【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■27 メルディアナ魔法学校

◆66 小さな街の再会

 

 ウェールズのペンブルック(シャー)。その州にある、とある山のふもとに作られた小さな街が、ネギくんの故郷だ。

 リムジンで坂道だらけの街中を進み、大きな建物の前で停車してもらった。

 

 この建物は、メルディアナ魔法学校。ネギくんが九歳まで魔法を学んだ場所である。

 車から降りると、私達が到着するのを待ち構えていた者が、ネギくんのもとへと駆け寄ってくる。

 それは、ネギくんと同じ年頃の女の子。赤い髪をツインテールにした、活発そうな子だ。

 

「ネギー!」

 

「アーニャ!? ロンドンで修行中じゃなかったの!?」

 

「ネギが帰ってくるって聞いて中断!」

 

 赤髪の女の子、アーニャはネギの胸に勢いよく飛びこんだ。

 ネギくんは魔力で強化された身体でアーニャを受け止め、そしてハグをする。

 

「ただいま、アーニャ」

 

「うん、おかえり!」

 

 そんな仲むつまじそうな二人を見て、横に居るあやかさんから負の波動が伝わってくるが、さすがのあやかさんも久しぶりの再会に水を差す行為は控えるようだ。

 やがて二人が離れると、そのタイミングを待っていたようにもう一人の待ち人がネギくんの前へと立つ。

 

「おかえり、ネギ」

 

「お姉ちゃん!」

 

 今度はネギくんが、その人物の胸へと飛びこむ。

 その女の人は二十代前半の金髪の女性で、おそらくネギくんの親戚であるネカネ・スプリングフィールドだろう。

 二人のハグが終わると、ネギくんは私とあやかさんを手招きして、お互いの紹介を始めた。

 

 アーニャがネギくんの幼馴染みで、魔法使いの修行のためロンドンにて占い師として活動中。

 ネカネさんがネギくんの従姉(いとこ)で、現在、この街で働いている。

 私とあやかさんは日本の学校での教え子だと、ネギくんは紹介した。

 

 すると、あやかさんがこんなことを言いだした。

 

「ネギ先生とはパートナーとして仮契約(パクティオー)をさせていただきました!」

 

 すると、アーニャが「なんですって!」と驚きの声をあげる。

 そこへあやかさんはパクティオーカードを取り出し、「ネギ先生との愛の形ですわ」とマウントを取りにいった。

 

「生徒に手を出すとか、どうなってるのよ、ネギ!」

 

「え、いや、戦うために必要で……」

 

「なんで教師になりにいって、戦いが必要なのよ!」

 

「えーと、その……」

 

 十歳の少年を中心にして、ドロドロの愛憎劇が繰り広げられようとしている……!

 と、このまま眺めていてもいいのだが、残念ながら無駄話をしている時間的余裕はそこまでない。

 

「はいはい、そこまでにして、ここに来た用事を進めちゃいましょう」

 

 私がそう言うと、アーニャが私に向けて言った。

 

「なに仕切ってるのよ。あんたもネギのパートナーとか言うんじゃないでしょうね」

 

「違いますよ。私は、今回お仕事をしに来ました」

 

「お仕事……。って、もしかしてあなたが……!」

 

「はい。石化の治療を試すのは、私です」

 

 アーニャの言葉に私がそう答えると、アーニャは私をじっと見ながら言う。

 

「そんなに若いのに、治癒魔法が得意なの?」

 

「若さは関係ありませんよ。使うのは治癒魔法ではなく、癒やしの効果のある秘宝ですから」

 

「あっ、もしかしてアーティファクト……」

 

「いえ、私は仮契約はしていません。アーティファクトではなく、アーティファクトのもとになるような秘宝、魔法具(マジック・アイテム)を所持しています」

 

「そういうこと……。ごめん、ちょっと疑っちゃったわ」

 

「いえいえ。それより、ここに滞在可能な時間もそう長くはないので、早速、案内をお願いします」

 

 私がそう先を促すと、アーニャは素直に引き下がって、ネカネさんと一緒に私達を魔法学校の校舎内に案内し始めた。

 古くて立派な建物で、まるでファンタジー映画に出てきそうな素敵な場所だ。しかし、観光している時間はないんだよね。

 もし夏休みに再度訪れることがあったら、じっくり見て回りたいものである。

 

