【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■30 金星の住人

◆74 闇の魔法

 

 五月も半ばになった。そろそろ原作漫画における悪魔ヘルマンの襲撃がある時期だが、今のところ前兆となる犬上小太郎の来訪は見受けられない。

 キティちゃんも、念のため監視の目を飛ばしておくと言って、影の魔法でネギくんや一部生徒達にマーキングをしているらしい。

 私も女子寮にサーヴァントを忍ばせようかキティちゃんに言ったところ、ギリギリまでネギくんの成長のために手を出すなと言われたので、予定していた『アタランテ』の配置はやめておいた。彼女だと、子供を守るために、中学生の女子寮に侵入した悪魔ヘルマンを即座に狩りそうだからね。

 

 その代わりに、隠密に優れた『呪腕のハサン』さんを配置した。女子じゃないけど彼は職業暗殺者なので、女子寮に居てもよこしまな感情は持たないでいてくれるだろう。

 ちなみに彼は優しいので、子供の成長を促すためと言ったら、快く対価なしでの護衛を了承してくれた。いや、お高いご飯をおごるくらいはするとは言ったんだけど、スマホの中の世界に嗜好品は十分あるのでいらないと言われたんだよね。私は彼のマスターではないが、彼が住む世界のオーナーではあるので、それなりの忠義を私に捧げてくれている。

 

 そんな保険をかけた状態で、私は毎夜、女子寮を離れてエヴァンジェリン邸の別荘で修行を行なっていた。

 一ヶ月後の麻帆良祭までに習得したい技術があるため、長期の休みでもないのに平日の学校の時間以外は別荘に籠もりきりなのだ。

 

 別荘に籠もっているのは私だけではない。ちう様も何かやりたいことがあるらしく、ずっと別荘に入り浸っている。

 そして、私とちう様が別荘にいると知って、古さんも「負けていられないアル」とか言いだして別荘で修行に入った。いや、中間テスト近いんだから、古さんはバカレンジャーの一人として勉強を頑張りなさいよ。

 

 そんな別荘での日々が続き、たまに行く学校での授業が新鮮に感じてしまうくらいの濃い修行時間が過ぎていく。

 そして、あるとき私はちう様に相談事があると言われて、修行を中断し彼女のもとへと向かった。

 

「ちょっと見ていてくれ」

 

 そう言って、ちう様は唐突に氷雪系の攻撃魔法の『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』の詠唱を始め、『闇の魔法(マギア・エレベア)』でそれをその身に取り込んだ。

 修行の最中に何度も見た通り、闇色に全身が包まれ、氷の申し子に変わる。そう思われたのだが……。

 

「えっ、なんですかそのトゲトゲしたフォルムは」

 

 ちう様が、『闇の魔法』でもたらされる兵装とは違う禍々(まがまが)しい姿に変わっていた。

 その姿は、まるで……。

 

「悪魔みたいだろ?」

 

 そう、悪魔だ。この世界では魔族とも呼ぶ、裏金星の魔界に住む者達に似た姿に、ちう様はなっていた。

 

「『闇の魔法』の副作用だ」

 

 臀部(でんぶ)から生えた尻尾を動かしながら、ちう様が言う。

『闇の魔法』の副作用。それは……。

 

「闇に侵食されて、異形化が進み始めた。今は『闇の魔法』使用中しかこうならないみたいだが、そのうち完全に異形の存在になっちまうだろーな」

 

 ちう様の言葉に、私はとうとうこうなってしまったか、と心の中で(なげ)いた。

 こうなることは『魔法先生ネギま!』を見ても『UQ HOLDER!』を見ても分かったことなのだ。分かりきっていたことなのに、ちう様は力を得るために『闇の魔法』の習得を選んだ。

 

「『闇の魔法』の力の源泉は、負の感情。私の場合、リンネや古への嫉妬や羨望の心だな。それがちょっと、強すぎたみてーだ」

 

 ちう様の言葉に、私は目を伏せる。分かりきっていたことだ。ちう様は私や古さんと比べて、力が足りない。

 生まれつきスマホゲームの力を取り出せた私や、幼少期から武術に打ち込んできた古さんと違い、ちう様は小学五年生になるまでごく普通の女の子だった。

 スタート地点が違うので、私達三人の中で明らかに強さが劣っているのだ。だからこそ、ちう様はキティちゃんに『闇の魔法』を求めた。そんな彼女の心の内に、嫉妬や羨望が存在するのは、当然のことと言えた。

