【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆69 仮契約
ロンドンから日本へ飛び、そこから麻帆良に帰るだけで昨日は丸々一日を消費してしまった。
時差ボケもあり、どこかぼんやりした感じでゴールデンウィーク明けの火曜日の授業を過ごす。
そんな中、あやかさんがネギくんへ誕生日プレゼント攻勢をかけて、クラスメート達がネギくんの誕生日を初めて知りまた一騒動。そして、放課後に誕生日パーティーをしようということになり、皆で二時間ほど教室を使って騒いだ。
その最中、佐々木まき絵さんが部活動の選抜試験に落ちたとかなげいているのを見て、バタフライエフェクトによる原作との差異って怖いなー、などと思った。
そんな誕生日パーティーが終わった後、私はキティちゃんの門下に入った者達と連れ立って、エヴァンジェリン邸へとやってきた。
今日、ここからネギくんの本格的な修行開始となる。ちなみにキティちゃんの門下には、魔法バレしている朝倉さんは含まないようだ。
「うおー、なんだこれー!? ジオラマの中に入ったと思ったら、天空城! しかも下は常夏のリゾートー!」
そんな説明的な台詞で騒ぐ早乙女ハルナさん。彼女と綾瀬夕映さんは、どうやら本格的に魔法の世界へ関わることを決めたようで、今日もエヴァンジェリン邸に同行し、ダイオラマ魔法球の中へと入ってきたのだ。
ダイオラマ魔法球の別荘内部を見てはしゃぐ二人を見て、面倒臭そうな顔でキティちゃんはちう様を呼ぶ。
「千雨、魔法習得希望者への指導はお前に一任する。練習用の杖は用意したから、後は好きにやれ」
「了解。ま、最初は発火の魔法からかね」
存分にプラクテビギナってほしい。
そしてちう様のもとに集まる、近衛さん、早乙女さん、綾瀬さん、のどかさん。
のどかさんはアークスのフォトンアーツやテクニックを学ぶが、それとは別に通常の魔法を学んで精神干渉系魔法への対処方法を覚えた方がいいと結論が出たので、このメンバーの中に入っている。
ちなみにのどかさんは私がイギリス旅行に行っている間に、別荘内で改造手術を実施済みだ。
彼女はすでに地球人類ではなく、マナヒューマンというオラクル船団のヒューマンと地球人の特性を混ぜた新種族になっている。
フォトン適性が高く、魔法適性も極めて高く設定されている。さらに、惑星シオンの複製体としての機能も備えており、肉体を構成する体液が、考える水とでもいうべき物質になっているらしい。
のどかさんは人工アカシックレコードとすでに接続がされており、その体質は周囲にフォトンを散布するようになっている。
フォトンは麻帆良全域に広がっているようで、今もフォトンを通じて人工アカシックレコードへ情報が蓄積されていっていることだろう。
ちなみにのどかさんは地球人相手に妊娠が可能で、生まれてくる子供はシオン複製体としての力を持たない、普通のマナヒューマンだ。
彼女が子作りを頑張れば、地球人類にフォトン適性を持つ者が増えていくというわけだ。始めはフォトンを使える者使えない者で人類が二分化してしまうが、世代が進めば人類は徐々にマナヒューマン化していくって寸法だ。うーん、おそろしいことしているな、これ。
「おっと、修行を始める前に、ちょっと時間をくれ。魔法を覚える前に、兄貴と
カモさんがネギくんを連れ、ちう様の方へとやってきてそんなことを言い出した。
「仮契約? 何それ?」
早乙女さんのそんな疑問の声に、カモさんが待ってましたとばかりに仮契約の説明をした。
