【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■3 せかいのどく

◆7 王道エヴァルート

 

 エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。

 六〇〇年を生きる吸血鬼の真祖であり、元であるが六〇〇万ドルの賞金首だ。魔法使い達の間では、闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)と呼ばれ恐れられている。

 

「……ヤバくねーか?」

 

「いや、そこまで極悪ではないですね。魔法使いの国における扱いは、一種のナマハゲのようなものです」

 

「悪い子はいねーかーって?」

 

「はい、子供の教育に使う、偶像としての悪役ですね」

 

 その扱いに、キティちゃん本人がどう思っているかは知らないが。

 

「それに今は、呪いで強制的に麻帆良の地に縛りつけられたうえで、麻帆良の魔法結界で無力化しています。魔法的な観点で見れば、安全ですよ」

 

「魔法的な観点ってなんだよ……」

 

「人間的な観点で言うと、六〇〇年生きた人ですから、武術の達人となっています。推定猫二匹分未満の強さしかない今のちう様では、指先一つでダウンです」

 

「全然安全じゃねえ!」

 

 と、そんな会話をしながら、エヴァンジェリン邸の前で彼女の帰りを待つ。

 こちらは小学五年生で、相手は中学生のため、放課後に到着した時点でもまだキティちゃんは帰宅していないようだった。ちなみにエヴァンジェリン邸は、ちう様との一年間の麻帆良マップ作りですでに発見済みだった。オシャンティなログハウスである。

 

 やがて、日がやや傾いてきたあたりで、キティちゃんが私達の前に姿を現した。従者はいない。絡繰(からくり)茶々丸(ちゃちゃまる)は未完成なのだろう。

 

「なんだ貴様らは。そこは私の家だぞ」

 

「オシャレなログハウスですね」

 

 そんな言葉を私は切り出す。

 

「ふん、ここは子供の遊び場じゃない。お子様はさっさと帰れ」

 

 私の横でちう様がイラッとしたのが分かる。

 うん、相手の見た目は、明らかに私達より年下の少女だからね、見た目だけは。そんな子にお子様扱いされて、反射的に頭にきたのだろう。

 

「私は刻詠(ときよみ)リンネ。こちらは同級生の長谷川千雨さんです。闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルさん。あなたにお話があります」

 

 私がそう告げると、キティちゃんの目がすっと細くなった。

 

「魔法生徒か。肝試しにでも来たか? あいにく、私は人に優しいお化けじゃないぞ」

 

 キティちゃんの右手の指先がピクリと動く。

 人形遣いの糸術だ。魔法の力を封じられたキティちゃんの手札の一つ。

 だが、それを使えるのはキティちゃんだけじゃない。

 

 私は指先で糸を操り、キティちゃんが飛ばした糸をからめとる。

 

「なにっ? 貴様も糸を……」

 

「私も、人形遣いの技術を少々使えまして」

 

 もちろん、そんな技術を練習した来歴なんて私にはない。これも、スマホゲームの力の一つだ。

 くぐつ使い。戦闘人形や機械を糸で操る職業(クラス)

 

「ただの子供ではないようだな!」

 

 キティちゃんは両手を胸の前に掲げ、さらに糸を繰り出そうとする。

 

「あー、すみません、こちらに争う気はないです」

 

「何を……!」

 

「長生きな魔法使いさんと、取引をしに来たんですよ。ちなみに私と横にいる子は、二人とも魔法生徒ではありません」

 

「…………」

 

「そうですね、先に興味ありそうなことを。サウザンドマスターは死亡していません。今も生きています」

 

「なんだとっ!?」

 

「サウザンドマスターの現状、知りたくないですか?」

 

「その言葉、もし嘘だったら……生きて帰れると思うなよ?」

 

「読心の魔法やギアススクロールを使っても構いませんよ」

 

 キティちゃんは両手を下ろし、こちらに向けて歩き出した。

 そして私達とすれ違い、ログハウスの入口へ。ドアの鍵を開けながら、彼女は言った。

 

「ついてこい。話を聞いてやろう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そうして、キティちゃんは一人でログハウスの中へと入っていった。

 その成果に私は浮き足立ち、横に立っていたちう様に向けて言う。

 

「やりましたね。第一ステージクリアですよ!」

 