 

「で、私のこの異形化だけど……『闇の魔法』は、金星から力を引き出すんだよな。だから、私の肉体と精神が、裏金星の住人である魔族に近づいていっているんだろう」

 

 なるほど。異形化したちう様は、先ほども述べた通り、確かに悪魔や魔族とでも呼ぶべき見た目だ。金星の力だから、金星の住人に近づいていく、と。

 ちう様はさらに言葉を続ける。

 

「人を不死者にするという機能面で見ると、私の『闇の魔法』は、エヴァンジェリン先生の『金星の黒』には及ばねえ」

 

『金星の黒』とは造物主(ライフメイカー)ヨルダが編み出し、キティちゃんに施した不老不死の秘術だ。

『闇の魔法』はこの『金星の黒』をもとにキティちゃんが作り上げた術。魔法をその身に取り込む技法として作られたため、人を不死者に変える機能は不完全だと言えた。

 

「そして私は、たいそうな血筋のネギ先生と違って『火星の白』を欠片も持ってねえ。だから、不老不死になんてなれないだろうし、なるとしたら下級悪魔(レッサーデーモン)がせいぜいだろう」

 

『火星の白』とは、神楽坂さんが持つ魔法無効化能力の正体だ。造物主ヨルダ・バオトの娘アマテルの子孫が持つ力で、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)にかつて存在したウェスペルタティア王国の王家が受け継いでいた。

 ネギくんもこの王家の血筋だ。『魔法先生ネギま!』では作中のネギ先生が『闇の魔法』を習得した結果、『金星の黒』と『火星の白』が合わさり彼は不死者と化した。

 光と闇が両方そなわり最強に見えるってやつだ。

 

「下級悪魔ですか。麻帆良に侵入するであろう、上級悪魔ヘルマンよりも下の存在ですね」

 

「ああ。私は、このまま下級悪魔に堕ちるのを座して待つつもりはねえ」

 

「……予言の書のネギ先生のように、負の感情を克服(こくふく)して『闇の魔法』を制御下に置くのですか?」

 

 まるで己と向き合い、自分の真実の姿を見つめるかのように。

 我は汝。汝は我。前世のころ、ペルソナ能力に目覚める魔改造千雨なんてのも読んだなぁ。

 

「いや、それはしない。できそうになかったからな」

 

「ええっ……」

 

「私が目指すのは、下級悪魔よりも上位の存在になることだ。どうせ魔法のおかげで不老なんだ。いまさら人間辞めることくらい、なんてことはねえ。だから私は、自らを高次の生命体に変える!」

 

 ……急に何言い出すのこの人!

 私がびっくりしていると、ちう様は私に問いかけてきた。

 

「昔、リンネに見せてもらったネットニュースのこと覚えているか? 小学五年生の時だ」

 

「ん? どれのことでしょう?」

 

「MITの日本人兄妹(きょうだい)が作った、感情を有するAIに関する論文の記事だ」

 

 あー、そういえば、『A・Iが止まらない!』関連の記事を見つけて、ちう様に見せたことがあったような、なかったような。

 

「その日本人が所有するマシンに、電子精霊を使ってハッキングを試みたんだが……」

 

「いや、何やっているんですか、ちう様」

 

 私はジト目になってちう様を見るが、彼女は気にも留めず話を続けた。

 

「いやー、結局そのマシンはセキュリティが固すぎて、ハッキングできなかったぞ。でも、そいつを嗅ぎ回っているヤツがいてな」

 

 悪びれもせず、ちう様が言う。

 私はジト目を続けたまま、話の続きをうながす。

 

「で、そちら関連を探ってみると、すごい研究の情報に辿り着いた。『実体化モジュール』っていう、電子情報の物質化技術。AIを現実世界に呼び出す、とんでもない技術だ」

 

 見つけちゃったかー。『AI止ま』原作の痕跡、見つけちゃったのかー。

 嗅ぎ回っていたとかいう相手はおそらくあのビリー・Gだろうに、それ相手にハッキング成功させたちう様、どうなっているの。

 