魔法陣の上で魔法使いとキスすることで、契約ができること。パクティオーカードという特別なカードが出現し、場合によってはアーティファクトと言われる
「へえー、ちなみに、仮契約っていうのをやっているメンバーは、この中にどれくらいいるの?」
その言葉に、のどかさんがビクッと身体を震わせて反応した。
「はい、みんな正直に申告! ネギ君とキスした人、手ーあげて!」
早乙女さんが、周囲のみんなに聞こえるようにそんなことを叫んだ。
すると、真っ先に手をあげるあやかさんに、遅れて水無瀬さんと近衛さんが手をあげる。
そして、近衛さんにうながされてしぶしぶ手をあげる神楽坂さんに、恥ずかしそうにようやく手をあげたのどかさんで全員だ。
「五人! ネギ君、五人も生徒に手を出したの!?」
「むしろ、これは年長者が十歳の少年に手を出したという事案ではないでしょうか」
早乙女さんの批難の言葉を聞いて、むしろヤバい立場になるのは年上側じゃないのかと私は言った。
「むう、確かに……! でも、中学三年生はまだ幼い少女判定だから、同じ子供同士でキスはセーフだよね。というわけで、仮契約、私はするよ!」
そう気軽に仮契約を決意した早乙女さん。一方、
「わ、私は……アーティファクトは欲しいですが……のどかを裏切れないです……」
ネギくんとキスすることに、のどかさんへの引け目があるのか、綾瀬さんが迷いを見せる。
一応、キス以外にも仮契約の方法はあるのだけれど、あれって契約成立まで三時間もかかるからなぁ……。
「大丈夫だよ、ユエ。ネギ先生にはいっぱいパートナーが必要だから、キスくらい気にしないよー」
のどかさんがそう言って、綾瀬さんの背中を押しにかかる。
「む、そうですか……。でも、いっぱいパートナーが必要とはどういう意味です?」
「そ、それはー……」
おおっと、のどかさんがボロを出したぞ。ここはフォローしてやらないと。
私は、綾瀬さんだけでなく、周囲みんなに聞こえるように言った。
「ネギくんは、魔法世界の英雄ナギ・スプリングフィールドの息子ですから、魔法使い達に偉業の達成を期待されているんです。ですから、多くのパートナーが必要となってくるわけですね」
「なるほどです」
素直に納得する綾瀬さん。
すると、私の言葉にあやかさんが反応する。
「偉業の達成、ネギ先生ならば成し遂げられますわ! そして、私はその助けとなる唯一無二のパートナーです! そう、私にはこのアーティファクトがあるのですから!」
あやかさんが、パクティオーカードを取り出して、高々と掲げる。
「『白薔薇の先触れ』。どのような要人であっても、アポなしで面会が可能なフリーパスですわ。無形のアーティファクトで、手に何も持たなくても効果を発揮しますので、ダンスパーティーにだって潜り込めますわ」
よっぽど自分のアーティファクトを自慢したかったのか、あやかさんが誰に問われたわけでもないのに詳細を話し出した。
「それは……強力なアイテムです」
「強力というか、凶悪だよねー」
綾瀬さんと早乙女さんが、あやかさんのアーティファクトをそう評する。
そんなアーティファクトが自分も入手できるかもしれないと、綾瀬さんは仮契約に前向きになってきた。
ここで、援護射撃をしてやるとしよう。
「ネギくんは血筋も確かな強大な魔法使いの卵ですから、仮契約した場合はほぼ確定でアーティファクトが出ます。しかも、ここまでレア率が非常に高い」
「そ、それは……!」
私の言葉で、綾瀬さんの心の天秤が一気に傾くのが分かった。
そこに、カモさんがさらに誘惑をする。
「仮契約は魔法使い側もパートナー側もお互い、何人相手でも契約を結べるんだ。軽い気持ちでやっても、誰も咎めないぜ」