「いやいやいや、こえーよ! 一触即発だったじゃねーか!」

 

「いやー、くぐつバトルとかにならなくてよかったですね」

 

「巻き込まれる私の気持ちになってみろや!」

 

 そんなちう様をなだめながら、私は素敵なログハウス、エヴァンジェリン邸へと入っていくのであった。

 

 

 

◆8 予言

 

「まず始めに言っておきますね。私達の目的は、西洋魔法を習得することです」

 

 客間のテーブル席に着いた私は、早速とばかりにこちらの用件を切り出した。

 すると、対面のキティちゃんは嫌そうな顔をした。

 

「そのような目的で、なぜ私のところに来るんだ。魔法使いなど、麻帆良にいくらでもいるだろう」

 

「私の知る中で魔法を知っている人物は、ごく少数。その中で、魔法社会に関係ない人物が魔法の存在を知った際、記憶の封印を選ばない可能性が高いのが、あなたでした。さらに、取引を持ちかけるための手札が存在するのは、あなたに対してだけです」

 

 私がそう言うと、キティちゃんは、ふんと鼻を鳴らした。

 

「用件は分かった。で、さっきの話だが」

 

「サウザンドマスターですね。順を追って説明しますが、サウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドには息子が存在することをご存じですか?」

 

「ああ……、確かネギだとかいう……」

 

「その子が住んでいた村が、三年前に襲撃を受けたということは?」

 

「それは知らんな」

 

「その襲撃で、村の住民のほぼ全員が石化の魔法を受けて壊滅。召喚された魔族の攻撃を受ける中、ネギくんは駆けつけたサウザンドマスターに救出されています」

 

「…………」

 

 うわ、すごく胡散(うさん)臭そうな顔をしてる……。

 まあ、端から見たら小学生の妄想でしかないからな。

 

「そして、現在のサウザンドマスターの居場所ですが、彼は今、悪しき魔法使いに囚われています」

 

「……はあ?」

 

「話は飛びますが、魔法世界、ムンドゥス・マギクスは現在、魔力不足で滅びかけています。その魔法世界の住人達を永遠に続く眠りにつかせて世界を縮小することでどうにか延命しようと、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』という秘密結社が絶賛暗躍中です」

 

「……続けろ」

 

「その完全なる世界の親玉は、『造物主(ライフメイカー)』ヨルダ・バオト。魔法世界を創り出した人物で、『始まりの魔法使い』などと呼ばれていますね。その親玉は他人の身体に憑依する精神体とも呼べる存在で、現在サウザンドマスターの身体を乗っ取っています」

 

 うん、明らかにキティちゃんの顔が引きつったのが分かる。

 

「以上が、私が知る現在のサウザンドマスターについてです」

 

「……よくできた作り話だ」

 

 そう、平坦な声でキティちゃんは言った。

 

「と、言われることくらい分かっているだろう? 貴様の話を裏付けする証拠はあるか? あるならば、信じてやろう」

 

「証拠ですかー……」

 

 それを言われると辛い……とはならないが、正直ちう様のいるところでは見せたくなかった。

 私は横に座るちう様の顔をちらりと見る。不安そうにこちらを見る彼女の表情に、私は覚悟を決める。ちう様が衝撃の事実を知っても心を壊してしまわないよう、私が支える覚悟を。

 

「これから見せるのは、とある『予言の書』です。宗教的な『預言書』の方ではなく、世間で話題のノストラダムスの方の『予言』です」

 

「ずいぶんと話が飛躍したな……」

 

 呆れたように言うキティちゃんに見せつけるように、私は手の中へスマホを召喚した。

 

「ほう、アポーツの魔法か何かか? 貴様、糸以外にも使えるのか」

 

「まあ西洋魔法以外の超常能力をいろいろと。それよりも、こちらをご覧ください」

 

 私はスマホを操作し、電子書籍閲覧ツールを起動。そこから、一冊の本を選択した。

 本のタイトルは、『魔法先生ネギま! 1』。

 

「三年後から先の未来を示す、予言の書。この世界に対する劇薬(どく)です」

 

 

 

◆9 魔法先生ネギま!

