【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆46 悪鬼羅刹
魔法の砲台と化しているちう様と水無瀬さんを守るために、私は前へ出て妖魔達を斬りつける。
様々な能力強化がされた攻撃は、たやすく妖魔を異界へと還していった。
「なんやこいつ、めっちゃつええで!」
「そもそもなんや。持っている武器がよう見えへん」
「幻術の武器か? 形状は……打刀か?」
妖魔達が、口々にそんなことを言う。
私の使っている武器は、風の結界によりその全容が隠されている。だから私は、相手を惑わせるための言葉を口にした。
「――さあどうでしょう。戦斧かも知れませんし、槍剣かも知れません。 いや、もしや弓かも知れませんよ」
この武器本来の持ち主にちなんだ、名台詞だ。
そして、その武器を振るい、妖魔を消していく。
だが、十体ほど異界に還したところで、武器が敵に受け止められた。
「惑わされるな。こやつの武器は、両手剣。打刀とは違う、直剣よ」
「おおー、さすがは天狗。風の術では惑わされてくれませんか」
修験者の格好をした天狗が、私と数合武器を打ち合わせる。
修験者か。退魔の術とか使いそうだな。向こうで、鬼の攻撃を幽体化の透過能力でやりすごしている水無瀬さんのところには、行かせたくない。
ならば、ここで確実に仕留める。今は手札を切るときだ。
私は天狗とつばぜり合いに持ちこみ、武器にまとわせている
「風よ、舞い上がれ!」
――『
「ぬうっ!?」
吹き出した暴風が、風の申し子である天狗の胸部を吹き飛ばす。
「見事なり」
そう言って、天狗は消えていった。
その結果に、周囲の木っ端な雑魚妖魔達がひるむ。そして私は、風王結界を解除した己の武器を高らかに掲げる。
それは、エメラルドグリーンに輝く一本の西洋剣。星の聖剣エクスカリバーだ。
魔力だけでなくフォトンを供給されて強化された結果、緑色の輝きを刀身に宿していた。
「さあ、故郷へ還りたい者から、かかってきなさい! 寄らば斬ります!」
私がそう言うと、妖魔達は逆に私から距離を取り始めた。
「えらく剣術に自信があるようやな。遠くから術で対応させてもらうで」
妖魔達が妖術を発動せんと、呪文を唱え始める。
だが、甘い。
「寄らなくても、寄って斬ります!」
私は装着していた必殺技チップを発動し、遠くの敵に突進して斬りつけた。
「なんやこいつ! 瞬動と同時に斬りつけよった!」
「残念、瞬動ではなく、
『ファンタシースターオンライン2 es』の装備品であるチップは、最大五枚までセットできる。そのうち、一枚を
『ファンタシースターオンライン2』の設定では、大気中に存在するフォトンをその身に集め、力に変えて放つ技をフォトンアーツと呼ぶ。
しかし、このネギま世界の大気中には、フォトンが存在しない。
それでも私がフォトンアーツを使えるのは、ゲームの力を自由自在に扱う能力を持つため。
スマホの中の世界からフォトンを引き出し、力に変えているのだ。
「引き続き『ギルティブレイク』!」
だが、CPも無限にあるわけではない。数回斬りつけたところで、それ以上技を撃てなくなる。そして、CPは通常攻撃を敵に当てることで回復するが、敵が一撃で異界へ還ってしまうので通常攻撃を当てる余裕がなかった。
「今や、仲間ごとでも構わん! 撃てえッ!」
妖術が一斉にこちらへと飛んでくる。しかし、だ。
「別に、普通の瞬動が使えないとは、言っていませんよ」
あからさまな合図をしてくれたので、私はネギま世界特有の移動術である瞬動を連続で使用して、妖術を回避していった。
そして、寄ってはエクスカリバーで斬りつけていき、周囲の妖魔は残り一体になった。
