【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆63 さよと小夜子
イギリスへ出発するまでの間にも、いろいろあった。
まず、保留になっていた相坂さよさんを憑依させるための人形が、もう少しで完成しそうだと『LINE』で報告を受けた。
なので、私はぬいぐるみに入っている相坂さんをともなって、水無瀬さんと一緒に学園長と面会した。
教室にいた地縛霊の相坂さんとコンタクトが取れたこと、憑依する人型を用意できることを報告して、3年A組に編入してもらえるよう、頼み込む。
すると、学園長は涙を流して喜びをあらわにした。
学園長は生前の相坂さんと面識があったらしい。
相坂さんも生前に学園長と会っていたことを思いだし、私と水無瀬さんは二人の過去の話を聞いた。
さらに学園長は語る。相坂さんの死後は、学園の生徒達が受けた霊障から、相坂さんが地縛霊と化していることが分かったが……どのような霊媒師や霊能力者を呼んでも、相坂さんを見つけることはできなかった。
視えないが、そこにいるのは分かっている。なので、学園長は麻帆良学園女子中等部の生徒として彼女を名簿に記載することにしたという。
「普通に視えたけれど」
と水無瀬さんが言うと学園長は、水無瀬さんと相坂さんが出会えた幸運に感謝する、と嬉しそうな声で言った。
とりあえずこれで、相坂さんの編入は正式に認められた。というか、すでに3年A組の名簿に載っているため、休学からの復学という形を表向きは取ると学園長は言っていた。
ちなみに学園長は相坂さんに、成仏して来世に向かう気はないのか、と西洋魔術師とは思えない宗教観からの言葉を投げかけた。だが、相坂さんは、今の3年A組の仲間達は面白いし、キティちゃん達と行動を共にするのは楽しそうだと言って、しばらく現世に留まる意向を示した。
すると、水無瀬さんは、簡単に祓われないよう霊体を強化すると張り切りだした。
うわあ、佐々木三太並みの強力な
さて、そんな水無瀬さんだが、彼女の扱いはちょっと面倒なことになった。
修学旅行でネギくんの仮契約パートナーとなった水無瀬さん。英雄の息子のパートナーになるとは喜ばしいと、魔法先生達に最初は言われていたらしいのだが、ネギくんがキティちゃんの弟子になったことが知れ渡り、風向きが変わった。
ネギくんがキティちゃんのもとで修行を行なうということは、パートナー達も闇の福音の門下に入れるのか、と魔法先生の間で議論になったらしい。
水無瀬さんの担当の魔法先生は、
それで、水無瀬さんはその魔法先生から、キティちゃんに師事することはまかりならんと言われたようだった。
それに対し、水無瀬さんは反発した。
日本出身の水無瀬さんにとって、キティちゃんは恐ろしい闇の使徒ではなく、六百年の時を生きる魔道の深淵に立つ者という感覚だ。
自分をいじめから助けてくれた私の先生役であり、悪い感情はさほど抱いていない。そんなキティちゃんと距離を取れ、みたいなことを言われて、水無瀬さんは逆にその魔法先生との縁を切ったらしい。
「いじめられていたとき、何の助けにもならなかった人なんて、恩師扱いはしないわ」
そう言いながらエヴァンジェリン邸にやってきた水無瀬さんは、正式にエヴァンジェリン軍団の門下に入った。
そんなことがあり、ゴールデンウィークの合間の平日が過ぎていき、土曜日が訪れる。
私とネギくん、そして雪広さんは、旅行カバンを持って、意気揚々と女子寮を後にするのであった。
◆64 嫐
イギリスまで行くために雪広さんが用意した手段は、なんと雪広コンツェルン所有のプライベートジェットだった。
プライベートジェット。すなわちビジネスジェット。それを中学生の娘の私事で使わせるとか、雪広コンツェルンがすごいのか、親が相当親バカなのか……両方だろうなぁ。
私は、初めて乗るプライベートジェットの広すぎる豪華な席でくつろぐ。前の席では、雪広さんがネギくんと隣り合って座っていた。雪広さん、露骨に私をネギくんから離したな。
だが、別に私はネギくんラブ勢じゃないので、気にせずスマホを取りだしゲームをプレイする姿勢になる。