 

「ぬああ、四歳も年下のガキを好きになるとか、ねーから!」

 

「ふはは、どう見ても惚れているではないか!」

 

「ねーから!」

 

 一台のスマホを囲んでの『魔法先生ネギま!』読書会。

 序盤のエロコメ漫画展開に席を立ちそうになるキティちゃんをなだめすかして、桜通りの吸血鬼編まで読んだところで、読書の場所を移した。

 

 計三十八巻にも及ぶ長編漫画を読むために、私とちう様、キティちゃんの三人は、エヴァンジェリン邸にあるダイオラマ魔法球の中に入ったのだ。内部での二十四時間が外の世界での一時間になるという精神と時の部屋である。

 

 ちょっとしたジオラマの外見で、内部に入ると広大な空間を持つという物凄い魔法の力を見て、ちう様は完全に放心していた。

 そんなちう様の表情をスマホで撮影しつつ、自動人形に世話をされながら三人で電子書籍を閲覧。

 数時間かけて読みふけり、今、最終巻を見ているところだ。

 

 人柱となった神楽坂(かぐらざか)明日菜(あすな)。そこからのスーパー未来人パワー(デウスエクスマキナ)。そして迎える大団円。

 宇宙開発のための軌道エレベーター(建築中)を背景にして、物語は幕を閉じた。

 

「以上、『魔法先生ネギま!』全三十八巻でした」

 

「……待て」

 

 スマホをスクロールする手を止めた私に、横から声がかかる。キティちゃんの声だ。

 

「待て待て。なんだこの間をすっ飛ばした結末は! ナギは、どうやって助け出されたのだ!」

 

「そこは、続編をお楽しみということで……」

 

「まだあるのか!」

 

「はい、『UQ HOLDER!』という漫画……げふん! 予言の書が!」

 

「漫画といったな! やっぱりこれ、ただの漫画じゃあないか!」

 

「でも、明らかに未来のことを示しているのは、分かりましたよね?」

 

「ぐっ、そこは確かに認めよう。これはネギ・スプリングフィールドの未来を示す書であると」

 

 ソファから腰を浮かせて私につかみかかろうとしていたキティちゃんをなだめすかせ、着席させた。

 

「では、その続編とやらを見せろ」

 

 そう要求してくるキティちゃん。だが、待ってほしい。

 

「漫画を三十八巻分、一気読みしたんですよ。何時間経ったと思っているんですか。食事にしましょう、食事に」

 

「む……」

 

「まあ、私とちう様は、エヴァンジェリンさんに用意してもらわないと、どうしようもないのですが」

 

 キティちゃんのダイオラマ魔法球は、入ってから内部で二十四時間経過しないと出られないのだ。

 なので、キティちゃんに夕食を用意してもらう必要がある。

 

「分かった。晩餐としよう。世話をしてやるから、ありがたく思え」

 

 そういうことになった。

 

 

 

◆10 出席番号25番長谷川千雨

 

 広いテーブルの上に並べられたのは、豪華なディナーだ。

 正直、うんまい。私のスマホ能力でプロ級の料理人を呼び出すことも、料理人の料理能力を身に宿すことも可能だ。が、私は実家住みで母が毎日料理を作っているので、その能力を行使したことは残念ながらない。

 なので、こういう高級料理を食べるのは、今生で初めてのことだった。

 

 美味しい美味しいと食べているのだが、私の横に座るちう様は苦い顔だ。

 

「どうしたんです? 口に合いません? 美味しいのに」

 

「いや、さっきの漫画がな……」

 

「ネギ先生との恋模様?」

 

「そっちじゃねえ。私の末路が、ガチ引きこもりのネット廃人って……」

 

 ああ、ネギま最終話では、クラスメート全員分のその後が語られているんだよね。

 長谷川千雨のその後は、大学卒業後に引きこもりのネット廃人である。なお、ISSDA特別顧問も兼任している。ISSDAは、火星をテラフォーミングするための宇宙団体のことだね。

 

 そんな落ち込むちう様に、私は言った。

 

「大丈夫ですよ。ああは書かれていましたが、私にはちょっとした見解があるんです」

 

「なんだよ」

 

「引きこもりになるとしても、親のすねをかじって引きこもると、ちう様は思いますか」

 

「あー、いや。うちの家庭環境でそれはねーな」

 