「な、なんや嬢ちゃん。その歳でその腕前。もしや、見た目通りの年齢ちゃうんか」
「嫌ですね。一、二歳しか誤魔化していませんよ」
スマホの中にいる『刻詠の風水士リンネ』と見た目が被らないように、私は十四歳くらいの年齢でそれ以上の成長を止めてある。だが、別に世の不死者達のように何十歳何百歳と年齢を誤魔化しているわけではない。
私は失礼な妖魔に向けて『ギルティブレイク』を発動。そのまま斬って捨てた。
「さて、他の人達の様子は……」
周囲を見渡すと、ちう様と水無瀬さんのコンビが後方からどっかんどっかんと敵を魔法でなぎ払っているのが見えた。
上空では、キティちゃんが茶々丸さん以外にも多数の人形を呼び出しており、フェイトのことを
オーガスタさんは、相変わらず料理の真っ最中。時折、妖魔の強襲を受けるも、自身の料理効果で上がった腕力で妖魔を派手に吹き飛ばしている。
古さんは、どうやらスマホ在住の邪仙『金光聖菩』直伝の『金光陣』を敷くことに成功したようで、五体の分身による仙術が月詠を追い詰めていた。
いくら神鳴流に飛び道具が効かないといえど、古さんと同等の仙術を使える五体の分身に一斉攻撃を食らえば……無事では済まないのが見て取れた。
神楽坂さんと雪広さんは、なにやら二人ともハリセンを持って、無双ゲームのように妖魔を切り崩していっている。
雪広さんが神楽坂さんと同じハリセンを持っているのは、おそらくエミヤさんがハマノツルギを投影して渡したのだろう。
雪広さんの合気柔術では、正直妖魔相手は厳しかったから、ナイスアシストだね。
おそらく雪広さんは、合気としての投げの技術を重点的に磨いている。その一方、柔術にある相手を仕留める技、組み打ちは投げほど洗練されていないのだろう。殺傷を目的としない対人戦では活躍できるだろうが、相手は殺す気で挑まなければならない召喚妖魔だからね。
今はハリセンを持ち、神楽坂さんと背を預け合って、エミヤさんの剣矢による援護を受けながら妖魔相手に大奮闘している。
さて、みんなの無事を確認したし、私も攻撃を再開しよう。
そう思ったところで、湖の方角から巨大な光の柱がほとばしった。
膨大な呪力が、まるで空気を震わせているかのように湖から迫ってきた。
これは……封印解除の阻止に失敗したか。
やがて、光の柱から、巨大な人影が出現してくる。それは、ここから見ても分かるほどの大きさを持つ、二面四手の大鬼。
まだ上半身しか姿を現していないが、それでも五階建てのビルほどの高さを超えているようだった。
「リンネ、行け。私は忙しい」
キティちゃんが、上空からそんな言葉を投げかけてきた。
どうやら、調子に乗って人形を出し過ぎて、制御に忙しいらしい。
「了解しました。では、行ってまいります」
そうして私は、最近覚えたばかりの冥府の魔術『トリウィアの道』で単身、湖の方へと転移する。
私がキティちゃんから任されたであろう任務は、鬼神リョウメンスクナの討伐。あれが暴れ出す前に、始末を付けなければならない。
◆47 星の聖剣
湖の祭壇に転移してきた私は、周囲を見渡した。
すると、白い翼を生やしたままの桜咲さんが、意識がぼんやりとしている様子の近衛さんを抱えて、リョウメンスクナを見上げているのが見えた。その表情からは、悔しさがにじみ出ている。
他には、事件の主犯である、お弁当女が気絶して倒れているのが見えた。
確か、この女が近衛さんの力を使ってリョウメンスクナを制御しようとしたというのが、原作における
リョウメンスクナの制御か。女が気絶しているということは、リョウメンスクナは制御から外れていると見ていいかな?