その言葉が決め手となって、綾瀬さんは仮契約をすることに決めた。
「刹那の姉さんも、一発どうだい?」
カモさんが、ついでとばかりに近衛さんについてきた桜咲さんに声をかけた。
だが、桜咲さんは首を横に振って拒否する。
「このかお嬢様が西洋魔術を学ぶようですので、私はネギ先生とではなく、お嬢様といずれ仮契約しようかと……」
「別に仮契約は何人とでも契約できるんだが、心に決めた人がいるなら俺っちは引くぜ。あっ、でも、このかの姉さんと仮契約するときは、俺っちに任せてくれよな!」
カモさんはそう言ってあっさり引き下がり、早乙女さん達のために仮契約の魔法陣を描きにいった。
そして、ネギくんの唇を味わうかのようにキスをした早乙女さん。
出てきたアーティファクトは、原作と同じ『
「うおー、私のためにあるようなアーティファクト!」
早乙女さんも私と同意見のようだ
まあ、基本的にアーティファクトって、パートナーの特性に合った物が出てくるようだからね。剣士に魔法の杖が出るとかは起きないのである。
さて、次は綾瀬さんだ。
綾瀬さんは、衆人環視でのキスが恥ずかしいのか、真っ赤になってネギくんと向かい合う。
それに釣られて、ネギくんも真っ赤になり、初々しい雰囲気のまま仮契約が行なわれた。
そして、アーティファクトはというと……。
「魔法の教本です?」
自分のアーティファクトを見て、綾瀬さんが首をかしげる。
「おう、ゆえっちのは、魔法学校に入学するときに配られる『魔法使い初心者セット』みてーだな」
そのカモさんの言葉に、落胆を隠せない綾瀬さん。だが、待ってほしい。私はカモさんに確認の言葉を投げかける。
「そのアーティファクトの名前、『世界図絵』ではないですか?」
「あ? お、おう。そうみてーだが。『
「そうだとしたら、それは魔法の教本ではありませんよ。魔法に関するあらゆる最新の情報を調べることができる、魔法百科事典です」
「お、おお!? それは、すごくねえか?」
「ええ、すごいですね」
「うおー、夕映の姉貴、大当たりだぜー!」
うん、アーティファクトガチャとしてはSSRだね。
のどかさんの人工アカシックレコードはいずれその上位互換となるのだろうが……人工アカシックレコードは雑多に情報を収集しているから、体系立てて情報をまとめるのは司書ののどかさんが自力で頑張らないといけない。それを考えると、事典として問いへの答えを自動で表示してくれる『世界図絵』の方が使い勝手がいいと言える。
それに、人工アカシックレコードの存在はトップシークレットだから、他者に存在を明かせない以上、『世界図絵』で堂々と情報を閲覧できるのは大きい。
上機嫌になった綾瀬さんに、早乙女さんが『落書帝国』の情報を調べさせるなどして、場はアーティファクトのことで盛り上がった。
それはいいけど、今日の修行はしなくていいのかな?
「そういえば、エヴァちんってリンネちゃんやちうっちの師匠なんでしょ? 仮契約はしているの?」
と、そんなことを早乙女さんが突然言いだした。
私は、それに対して答える。
「していませんよ。ちう様は先生としてもよいとは思いますが、私はアーティファクトのもとになるような
「いや、大量所持って、どうなってんのよリンネちゃん」
うはは、うらやましかろう。
そして、話題はキティちゃんの仮契約についてとなる。
ちう様が仮契約しないのかと問われるが、彼女の見解は、魔法使いとして完成した後の方がいいアーティファクトが出そうだから保留というもの。
そして、同じく魔法使いでキティちゃんの弟子であるネギくんと仮契約をしないのかという話となった。