「その技術を応用して、逆に物質を電子情報化する術式を開発中だ。つまり、私は……下級悪魔なんかじゃなく、情報生命体に自らを昇華させる!」

 

 おー。

 私は、ちう様の宣言に、思わず拍手を送っていた。

 とんでもない話だが、ちう様なら成功させるだろうなという確信がある。あと、このネギま世界ならそれくらいのこと普通にできるだろうな、とも。

 なにせ、『AI止ま』本編では、生身の肉体を持つ狼を一時的に電子情報化して、遠隔地にテレポートさせることに成功している。それに、未来では魔法がアプリ化するような世界だ。不思議現象とITの親和性は想像以上に高い。

 

 ちう様が決断したのなら、私はそれを祝福しよう。

 

「そこで、最初の話に戻るぞ。リンネに相談だ」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「手持ちの機器じゃ、術式の研究を進めるには、とてもスペックが足りないと分かったんだ」

 

 なるほどなるほど? つまり……。

 

「私に、最新パソコンを買って欲しい、ですか?」

 

「いや、そこまで厚かましくねーよ」

 

 あれ? 違った? じゃあ、何を私に求めているのだろうか。

 

「ちょっとだけ、背中を押してほしいんだ。ネギ先生と仮契約(パクティオー)がしたくてな……。アーティファクトの『力の王笏(おうしゃく)』が欲しい」

 

「いや、そこまで決まっているなら、具体的に何をどう押せと言うのです?」

 

「……キスをする勇気が持てないんだよ!」

 

「えー……」

 

 何その理由。ちう様、そこまで乙女だったっけ? あ、乙女だったわ。

 割とツンデレだし。ツンデレは、現在2003年において最新のサブカル用語だよ。

 

「こちとらファーストキスなんだよ!」

 

「だったら、キスじゃない方法を取ればいいのではないですか?」

 

 ちう様も『UQ HOLDER!』を読んだのなら、もう一つの仮契約の方法を知っているよね。

 

「男と密着して三時間過ごすとか、キスより難易度高いわ!」

 

 そう、キス以外の方法とは、身体のどこかに浮かんでくる印をお互いに密着させた状態で、長時間待つというものだ。待つ時間は平均で三時間。

 確かに、言われてみればキスより高度な行為だ。手の平と手の平くらいなら、マシなのだろうが……。

 

「分かりました。それじゃあ、これからネギくんのところへ一緒に行きましょう」

 

「これからかよ!」

 

「こういうのは、時間が経つと余計に恥ずかしくなるものですよ。さあ、今すぐ……って、あー」

 

「? どうした?」

 

「どちらにしろ、女子寮には戻らないといけません」

 

 別荘の外から届く念話。それは、女子寮にいるハサンさんからのもので……。

 

『オーナー殿。悪魔が姿を見せました。犬上小太郎殿は、まだ女子寮にはいないようなのですが……』

 

 その念話を聞いて、私は意識を真面目なものへと切り替える。

 

「女子寮に、悪魔出現です」

 

「……分かった。今すぐ別荘を出よう」

 

「古さんはどうします?」

 

「念のため連れていくか。私が呼んでくるから先に向かってくれ」

 

 そう端的に言葉を交わし、私達はそれぞれ動き出した。

 悪魔の襲撃、大事にならなければいいが……。

 

 

 

◆75 地獄の男

 

 外はあいにくの雨模様。女子寮に向けて飛行する間も、ハサンさんから伝わる状況は刻一刻と変わっていった。

 だが、事態は予想もしていない方向へと転がっていく。悪魔ヘルマンは、原作漫画のように人質と神楽坂さんを屋外の仮設ステージにさらうことはしなかったのだ。

 悪魔ヘルマンは「ハイデイライトウォーカーには、絶対に見つかるなと指示されている」と言い放ち、神楽坂さんの部屋で直接ネギくんとの戦闘を始めた。

 

 ネギくんの魔法は、神楽坂さんを手中に収めている悪魔ヘルマンには効いていない。神楽坂さんが持つ『火星の白』、魔法無効化能力を使って魔法を消しているのだろう。

 ネギくんは、覚えたばかりの武器格納魔法でアンオブタニウムの剣を取り出し、懸命に悪魔ヘルマンと戦いを続ける。

 