「あれ、多分、専業主婦ですよ」

 

「あ?」

 

「ちなみにネタバレしますが、あのネギ先生が好きだったのは、出席番号25番の長谷川千雨です」

 

「私か!?」

 

「長谷川千雨です。あの世界線の長谷川千雨は、ネギ先生と結ばれます。そして、家から出ない引きこもりの専業主婦になったと思われます。未来って、ネット通販がすごく発達しているんですよ」

 

「いやいやいや、結婚って。私が四歳下の子供相手ととか、ねーから……」

 

「そうですね。長谷川千雨はともかく、ちう様はもしかしたら無いかもしれませんね」

 

「……んん?」

 

 私の言い方に、ちう様は首をかしげる。

 それを見たキティちゃんは、面白そうに笑った。

 

「くっくっくっ、そういうことか。未来の分岐、並行世界か」

 

「はい。ちう様は、『魔法先生ネギま!』という未来の情報を知ったことで、無数の選択肢が生まれました。そこで、ちう様がネギ・スプリングフィールドくんに惹かれるかは、不確定で今後次第というわけです」

 

「あー、並行世界ね……超弩級の情報を手に入れた私の未来は、不確定か」

 

「そうですね」

 

 うーん、料理美味しー。どこの国の料理なんだろう。西洋風に見えるけど。

 

「だが、一つ分からんことがある」

 

 優雅にワイングラスを傾けながら、キティちゃんが言った。

 

「予言の書などというオーパーツを手に入れられるような重要人物。刻詠リンネ。貴様の存在が予言の書に、影も形もなかったことが解せん」

 

「あー、私は、『魔法先生ネギま!』にはいないんですよ。もちろん、その続編にも」

 

「貴様は3年A組に編入されなかったということか?」

 

「いえ、そもそも私は『魔法先生ネギま!』の世界にいないはずの存在なんです」

 

「……?」

 

「私は、転生オリ主なんですよ」

 

 私がそう言うと、ちう様が「そういうことか!」と叫んだ。うん、ちう様にはこのあたり、単語を予習させておいたからね。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

 全く理解できていないキティちゃんの再度の問いに、私は答える。

 

「私は神様の手によって、こことは違う世界からこの世界にやってきました。本来のネギ・スプリングフィールドが主人公の物語(ちゅうしんとなったれきし)に、第三者が勝手に書き加えたオリジナル主人公。世界の異物メアリー・スー。それが私の正体です」

 

 ステーキにナイフを入れながら、私は上品になるように努めて笑った。

 ステーキを上手く切れなくて、その笑顔は長時間維持できなかったが。

 

 

 

◆11 裏切りの魔女

 

 夕食の後、浴場に入り、少しお腹を休めたところで、『UQ HOLDER!』を二十八巻全て読破した。

 そして、完全に徹夜になったのですぐさまぐっすり眠り、起きた後の朝食だか昼食だか夕食だかも分からない食事の席。

 

「刻詠リンネ。貴様の最終目的は、造物主の撃破か?」

 

 キティちゃんにそう尋ねられ、私は素直に答えた。

 

「いえ、あなたにとっては残念かもしれませんが、それは違いますね。今後の流れ次第では、私がその討伐に関わることもあるかもしれません」

 

「では、何だ? 火星のテラフォーミングか?」

 

「テラフォーミングは協力できるならしたいですが、それも違います。私の目的は……私とちう様が無事に生き長らえることです」

 

「……そうか」

 

第二の予言の書(UQ HOLDER!)』に描かれていた悲劇を思い出しているのであろう、キティちゃんがそう短く答えた。

 

「さて、ここまでは、ただの前座です。あらためて、エヴァンジェリンさん、あなたと取引がしたいです」

 

「ああ、なんだったか。魔法を習得したい、だったか?」

 

「他にもいくつか要求があります。そこで、私から新たに提示する物があります」

 

「なに? 未来の情報以外に、まだ何かあるのか?」

 

「はい。実は私、神様の手によって転生させてもらう際、特殊能力を得まして。その中の一つに、並行世界の過去に存在した、英雄の霊体を召喚するという能力があります」

 

「……降霊術か?」

 

