【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆5 不思議を求めて
ちう様との意図的な出会いからしばらく経ち、小学五年生に。
彼女とすっかり仲良くなった私は、放課後を使って二人で麻帆良の不思議を探求していた。
ちう様から見た麻帆良は異常だらけ。では、具体的に何がおかしくて、どう麻帆良の外と違うのか調べてみようと私が提案し、『麻帆良の不思議を探す同好会』を作った。学園非公認の二人だけの自称同好会である。
あるときは学園都市のマップを作ってみたり。
あるときは体験学習を装って大学の研究室に突撃してみたり。
またあるときは広域指導員のあとをつけてみたり。
その広域指導員が魔法の杖を呼び出して、空を飛び始めた時には、ちう様大興奮だった。ちなみに飛び立った後は、見事にその姿を見失った。
それこそ、認識阻害の魔法を使っていたのだろう。原作七巻でも、ネギ先生が空を飛ぶときにそんな魔法がかかっていると明言していたからね。
そんな感じで普段はフィールドワークが多い私達二人。だが本日は、学園都市内にある図書館島へと調べ物にやってきていた。
「この図書館島も明らかにおかしいよなー……」
「今日のテーマはそっちじゃないですよね?」
「ああ、そうだな。今日のテーマは、世界樹だ!」
ノリノリで宣言するちう様。うーん、推しが生き生きしている様を見られるのは、素晴らしいね。
「ではこちら、『世界樹をこよなく愛する会』発行の冊子です」
「手回しいいな……」
「ちう様はネットに頼りすぎで、物理書籍を軽視しすぎですよ」
「うっ……」
現在は西暦1999年。インターネットは既に民間に広がっていて、ちう様の家庭にもISDN回線が通っているらしく、彼女は家にいる間、インターネットにどっぷり浸かっているらしい。
私? 私はなぜかスマホがこの世界のインターネットに繋がるから、スマホでネットをやっているよ。5Gでサクサクです。
さて、私達は二人で冊子を確認していく。
「世界樹は、どうやら桃の木の仲間らしいですね」
「桃の木ってあんなでかくなるのか? 樹高二七〇メートルって書いてあるが……」
「ふむ」
私はスマホをいじり、ネットでちょいちょいと検索する。
「CMでお馴染みの『日立の樹』は、モンキーポッドという樹で高さ約二十五メートル、樹齢約一〇〇年だそうです」
「うへえ、あれもでかいと思っていたが、意外と小さいのな」
「ギネスブックに登録されている世界一高い木は、オーストラリアの一三二.五八メートル。1872年の計測だとか」
「は? おかしくねえか? 世界樹の方が高いのに、ギネスに載っていないって……!」
「いえいえ、ギネス記録というのは、申告による認定制ですから」
勝手に記録を収集しているわけではないはずだ。
「ぐっ、そうか……。いや、なんで申請していねえんだ?」
「そうですねー。外の人間に木を荒らされたくない、なんていうのはどうですか?」
「なんだそりゃ」
「たとえば麻帆良に陰陽師がいるとして、世界樹は陰陽師にとって、大切な呪力の確保源、だとか」
「陰陽師、陰陽師か……」
ちう様がうつむきながらぐぬぬとうめき、そして顔を上げて言った。
「空飛んでいたしな。そーいうやつらがいてもおかしくないとは思ってる」
「そうですね」
「案外、科学的な超能力とかかもな。なんだよ、大学の工学研究室。人型ロボットとかオーバーテクノロジーすぎる!」
「あー……」
世間ではASIMOすらお目見えしていない時代。しかし、麻帆良の大学は人型ロボットや動物型ロボットの作成に成功していた。
さらに、その開発に携わってブレイクスルーを起こしたのが、私達と同年代の児童なのだとか。名前は
「そのうち、感情を持ったアンドロイドが、同級生としてやってくるかもしれませんね」
ここで原作キャラ、絡繰茶々丸の存在を示唆しておく。心構えができていたら、ちう様の心も荒れないだろうから。
「いやいや、感情を持ったアンドロイドって、つまり高度なAIってことだろ? それこそオーバーテクノロジーだろ。SF小説の読み過ぎだって」
「ふふん、そういうちう様は、サイエンスニュースを読まなすぎですね」
そう言って私は、スマホをいじり、一つのページを呼び出した。そしてスマホをちう様に渡す。
「なんだ? 英語で読めんが……」
「MITの天才日本人が作成したという、感情を有するAIに関する論文ですね」