と、その前にネギくんに言っておくことがあったんだ。
「ネギくん、十歳の誕生日おめでとうございます」
「あっ……ありがとうございます、刻詠さん」
「誕生日プレゼントも用意していますので、旅行が終わったらプレゼントしますね」
私達のその言葉を聞いて、雪広さんが叫んだ。
「ネギ先生の誕生日ですって!? そういえばいつなのか知りませんでした! ネギ先生、今日、誕生日だったのですか?」
「いえ、昨日ですね。五月二日です」
ネギくんがそう告げると、雪広さんは立ち上がって叫ぶ。
「これは、いてもたってもいられませんわ! 予定を変更して、盛大な誕生日パーティーを雪広系列のホテルで――」
「こらこら、雪広さん。予定の変更はなしですよ。私達の旅行は、ネギくんにとって大事な大事な用事なんですから」
私がそう言うと、雪広さんは、はっとなってシートに座りなおす。
「そうでしたわ。確か、ネギ先生の故郷の人々を救いにいくのだとか」
「はい。刻詠さんにお願いして、石化の解除を試してもらうんです」
「そうですか……その、ネギ先生。詳しい経緯をうかがってもよろしくて?」
「そうですね。委員長さんにも、僕の過去をお話しておくべきですね」
そんな会話を雪広さんと交わしたネギくんは、その場で立ち上がると、横に立てかけていた杖を手に取った。
「言葉で話すより、僕の記憶を見せた方が分かりやすいですよね。せっかくですから、刻詠さんにもあらためて見せますよ。後ろのソファーに並んで座りましょう」
プライベートジェットの後方には、三人がけのソファーがある。
そこに、私達はネギくんを中央にして仲良く座った。
「ふわー……ネギ先生がこんなに近くに……」
「では、お二人とも、杖をにぎって、僕の頭に自分の頭をくっつけるようにしてください」
「ふわー! そんな密着だなんて! こ、これが天国……!」
このショタコンはもうダメだな……。しかし、リアルのショタコンってショタと結ばれたとして、相手が成長したらどうするんだろう。その点、二次元は、本編ストーリーがよほど長くない限り、そうそう成長しないからいいよね。
「いきますよ。ムーサ達の母、ムネーモシュネーよ。おのがもとへと、我らを誘え」
そこから、以前ネギくんが口頭で話した、ネギくん四歳の冬の出来事が映像付きで流れていく。
四歳の幼いネギくんに雪広さんがハッスルしだしたが、急に訪れるシリアス展開に、雪広さんは大人しくなった。
村が悪魔に襲われ、ナギ・スプリングフィールドが救出に来て、スタンとネカネの二人にかばわれる。そして、ネギくんはナギ・スプリングフィールドから杖を受け取る。
と、そこまでで映像は終わるはずが、まだネギくんの過去は続いた。
それは、魔法学校時代のネギくん。幼馴染みのアーニャを連れ、魔法学校の禁書庫に忍びこむ。
ネギくんは、村を焼き、村人を石にした悪魔達を倒すために、机にかじりついて戦いのための魔法を学んでいった。
「魔法学校で、僕は九つの戦闘用魔法を覚えました。魔法って、人の役に立つものがたくさんあるんですけど……僕は、それらを学ぶ道を選ばなかった」
記憶の世界の中で、ネギくんは私達に向けてそんなことを言った。
「委員長さん。今後も僕のパートナーでいてくれるとしたら……先日の図書館島のように、戦いは避けられません」
「むう……あの戦いは無念でしたわ」
再生ナギとの戦いか。雪広さんは最初に伸されてしまったからね。そりゃあ、無念だろう。
「きっと、危険がいっぱいあると思います。それでもついてきてくれますか?」
「もちろんですわ! 私も、精進しませんと!」
「そうですか……ありがとうございます。実は先日、
「精一杯、頑張らせていただきます!」
そんな雪広さんの決意があり、記憶の光景は魔法学校の卒業式へと進んだ。
飛び級ながら首席を獲得したネギくんは、『
と、そこで魔法は終わり、プライベートジェットの機内へと視点が戻る。
「話は全て理解しましたわ。この雪広あやか、誠心誠意、ネギ先生のパートナーを務めさせていただきます!」
「はい、これからもよろしくお願いします、委員長さん」