「ほう。ぼーやと仮契約か。どのようなアーティファクトが出るのか、私も気になるな」
意外とキティちゃんが乗り気だ。
そして、話の流れでキティちゃんが主、ネギくんが従として仮契約を行なうこととなった。
「では、いくぞ」
「は、はい」
キティちゃんが大人の余裕を見せつけながら、ネギくんにキスをする。しかし、それは小鳥が餌をついばむような軽いキスで、キティちゃんの乙女な内心がうかがえるものだった。
そして、ネギくんからパクティオーカードが出現し、ネギくんは早速、アーティファクトを呼び出した。
出現した物は、大きめのグレープフルーツほどのサイズがある球体だ。
「うおお、すげえぞ兄貴。『雷公竜の心臓』とかいうらしいぜ!」
うわー、それが出たかぁ。
私と同じく驚きの表情を浮かべる、キティちゃんとちう様とのどかさん。
『雷公竜の心臓』は、『UQ HOLDER!』の登場人物、
その効果は……。
「無尽蔵の魔力を取り出せる動力炉らしいです」
自身のアーティファクトで情報を調べた綾瀬さんがそう皆に告げる。
「どうやって使うの?」
「魔法具の炉心として使うもよし、魔法使いの魔力供給源として使うもよし、だそうです」
早乙女さんの問いに、『世界図絵』を見ながら答える綾瀬さん。
ふむ、これは、ネギくんの戦い方が変わるな。私は、『雷公竜の心臓』を手に持ち、四方から眺めているネギくんに向けて言った。
「ネギくん。あなたの剣の師匠であるアルトリア陛下は、生前、竜の心臓を身に宿していたと聞きます。その心臓から無尽蔵に魔力を取りだし、剣に乗せて異民族をなぎ倒していたとか」
「えっ、それはつまり……」
「はい、身体に宿せる魔力量が多いネギくんが、その『雷公竜の心臓』で無尽蔵に魔力を得られれば……ネギくんはアルトリア陛下と同じ剣技を扱うことができるようになるでしょう」
私の言葉に、ネギくんは目を輝かせた。
さて、それはいいのだが……『雷公竜の心臓』、地味にサイズがでかいね。ネギくんが戦う間、どこにどうやって保持させるか、ちょっと考えておく必要がありそうだ。
◆70 銀腕を掲げし者
さて、仮契約も終わり、それぞれ別れて修行を行なうことになった。
ちう様が初心者魔法使い組を担当。古さんが近接戦闘組を担当。キティちゃんが水無瀬さんとネギくんの本格魔法使い組を担当だ。
ネギくんと並んでやってきた水無瀬さんに、キティちゃんが言う。
「あらためて聞くが、本当にいいのか? 確か、お前の担当魔法教師は魔法世界出身だろう? 『
水無瀬さんは、ゴールデンウィークの間に今の師匠を見限って、キティちゃん側に付いた。その意思を再確認しているのだろう。
「先生は、私が辛いときに助けてくれなかった。それならば、私は自分を救ったリンネさんの居る方に付くわ」
そんな水無瀬さんの答えを聞き、キティちゃんは素直に彼女の門下入りを認めた。
そして、キティちゃんはさらに問いを投げかけた。
「一つ聞くが、人に感染する魔法ウィルスの研究をしていたか?」
「……なぜそれを」
「私にもいろいろ伝手はある。それで、だ。その研究は、悪用すると人類滅亡を引き起こすパンデミックに繋がる。破棄して、誰の目にも付かないようにしておけ」
「……そうね。そうするわ。元々、世の中を恨んで四月に始めたばかりの研究だし、捨てても惜しくはないわね」
「そうしろ。ゾンビ映画のように、ゾンビウィルスで人類が滅亡する未来など見たくはないからな」
『UQ HOLDER!』では、マジで水無瀬小夜子のゾンビ魔法ウィルスで、一度地球滅びかけたからね!