 神楽坂さんと近衛さんは、まるで凌辱エロゲのようにスライムの触手に捕らわれている。神楽坂さんは、必死の抵抗も虚しく悪魔ヘルマンに能力を一方的に利用されている状態だ。

 なお、神楽坂さん達を捕らえているスライムは一体だけだ。原作漫画知識によると、確かスライムは全員で三体いるはずだが、どこかに潜んでいるのだろうか……。

 

 と、ここでキティちゃんから念話が入る。

 

『リンネ、まだ手は出すなよ』

 

『構いませんが、スライムが一体しか見えないのが、すごく不安なのですが……』

 

『残りのやつらなら、別の部屋で魔法に関しての内緒話をしていた桜咲やのどか達を襲撃した。今、全員、雨を吸って膨らんだスライムの体内だな』

 

『うわあ、丸呑みシチュですか』

 

『なんだそれは? おっ、のどかが魔法で脱出に成功したな。いや、テクニックというのだったか』

 

『あー、のどかさんなら、基礎的なテクニックはもう全属性使えますからね。ディスクを使えば練習なしに覚えられる、科学の力ですので』

 

 そう言っている間に、徐々にネギくんが悪魔に追い詰められていく。窓際に追いやられ、殴られて窓に叩きつけられ、外へと吹き飛ぶネギくん。

 だが、それはネギくんの狙い通りだったようだ。地面に転がりながらパクティオーカードを取り出し、アーティファクト『雷公竜の心臓』を呼び出したのだ。

 竜の心臓から汲み上げた魔力を身にまとったネギくんは、外に出てきた悪魔へ暴風のように襲いかかった。外にわざわざ出たのは、とても屋内で使える力ではなかったからだろう。

 

 ネギくんの力に気圧(けお)された悪魔は、苦しまぎれで悪魔としての真の姿をネギくんに見せ、精神にゆさぶりをかけようとする。自分はかつてネギくんの故郷の村を襲った悪魔の一人で、石化の術を使う爵位持ちの上級悪魔だと悪魔ヘルマンが言い放つ。

 しかし、ネギくんはそれに動じない。おそらく故郷の村の人々がすでに救われていることで、悪魔への復讐心や執着心が薄れていたのだろう。彼は、冷静に悪魔を追い詰めていく。

 

 そこで、女子寮の割れた窓からネギくんを応援する声が届く。

 神楽坂さんだ。神楽坂さんと近衛さんは、部屋に駆けつけた桜咲さんに助けられ、エロゲ状態を脱したのだ。

 これで魔法が通じるようになる。ネギくんは『雷の斧(ディオス・テュコス)』の魔法を剣にまとわせ、渾身の一撃を悪魔に向けて放った。決着だ。

 

 ふう、なんとかなったね。

 私は途中で飛行が面倒臭くなって転移したので現場にとっくに到着していたが、キティちゃんに手出し無用とにらまれて、上空から観戦状態にあった。

 無事に終わったようなので、私はネギくんのもとへとゆっくりと降りていく。

 

 そのネギくんに向けて、神楽坂さんやあやかさんが女子寮の六階の窓から健闘を称えていた。

 他にも、近衛さん、桜咲さん、水無瀬さん、相坂さん、のどかさん、綾瀬さん、早乙女さんのキティちゃんの門下達が、神楽坂さんの部屋にいるようだ。

 

 六階の高さだし、外は雨なので、さすがに窓から飛び出す人はいない。

 ちなみに私は魔法で雨を除けているので、濡れていないよ。ネギくんも魔法障壁で髪は濡れていないようだが、地面を転がったときに汚れたのか、服が泥にまみれていた。

 

 まあ、どれだけ汚れようが、勝利は勝利だ。しかし、ネギくんは勝ったというのになぜか暗い顔。

 

「どうしました、ネギくん。そんなに落ち込んで」

 

「リンネさん……。僕、悪魔をこの手で殺してしまいました……。あれほど剣の扱いには気を付けるよう言われていたのに、言葉が通じる相手を斬り殺して……」

 

 あー、そういうこと。大丈夫、大丈夫。

 私は、脇に転がる悪魔ヘルマンを見下ろしながら言う。

 

「悪魔は生命力が強いですから、このくらいじゃ死なないですよ。これは、死んだふりです」

 

 私がそう言うと、ネギくんは即座に臨戦態勢に入る。

 

「おや? バレてしまったか」

 