 

 

◆67 覚醒スキル

 

 私達がまず案内されたのは、メルディアナ魔法学校の校長室。

 そこでヒゲが立派な校長先生と挨拶を交わし、彼の案内で石化された人々のもとへと向かった。

 

 そこは、校内にある地下室。結構な広さを持つ大部屋だった。この大部屋にネギくんの故郷の村にいた全ての村人が、石化された状態で保管されているとのこと。

 

「いけますか?」

 

 ネギくんが、不安そうな声で私にそう言った。私は、ネギくん達を不安にさせないよう、余裕の表情を作って答えた。

 

「実は、癒やしの至宝以外にも、石化回復手段はいくつか持っているんですよ」

 

「えっ、そうなんですか」

 

「だからまあ、あまり心配はしないでください。では……」

 

 私は修学旅行の時と同じく、『至宝の使い手リアナ』の力をスマホから引き出す。

 服装が変わり、肩にミミズクが止まり、手元に長杖が出現する。

 

「この杖が、癒やしの至宝という治癒能力を持つ魔法具です」

 

 私は、先端に青い宝玉が付いた黒い杖をかざして、周囲で見守る面々に見せつけた。

 

「なんか、すごい魔力を感じる……」

 

 アーニャが杖を見てそう言うと、校長先生も「ううむ」とうなって口を開く。

 

「なんとも清らかな魔力じゃ。この力ならば、確かにいけるかもしれん」

 

 まあ、癒やしの至宝はすごいアイテムだからね。これ、粉々に砕いて小さな石片になっても、所持している者の傷を癒やし続けるくらいには強いパワーを持っているし。

 そんな癒やしの至宝だが、前回京都で使ったときは、状態異常回復だけの効果を使用した。

 だが、今回は真の力を引き出して、傷の治療も行なおうと思う。村人達は、襲撃の際に悪魔と戦って怪我をしている可能性があるし、石になってからここに運ばれるまでに、石が欠けて身体に損傷があるかもしれないからね。

 

「さて、早速ですが、行きますよ。スキル発動。『真癒しの至宝』」

 

 リアナさんの覚醒スキルである『真癒しの至宝』。通常の『癒しの至宝』よりも効果時間が半分になってしまうが、効果範囲内にいる者の傷を徐々に癒やす力がある。

 杖の先端から魔力の波動が大広間全体に広がり、場が清浄な魔力で満たされる。

 

 そして、至宝の力は魔の呪いを見事に打ち払い、村人達を石化から解き放った。

 

「お、おお……?」

 

「ここは……?」

 

「あれっ? 確か、悪魔にやられたはずじゃあ」

 

「囲まれた!? あ、いや、お前達か」

 

「なんだここは?」

 

 意識が戻った村人達。皆、一様に困惑の声をあげている。

 

「む、むう……? ここは……?」

 

 一番手前に立っていたヒゲのおじいさんも意識が戻り、周囲をキョロキョロと見回している。

 すると、その彼に向かって、ネギくんが近づいていった。

 

「スタンおじいちゃん……」

 

「む? 誰じゃ? すまん、ここがどこか聞きたい」

 

「おじいちゃん、僕です。ネギです。ネギ・スプリングフィールドです!」

 

「ネギじゃと? ……そうか、お前、あのネギぼーずか。ずいぶんと長く石にされていたようじゃの」

 

「はい。あれから、五年半が経ちました。ここは、メルディアナ魔法学校です」

 

「そうか……大きくなったな、ぼーず。……ふいー、やれやれ、五年も固まっていたせいか、えらく肩が凝ったわい」

 

「あはは、さすがのリンネさんも、肩こりまでは癒やせなかったみたいですね」

 

 癒やしの至宝さんにマッサージ効果まで求めないでくれる?