並行世界を作らない上書き系の時間逆行能力で全部なかったことになって、なんとか無事に収まったけど。
「では、ぼーやと小夜子は精神力の限界を測る試験からだ。リンネは、相坂さよに関してだったな?」
「はい。昨日、相坂さん用の人形が完成しましたので」
キティちゃんの問いに私がそう返すと、水無瀬さんが連れていたぬいぐるみの相坂さんが『嬉しいですー』と喜びを示した。
「私は手伝わなくていいのかしら?」
水無瀬さんがそう言うが、私の方で全部やっておくと答えて、私はぬいぐるみの相坂さんを受け取った。
そして、私は一人、別荘の部屋を借りてベッドの上に相坂さんのための人形を取り出す。人形は何も身にまとっていない。
さらに、人形作成プロジェクトの代表者として、一人スマホからキャラクターを呼び出した。
「あら、ここが現世ね」
そんな言葉を発したのは、『銀腕を掲げし者トラム』。今回のプロジェクトで人形の作成に関わった者の一人である。途中参加ながらプロジェクトの主導権をにぎっていたらしい。
トラム様は魔導機兵という強力な自動人形を作り上げた経歴を持つ亜神だ。そう、神様である。カルデアの神様系サーヴァントのようにクラスという枠組みに押し込められてはいない、ガチモンの神様。
彼女は、その力を存分に発揮して、人形をトンデモスペックで作り上げた。相坂さん本人は別に戦闘とかを望んでいるわけではないのに、完成した人形はどう考えても戦闘用に仕上がっていた。
「要望通り、幽体のあなたに似せて外装を整えてあるわ。造形はダ・ヴィンチちゃんとガラテアが念入りに仕上げていたから、人形であることの違和感はほとんど出てこない」
『ありがとうございますー』
トラム様の説明に、相坂さんがぬいぐるみの中から礼の言葉を発した。
「強力な人形なので、他の雑霊にボディを乗っ取られないよう、人形とあなたを契約で結びつけるわ。それによって、人形に魂が自然発生することすらなくなるの」
『契約ですかー。人形が傷ついたら、私も傷つくとかですか?』
「そういうことはないから安心しなさい。でも、替えは利かないので大事にしてほしいわ」
『はい、ようやく手に入った私の身体ですから、大切に扱いますー』
そんな会話を交わした後、トラム様は人形の胸部を開け、心臓の位置に相坂さんのぬいぐるみの中から取りだした触媒を納める。
そして胸部を閉じ、トラム様は右の手の平を人形の左胸に当てる。
すると、銀に覆われたトラム様の右腕から青白いオーラがほとばしり、人形の胸部に吸い込まれていく。
「はい、完了。起きられるかしら?」
「わっ、わー……! 物を触る感触があります……!」
相坂さんは勢いよく起き上がると、数十年ぶりの生身の感覚が嬉しいのか裸のままはしゃぎ始めた。
「はいはい、嬉しいのは分かるけれど、まずは服を着てね」
「はっ、私、裸です……!」
トラム様の指摘に、恥ずかしそうに局部を隠す相坂さん。
私はそんなやりとりを見て微笑ましい気持ちになりながら、用意していた服を相坂さんに渡した。それを相坂さんは、すぐに着ていく。
その様子を観察していた、トラム様が言う。
「うん、どうやら腕力も日常生活用に調整されているわね。あとは、戦闘時にどうなるかね」
「戦闘、ですか?」
服を着ながら、不思議そうに聞き返す相坂さん。
「ええ、その人形は、戦闘用の魔導機兵なの」
「ふわー、すごそうです」
「ええ、すごいのよ。あなたは今後、魔法使いのリンネの庇護下に入るし、今後試練が待っているネギと行動をともにすることも多いでしょう? なら、戦う力は必要になるはず」
「うーん、私が戦うって、想像付かないです」
「その辺は大丈夫。戦闘用のプログラムがインストールしてあるから、他の人達みたいに修行を頑張る必要はそこまでないわ」
「あっ、そうなんですねー」
人形作成プロジェクトの参加メンバーには、そのあたりを調整できる技師もいた。
各々が本気を出し、さらに相乗効果を発揮したので、相坂さんのボディはすごいことになっている。さらに専用の武装も用意され、同じ人形であるアーウェルンクスシリーズとも正面から戦える見込みだ。
相坂さん次第だが、今後、対ヨルダに関して貴重な戦力の一人となるかもしれない。
そんなすごい人形に憑依している自覚はないのか、相坂さんはぽやぽやとした表情で、トラム様が説明する身体機能を聞いていた。
この顔を見ると無理に戦ってとは言えないなぁ、などと私は思うのであった。