「召喚する英霊は、ただの霊魂ではなく、物質への干渉能力があり、魔術師の英霊ならば魔術の行使も可能です」

 

「ほう……」

 

「その英霊を一人、ここに呼び出します」

 

 私はそう言ってカトラリーを置き、手元にスマホを呼び出した。

 そして、スマホを操作し、ゲームのアイコンをタップ。選んだゲームは、『Fate/Grand Order』だ。

 

「おいでませ、メディア様」

 

 すると、私の背後に一人の英霊が顕現する。

 

「やっと呼んでくれたのね。あら、食事中じゃないの」

 

「後はデザートだけですよ。メディア様も食べます?」

 

「せっかくだからいただくわ」

 

「エヴァンジェリンさん、一席用意してくださいますか?」

 

「ああ。で、そいつは何者だ? 格好からして、魔法使いのようだが」

 

 キティちゃんが自動人形に指示を出しながら、そう問いかけてくる。

 ふっふっふ、驚くがよいぞよ。

 

「コルキスの王女。女神ヘカテと魔女キルケーの愛弟子。神代の魔術師」

 

「ギリシャ神話の魔女メディアか!」

 

 テーブルに身を乗り出しながら、キティちゃんが叫んだ。

 お行儀が悪いが、この世界の魔法使いにとっても、神代の魔術師は彼女をそうさせるほどのビッグネームであったらしい。

 

「まあ、この世界とは違う並行世界出身の英霊なので、この世界で使われる魔法には詳しくないはずですが」

 

 私がそう言うと、メディア様は自動人形が引いた椅子に座りながら、得意げに答える。

 

「でも、空間中のマナを用いて、魔術を行使する仕組みは同じなのでしょう? それなら、少し教えてもらえれば、この世界の魔術も解き明かしてみせるわ」

 

「ふうむ、その英霊が、貴様の提示する私にとっての取引材料ということか?」

 

 キティちゃんの問いに、私は首を横に振る。

 

「彼女は条件達成のために必要な要員といいますか……主目的は、ナギ・スプリングフィールドに一切頼らない、エヴァンジェリンさんの登校地獄の呪い解除です」

 

「……なるほど、そう来たか」

 

「私が呼び出す英霊は、生前の逸話を昇華した宝物、『宝具』を所持しています。超すごいアーティファクトだと思ってください。そして、メディア様が所持する宝具の一つは、『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。短剣状の宝具で、切りつけた相手にかかっているあらゆる魔術を初期化する効果を持ちます」

 

「あまり使いたくはないのだけれどね。昔を思い出してしまうから」

 

 目の前に置かれたケーキをフォークで切り崩しながら、メディア様がため息をつきながら言う。

 それに補足して、私はキティちゃんに向けて言った。

 

「ちなみにこれを適当に使うと、エヴァンジェリンさんの吸血鬼化の術式まで初期化してしまう危険性があるので、メディア様による魔法と呪いの研究が必須となっています」

 

「……ふむ、そうか。そちらの追加要求次第だが、呪いの解除は魅力的だな」

 

 キティちゃんが腕を組みながらそう言った。

 

「サウザンドマスターに呪いを解いてほしかった、とかはないんですね」

 

 キティちゃんがそんなことをのたまう二次創作小説を昔に読んだ覚えがある。

 

「アホか。私がそんなロマンチストに見えるか」

 

「予言の書を見る限りだと、かなり見えますね」

 

「あれは忘れろ!」

 

 そんな私とキティちゃんのやりとりに、ちう様がふふふと笑った。昨日は、ちう様がいじられる側だったからなー。

 

 さて、そういうわけでデザートの時間も終わり、キティちゃんがお前の力を見せてみろといったので、ダイオラマ魔法球内の海岸でいくつかの技を披露。それからあらためて、私とキティちゃんは取引の内容をまとめることになった。

 

1.リンネはキティちゃんの登校地獄の呪い解除に向けて、その能力を行使すること。

2.キティちゃんは、ちう様とリンネ、リンネの部下に魔法の技術を伝授すること。

3.キティちゃんは、ダイオラマ魔法球内にリンネの部下達を滞在させ、技術研究のために一部区画を貸し出すこと。

 

4.リンネはキティちゃんの許可なく、予言の書を他者に閲覧させないこと。ただし、リンネの部下は除く。

 