「頑張ってくださいね、雪広さん」
最初は、そういう話ではなかったと思うのだが、雪広さんが決意を新たにしたので、私は応援の言葉を口にしておく。
「頑張りますわ。ところで、ネギ先生……」
「はい、なんでしょう」
「本格的にパートナーと認めていただいたのです。そろそろ委員長という役職ではなく、名前で呼んでくださいませんか?」
「えっ……あ、そうですね。みなさんが委員長と呼んでいるので、委員長さんなんて呼んでいましたが、今後はあやかさんと呼ばせていただきますね」
「はい! はあー……」
ネギくんに名前を呼ばれて、
「あ、そうだ。刻詠さんのことも、リンネさんと呼んで良いですか?」
「別に構いませんよ」
ネギくんに名前呼びの許可を求められたので、即座に許可を出しておく。
「くっ、やはりリンネさんは抜け目がない……」
「雪広さん、今のはネギくんから言いだしたので、ノーカンでしょう……」
ネギくんが絡むと、途端に面倒臭くなるなこの人。
「あっ、そうだ。リンネさんもあやかさんのことを名前呼びしては?」
雪広さんから私に送られる妖しい視線に気づいていないネギくんが、無邪気にそんなことを言いだした。
いやー、ネギくん、この雪広さんをスルーできるのはすごすぎるよ。
私はもはやこれは一種の邪気なんじゃないかと感じる雪広さんのオーラを受け流しながら、ネギくんの提案した名前呼びを受け入れるのであった。
◆65 雑談タイム
ロンドンの国際空港に到着してから、さらにウェールズへと飛ぶ。飛行機を降りてからしばらくは、ガードマンに先導されて鉄道での移動が続いた。
そして田舎の風景が見えてきたところでホテルに一泊。翌朝、ここから先は鉄道が通っていない道を行くとのことで、現地で用意されていたリムジンでの移動となった。
リムジンだよ、リムジン。前世含めて初めて乗ったよ。
「イギリスでリムジンとか、イギリス貴族になった気分ですよね」
私がそう言うと、ネギくんは首をかしげる。
「そうですか? 確かに、王室の方は乗っているとは聞きますけど」
「このリムジンも、銃弾を軽く跳ね返すんですかね?」
イギリス王室の乗るリムジンは、そのへんバッチリだと聞くが。
「雪広グループの車に不可能はありませんわ!」
あ、このリムジン、日本製なのね。日本のリムジンがイギリスを走るって、違和感あるなぁ。
そうだ、せっかくだから雑学を一つ。
「王室のリムジンというと、女王陛下が乗るときはボンネットの上の飾りが、ドラゴンを退治するセント・ジョージのオブジェに変えられるのだとか」
「へえ! そうなんですかー」
ネギくんが、いい反応で相づちを打ってくれる。
そのネギくんにサービスするように、私はスマホから力を引き出した。
「セント・ジョージ。またの名を『ゲオルギウス』。彼が携えていたという聖剣アスカロンが、こちらになります」
「うわあー、本物の聖剣だー」
「はい、ネギくん、どうぞ持ってみてください。手を切らないようにお気を付けて」
目を輝かせるネギくんに、私はアスカロンを手渡した。
「うわー、見てカモくん、すごいよ。聖なるオーラを感じるよー」
子供らしくはしゃぐネギくんに、あやかさんはメロメロになっている。
すると、ネギくんの肩でずっと大人しくしていたカモさんが、私に向けて言った。
「セント・ジョージといやあ、ドラゴン退治では、槍を使って剣は使わなかったっつー話を聞くが……この剣もやっぱり本物か?」
「ええ、並行世界の『ゲオルギウス』が持つ本物です」
ネギくんにとっては、この世界に存在するかしないかは重要ではないようで、心底嬉しそうに聖剣を手に持って眺めていた。
「いいなー。僕もこういう聖剣、どこかで入手できないかなー」
「むむっ、さすがの雪広グループでも、魔法関連の品は入手困難ですわ……」
あやかさんなら、どこからか本物の聖剣を入手してきそうだが、その過程で一般人への魔法バレもしそうなので大人しくしていてほしい。この世界、宗教関連の術式が実在しているので、聖なる武器とか普通にあるんだよね。
あ、そうだ。アレも言っておこう。