◆71 ネギの剣
相坂さんを連れ部屋を出て、建物の外で一通りの動作チェックと戦闘機動を試した私達。
トラム様は満足して、後の指導は私に任せると言ってマニュアルをこちらに渡してきた。
私は分厚いマニュアルに内心で面倒臭いと思いながら、トラム様への報酬として昼休みに購入しておいたクッキーを進呈。トラム様は笑顔でクッキーを食べ始めた。
「現世のお菓子を私達の世界に持ち込めたらいいのにね」
クッキーの食べかすを口元につけながら、トラム様が言う。
「スマホの中に自在に物を入れられたら、さすがになんでもあり過ぎますね」
「でも、向こうの物は自在に現世へ持ち出せるじゃない?」
「そこはまあ、私が神様に願った力の範疇に入るので」
拡大解釈気味だとは思うが、そういう仕様になっている以上は活用するまでだ。
そして、クッキーを一箱食べきったトラム様は、今度現世での甘味屋巡りをすることを約束して、スマホの中へと帰っていった。
それから私は、相坂さんを連れて皆に紹介をしてまわった。
相坂さんを見て、別荘の使用人と勘違いする人も居たが、元地縛霊で3年A組の教室にずっといた人だと説明すると、誰もが驚きで固まっていた。
明日から復学扱いになるのでよろしく、と伝えると、みんなが快く相坂さんのことを受け入れた。
そんなことがあった別荘内での修行の一日。初心者魔法使い組は当然のように魔法は発動していないようだ。
そして、ネギくんは魔法だけでなくアルトリア陛下の剣の修行も受けて、すっかりヘロヘロになっていた。
そんなネギくんに活力を与えるため、私は彼に誕生日プレゼントを渡すことにした。
「ネギくん、約束していた誕生日プレゼントです。どうぞ、お受け取りください」
「ありがとうございます! ずっと楽しみにしていたんです!」
私が最初に渡したのは、練習用の剣セットだ。
「まずは、ネギくんが使う機会は真剣よりおそらく多くなるであろう、非殺傷の剣セットです」
スポーツチャンバラ用のエアーソフト剣に、竹刀、そして木剣だ。
「この木剣は、世界樹の枝から削り出した木刀であり、魔力の通りが非常にいい一品です。本気の戦闘がしたいけれど、相手を殺したくないときなどに使うとよいでしょう」
「殺したくないとき……誰かを殺すだなんて、そんな機会は訪れないとは思いますが」
「いえいえ、ネギくん。戦う相手が人間とは限らないですよ」
「あっ、そうですね……」
ネギくんは、村を襲った悪魔あたりを想像したのだろうか。真剣な表情を作って木剣を見る。
そんなネギくんに、私はもう一つの品を進呈する。
「こちら、そんな相手と戦うための真剣です。どうぞお納めください」
それは、十歳のネギくんには少々大きいと思わせる、一本のロングソードだ。
「特別ないわれは何もありません。魔剣でも聖剣でもありません。今のネギくんはなにものにも染まっていない、ピュアな剣士。ですから、これといってエンチャントは、施しませんでした」
「ありがとうございます。格好良い剣ですね!」
「ふふっ、そういうと造った子猫達も喜びます。ああ、そうだ。特別な付与はされていませんが、その剣に使われている金属は特別製でして……」
「金属、ですか? 鉄ではないんですか?」
「はい。アンオブタニウム、という私のスマホと通じている別宇宙で採れる、未知の元素でできています」
私がそう告げると、横で話を聞いていた綾瀬さんが『世界図絵』で検索をする。
「何も出ないです」
綾瀬さんがそうつぶやく。
そりゃそうだ。アンオブタニウムはSF小説で出てくる用語だし、スマホの中の宇宙で採れる物質だからね。魔法の百科事典では調べられるようなものではないだろう。
本来このアンオブタニウムは近接武器として使うような、原始的な使用方法はしない。だが今回、スマホの中の子猫達が、採掘用のアンオブタニウムドリルの技術を応用して剣に仕立ててくれた。
「切れ味だけはすごいですから、使う相手を選ぶようにしてくださいね」
「はい、気を付けます。本当にありがとうございました」
私の忠告をネギくんは素直に受け入れ、キティちゃんから教えてもらったばかりの別空間に武器を格納する魔法で、剣をしまっていった。
まあ、ネギくんなら使い道を誤るということもないだろう。
こうしてネギくんは戦うための武器を手に入れ、本格的に強くなるための道を歩み始めた。
※我が家にトラム様はプラチナバージョンしかいないので、会話や設定におかしなところがあるかもしれません。