「はあ!?」
「すでに稼働している感情付きAIがあるそうです。いやー、SF小説が現実化しちゃいましたね」
「AIの分野ってそこまで進んでいるのか……?」
「科学というものは、一人の天才が生まれるだけで飛躍的に進歩するものですよ」
「……それが、麻帆良では葉加瀬とかいうやつかもしれないってことか」
うんうん。
ITという点では、ちう様も負けていないと思うけどね。まあ、ちう様は新たに技術を開発することよりも、すでにある技術を組み合わせて使いこなすのに向いているみたいだけど。つまり、スーパーハッカーだね。
「はー……うん、英語読めねえ」
「ITにより深く触れたいなら、英語は必須ですよ?」
「ぐぅ……しかし、リンネのこのPDA型携帯電話、スマートフォンだっけ。これも、麻帆良の新技術で作られているのか?」
私のスマホをフリフリしながら、ちう様が聞いてくる。
ふーむ、そこに触れるかぁ。
「ちう様は、私の出生の秘密に触れる勇気はあります?」
「あ? 出生の秘密って、おまえんち普通の一般家庭だけど、何かあるのか? ……おい、もしかしてシリアスな話か?」
「物凄く真面目な話です」
「……あー、そうきたかぁ。ふう……よし、聞いてやる」
うん、そろそろ頃合いだったかもしれないね。ちう様を本格的に不思議の世界へ引き込もう。
「実は私……前世の記憶を持つ転生者なんです」
「…………」
ちう様はプルプルと震えて、何かを耐えるようにしている。
そして、彼女の感情が爆発した。
「月刊ムーの転生戦士かよ! 昭和か!」
あ、あれえ? おかしいなちう様のツッコミが予想外の方向で炸裂したぞ。
「いや、そういうのじゃなくてですね、いわゆる転生オリ主みたいな……」
「いわゆるって、知るか! なんだよオリ主って!」
「あれー?」
インターネットジャンキーのちう様に用語が通じない!?
……はっ、待てよ。そういえば、ネット小説で転生ものが登場したの、今の時代から見ると未来だった!
いわゆる転生オリ主ものがネギま、ゼロ魔、なのはの二次創作SS界隈で流行し始めたのは、おおよそ西暦2007年前後から。まだノストラダムスの1999年まっただなかのこの時代で、通じるはずがなかったのだ。
◆6 魔法を求めて
ちう様には、私に未来の地球人としての記憶があることと、転生する際に神様から能力をもらったことを説明した。
プレイしていたゲームの全ての能力をもらったと言ったら、ちう様にズルすぎると言われてしまった。
まさしく
まあ、1999年の今そんなこと言っても、誰にも通じないんだけど。ちなみにオリ主の概念はメアリー・スーの逸話を紹介して、ちう様にも理解してもらった。
すると創作物の世界でもあるまいし、オリジナル主人公ではないだろと言われた。この世界が前世の漫画の世界ということは、彼女には秘密である。彼女のメンタルではその事実を受け止めきれるか分からないから。
さて、そんな感じで自らの出生の秘密を明かした私だが、そんな私にちう様が意外なことを言った。
「はー、リンネほどスゴくなくていーから、私も何か能力みたいなのが欲しいな」
「は? ちう様どうしたんです? 頭打ちました?」
「いや、私、何か変なこと言ったか?」
「そんな、ちう様が不思議能力を欲しがるだなんて……」
「……私、そこまで不思議現象を毛嫌いしていると思われていたのか」
いや、そうじゃないんだよ。
原作におけるちう様は、他の3年A組の魔法バレ面子と違って、魔法の存在を知った後も魔法の力を求めなかった人物だ。
麻帆良祭で魔法の存在を知ったクラスメートが、夏休みを使って魔法の習得にはげむ中、ちう様は我関せず。アーティファクトの電子精霊の力だけは便利に使い、夏休みを自堕落に過ごしていた人物だ。
そんな彼女が私の目の前で言ったのだ。能力が欲しいと。
「そんなに不可解か?」
「ええ、不可解ですね。ちう様は、苦労を背負ってまで不思議能力を手にしようとするくらいなら、インターネット関連技術の造詣を深めると思っていました」
「確かに、私の興味はネットに向いているが……それでもな。こんな同好会活動をするくらいには、不思議現象にも興味を向けてるんだぞ?」
「不思議を解き明かしたいだけで、身につけたいとは思っていないとばかり……」
「それにな。親友が不思議な力を持っているんだから、興味を示したっておかしくねーだろ」
はっ、今、ちう様が私を親友扱いしてくれましたよ!