「そうそう、ネギくんへの誕生日プレゼントですけど、聖剣ではないですが剣のセットですよ。実戦用と、練習用の剣一式です」
「本当ですか!?」
「はい。実戦用の剣は特に魔法的な付与は何もされていませんが、とにかく頑丈な剣なので期待していてください」
「うぎぎぎぎ……私もネギ先生へのプレゼントを用意いたしませんと……ネギ先生、ご自身をかたどった銅像のプレゼントなどはいかがですか?」
あやかさんが、またトンデモなプレゼントを用意しようとしている……。
「い、いやー、銅像はいらないですねー」
「そうですか……人生の節目に描かせる肖像画のようで、記念になると思ったのですが……」
あやかさん、普通の人は肖像画も別に欲しくはならないんだよ……。
と、そんなことがありつつも、リムジンは進む。私はアスカロンを引っ込めて、窓の外を眺めた。
素朴な田舎の風景だ。
そういえば、日本語では高速道路のことをハイウェイと呼ぶが、アメリカでは高速道路をハイウェイとは呼ばないんだよね。で、イギリスではアメリカ英語での高速道路とまた違う単語を使うとか聞いたことあるなぁ。
「私の英語はアメリカ英語ですから、こちらの人達に通じなさそうなことをしゃべっていたら指摘してくださいね」
私は英語でそんなことをネギくんに言った。
「あ……リンネさん、授業でも思っていましたが、英語お上手ですね」
「ネイティブスピーカーほどとまではいきませんが、日常会話くらいでしたらなんとか可能です」
私がそう言うと、あやかさんが声高に主張する。
「クイーンズイングリッシュならば、私に任せてくださいまし! 私の流麗な発音を参考にするとよろしいわ、リンネさん」
あやかさん、イギリス英語できるんだ……万能過ぎる。超さんとはまた別の方向で天才なんじゃないの、この人。
そして、車内では英語の会話が続き、魔法使い達の社会では翻訳魔法が活用されていることなどを話した。
「ふう、少し喉が渇きましたわ。飲み物を用意しましょう。お二人もいかが?」
あやかさんにそう言われたので、ありがたくご相伴にあずかる。
私がコーヒー、ネギくんとあやかさんが紅茶だ。
タンブラーに入れられたコーヒーをブラックで飲む私を見て、あやかさんが言う。
「なにも、英国まで来てコーヒーを飲まなくてもいいでしょうに」
「あやかさんも、イギリスといえば紅茶と主張するタイプの人ですか?」
「もちろん、英国といえば紅茶ですわよね、ネギ先生」
話を振られたネギくんも、素直にうなずいた。
だが、待ってほしい。
「実はイギリスって、コーヒーの消費量が近年増えているんですよ。特に、コーヒーハウスを好む若者の間で人気のようですね」
「そうなのですか?」
「えー、知らなかったです」
私の言葉に、そう返してくるあやかさんとネギくん。
「しかも、数百年前、イギリスで紅茶が最初のブームを起こす前は、コーヒーブームが起きていたそうです。つまり、イギリス人にはコーヒー好きの血が流れているんですよ」
「そうだったんですかー……コーヒーって、美味しいのかなぁ?」
私の雑学を聞き、私の前に置かれたタンブラーをマジマジと見るネギくん。
そんなネギくんに、私は言う。
「ですからネギくん。あなたの嫌いな人がコーヒーを飲んでいたとしても、コーヒー文化を持つイギリス人として、泥水を飲んでいるとか罵倒してはいけませんよ」
「あはは、そんなこと言いませんよー」
「そうですわ。ネギ先生がそんな口汚いことを言うはずがありません」
そうだね。コーヒー好きのフェイト・アーウェルンクスと衝突しないといいね。
そんな雑談で暇を潰していると、リムジンが目的地へと到着したようだった。
車窓から洋風の街並みを見たネギくんが、半年ぶりの帰郷に感極まっているのか、頬をわずかに紅潮させる。
私達はようやく、ウェールズの奥地にある魔法使い達の街へと足を踏み入れることとなった。
※UQ最終巻、ようやく読めました。なお先週注文したネギま0巻は未だに届きません。
※水無瀬小夜子の担当魔法教師はUQ原作で台詞の中にのみ登場するキャラです。真祖バアルに水無瀬小夜子作の魔法ウィルスの情報を流した疑惑がある魔法世界人。