5.キティちゃんは、メディア様に己が所有する書物を自由に閲覧させること。

6.キティちゃんは、メディア様に定期的に給与と休暇を与え、ダイオラマ魔法球の外での活動を支援すること。

7.リンネ、ちう様、キティちゃんは、メディア様が用意する衣服を求めに応じて着用する義務を負うこと。

 

 大体こんな感じだ。

 

 条件4は、キティちゃんの恥ずかしいあれこれを他人に見せるなとのお達しのようだ。まあ、『UQ HOLDER!』にはネギ先生と雪姫先生(エヴァンジェリン)の事後っぽいシーンとか描かれているからね……。

 

 条件5と6は、メディア様が協力するにあたって、彼女が出してきた条件だ。

 私が呼び出す英霊は、当然ながら自由意志がある。英霊が私に協力してくれるかは、その英霊次第だ。

 スマホに入っているゲーム本編のように、世界の危機が訪れているわけでもなし。そんな状況下で、私に無条件で従ってくれる英霊はそうそういない。

 

 今回メディア様が出した条件は、魔道の探求に必要な書物の閲覧権の要求だ。キティちゃんはダイオラマ魔法球を所持しているだけあって、でかい書庫がある。そこを自由に見させろと言う要求だね。

 給与は、小学生の私じゃどうしようもないので、キティちゃん頼みだ。もし資金が必要なら、(ゴールド)でもスマホから出して、キティちゃんに売りさばいてもらうつもりはあるけど。

 衣装については……メディア様、ギャグ時空に染まらなくていいんですよ?

 

「条件3の、〝部下達〟と複数形なのが気になるが……他に英霊を呼ぶのか?」

 

 キティちゃんが、条件をまとめたメモ書きを見ながら聞いてくる。

 追加の英霊か。魔女キルケーとか呼んでもいいんだけど、私が一度に現界させられる英霊の数はゲーム仕様的に上限があるので、あまりポンポン呼び出したくない。

 なのでメディア様の助手として呼ぶのは、別のゲームの存在だ。

 

「英霊とは違う、私の忠実な部下を呼ぶ予定ですよ。試しに一匹呼びますね」

 

 私はスマホを操作し、ゲームアイコンをタップする。起動するゲームは、『Kittens Game』。

 

「匹……?」

 

 私の言葉に怪訝そうな顔をするキティちゃん。

 そんな彼女の前に、私は部下を呼び出した。

 

 それは、一匹の猫。

 二足歩行で、服を着た、ちょっと変わった猫だ。

 

「求めに応じて参上したにゃー」

 

「か、可愛い……!」

 

 メディア様、キャラ崩壊注意ですよ!

 

猫妖精(ケット・シー)の変種か……?」

 

 そういえば、この世界にはケット・シーがいるとか、原作でカモくんが言ってたね。

 だが、この子は妖精なんかじゃない。

 

「彼は子猫です」

 

「猫か」

 

「はい、子猫です。種族名は、子猫(Kittens)としか言いようがありません」

 

 子猫(キティ)ちゃん。猫仲間だよ! 口に出して言ったら殺されそうなので言わないが。

 

「よろしくにゃー」

 

「子猫は、頭がよく、手先が器用で、働き者な種族です。科学技術に優れ、研究開発が大得意です。これまで魔法に触れたことはありませんが、教えさえすればその開発力でメディア様の助手としてお役に立てるはずです」

 

 メディア様の方を見ると、彼女はにっこりと笑みを浮かべていた。

 

「服を着る文化があるのね。どんな衣装が似合うかしら……」

 

 ギャグ時空から帰ってきてください、メディア様!

 

 ……そんなこんなで、私とちう様の二人と、キティちゃんとの秘密の関係が始まったのだった。

 

 別に魔法を教えること自体は学園に秘密にするわけではないのだが、私の転生能力と予言の書の存在は学園には秘密だ。

 そして、私とちう様の同好会は形を変え、魔法修練の会に。私達は、本格的に非日常へ足を踏み入れた。

 




※ちなみに私は単行本で読んでいるので、『UQ HOLDER!』のラストをまだ知りません。オリ主は未だ存在しない二十八巻を読んでいるッ!

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