封印の
これは、足先まで出たら暴れ出しそうだなぁ。なんか「グオオオ」とか怪獣みたいな叫び声をあげているし。
だが、まだちょっとだけ猶予はありそうだ。
私は、リョウメンスクナを見上げて立ちすくんでいる桜咲さんに向けて、話しかけた。
「桜咲さん、ネギくんはどうしました?」
「え、あ、あっ、はい……先生は、狗族の少年を抑えるために、道中で残って……」
「ああ、追い越してしまいましたか。でも、この場にいないなら別に構わないですね。桜咲さん。近衛さんと、ついでにそこに転がっている主犯を連れて、少し後ろに下がってください」
「はい、分かりました……刻詠さんは、どうするのですか?」
「リョウメンスクナを討伐します」
「えっ……」
「まあ、見ていてください。世にも珍しい、刻詠リンネの全力ですよ。『令呪をもって命ずる。宝具でもって鬼神討つべし』」
私は右手を剣の柄から離して空に掲げ、手の甲が己の視界に入るようにして、そう宣言した。
現在手甲に隠れていて見えないが、右手の甲には令呪と呼ばれる魔術紋章が刻まれている。
令呪は全部で三画あり、最大三度までサーヴァントへの魔力ブーストを行使できる。
『Fate/Grand Order』の戦闘システム的に言うと、宝具解放、霊基修復、霊基復元の三つの機能がある。
宝具解放は、NPと呼ばれる宝具使用に必要なゲージを一気に100%にする。消費する令呪は一画。
霊基修復は、サーヴァント一騎のHPを全回復する。消費する令呪は一画。
霊基復元は、パーティ全滅時に発動するもので、全滅したサーヴァント全員をNP100%状態で全員復活させる。消費する令呪は三画。
私が使ったのは……そのいずれでもない。
ゲームの戦闘システムに寄らない令呪の使い方を私はした。しかし、だからといって、ゲーム通りの力の引き出し方をしなかったわけではない。
転生の際、私が天界の女神様に願ったのは、ゲームに登場する力を自在に使う能力。ゲームの戦闘システムを自在に使う能力ではない。
つまり……令呪はゲームに登場する使い方ならば、戦闘システムを超えた機能を発揮する。ゲーム中のシナリオテキスト上で令呪が使われていたならば、私はそれと同じ方法で令呪を使えるのだ。
私が令呪で行使したのは、サーヴァントの
令呪の行使内容は、宝具解放じゃないのかって? いや、妖魔との戦闘で、とっくにNPは100%になっているんだよね。令呪を使うまでもなく、宝具はいつでも撃てる状態にあった。
そう、宝具はいつでも撃てる。でも、すぐには撃たず、あと一押しするとしよう。
私は、後方で料理中のオーガスタさんに念話をつなげた。
『オーガスタさん、スキルの発動をお願いします』
『了解! 行きますよー! 『チョコレートロンド』!』
オーガスタさんの宣言と共に、口に感じていたチョコ味が濃くなり、身体の奥底から力が湧いてくる。
「あ、これは……傷が癒えた?」
後方で、桜咲さんがそうつぶやいた。
オーガスタさん(チョコカレーバージョン)が持つスキル、『チョコレートロンド』。その効果は、二十秒全味方の攻撃力と防御力を1.3倍にし、全味方のHPが最大値の70%回復する。
ゲームが現実化した影響か、ゲーム間のバランスを取るためか、数値はそのまま適用というわけではない。だが、攻防上昇と回復という効力自体はそのままだ。
全味方とあるので、そこに男女の効果の差は存在しない。今頃、ネギくんもパワーアップした上で傷が治っていることだろう。
「さて、二十秒しかないので、一気に決めますよ。宝具解放――!」
私は、下半身を封印から出している最中のリョウメンスクナへと向かい、聖剣を大上段に構えた。
そして、宝具の真名を解放する。
――束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。遠き『型月世界』の聖剣よ、異郷の地『ネギま世界』にて星の息吹を見せろ!
「――『
フォトンによって輝きを増し、チョコレートパワーを最大値受け、令呪の後押しで魔力をブーストされた剣ビームが、鬼神へと炸裂する。
まるで世界ごと両断するのではと思うほどの、膨大な光の斬撃が、リョウメンスクナを上から下へと真っ二つに切り裂く。
光が空へと立ちのぼり、夕闇に照らされていた湖が、そこだけ昼間になったかのように明るくなる。
そして鬼神は……頭から腹まで裂かれた状態で、ゆっくりと湖へと倒れていくのが見えた。
どうよ? と後ろを振り返ると、桜咲さんがポカーンと口を開けて、目をしばたたかせていた。
どうよ?