 そういうのは、魔改造千雨ちゃんがスーパーマッサージしてくれる二次創作小説に頼ってほしい。

 

 村の人々はまだお互いに状況確認をしてざわめいている。すると、校長先生が人を呼んだのか、階段から複数の人が降りてくる気配が感じられた。

 

 スキルの効果はいつの間にか終わっていた。この様子だと、部屋の内部全部をカバーできたと見てよいだろう。

 私は傷を負った人がいた場合のために覚醒スキルを再度発動した。

 

 

 

◆68 そして麻帆良へ

 

 スキルの効果が発揮されたのか、元々欠損は無かったのか、復活した村人達に怪我人はいなかった。

 ネギくんは積もる話もあっただろうが、スケジュールが押していたため、私達は食事も取らずに日本への帰還を始めた。

 

 村人への説明だとか、村人の生活する場所の世話だとかの面倒なことは、全部、校長先生やネカネさんにぶん投げてきた。そこまで面倒を見られるほど、自由な時間は私とネギくんにはない。

 あやかさんならどうとでもできるだろうが、日本の財閥の娘がイギリスの田舎の魔法使いを世話する義理はないんだよね。私みたいに徳を積んでも得することなんて、ネギくんの好感度を稼げることくらいだし。あれ? あやかさんにとっては意外と重要か?

 

 ともあれ、後は任せて私達は来た道をトンボ返り。鉄道と飛行機を使ってロンドンまで戻り、ホテルで一泊。翌日早朝から、プライベートジェットで日本へと向かった。

 

 また半日近くを機内で過ごすことになるが、会話の話題は尽きないので退屈することだけはないだろう。

 

「しかし、五年ぶりの再会ですのに、ほとんど話せなくて残念でしたでしょう?」

 

 あやかさんが、ネギくんの心情を察して、慰めるように言った。

 

「いえ。電話もありますし、魔法の手紙でも連絡を取り合えますから」

 

「魔法の手紙ですか。以前ネカネさんから届いていた立体映像付きの物ですね」

 

 おや、あやかさん、魔法の手紙を見たことあるんだ。ネカネさんによるカモさん脱走報告のエアメールあたりでも見たのかな。原作の桜通りの吸血鬼編に届いた物のはずだから、この時期にネギくんと仮契約したあやかさんは、その辺を見る機会があったのかな。

 

「しかし、ネギ先生。石になったのが五年半前なら、まだ携帯電話が普及するよりも前の時期です。代表者に電話はできるでしょうが、個人への電話はしばらくは無理でしょうね」

 

「あっ、そうですね。お姉ちゃんに繋いだら、連絡取れるかなぁ?」

 

 国際電話は高いので、あまりお金を持っていないネギくんは、手紙で我慢した方がよいのではないだろうか。

 

 そんな貯金が危ういネギくんに、私は言う。

 

「ネギくん達の村が襲撃された理由に心当たりがある人が居たら、連絡してもらえるよう校長先生に伝えておきました。なので、気に留めておいてください」

 

「襲撃の理由、ですか……」

 

「ちなみに私の予想では、英雄ナギ・スプリングフィールドの息子を狙った犯行が一番可能性高そうだと見ています」

 

「僕……」

 

 すると、ネギくんの座席の背もたれに座るカモさんが、私に向けて言う。

 

「さすがに悪く考えすぎじゃねーか? 根拠はねーだろ」

 

「うーん、そうですけど……可能性としては考えた方がいいというか、いつまた襲撃されてもいい心構えはしておくべきですね」

 

「襲撃の心構えって、どうすんだ?」

 

「鍛える、ですかね。エヴァンジェリン先生とアルトリア陛下に弟子入りしたのですから、本気で取り組めばいいでしょう」

 

 そんなカモさんとの会話に、ネギくんが答える。

 

「それはもちろん、本気でやります。魔法も剣も、達人を目指します」

 

 それを横で聞いていたあやかさんも、気合い十分にこう言った。

 

「私も、図書館島では情けない姿を見せてしまいましたわ! これは、さらなる稽古が必要です!」

 

「あやかさんは、合気柔術をさらに鍛えるのがいいでしょうね。エヴァンジェリン先生が達人級ですし、師事すれば『気』の習得も見込めますよ。ネギくんが居ない場所で戦うことになったら、『気』の力は必須でしょう」

 

 私があやかさんにそう助言を告げると。彼女は己の手の平を見つめながら言う。

 

「『気』ですか。どうすれば習得できますの? 幼い頃から武術をたしなんで来ましたが……あのような不思議な力は、湧いてくる気配が全くありません」

 

「『気』は、しかるべき指導のもと、肉体の限界を超えた鍛錬をすることで芽生えます。あやかさんの武術鍛錬は、スポーツ医学にのっとった、オーバーワークをしない適切なメニューだったのではないですか?」

 

「確かに、そうです」

 

