだけどよ」
「千雨、お前は私の生徒なのだから、もっと魔法をずる賢く使うことを覚えろよ?」
『水無瀬さんさすがですー』
相坂さんはマイペースでいい子だなぁ。
『おおっとー! 早速、一人目の成功者が出たようだぞー!』
テレビから朝倉さんの声が響く。しかし、画面上には、ネギくんの偽物達が各カメラの前に出現した様子しか見えない。偽物は、おそらくネギくんが桜咲さんに呪符を借りて作った、身代わりの人型だろう。
『どうやら、カメラの範囲外でキスを成功させたようだー! 成功した選手はぁ……ななな、なんと、転校生の水無瀬小夜子ちゃんだぁー! 意外なダークホースだー!』
魔法を使った早解きかぁ……。もう企画がめちゃくちゃだよ。
やがて、水無瀬さんが他の選手達より一足先に、部屋へと戻ってくる。
「パクって来たわよ」
「キスのお味はどうでした?」
帰ってきた水無瀬さんに、私はそう尋ねた。
「そうね。ファーストキスだったけれど、青い果実を収穫してかじりついたような、爽やかな気分になったわ」
言いざまが事案過ぎる……。
そうして、ネギくんの偽物が大暴れする様をテレビで眺めているうちに、時間は過ぎていき……。
『お、おおー。二人目のキス成功者は、本屋ちゃんだー!』
どうやら、宮崎さんが、予想通りの仮契約成立となったようだった。来るかぁ、『いどのえにっき』。
はたして彼女の未来は、どうなっていくのだろうか。