親友ですって!
うおー! 推しが! 親友! 推しが! 親友!
ふう……。
うん、落ち着いた。
「それで、ちう様も何か不思議な力を身につけたいと。でも、私の力は譲渡できるようなものではないですね。道具なら渡せますが」
「道具? マジックアイテムってやつか」
「そうですね。ぱっと出せるのは、武器でしょうか。燃料いらずで無限にフォトンの弾丸を撃てる銃とか。あ、これは使う人にフォトンの適性がないと、撃てなさそうですね。そうなると、実体剣でしょうか」
「いやいやいや。そんな物騒なのいらねーよ! そういうんじゃなくて、こう、魔法少女が持っていそうな魔法のステッキとかをだな」
「つまり、砲撃できるランチャーを?」
「魔法少女だっつってんだろ!」
魔法少女と言えば砲撃なのに……。
ああ、『魔法少女リリカルなのは』もまだ時代じゃなかったか。ネギま原作に出てくるテレビアニメ『魔法少女ビブリオン』も、別にデバイスで砲撃とかしないみたいだし。
「うーん、サーヴァントと契約……いえ、ちう様に型月式の魔術回路があるとは思えませんね。うむむ、いい感じに譲渡できそうな能力が思い当たりません。ちう様、武術の特訓とかに興味あります?」
「そういうのはちょっと……。もっとこう、魔法の力でシャランラ的なのをだな」
そっか。影の国の女王スカサハでも呼び出して、ちう様を鍛えてもらう案は没か……。
実は私、ゲームに登場するキャラクターの力を使うだけではなく、ゲームキャラクターを召喚する能力まで有している。名だたる英雄達は、教官として優秀なのだが……。
「なあ、別にリンネの力を譲渡してもらわなくてもいいんだぞ。それこそ、麻帆良にいる不思議存在に教えてもらうとか……」
「それです! 麻帆良にいる魔法使いから、魔法を教えてもらえばいいんですよ!」
「……魔法使い? なあ、リンネ。お前、麻帆良にいるやつらの正体を知っているのか?」
「うっ、そうですね。実は私の持つ能力で、麻帆良の秘密をある程度まで知ることができたのです」
具体的には、スマホの中に入っている漫画で。
「そーか。できれば最初から教えてもらいたかったな」
「そうなると、私の力も一緒に公開することになったといいますか……」
「ああ、そうだな。そして、今の私は、リンネに力を公開してもらってもいいくらいには、信用してもらったわけだ」
「それはまた違うんですけれど。どちらかというと、ちう様が麻帆良や私の不思議を受け止められるだけの、強いメンタルを身につけるのを待っていたと言いますか……」
「私、そんなにメンタル弱くねーよ!」
ないない。
「さて、では、麻帆良の魔法使いに魔法を教えてもらいますか」
「自分で言い出してなんだが、そんなに上手くいくか?」
「大丈夫ですよ。物事には王道が存在するんです」
そう。王道。
ネギまの世界に転生したなら、王道というべきルートがある。
それは……。
「キティちゃんの呪いを解いてみるとしましょうか」
狙うは、登校地獄の呪いに苦しめられている永遠の少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの解呪。
こちらの手札は、サーヴァントだ。
普段はスマホの中で過ごしている、無数のゲームキャラクター達。今回そこから呼び出すのは、裏切りの魔女メディア。ルールブレイカーが火を吹くぜ!