 そんな声が、倒れた悪魔の口からもれる。

 私はそれに満足しながら、続けてネギくんに言う。

 

「ね? 悪魔は普段、弱肉強食の魔界でバチバチやっている戦闘民族ですからね。頑丈なんです。それに、この人がさっきネギくんに言っていたことを信じるなら、爵位持ちの上級悪魔。多分、首をはねても死なないですよ」

 

「ふむ、お嬢さん、詳しいのだね」

 

「優秀な人に師事していますから」

 

 悪魔の言葉に、そう端的に答える私。そして、私はネギくんに再度言葉を投げかける。

 

「召喚されているようですから、このままだと魔界に帰っていくでしょう。しかし、今は麻帆良にある結界のおかげで、相当弱体化しています。ネギくんが上級悪魔という格上に勝てたのも、これが理由です。つまり、トドメを刺すなら今ですよ」

 

 私がそう言うと、悪魔も小さく笑って語り出した。

 

「その通りだ。トドメを刺すなら今しかないよ。ネギ君、君のことは少し調べさせてもらった」

 

 悪魔の言葉をネギくんはじっと黙って聞く。

 

「君が日本に来る前に覚えた九つの戦闘用呪文のうち、最後に覚えた上位古代語魔法(ハイ・エンシェント)……本来なら封印することでしか対処できない、我々のような高位の魔物を完全に討ち滅ぼし、消滅させる高等呪文――」

 

 結局、その魔法は『魔法先生ネギま!』では一度も使われることなく、『UQ HOLDER!』で造物主ヨルダに対して二度使われた、そんな魔法。

 

「――『ヨルダの御手(マヌス・ヨルダエ)』ならば、私を殺せるぞ」

 

 その悪魔のささやきに、ネギくんは首を横に振って拒絶した。

 

「そうか。では、大人しく去るとしよう」

 

 悪魔がそう言うと、彼の身体から煙がもうもうと上がり始めた。

 

「そうそう、かつて私が襲った君の故郷の人々だが……喜びたまえ。石化は解除されたようだ」

 

「…………」

 

「あるいは、それを知っていたからこそ、私を殺さないのかな? 将来、復讐に燃える君と戦うことを楽しみにしていたのだが……巡り合わせが悪かったようだね。では、もう会うこともないだろう。さらばだ」

 

 そう言って、悪魔の身体は煙となって消滅した。

 その姿をネギくんは、ただ無言で見つめていたのだった。

 

 さて、なんだかしんみりしたが、事後処理をしなくちゃ。私は手を叩き、ネギくんに注意を向けてもらう。

 

「はい、悪魔との戦いは終わり。次に行きますよ。まずは、スライムの捕獲です」

 

「あっ、そういえば、アスナさんを捕まえていた魔物がまだ……!」

 

 ネギくんはそう言って、飛び出してきた窓の方を仰ぎ見る。

 すると、桜咲さんがすでに捕獲していたようで、話を聞いていた桜咲さんが、符術で封じられたスライム三体を窓際に寄せてこちらに見せた。

 

「今、ちう様が来ましたので、本格的な封印術を施してもらうことにしましょう。次、ネギくんは、お風呂ですね。汚れていますし、雨に濡れたので風邪を引きます」

 

 空の向こうから、ちう様と古さんが飛んでくるのが見えたのでそう言うと、ネギくんは嫌そうな顔をした。

 

「うっ、お風呂ですか……苦手ですー」

 

 まあ、風邪を引かないよう早めに入ってほしい。

 そして、最後だ。

 

「めちゃくちゃになった神楽坂さんの部屋、直しませんとね」

 

「あっ、窓ガラス! それに、部屋の中で戦っていたから……」

 

 ネギくんが顔を青ざめさせて、女子寮の窓を見上げる。

 窓ガラスだけでなく、壁や床、家具も見事に損壊しているだろう。

 

「どうしよう……弁償?」

 

 そう肩を落とすネギくん。そんな彼に、私は手にスマホを呼び出し、力を引き出しながら言った。

 

「大丈夫ですよ。私、壊れた物を直すの、得意なんです」

 

 引き出すのは、人類最後のマスターが持つ魔術回路(マジックサーキット)

 物の修復は、魔術において初歩の初歩だ。修理工事は任せてほしい。

 




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