「それでは『気』は身につきません。必要なのは、古さんのようなひたすら武に打ち込む姿勢です」

 

「なるほど、確かに古菲さんほど真剣に鍛錬をしてきたとは、とてもではないですが言えませんわ」

 

 まあ、あやかさんも基礎は十分固めてあるから、そこまで習得が大変ということもないだろう。

 

「あのー、僕も『気』を使えるようになった方がいいのでしょうか」

 

 今度は、ネギくんが私に尋ねてくる。

 ネギくんが『気』かぁ。私は、彼にさとすように答える。

 

「ネギくん、『気』は『魔力』とは混ざり合わない力なんです。なので、『気』で身体を強化しつつ『魔力』でさらに強化しようとすると、コンフリクトします」

 

「そうなんですかー」

 

「ただし、ある技法を使うと、『気』と『魔力』を融合させることは可能です。『究極技法(アルテマ・アート)』とまで呼ばれる、高難易度の技法なんですが……実はこれ、火曜日の図書館島での手合わせのときに、神楽坂さんが使っていました」

 

 私がそう言うと、驚きの声をあげたのはネギくんではなくあやかさんだった。

 

「ええっ、あのバカレンジャーのアスナさんが究極の技法を?」

 

 技法の習得と頭のよさに因果関係はないからね?

 

「そういえばあの時、左手に『魔力』、右手に『気』とか、アスナさん言っていましたね」

 

 ネギくんはあの手合わせを思い出しているのか、そんなことを言った。

 あのときの神楽坂さんの動きを真似して、ネギくんは両手を胸の前で合わせるが……。

 

「あっ、そもそも僕、まだ『気』を使えないんでした」

 

 ああ、自分で混ぜ合わせを実行してみようと思ったのか。可愛い。

 ちなみに『究極技法(アルテマ・アート)』は私も使えないよ。使えるようになったらすごいなとは思うけど、修行に当てるだけの時間がないからね。他に鍛えるべきことが山ほどあるのが私だ。最近は、『千年戦争アイギス』の人達から冥府の魔術と時の魔術を学んでいる。

 

「まあ、ネギくんもそのうち、『気』に目覚めるくらいには剣術修行で追い込まれると思いますので、その時に『究極技法(アルテマ・アート)』を覚えるか決めればいいですよ」

 

 私はそうネギくんに言い、ネギくんはあらためて、修行を頑張ろうと両手をにぎって気合いを入れた。

 その様子を横から眺めるあやかさんが、とろけるような顔をしている。

 あやかさんは、ネギくんへの愛だけで理屈を無視してどこまでも強くなりそうだなぁ。

 

 そう、修行には「愛のため」のような目的意識や目標が必要だ。

 私の場合、ちう様や古さん、キティちゃんという仲間達と一緒に永遠の時を生きるという大目標と、そのために造物主(ライフメイカー)による人類文明崩壊を阻止するという小目標がある。

 ネギくんは今のところ、私と一緒に永遠を生きる不死者になってはいない。私にとっての彼は小目標達成の役に立つかもしれない赤の他人という感じだ。キティちゃんはだいぶネギくんに絆されているけど、私はまだネギくんのことを仲間とは思えていない。

 

 今のネギくんは、造物主のことすら知らず、父親に再会するという思いで強くなろうとしている。

 彼の進む道と、私の進む道は、まだ重なり合っていない。いずれその道が重なり合ったとき、私もネギくんのことを頼もしい仲間として慕うようになるのだろうか。さすがに、あやかさんほど執着するようになるとは思えないけど。

 

「強くなって、クウネル・サンダースさんからお父さんのことを聞き出せるといいですね」

 

「はい!」

 

 そんな会話を交わしているうちに、機内での時間は過ぎていく。

 その後、仮眠を取ったり、食事を取ったりしながらさらに時間をつぶし、やがて機体は日本へと到着する。

 こうして、私達のイギリス旅行は、無事に終了した。

 

 イギリスから日本への移動で半日かかり、二国間の時差は九時間。麻帆良に着くとすっかり夜遅くなっており、私は荷物を整理する間もなく、慌ただしいゴールデンウィーク明けの朝を迎えるのだった。

 




※ネギま0巻読みました。後は中断して塩漬けにしていたPSO2esやFGOのストーリーを進めませんとね……。

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