「刹那さーん! 今の光は一体!?」
と、そこへ杖に乗って飛んでくるネギくんの姿が見えた。
ネギくんの服は血に汚れていたが、どうやら大事はないようで、ふらつくことなく真っ直ぐ桜咲さんのもとへと飛びこんできた。
「あっ、ネギ先生……」
「リョウメンスクナが復活したようですが……先ほどの光が撃退したんですか?」
「はい、刻詠さんが、あの剣で、一撃で……」
桜咲さんと言葉を交わしたネギくんの視線が、こちらへと移る。
そして、剣をまじまじと見つめると、「おおー」と感嘆の声をもらした。
「莫大な魔力を秘めているように感じます。刻詠さんは、あれで斬りつけたんですか?」
「斬りつけたというか……光を飛ばしたというか……」
桜咲さんのふわふわした言葉が、ネギくんを困惑させる。
ふむ、そうだね。私はネギくんに向けて声をかける。
「ネギくん、せっかくならもう一発撃ちますので、見ます?」
「えっ、さっきの光をもう一度撃てるんですか!?」
「撃てますよー。リョウメンスクナも完全に滅されたわけじゃないので、追い打ちしましょう。『令呪をもって命ずる。宝具解放せよ』」
「!?」
急に高まった私の魔力に、ネギくんは驚きの表情を浮かべた。
今度こそ、私はゲームの戦闘システム通りに令呪を一画使ったのだ。すなわち、
「行きますよ。宝具開帳――『
聖剣を上段に構え、一息に振り下ろす。
「『――
剣から光がほとばしり、湖に倒れていたリョウメンスクナを
リョウメンスクナが断末魔をあげ、最初の一撃によって倒れた影響で封印から出きっていた下半身が、あっけなく消し飛んだ。
「ええー!? えっ、あの、エクスカリバーって……」
ネギくんが私の真名解放の言葉を聞き取っていたのか、そんなことを聞いてくる。
私は、ニッコリと笑ってネギくんに星の聖剣を見せつけた。
「本物ですよ。アーサー王伝説は、ネギくんの地元が本場でしたっけ? とにかく、本物のエクスカリバーです。英霊アーサー王の力を引き出し、リョウメンスクナに向けて撃ちました」
「アーサー王の力ですかー!? 降霊術? いや、そんなまさか……」
ふふふ、驚く声が心地よいね。
だがしかし、言葉は正確に伝えなければならない。
「ただし、こことは違う平行宇宙、パラレルワールドにおけるアーサー王のエクスカリバーです。この宇宙のブリテンにアーサー王が実在したかは分かりませんし、この宇宙のエクスカリバーがこの形をしているかも不明ですが」
「パラレルワールド、ですか……」
「はい。私の固有能力は、パラレルワールドの英雄の力を引っ張ってこられるのです」
そう言うと、ネギくんは興味津々という顔でエクスカリバーを眺めだした。
「すごいなー。カモくん、エクスカリバーだよ。本物だって。僕もこういう魔剣欲しくなっちゃうなー」
そういえば、ネギくんの趣味は、アンティークの魔法具収集だっけ。
さすがにこのエクスカリバーはあげられないが。
「兄貴、さすがに本物ってことは、ないんじゃねーか? だってよ、エクスカリバーって言えば最後……」
と、ネギくんの肩に乗っていたカモさんが、そんなことをネギくんに言った。
「あ、そうだね。アーサー王は最期、ベディヴィエール卿に命じて、湖の乙女にエクスカリバーを返還させたはずだね」
ネギくんはそう言うと、私の顔を見上げて来た。本物か? と問いたいのだろう。
「本物ですよ。私が呼び出す英霊は、使い魔という形に落とし込む際、生前の武具や技を宝具という形で行使できるようになるのです。つまり、このエクスカリバーは生前のアーサー王が所持していた物。湖の乙女に返還される前の本物ということです」
「そうなんですか? うわー、カモくん、本物だって」
「本当かよ。怪しいぜ」
ネギくんの純真さと、カモくんの大人の視点の差が面白いな。
ああ、そうだ、せっかくだからこういうのはどうだろう。
「ふふっ、ネギくん、エクスカリバー、手に持ってみますか?」
「いいんですか!?」
「ええ、私と一緒に持ってみましょう。はい、格好いいですよ。せっかくだから、剣ビームも一緒に撃ってみましょう。『令呪をもって命ずる。宝具解放せよ』」
「わわっ!」
「さあ、ネギくん、一緒に宝具の真名を唱えましょう。せーの――『
「Excalibur!」
三度目の宝具による一撃が、鬼神リョウメンスクナを完全に粉砕した。
※先ほど『魔法先生ネギま! 0巻』なるものの存在を初めて知りました。えっ、電子書籍で売ってないの?